ドグマチールは1973年に発売された古いおくすりです。
抗うつ剤としては使われることが多いおくすりですが、効果も良く即効性もあり副作用も少ないため、一昔前はうつ病治療の主力選手でした。
しかし、副作用の頻度自体は多くないものの、他の抗うつ剤には見られない重篤な副作用がまれに起こることがあるため注意が必要です。
最近ではうつ病に処方される頻度が徐々に減ってきていますが、他の抗うつ剤とは違う作用機序を持ったドグマチールは使い方を間違えなければ、今でもうつ病治療の強い武器であるのは間違いありません。
ここではドグマチールの副作用と対処法、他の抗うつ剤との比較などを紹介します。
1.ドグマチールに多い副作用
どんなおくすりにも副作用があります。
一般的には安全と思われている漢方薬だって、副作用の報告はいくつもあるのです。
ドグマチールの副作用は、他の抗うつ剤と比較して決して多くはありませんが、
作用機序が独特であるため、他の抗うつ剤には無い副作用が起こることがあります。
ここでは、ドグマチールの副作用の中から、特に注意すべきものや
臨床で特に見ることの多い副作用を紹介します。
ドグマチールの抗うつ剤としての作用機序は、ドーパミン自己受容体を遮断し
脳のドーパミンを増やすことだと考えられています。
一方でドグマチールは、用量によってはドーパミンを遮断することで
ドーパミン量を少なくするという正反対のはたらきもあります。
これは統合失調症の治療に使う、抗精神病薬と同じ働きです。
そのため、時としてドグマチールは統合失調症のおくすりと同じ副作用が起き得るのです。
これが他の抗うつ剤の副作用との最大の違いです。
具体的なドグマチールの副作用としては、
- 錐体外路症状
- 乳汁分泌(プロラクチン上昇)、性機能障害
- 食欲亢進、体重増加
などがあります。
「錐体外路症状が起こり得る」
「ホルモンバランスを崩して、乳汁分泌が起こり得る」
この2点が、他の抗うつ剤には無い副作用です。
反面で、他の抗うつ剤に多く認められる、口渇・便秘、ふらつき・めまい、吐き気、眠気などは
少なめです(起こさないわけではありません)。
各抗うつ剤の副作用の比較を表にしてみましたので、ご覧下さい。
抗うつ剤 口渇,便秘等 フラツキ 吐気 眠気 不眠 性機能障害 体重増加
トリプタノール +++ +++ ± +++ - + +++
トフラニール +++ ++ ± + ++ + ++
アナフラニール +++ ++ + + + ++ ++
テトラミド + + - ++ - - +
デジレル/レスリン + + - ++ - ++ +
リフレックス - ++ - +++ - - +++
ルボックス/デプロメール ++ + +++ + + + +
パキシル ++ ++ ++ + ++ ++ ++
ジェイゾロフト ± + ++ ± ++ ++ +
レクサプロ + + ++ ± ++ ++ +
サインバルタ + ± ++ ± ++ ++ ±
トレドミン + ± ++ ± + ++ ±
ドグマチール ± ± - ± ± + +
では、それぞれを詳しくみてみましょう。
Ⅰ.錐体外路症状(EPS)
脳のドーパミンが過度にブロックされることで起こる身体の不随意運動です。
(不随意運動:自分の意志によらず、勝手に身体が動いてしまうこと)
指先がふるえたり、腕をクネクネと動かしたり、唇や舌をモゴモゴ動かしたり、などと
様々な症状があります。
有名な症状として、
- ジスキネジア:口や舌などをモゴモゴと動かす
- アカシジア:ソワソワ、ムズムズと落ち着かず、じっとしていられなくなる
などがあります。
これらの錐体外路症状が出現してしまったら、
ドグマチールを減量あるいは中止することが無難でしょう。
引き続き抗うつ剤加療が必要なのであれば、別の抗うつ剤を検討してください。
抗コリン薬(アキネトン、アーテンなど)という、錐体外路症状を和らげるおくすりもありますが、
抗コリン薬は抗コリン薬で副作用があり、漫然と続けない方がいいおくすりです。
おくすりの副作用をおくすりで抑えるのも不自然ですし、
よほどドグマチールを使わないといけない状況でない限りはお勧めできません。
Ⅱ.乳汁分泌
ドグマチールが、プロラクチンという乳汁を出すホルモンを増やしてしまうために起こる副作用です。
男女ともに起こりえます。
突然胸から乳汁が出るため、驚く方も多いようです。
ただ、胸から乳汁が出るだけならまだいいのですが、これはホルモンバランスの崩れが原因ですから、
これは無月経や性機能障害の原因にもなり得ます。
乳汁分泌が起きた場合は、まずはプロラクチンの上昇が原因なのかを採血で確認します。
採血でプロラクチン値を測定し、高ければドグマチールによる高プロラクチン血症が疑われます。
対応策は、やはりまずはドグマチールを減薬あるいは中止し、
別の抗うつ剤に切り替えることです。
ドーパミンアゴニスト(ドーパミン受容体刺激薬)と呼ばれるおくすりを使うと、
プロラクチンの値を下げることは可能ですが、これも滅多に併用することはありません。
Ⅲ.食欲亢進、体重増加
重篤な副作用ではないものの、ドグマチールで一番頻度の多い副作用です。
ドグマチールは当初は「胃薬」として発売されたおくすりです。
最初は胃薬として使われていましたが、次第に精神にも作用があることが分かったおくすりなのです。
胃腸のドーパミン受容体をブロックすることで消化管の動きをよくするのが
胃薬としての作用機序だと考えられています。
胃腸の動きを良くするため、食欲が上がります。
そして食べる量が増えれば、体重も増えてしまいます。
食欲亢進に対する対処法としては、まずは「食べるのを我慢する」意識が大切です。
これはおくすりの副作用で食欲が人工的に上がっているんだ。
だから、ここで欲求のままに食べてしまうことは非生理的であまりよくないことなんだ、
と考え、なるべく我慢するようにしてください。
また当たり前の対策なんですが、適度な運動も体重増加を抑えるには有効です。
それでも抑えられない時は、他の抗うつ剤への変薬になります。
ほとんどの抗うつ剤で体重増加の可能性はあるのですが、ドグマチールの体重増加と
その他の抗うつ剤の体重増加はその機序が違います。
ドグマチールは消化管運動が良くなって食欲が上がります。
他の抗うつ剤は、抗ヒスタミン作用というもので食欲が上がります。
機序が違うため、抗うつ剤を別のものに変えれば、食欲亢進の程度が
改善する可能性はあります。
ただし、もちろん悪化してしまう可能性もありえますので、
比較的抗ヒスタミン作用が弱いものを選択するとよいでしょう。
具体的に言うと、ジェイゾロフトやサインバルタあたりでしょうか。
Ⅳ.その他の副作用
その他の副作用も報告はたくさんありますが、頻度はそこまで多くはありません。
特に、
- 眠気
- 口渇、便秘
- ふらつき、めまい
- 吐き気
などは、SSRIやSNRI、三環系などの他の抗うつ剤に見られる副作用ですが、
ドグマチールではあまり認めません。
2.他剤との比較から見た、ドグマチールの副作用の特徴
一通りの説明が終わったところで、もう一度他抗うつ剤との比較をみてみましょう。
抗うつ剤 | 口渇,便秘等 | フラツキ | 吐気 | 眠気 | 不眠 | 性機能障害 | 体重増加 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
トリプタノール | +++ | +++ | ± | +++ | - | + | +++ |
トフラニール | +++ | ++ | ± | + | ++ | + | ++ |
アナフラニール | +++ | ++ | + | + | + | ++ | ++ |
テトラミド | + | + | - | ++ | - | - | + |
デジレル/レスリン | + | + | - | ++ | - | ++ | + |
リフレックス | - | ++ | - | +++ | - | - | +++ |
ルボックス/デプロメール | ++ | + | +++ | + | + | + | + |
パキシル | ++ | ++ | ++ | + | ++ | ++ | ++ |
ジェイゾロフト | ± | + | ++ | ± | ++ | ++ | + |
レクサプロ | + | + | ++ | ± | ++ | ++ | + |
サインバルタ | + | ± | ++ | ± | ++ | ++ | ± |
トレドミン | + | ± | ++ | ± | + | ++ | ± |
ドグマチール | ± | ± | - | ± | ± | + | + |
ドグマチールの副作用は全体的に軽度であることが分かるでしょう。
体重増加がやや多いくらいです。
しかし前述の通り、他の抗うつ剤には無い副作用である
- 錐体外路症状
- 乳汁分泌
がある点には注意しなければいけません。