抗うつ剤を内服している女性であれば
「妊娠中に、抗うつ剤を飲んで大丈夫なの?」
「抗うつ剤を飲みながら授乳していいの?」
こういったことは、気になるところでしょう。
もちろん、お薬を飲まないに越したことはありませんが、抗うつ剤を無理に中止することで精神状態の増悪が予想される場合は、やめずらいのもまた事実です。抗うつ剤の影響で赤ちゃんに害がないかも心配ですが、無理な断薬による、精神症状悪化で流産などを起こすことだってありえます。
ここでは、パキシルの妊娠・授乳への影響や、継続中止をどのように判断するのかを考えていきましょう。
1.妊娠へのパキシルの影響
パキシルの妊婦への投与は、
「やむを得ない場合は使用も認められるが、極力使用すべきではない」
という位置づけになっています。
胎児への薬物の危険度は「薬剤胎児危険度分類基準」というFDAが出している基準を
一つの目安にします。
(*FDA:アメリカ食品医薬品局。日本の厚生労働局のようなもの)
この基準では、 薬物の胎児への危険度をA,B,C,D,×の5段階に分類しています。
A:ヒト対照試験で、危険性がみいだされない
B:人での危険性の証拠はない
C:危険性を否定することができない
D:危険性を示す確かな証拠がある
×:妊娠中は禁忌
この基準は絶対的なものではなく、あくまでも目安です。
妊婦で人体実験などできるわけがありませんので、この分類の信頼性は各薬でばらつきが大きいのが現状です。
精神科のお薬で「A」や「B」に分類されているものはほとんどありません。
「C」「D」「×」の3つのどれかに分類されています。
この中でパキシルは、「D」です。
「D:危険性を示す確かな証拠がある」という、決して軽視することはできない位置づけです。
そのため、妊娠中は極力使わないようにし、妊娠の予定があったり、妊娠してしまった場合は
パキシルはできる限り中止する方向に考えます。
中止することで精神状態の悪化をきたすようであれば、危険性の低い抗うつ剤を使います。
いくつかの抗うつ剤は「C」ですので、パキシルよりは安全と考えられています。
ちなみに「C」に分類されている抗うつ剤には、
パキシル以外のSSRI(ルボックス/デプロメール、ジェイゾロフト、レクサプロ)、
SNRI(サインバルタ、トレドミン)、リフレックス/レメロン
などがあります。
また、おくすりの量は、少なければ少ないほど胎児に届く量も少なくなりますので、精神状態に支障をきたさない範囲内で、最小限の量に減薬することは大切です。
もし、どうしても抗うつ剤を使いたくない、という場合は、「A」や「B」の抗うつ剤はありませんので、精神を落ち着かせる漢方薬などが使われることもあります。ただし、漢方薬の効きは個人差も大きいため、主治医とよく相談してから決めるようにしましょう。
分類法はあくまでも目安であり、これだけでは最終的な判断はできません。
服薬のメリット(=精神状態が安定する)とデメリット(=おくすりが胎児に届いてしまう)を
天秤にかけながら主治医としっかり相談して、自身や赤ちゃんにとって最良の選択をすることが大切です。
2.パキシルの授乳婦への投与
授乳時の薬物の投与については、「Medication and Mother’s Milk 2012」という基準がしばしば使われます。
この基準ではL1-L5の5段階に薬剤を分類しています。
- L1:最も安全(safest)
- L2:比較的安全(safer)
- L3:おそらく安全(probably safe)
- L4:悪影響を与える可能性あり(possibly hazardous)
- L5:危険(hazardous)
ほとんどの抗うつ剤は「L2」に分類されており、鎮静が強い抗うつ剤は「L3」に分類されます。
パキシルはというと、「L2」になります。
この分類結果だけをみると、授乳の際にパキシルを飲んでいてもいいように見えます。
しかし私は基本的には授乳中の薬物投与はおすすめしておりません。
パキシルを含め、薬物は基本的には母乳から乳児に移行します。
抗うつ剤は少量ながらも母乳を介して乳児の体内に移行しているのです。
自分の子供に抗うつ剤が入っていることを、良いと考える母親はほとんどいないでしょう。
それを将来にわたって心配したり後悔したりするかもしれません。
今は、人工乳などでもある程度栄養は補えるのですから、抗うつ剤を内服するのであれば
極力母乳は投与せず、人工乳を与える方がいいと考えています。
もし、精神状態も安定してる方でどうしても授乳したい場合は、主治医と相談して、
パキシルの中止も検討してみて下さい。
パキシルを中止した際は、薬が完全に抜けるまで1-2週間待ってから母乳栄養を開始するのが
安全です。