ドグマチール(一般名:スルピリド)は1973年に発売されたお薬です。
このお薬は非常にユニークなはたらきをします。
というのも当初はなんと胃薬として発売されており、次第に「うつ病に効果がある」「統合失調症にも効果がある」ということが分かってきたお薬なのです。現在ではうつ病に使われていることが多いと思われます。
そのユニークな特徴から、未だ使われることのあるお薬ですが、古いお薬であり副作用には注意しなければいけません。
ここでは、ドグマチールの効果や特徴について詳しく説明していきます。
1.ドグマチールは色々な働きをする
ドグマチールには様々な効果がありますが、基本的な働きは「ドーパミンを遮断すること」にあります。この抗ドーパミン作用によって、胃腸薬、抗精神病薬(統合失調症の治療薬)、抗うつ薬としての効果を発揮するのです。
それぞれの作用について詳しく見ていきましょう。
Ⅰ.胃薬としてのドグマチール
ドグマチールは胃薬として作用します。
ドグマチールは脳の視床下部という部位にある交感神経を抑えるはたらきがあります。交感神経は「興奮の神経」であるため、これがブロックされると身体はリラックスする方向に向きます。
すると
- 胃粘膜への血流が増えたり
- 胃粘膜の防御因子が増えたり
- 消化管の運動が亢進する
といった効果が得られるため、胃薬として使えるのです。
その作用は強くはないため、本格的な胃潰瘍に使うことはあまりありません。抗うつ効果もあることから、心因性も関係してそうな胃腸症状に使うことがあります。
Ⅱ.抗精神病薬としてのドグマチール
抗精神病薬というのは「統合失調症の治療薬」のことです。
統合失調症は脳内ドーパミンが出過ぎていることが一因と考えられています。そのため、ほとんどの抗精神病薬はドーパミンを遮断するはたらきがあります。
ドグマチールも脳のD2受容体を遮断することで統合失調症に効果を示します。
ただしドグマチールの脳へのD2受容体遮断作用は弱いため、統合失調症の治療に使う場合は高用量のドグマチールが必要です(添付文書的には300-600mg。最高1200mgまで)。
そうなると副作用が出てしまうことも多いため、優れた抗精神病薬が多くなってきた現在においては統合失調症の治療にドグマチールを使う機会は少ないのが現状です。
Ⅲ.抗うつ薬としてのドグマチール
ドグマチールがうつ病に効くのはなぜでしょうか。実はこれは正確には分かっていません。
そもそもうつ病に効果があるためには、ドーパミンが増えないといけないはずです。抗うつ剤は全て、ドーパミンなどのモノアミンを増やすことで抗うつ効果を発揮します。モノアミンを遮断する抗うつ剤などありません。
いくつかの仮説があり、それを紹介すると、
「少量のドグマチールを投与するとドーパミン自己受容体を遮断し、それが結果的にドーパミンの分泌を増やすのではないか」
「ノルアドレナリン神経にあるD2受容体を遮断することで、ノルアドレナリンを増やすのではないか」
「エビリファイなどと同じく、ドーパミンの部分作動薬としての働きがあり、そのために少量のドグマチールを投与するとドーパミンが増えるのではないか」
などが提唱されています。
正確には解明されていませんが、少量のドグマチールを投与すると抗うつ効果があることは間違いなく、ドグマチールはしばしばうつ病治療に使われています。
そのためドグマチールは、
- 少量(150-300mg)投与すると、うつ病に効果がある
- 大量(300-600mg)投与すると、統合失調症に効果がある
ということになっています。
2.ドグマチールの特徴
このようにドグマチールは、
- 胃薬
- 抗精神病薬
- 抗うつ剤
という3つの働きをする、ユニークなお薬です。
しかし、上に書いたように現在は統合失調症の治療薬として使うことはほとんどありません。胃薬としても使うことは多くはなく、もっぱらが抗うつ剤として使われています。
ドグマチールの特徴は、ざっくり言うと次のようなものです。
- 即効性がある
- 他の抗うつ剤に見られる副作用が少ない
- しかし時に重篤な副作用が出る
抗うつ効果としては強くはなく、軽症~中等症のうつ病が適応になると思われます。
また、他の抗うつ剤で見られる副作用が少ないのは、大きなメリットです。これは具体的には、吐き気、眠気、離脱症状、口渇、便秘などです。現在主流のSSRIやSNRIはこれらの副作用が問題となることがよくあります。
ドグマチールは胃薬でもあるくらいですから、吐き気や便秘はほとんど生じません。また離脱症状もほとんど起こさず、眠くなることもほとんどありません。
このようにドグマチールは非常に使い勝手のよい抗うつ剤であり、実際SSRIやSNRIが発売される以前はうつ病の主力選手でした。
しかし見過ごしてはいけないのが、「副作用の頻度は少ないけど、時に重篤な副作用が起こる」というところです。
ドグマチールは薬理学的には「ドーパミンを遮断する」という抗精神病薬的な作用が主であるため、昔の抗精神病薬に多い副作用がドグマチールでも起こり得ます。
ドグマチールの副作用の詳細は別の記事に詳しく書きますが、「高プロラクチン血症」「錐体外路症状(EPS)」の二つは特に注意しなくてはいけません。
高プロラクチン血症とは、乳汁を分泌するホルモンであるプロラクチンを増やしてしまう副作用です。男性であっても、乳汁が出てくることがあります。
問題はただ乳汁が出ることだけではありません。ホルモンバランスの崩れから無月経や勃起不全(インポテンツ)、性欲低下なども起こします。また乳がんや骨粗しょう症の原因となる事もあります。
錐体外路症状とは、薬剤性パーキンゾニズムと呼ばれることもあり、ドグマチールのせいでパーキンソン病のようになってしまうことです。
パーキンソン病は脳の黒質という部分のドーパミンが少なくなることで起こります。ドグマチールは脳のドーパミンを遮断するわけですから、黒質のドーパミンを減らしてしまうことがあり、人工的にパーキンソン病の状態を作ってしまうことがあるのです。そうなるとパーキンソン病と同じように、動作が緩慢になったり、手が震えたり、転びやすくなったりします。
ちなみにこれらは、ドグマチールだけでなく他の抗精神病薬でも起きえる副作用ですが、他の抗うつ剤で起こることは少ない副作用です。
4.ドグマチールが向いている人は?
ドグマチールは良い抗うつ剤ですが、上記のような副作用の問題があるため、現在では第一選択で使うことは少なくなっています。
病態や患者さんの状況にもよりますが、薬物治療は効果よりも安全性をまずは考えるべきですので、安全性の高い新規抗うつ剤(SSRI、SNRIやNassaなど)などを最初は試すべきでしょう。
他の抗うつ剤と比べたドグマチールの利点は
- 作用機序が違うこと
- 他の抗うつ剤に多い副作用(吐き気、便秘、眠気、離脱症状など)が少ないこと
です。
そのため、
- SSRIやSNRIでは効果が得られなかった方
- SSRIやSNRIの副作用がつらい方
という場合、第二選択として使う抗うつ剤としていいのではないでしょうか。
(注:ページ上部の画像はイメージ画像で、実際のドグマチール錠とは異なります)