心身症

心身症

心身症は、その概念があまりよく知られていない疾患です。

心身症について「どんな病気のことだか分からない」と感じている方も多いのではないでしょうか。

しかし誰でもかかりうる疾患であり、誰にとっても無縁のものではありません。高血圧や頭痛、胃潰瘍、じんましんなどのありふれた病気も、実は心身症で発症している可能性があるのです。

今日は心身症という疾患がどのような病気なのか、そしてどのような原因で発症して、どのような治療法があるのかを紹介していきます。

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1.心身症とはどのような疾患なのか

心身症という疾患について、「どんな疾患なのかよく分からない」という方は多いのではないでしょうか。

かんたんに言ってしまうと心身症というのは、

精神的ストレスによって身体症状が生じる疾患

のことです。

この説明だけでは分かりにくいと思いますので、具体例を紹介します。

高血圧症という疾患があります。これは血圧が高くなってしまう疾患です。一般的には高血圧症は塩分の取りすぎなどによって動脈硬化が進行することにより生じます。

しかしそれ以外にも強いストレスを受け続けていると、ストレスから血管が収縮したり血流量が増えることで血圧が上がってしまうこともあります。ストレスによって血圧が上がって高血圧になる、これが心身症になります。

高血圧症のうち、塩分の取りすぎで生じた高血圧は心身症ではありませんが、ストレスで生じた高血圧は心身症になります。

胃潰瘍という疾患があります。これは食生活が悪かったり、喫煙やピロリ菌の感染などが原因となって発症します。しかしストレスによって胃潰瘍になることもあります。このストレスによって生じた胃潰瘍も心身症になります。

このようにストレスによって生じる身体の病気が心身症になります。どのような身体の病気でもそれがストレスで生じているのであれば心身症になるため、心身症に該当する疾患は非常に多岐に渡ります。

2.心身症にはどのような疾患があるのか

ストレスによって生じた身体疾患はすべて心身症になるため、心身症に該当する疾患は非常に多岐に渡ります。

具体的にはどのような疾患があるでしょうか。代表的な疾患を紹介します。

【心臓・血管】
狭心症、高血圧、不整脈など

【代謝・内分泌】
糖尿病、高脂血症(脂質異常症)、甲状腺疾患など

【消化器】
過敏性腸症候群、神経性嘔吐、胃潰瘍、胃炎など

【肺】
気管支喘息、過換気症候群(過呼吸)など

【膀胱】
過活動膀胱、頻尿など

【婦人科】
月経異常、不正出血、更年期障害、月経前症候群など

【骨・筋肉】
筋緊張性頭痛、肩こり、腰痛症など

【皮膚】
蕁麻疹(じんましん)、アレルギー(アトピー)、円形脱毛症など

このように一例を挙げるだけでも非常に多くの疾患があります。

ちなみにストレスによってどのような疾患を発症するのかは個人差があります。ストレスを受けるとお腹を下しやすい人もいれば、頭痛が出る人もいます。

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3.心身症はどのような原因で発症するのか

心身症はなぜ発症するのでしょうか。

心身症は「ストレスによって生じる身体疾患」ですので、その原因は「ストレス」になります。

更に詳しくみてみると、心身症の原因は、

  • ストレスが大きすぎる(環境側の問題)
  • ストレスの対処法が下手である(個人側の問題)

の2つがあります。

Ⅰ.過剰なストレス

強すぎるストレスを長期間受け続けると、心身症を発症しやすくなります。

本人が負担だと感じるものであればどのような刺激でもストレスになるため、心身症発症の原因も人によって異なります。

中でも診察をしていて感じる多い原因としては、

  • 仕事量のストレス
  • 人間関係のストレス

が挙げられます。

また一般的に私たちが強いストレスを受けるイベントとしては、

  1. 配偶者や親族、家族などの死
  2. 離婚
  3. 重傷あるいは重病
  4. 失業
  5. 環境変化(引っ越し、昇格、降格など)
  6. 妊娠、出産
  7. 人間関係の不和
  8. 過重な労働(オーバーワーク)

があります。このような状況にある方は心身症を発症しやすくなります。

Ⅱ.ストレスの対処法が下手

ストレス自体がそこまで強くなかったとしても、そのストレスを自分の中で上手に処理することが出来なければ、小さなストレスでも心身症を発症してしまうこともあります。

心身症を発症しやすい性格傾向として、「アレキシサイミア(失感情症)」という性格があります。

アレキシサイミア(失感情症)は

  • 自分の感情に気づくのが苦手
  • 自分の感情を表現することが苦手

な性格のことです。

このような性格傾向の方は、自分にストレスがたまりすぎていることに気付けなかったり、上手にストレス発散が出来ないため、心身症を発症しやすいのだと考えられています。

ちなみに「自分の感情をうまく表現することが苦手」というのは子供にも当てはまります。心身症は子供に多く発症することが知られていますが、これも子供はまだ自分の感情をうまく表現できないからだと考えられます。

アレキシサイミアまではいかないとしても、

  • ストレスを溜め込む傾向のある方
  • ストレス発散が苦手な方

は同様に心身症を発症しやすいと考えられます。

4.心身症を疑うポイント

心身症は「ストレスで生じる身体疾患」ですが、その身体疾患はストレス以外の原因で生じることもあります。

例えば胃潰瘍を考えてみれば、ストレスで生じることもあれば、ピロリ菌の感染で生じることもあります。このうち前者のみが心身症になります。

ある身体疾患を発症したとき、それが心身症なのかそうでないのかはどのように判断すればいいのでしょうか。

完璧に見分けるのは難しい場合もあるのですが、両者を見分けるためのポイントを紹介します。

Ⅰ.ストレスとの関連性をみる

心身症はストレスによって発症し、ストレスの強さによって良くなったり悪くなったりします。一方で身体疾患は基本的にはストレスの強さとは無関係に症状が出現します。

ここから、ストレスと症状の関連性をみることが両者の鑑別のために重要になってきます。

例えば「ストレスとなるような出来事があると胃が痛む」のであれば心身症の胃潰瘍の可能性が高いですが、ストレスとは関係なく胃が痛くなるようであれば心身症ではない胃潰瘍の可能性が高くなります。

また心身症であった場合、ストレスがなくなるとウソのように症状が治まることがあります。例えば仕事がストレスであった場合、出勤日には毎日ひどく症状が出るのに、休日になるととたんに症状が無くなることもあります。このような症状の変化は心身症でない身体疾患にはまず認められません。

Ⅱ.内科的治療だけではすぐに再発する

心身症の原因はストレスにあります。そのため、ストレスに対して治療を行わなければ根本的な治癒にはなりません。

例えばストレスが原因で胃潰瘍になってしまった場合、とりあえず胃薬で治療をすれば一旦は良くなるでしょう。しかし根本のストレスが改善されていなければ、胃薬の服薬を中止したらすぐに胃潰瘍が再発してしまいます。

このように内科的な治療だけではすぐに再発してしまう場合、心身症の可能性が高くなります。

Ⅲ.ストレスの対処法が苦手

先ほど紹介したアレキシサイミアのような性格傾向にある方や、ストレスをため込んだり発散できないような方は心身症を発症しやすくなります。

Ⅳ.年齢

心身症は男女問わず、どの年代でも発症する疾患ですが、特に発症しやすい年齢層というものがあります。

心身症は成人であれば、

男性であれば、30~40代
女性であれば、20~30代

に生じやすいと言われています。

これは、これらの年代が一番ストレスがかかりやすいからでしょう。男性は仕事で一番忙しい立場になる年齢です。また女性は結婚・出産・育児などを大きなライフスタイルの変化を経験する年齢です。

また子供は自分の感情を表現することが苦手なため、成人よりも心身症を発症しやすいと言われています。

このように年齢も心身症を疑う根拠の1つになります。

例えば動脈硬化で高血圧になってしまう場合、これは通常は40代以降に発症します。よほど悪い生活習慣をしていない限り、20代や30代から動脈硬化が進行することは稀です。にも関わらず20代や30代で血圧が高い場合は、心身症の可能性があるでしょう。

5.心身症の治療法

心身症はどのように治療をすればいいのでしょうか。

心身症の原因は「ストレス」であるため、その治療法は「ストレスをどのように軽減させるか」という事になります。

具体的には

  • ストレス自体を減らす
  • ストレスをうまく発散できるように工夫する

ことが心身症の治療になります。

そのために補助的にお薬などを用いることもあります。

では、心身症の治療について紹介していきます。

Ⅰ.ストレスを軽減させる

過度なストレスが原因となっている場合は、まずはそのストレスを何とか減らせないかと考えないといけません。

しかし多くの方にとって、ストレスを減らすことは困難なのもまた事実です。

「仕事量の多さがストレスですが、クビになったら生活できませんので減らせません。」
「親の存在がストレスですが、家族なのでどうすることもできません」

と、ストレスを減らすことを提案しても「不可能」という回答を頂くことは少なくありません。

確かにストレスを簡単に減らすことはできないでしょう。簡単に減らせるようなものであれば、そもそも心身症を発症していないはずです。

しかし、諦めてはいけません。

ストレスをゼロにすることは確かに不可能かもしれません。しかし本当に少しでも減らすことは出来ないのでしょうか。ちょっとだけでも減らせるのであればそれは治療的にも意味のあることです。

例えば上司に相談して仕事の振り分け方を再検討してもらったり、同僚に仕事を少しやってもらえないかお願いすることは出来ないでしょうか。少しでも業務量が減れば、その分ストレスは減ります。小さなことですがこれは治療的にも意味のあることです。

ストレスが過剰なケースの多くは、本人は「絶対にストレスは減らせない」と諦めてしまっているものですが、何とか工夫をすれば多少はストレスを軽減させることが可能です。自分の考えだけでは視野が狭くなっている可能性もありますので、どう減らせばいいのか思いつかない場合は、家族や上司や同僚、主治医など、第三者の意見を聞いてみることも大事です。周りの人の方が、「あなたはもっとこうしたら楽になるのに」ということに気づいている場合があります。

Ⅱ.精神療法

精神療法(カウンセリング)も心身症の治療には有効です。

精神療法で目的とするのは、「ストレスを処理する能力を高める」ということです。

ストレスに対するとらえ方や考え方を見直すことで、ストレスに対して上手に向き合えるようにしたり、対人関係を見直すことで円滑な対人関係構築が出来るようにしていったりと、患者さんの問題に応じて適切な精神療法が行われます。

ストレスを処理する能力を高めるには、自分で本などを読んで学んでいくのも一つの方法ですが、やはり医師や臨床心理士などの専門家から精神療法を受けた方がよいでしょう。

精神療法では、どうしてストレスに対して弱いのか、どうすればストレスを上手に扱えるようになるのかを治療者との対話の中で考えていきます。今までの自分を修正していく作業になるため、即効性がある治療法ではなく時間がかかりますが、一度身に着ければ生涯にわたって役立ちます。

人の性格や考え方は短期間では変わりません。人は無意識下で変化を怖がる性質がありますので、考え方や性格を修正しようとしても、上手くやらないとすぐに元の考え方に戻ってしまいます。そのため、自分一人でやると失敗することも非常に多く、専門家の力を借りて、少しずつ地道にやっていくことが成功のポイントです。

Ⅲ.薬物療法

心身症に特化したお薬というのはありませんが、場合によっては心身症にお薬が用いられることもあります。

使用するお薬としては

  1. 身体症状に対しての内科的治療薬
  2. ストレスに対しての精神的治療薬

の2種類に分けられます。

心身症では様々な身体症状が認められますので、その身体症状に応じて内科的なお薬を用いることもあります。

例えば、

  • ストレスによる頭痛に対して鎮痛薬
  • ストレスによる下痢に対して整腸剤
  • ストレスによる嘔吐に対して吐き気止め薬
  • ストレスによる胃潰瘍に対して胃薬

などで、身体症状に応じた薬を選択します。

本来は心身症ではない身体疾患に対しての治療に用いられるお薬ですが、ストレスで身体疾患が生じた場合も、これらの内科的治療薬は一定の効果は発揮してくれます。

しかし根本のストレスが改善されていないと再発してしまいますので、内科的治療薬だけで終わらせないようにしましょう。

また、心身症の症状はストレスに対して精神的にダメージを受けた結果として身体症状が出現していますので、抗不安薬や抗うつ剤などが有効なこともあります。しかしこれも内科治療薬と同様で根本のストレスを解決しないと薬を止めたらすぐに再発してしまいます。

どうしてもストレスの軽減がうまくいかず、長期的に内科薬あるいは向精神薬を服薬するケースもあるのが現状ですが、積極的に推奨される治療法ではありません。

Ⅳ.その他の治療法

その他も心身症の治療法として有効なものがあります。ここでは2つの治療法を紹介します。

【筋弛緩法】

筋弛緩法(リラクゼーション)は筋肉の緊張をとったり、自律神経のはたらきを改善させる作用が期待できる治療法です。

方法としても非常にかんたんで、自宅でも手軽に行えます。

正確なやり方は、専門家の指導を一度受けるべきですが、簡単に説明すると、

  1. 8割ほどの力で5~10秒ほど力を入れて、
  2. その後スーッと力を抜き、10秒ほど脱力する

ということ顔、手、足・・・と全身の筋肉に対して順々に行っていく方法です。

力を入れたあとストンと力を抜くことが一番のポイントで、脱力を意識することで筋肉の緊張が取れやすくなります。これを行うと、全身の筋肉の緊張が取れ、自律神経のはたらきも落ち着きます。

筋弛緩法のやり方を指導してくれる病院・クリニックもありますので、興味のある方は問い合わせてみましょう。

【バイオフィードバック】

バイオフィードバックはまだ導入している医療機関が少ないため、手軽には行えませんが、ストレスをコントロールできるようになるために有効な治療法です。

バイオフィードバックとは、無意識下で行われている生体活動を「意識」することによって、制御できるようにする訓練法です。心身症の頭痛に対して用いられることの多い治療法ですが、全ての心身症の治療に用いることが可能です。

「バイオフィードバック」という専門用語だけではちょっと分かりにくいので、頭痛を例にとって具体的な治療法を説明します。

心身症による頭痛で多いのが筋緊張性頭痛と呼ばれる頭痛で、これはストレスによる自律神経の乱れから、頭部の筋肉が過剰に収縮しまい、頭痛を引き起こしてしまいます。

この頭部の筋肉が収縮してしまうのは、私たちが意識的に収縮させているわけではなく、自律神経が無意識に行っている現象です。これを筋電図などを用いることて可視化し、頭部の筋収縮を意識できるように訓練していくのがバイオフィードバックです。

他にも例えばストレスで動悸が出る、という方であれば、心電図や脈拍計を用いて心拍を可視化し、心拍数を制御できるように訓練します。

もちろん、100%完全にコントロールできるようになるわけではありません。例えば意識的に心拍動を止めれるようになったら大変なことですよね。しかし、適切な訓練を受ければある程度は制御できるようになります。

バイオフィードバックは専門的知識・技術を持った治療者の元で行う必要があり、医療器具なども必要になってくるため、治療を行える機関が限られていることが難点です。

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