不安という感情は時に私たちを苦しめます。
正常な不安は私たちに危険を知らせてくれ、それを回避するための行動を促してくれる大切な感情です。正常な不安があるからこそ、私たちは危険を事前に察知し、よりよく生きていくことが出来るのです。
しかし不安が強くなりすぎてしまうと、不安は私たちを苦しめるようになります。些細なことに対して不安を感じてしまうと、不安にとらわれ、毎日の必要な活動が出来なくなっていきます。不安は心を不安定にするだけでなく、神経を衰弱させ、動悸や息苦しさ、頭痛、腹痛など様々な身体症状をも引き起こします。
不安が病的なレベルにまで強まってしまった場合は、お薬や精神療法などの治療が行われます。
しかしこのような専門的な治療以外にも、日常生活のちょっとした工夫で不安を軽減させる事ができます。不安にとらわれている時はこころも不安定であるため日常生活をおろそかにしがちですが、このような時こそ日常生活で意識的に不安を軽減させる事が大切です。
今日は不安を和らげるちょっとした工夫として、日常生活において「計画を立てる」事の効果についてお話させて頂きます。
1.不安は何故生じるのか
過剰な不安を取り除く方法を考える前に、まず不安という感情はどのように生じるのかを考えてみましょう。
私たちはどのような時に不安を感じるでしょうか。
私たちは「自分でコントロールできないこと」に対して不安を感じます。そしてコントロール不能である程度が強ければ強いほど、不安も強くなります。
不安は自分にとって不確実性の高いものに対して、それで生じうる悪い結果を事前に教えてくれる感情です。不安があるからこそ私たちは「悪い結果」にならないように、事前に計画したり準備したり予定を変更したりといった対策を取り、安全に生きていくことが出来るのです。
例えば学生の方が、テスト勉強をあまりしていなかった場合、「悪い点数を取ったらどうしよう」「留年したらどうしよう」と不安が生じます。これは十分な勉強をしていないため、試験の点数をほとんどコントロール(解答)できない可能性が高いからです。
このままだと「赤点を取ってしまう」「留年してしまう」という悪い結果が生じる可能性が高いという事を、不安は私たちに事前に教えてくれるのです。その証拠に、精一杯勉強した場合は、勉強した分試験の点数をコントロールできる可能性が高まるため、勉強していない時と比べれば不安の程度は低くなります。
同じように、
「地震の被害にあわないか不安だ」
「犯罪に巻き込まれないか不安だ」
という不安も、これらの災害・事故は自分の努力のみで回避することができないため生じます。これに対して耐震性の高い住居に住んだり、治安の良い地域に住む事で、これらの災害に遭遇する可能性を自分である程度下げると、不安もある程度小さくなります。
このように正常な程度の不安であれば、その不安は悪者ではありません。安全に、より良く生きていくために必要な感情になのです。
しかし、不安は時に過度に強まってしまう事があります。
例えば性格傾向として心配性の方であったり、不安障害といった疾患に罹患している方は不安が正常の範囲を超えて過度に強くなっています。通常であれば不安に感じる必要がない事にまで不安になってしまっており、こうなると日常生活に支障を来たします。
例えば、「最近、近所で悪質な事件があったから外出するのが不安だ」という不安はそこまで異常な感覚ではありませんが、「何とかなく外出するのが不安だ」となってしまえばこれは不安が過度になってしまっている可能性が高いでしょう。学校に行ったり仕事に行ったりといった必要な活動が出来なくなってしまい、不安によって生活に大きな支障を来たしている状態です。
このように不安が強くなってしまい苦しい思いをしている方は、お薬であったり精神療法であったり、適切な治療を受ける必要があります。
しかし専門的な治療だけでなく、日常生活のちょっとした工夫でも不安を和らげる事が出来ます。
2.不安を取り除くのに計画が有効なのは何故か
不安は自分でコントロールできない事に対して生じます。そしてコントロール不能である程度が強ければ強いほど、不安も強ります。
ここから考えると日常生活で不安を軽減させるためには、コントロールできない事に対して少しでもコントロール出来る割合を増やす事が有効である事が分かります。
当たり前ですが日々の生活の中で、起こる事すべてをコントロールする事など出来ません。今日これから自分に起こる事を全て予測する事など不可能です。
しかし全てをコントロールする必要などありません。目標は不安をゼロにする事ではなく、強くなっている不安のレベルを正常内の不安に落とす事でなのです。コントロールできる割合を少しでも増やす事が出来れば、それは不安の改善につながります。
そして、日常で自分でコントロールできる割合を増やすためにもっとも手軽で有効な方法の1つが「その日の計画を立てる」事になります。
無計画に過ごす一日と比べると計画を立てて過ごす一日は、予定を立てている分だけその日をコントロールできる割合が高くなります。これから自分は何をしてどのように一日を過ごすのかがおおまかにでも理解できていると、その分だけ不安は小さくなります。
計画を立てる、というのは未知な未来をある程度可視化できるという効果が期待できます。
不安が強い方は、特に未来に対して過剰に恐れを感じる傾向があります。それは未来は誰にとっても予測不可能な事であり、不確実性の高い事だからです。計画を立てる事は未来を照らし、ある程度ではありますが道筋やゴールを見えるようにします。「あそこに行けばいいのだ」と言う感情が安心を産み、不安を和らげるはたらきがあるのです。
3.寝る前に翌日の計画を立ててみよう
過度な不安をなるべくなくしたい方、過度な不安を出来るだけ取り除きたい方は、一日の終わりに翌日の計画を立てる事をおすすめします。
といってもそんなに大変な事ではありません。綿密に立てる必要などなく、おおよその計画を立てれば十分です。5~10分もあれば終わるでしょう。
「午前はこのような事をしよう」「午後はこれとこれをしよう」と簡単に計画を立ててみてください。
計画を立て終わったら、今度は明日の一日の流れを頭の中でシュミレーションしてみましょう。イメージする事で未来がより明確となり、不安が和らぎやすくなります。また、イメージした際に何らかの準備が必要な事に気付いたら、あらかじめ用意しておくとなお良いでしょう。
例えば、
「明日は午前は散歩して、買い物に行って、午後は家で勉強しよう」
と計画を立てたとします。
一日の流れを頭でイメージすることで未来をより具体的にイメージでき、不安が和らぎます。また「買い物に行くついでに午後の勉強に必要なノートを買おう」と気付けたならば、事前に準備(ノートを買うとメモしておくなど)が出来るので、当日に焦る事も少なくなります。
焦りは不安を悪化させますので、これも不安を和らげるために有効です。
また計画を立てると規則正しく毎日を過ごすようになるため、これも不安を軽減させてくれる効果が期待できます。
4.計画は大雑把に立てよう
不安が強い方は、毎日の計画を立てる事をおすすめします。
劇的に不安が取り除かれる、という方法ではありませんが、一定期間続ければ不安が一段階軽減している事に気付くでしょう。
最後に一つ、計画を立てる際の注意点があります。
計画を立てる際は、計画を目的をはき違えないようにしましょう。
今回、計画を立てる一番の目的というのは、「未来をある程度具体化する事で不安を軽減させる」事になります。計画を立てていると、ついこの本来の目的を忘れてしまう事が時々見受けられます。
良くない例として、あまりに綿密に計画を立てすぎてしまったり、めいっぱい無理をしないと達成できないような計画を作ってしまう事があります。心配症の方は、完璧主義であったりこだわりが強い傾向があるため、ついぎっしりと予定の入った計画を作ってしまいがちです。
誰もが一日を有意義にしたいと考えますから、つい限界まで予定を入れてしまいたくなるものですが、これはあまり良い方法とは言えません。
このような計画は一日を有意義を過ごすための役割はあるかもしれませんが、こころを安定させる役割はなく、むしろ焦りを生じさせ不安を高めてしまいます。
計画はおおざっぱに立てれれば十分です。計画をいくら完璧に立てても、未来を確実にコントロールできる事などありません。計画は、未来をあくまでも「ある程度」コントロールできるようにするものだという事を忘れないようにしましょう。
分単位でしっかりと計画を立てる必要などなく、おおよその目安で立てれば十分です。また負荷も余裕を持って達成できる程度の負荷にしましょう。
*(注)「不安」というのは正確に言うと「対象のない漠然とした恐れの感情」と指し、対象がある恐れの感情は「恐怖」として区別されます。しかし、今回お話する方法は不安・恐怖に限らず有効な方法ですので、ここでも不安と恐怖を区別せず、まとめて「不安」として表記させて頂いています事をご了承下さい。