抗うつ剤を減量するときに注意すべき現象の1つに「離脱症状」があります。
お薬の量を減らすと、お薬の血中濃度は下がります。離脱症状とは抗うつ剤の血中濃度が急に下がったことに身体が対応しきれずに生じる反応だと考えられています。
患者さんの間では「シャンビリ」とも呼ばれています。これは離脱症状では耳鳴りが「シャンシャン」と鳴り、 手足が「ビリビリ」としびれる事から来ており、離脱症状の特徴をよく表しています。
離脱症状は、抗うつ剤の減量で必ず生じてしまう反応ではありません。むしろ、医師の指示に従って正しく減薬をしていけば、起こさない可能性の方が高いでしょう。
離脱症状で苦しむ事になる多くは「独断で勝手にお薬を減らしてしまった」「自己判断でお薬を中止してしまった」というケースになります。
しかし中には医師の指示に従って正しく減薬したとしても、離脱症状が生じてしまうこともありえます。ジェイゾロフトは離脱症状を起こす頻度が少ない抗うつ剤ではありますが、絶対に生じないという事はありません。
ここではジェイゾロフトをはじめとした抗うつ剤で、どうして離脱症状が生じるのか、その機序や、離脱症状が生じた際の対処法などについて紹介していきます。
1.離脱症状とは?
抗うつ剤の離脱症状とはいったい何でしょうか。まずは離脱症状という現象について説明させていただきます。
実は「離脱症状」というのは正式な名称ではありません。この現象は、専門書や論文などでは「中断症候群」「SSRI中断症候群」と呼ばれています。しかし臨床現場では「離脱症状」という呼び方が一般的となっています。
なぜ「離脱症状」という言葉が正式名称にならないのかというと、これはおそらく「離脱」という言葉からは「依存」や「中毒」などがイメージされるからでしょう。
例えば「アルコールの離脱症状」と言えば、アルコール中毒の人が急に飲酒をやめる事で生じる様々な身体反応の事です。このように「離脱症状」というのは依存や中毒疾患でよく用いられる言葉なのです。
しかし抗うつ剤は依存性があるものではありませんので、減薬時に生じる反応は依存や中毒によるものではありません。「抗うつ剤の離脱症状」という呼び方から、「抗うつ剤は依存性・中毒性があるもの」という誤解が生じないように、これを正式名称にしないのではないかと考えられます。
少し話が脱線しましたが、離脱症状について詳しく見ていきましょう。
離脱症状は、通称「シャンビリ」とも呼ばれています。これは冒頭でも説明した通り、耳鳴りが「シャンシャン」と鳴り、 手足が「ビリビリ」としびれる事から来ています。
離脱症状は、抗うつ剤の量を減らしたり服用を中止したりした際に、
- 耳鳴り
- しびれ(電気が走るような感じ)
- めまい
- 発汗
- 吐き気
- 震え
- ソワソワ感
などといった症状が生じる現象の事です。
抗うつ剤は神経と神経をつないでいる「神経間隙」という部位の神経伝達物質(神経から神経に情報を伝える物質)に作用するお薬です。この血中濃度が急に下がると、神経系が一時的に不調になってしまうため、上記のような症状が生じるのです。
離脱症状はあらゆる抗うつ剤で生じ得ますが、特に多いのは、
- SSRI(パキシル、ジェイゾロフト、ルボックス・デプロメール、レクサプロなど)
- SNRI(トレドミン、サインバルタ、イフェクサーなど)
- 三環系抗うつ剤(トフラニール、アナフラニール、トリプタノール、ノリトレン、アモキサンなど)
などになり、その他の抗うつ剤では頻度は少なくなります。
2.離脱症状はなぜ生じるのか
抗うつ剤を減量・中止すると離脱症状が生じるのは何故でしょうか。
離脱症状は、 抗うつ剤の血中濃度が急激に下がったことに身体が対応しきれない結果として生じます。
私たちの身体は急な変化に弱いのです。
抗うつ剤の量が急に減ると、神経から神経に情報を伝えるために分泌されるモノアミン(セロトニンなど)の量も、急に変化します。すると神経系のバランスが崩れやすくなり、その結果として様々な症状が生じてしまうのです。
しかし離脱症状はセロトニンが関係していることは間違いありませんが、その詳細な機序はいまだ不明なところもあります。
ある程度の期間抗うつ剤の服用を続けていると、私たちの身体は 「抗うつ剤は毎日入ってくるもの」と認識するようになります。そして、その認識に基づいて生体活動を行っていきます。
そのような中、ある日突然、毎日入ってくると思っていた抗うつ剤の成分が入ってこなくなるとどうなるでしょうか。身体は抗うつ剤が入ってくる前提で生体活動を行っているわけですから、それが入ってこないと身体はパニック状態になります。
当然入ってくると思っていたものが入ってこないわけですから、身体の機能の調整もいつも通り行えず、不具合が生じやすくなります。
その結果、様々な症状が生じてしまうのです。抗うつ剤は神経に作用するお薬ですから離脱症状も神経系の症状が多くなります。具体的には耳鳴り、めまい、しびれ、頭痛などが生じます。
これが離脱症状の正体です。
私たちの身体は急激な変化に弱いのです。身体をびっくりさせないようにするためには変化は急激ではなく、徐々に行わないといけません。
実際、離脱症状は、減薬のスピードをゆっくりにすればするほど生じにくくなり、生じたとしてもその程度が軽くなる事が知られています。
その他に離脱症状を起こしやすい要因としては、
- 個々人の体の代謝能力
- 抗うつ剤の作用時間(作用時間が長いほど起こしにくい)
- 抗うつ剤の強さ(作用が強いほど起こしやすい)
などがあります。
簡単に言えば、作用時間(≒半減期)が短く、作用が強い抗うつ剤ほど離脱症状を起こしやすいという事です。
3.ジェイゾロフトは他抗うつ剤と比べて離脱症状を起こしやすいのか
SSRIに属するジェイゾロフトは、離脱症状を起こす可能性のある抗うつ剤の1つです。
ではジェイゾロフトは他の抗うつ剤と比べてどのくらい離脱症状を引き起こしやすいのでしょうか。
離脱症状は、
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
で生じやすく、それに次いで、
- 三環系抗うつ剤
でも生じうる事が知られています。
生じる頻度は薬剤によって差がありますが、軽度なものも含めると約20%程度の頻度で生じる可能性があります。
前述の通り、離脱症状はこれらの抗うつ剤の中でも「作用が強い」「作用時間が短い」ほど生じやすくなります。
これは作用の強い抗うつ剤の方が、抗うつ剤の効果が減った時の反動が大きいためです。また作用時間が長い抗うつ剤はお薬の成分が長時間身体に残るため、血中濃度が緩やかに変動しますが、作用時間が短い抗うつ剤はお薬の成分がすぐに抜けてしまうため、血中濃度は急激に変動するためだと考えられています。
お薬の血中濃度の幅が大きければ大きいほど、身体がそれに対応できなくなる可能性も高まるため、離脱症状も生じやすくなるのです。
では効果が強い抗うつ剤、作用時間が短い抗うつ剤にはどのようなものがあるのでしょうか。効果の強さは個人差もあるため、なかなか数値化しにくいのですが、作用時間についてはお薬の「半減期」という値が参考になります。
半減期というのは、体内でのお薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間の事で、そのお薬の作用時間とある程度相関します。
では、各種抗うつ剤の半減期を見てみましょう。
抗うつ剤 半減期(時間) 抗うつ剤 半減期(時間)
(Nassa)リフレックス/レメロン 32時間 (SSRI)パキシル 14時間
(四環系)ルジオミール 46時間 (SSRI)ルボックス/デプロメール 8.9時間
(四環系)テトラミド 18時間 (SSRI)ジェイゾロフト 22-24時間
デジレル 6-7時間 (SSRI)レクサプロ 24.6ー27.7時間
(三環系)トフラニール 9-20時間 (SNRI)トレドミン 8.2時間
(三環系)トリプタノール 31±13時間 (SNRI)サインバルタ 10.6時間
(三環系)アナフラニール 21時間 スルピリド 8時間
(三環系)ノリトレン 26.7±8.5時間
(三環系)アモキサン 8時間
ここで分かる「半減期の短さ」に加えて「作用が強い」SSRIやSNRIが離脱症状を生じやすい抗うつ剤という事になります。
具体的に言うと「パキシル(一般名:パロキセチン)」は離脱症状が多めの抗うつ剤になります。また「サインバルタ(デュロキセチン)」もパキシルほどではありませんが離脱症状はやや多いと感じます。
ジェイゾロフトはというと、離脱症状が生じる可能性はありますが作用の強さも穏やかであり、半減期も長い抗うつ剤であるため、離脱症状が生じる頻度は多くはありません。
4.離脱症状が生じた際の対処法
ジェイゾロフトを減薬あるいは中止した時に離脱症状が生じてしまった場合、どのような対処法があるのでしょうか。
ここでは臨床現場で一般的に用いられている対処法について説明します。
なおここで紹介する対処法は独断では行わないようお願いします。必ず主治医と相談の上、主治医の指示に従って行ってください。
ジェイゾロフトは離脱症状の多く抗うつ剤ではありませんので、ジェイゾロフトで離脱症状が生じてしまうのはほとんどの場合で「医師の指示に従わずにジェイゾロフトの量を減らしたり中断してしまった場合」になります。
まだお薬の量を減らすべき時期ではないのに、自分の判断で「そろそろお薬の量を減らしてみよう」「もう調子もいいし飲むのをやめちゃおう」とジェイゾロフトの量を変えてしまうと、いくらジェイゾロフトと言っても離脱症状は生じやすくなります。
ほとんどの患者さんにとって、抗うつ剤というのは「出来れば飲みたくないもの」です。そのため、少し調子が良くなると「もう飲みやめてもいいだろう」と考え、自己判断で中断してしまう方がいらっしゃるのです。
そして中止した翌日くらいから、徐々に離脱症状が出現してきて、「なんだこれは!?」と驚き、慌てて精神科・心療内科に駆け込みます。特に高用量からいきなり中止(100mg⇒0mgなど)した際に生じやすくなります。
この場合、離脱症状の原因は明らかですので対処法も明らかです。ジェイゾロフトを再開すれば、離脱症状は数日で改善していきます。
一日でも早く抗うつ剤をやめたいという気持ちはとても良く分かります。しかしまだ減薬する時期ではないのに自己判断で減薬してしまうと、かえって体調を崩してしまい、抗うつ剤をやめられる時期が延びてしまう事にもなります。そのため必ず主治医の指示に従い、主治医に減薬を提案されてから減薬に入るようにしましょう。
時には主治医の指示のもとに慎重に減薬していたのに離脱症状が起こってしまうこともあります。
「大分調子がいいからお薬を少し減らしてみましょう」
「副作用が強く出すぎているので少しお薬を減らしましょう」
このように医師から提案を受けてジェイゾロフトを減薬したのに、離脱症状が出てしまった場合はどのように対処すればいいでしょうか。
一般的には次のような対処法が取られます。
Ⅰ.減薬を延期する
急いで減薬しなくてもいいのであれば、少し様子をみてみるのも手です。
一旦抗うつ剤の量を元に戻し、数か月後に減薬を再挑戦してみるとうまくいくことがあります。
離脱症状は、疾患がまだ治りきってない時に無理に減薬をすると生じやすくなります。病気がまだ治りきってないということは、まだ自分の力だけではセロトニンを出す力が不十分だということです。
この時に無理して抗うつ剤を減らしてしまうと、お薬がなくなったことによる反動も生じやすくなり、その結果、離脱症状も起きやすくなります。
慌てずに病気をしっかりと改善させて、自力でしっかりとセロトニンを出せる力が回復してから減薬に再挑戦すれば、 離脱症状は起きにくくなるでしょう。
Ⅱ.減薬のペースを落とす
離脱症状の対処法の基本は「よりゆっくりと減薬する事」になります。
私たちの身体は急激な変化に弱いのです。そのため出来る限り緩やかに変化させていく事が大切です。抗うつ剤の量も少しずつ少しずつ減らしていけば離脱症状は起きにくくなります。
一日も早く抗うつ剤をやめたい気持ちはとても良く分かります。しかし、少しずつ少しずつ着実に減らしていきましょう。その方が、結果的に早く抗うつ剤をやめられるものです。
ゆっくり、というのは具体的には「量」と「期間」の2つに対してそれぞれ行っていくと効果的です。
例えば、ジェイゾロフト100mg/日を内服していて、75mg/日に減薬したときに離脱症状が出てしまったとします。
この時に取るべき対処法としては、一旦ジェイゾロフトの量を87.5mg/日まで上げて、この量でしばらく身体を慣らしてから再度75mg/日に再挑戦するとうまくいく事があります。
また減薬の「期間」も大切です。
一般的には2週間ペースくらいで減量していく事が多いのですが、そのペースで離脱症状が出てしまうようであれば、1か月ペースで減らしてみても良いでしょう。
Ⅲ.他剤に切り替えてみる
どうしても減薬時に離脱症状が出てしまうという場合は、離脱症状を起こす頻度の低い抗うつ剤に切り替えてみるのも手です。
とは言っても、ジェイゾロフトも十分離脱症状は少ないお薬なんですけどね。
離脱症状が生じにくい抗うつ剤としては、
- リフレックス・レメロン(一般名:ミルタザピン)
- ドグマチール(一般名:スルピリド)
- トレドミン(一般名:ミルナシプラン)
などが上げられます。
ただしこれらの抗うつ剤は離脱症状の起こしにくさで言えば確かに起こしにくいのですが、それ以外のメリット・デメリットがそれぞれあります。
そのため単に離脱症状という視点だけで決めるのではなく、主治医とよく相談しながら総合的な視点で判断するようにしましょう。
5.離脱症状と再発を混同しないこと!
抗うつ剤を減量して離脱症状が出現すると、
「病気が再発してしまったんだ・・・」
「私は一生薬をやめれないんだ・・・」
と落ち込んでしまう方がいます。
確かにお薬を減らしたりやめたりしたら不調になったという事であれば、「自分はもうお薬をやめられないのだ・・・」と考えてしまうのも分かります。
しかしこれは完全な誤解です。
「離脱症状」と「病気の再発」は全くの別物です。
離脱症状は「抗うつ剤の血中濃度が急激に下がった」事で身体がびっくりしている反応であり、別に病気が再発したわけではないのです。
離脱症状は抗うつ剤の副作用の1つに過ぎません。病気の再発とは全く関係のないものです。そのため離脱症状が生じたら、身体がびっくりしないような減薬方法を取る事が正しい方法なのであり、「自分の病気は一生治らないという事だから一生お薬を飲まないと・・・」などと落ち込むのは全くの間違いです。
離脱症状を正しく理解し、不必要に落ち込まないようにしてくださいね。
まとめ
- 離脱症状は、抗うつ剤の血中濃度が急に変化したことに身体が対応できない事で生じる
- 離脱症状はSSRI、SNRIに多く認められ、三環系抗うつ剤でも時折認められる
- 離脱症状は「作用の強い」「作用時間の短い」抗うつ剤で生じやすい
- 内服の自己中断が原因の離脱症状は、内服を再開すれば改善する
- 減薬の過程で離脱症状が出現した際は、減薬を延期したり、減薬ペースを緩めたり、他剤に切り替えるなどの方法が有効である
- 離脱症状は抗うつ剤の副作用であり、病気が再発・悪化したわけではない