女性は男性の2倍、うつ病にかかりやすいと言われています。特に妊娠前後や出産後はうつ病を発症するリスクが高いことが指摘されており、出産後の女性の20%がうつ病や不安障害などの精神疾患の診断基準を満たすとも言われています。
出産後は、ホルモンバランスの大きな変動という生理的変化の他に、子供ができたことへの責任感やしっかり育児が出来るかという不安も重なり、精神的に不安定になりやすいことが予測されます。
出産後にうつ病にかかってしまい、それが長く続いてしまうと自分がつらいだけでなく、子供にも悪影響が出てしまうことがあります。そのため、出産後の母親のメンタルヘルスには特に注意を払わねばいけません。
今日は産後うつ病という、出産後に起こりやすいうつ病についてお話します。
1.産後うつ病とは
産後うつ病とは、出産後に生じるうつ病のことです。
妊娠や出産はおめでたい出来事なのですが、環境の変化、母親としての責任などのストレスがかかりやすい時期でもあります。また赤ちゃんが産まれれば、子育て疲労や不安、社会的な取り残され感などでまたストレスがかかります。実際、妊娠初期と産後1か月以内は特にうつ病にかかりやすいことが指摘されています。
産後うつ病の発症率は10~15%もあると報告されています。しかし、ほとんどの母親は精神科や心療内科を受診することはしません。
なぜならば産後は赤ちゃんのことで忙しくて受診する時間がないこと、そして周囲も赤ちゃんに関心が向いているため、母親の精神的不調は見逃されがちだからです。
しかし、産後うつ病を放置することは危険です。重症化・慢性化すれば、家事や育児へ支障をきたす可能性もあリます。長期的にみれば母子関係の悪化や乳幼児への悪影響も起こり得るため、適切な治療をする必要があるのです。
2.産後うつ病に特徴的な症状
産後うつ病は、「産後に生じるうつ病」で、基本的な症状はうつ病と変わりません。参考までにDSM-5のうつ病の診断基準を紹介します。
- 抑うつ気分
- 興味または喜びの著しい低下
- 食欲の増加または減少、体重の増加または減少(1か月で体重の5%以上の変化)
- 不眠または過眠
- 強い焦燥感または運動の静止
- 疲労感または気力が低下する
- 無価値感、または過剰・不適切な罪責感
- 思考力や集中力が低下する
- 死について繰り返し考える、自殺を計画するなど
これらの5つ以上が2週間のあいだほとんど毎日存在し、またそれによって社会的・職業的に障害を引き起こしている場合、うつ病と診断される
(DSM-5 うつ病の診断基準より)
産後にこれらの基準を満たしている場合、産後うつ病と考えられます。
産後うつ病は、基本的には典型的なうつ病の症状が起きるのですが、産後うつ病で見られやすい症状もあります。特徴的なのは、育児に対する悲観的な考えです。
育児というのは大変です。特に産まれたばかりの赤ちゃんは、ちょっと寝ては泣く、の繰り返し。母親はゆっくり眠ることもできずに日々疲弊していきます。普通の精神状態を持っている母親でも疲弊してしまうことは珍しくありません。うつ病になってしまった母親にとって、これは非常につらいものです。
育児に対して「つらい」と感じる毎日が続くと、「私はちゃんした母親になれないのではないか」という自信の喪失や、「この子は泣いてばかり。私になついてくれない」という怒りが起こりやすくなります。
また不安定な気持ちで子育てをしているとちょっとしたことが気になってしまい、ちょっと咳をしただけで「肺炎になったのでは」と過剰に心配したり、ちょっと母乳の飲みが悪いだけで「何か病気があるのでは」と過剰に心配したりと不安も強くなります。
更に夫や周囲の「そんなことないんじゃないか」「深刻に考えすぎだろ」というアドバイスに対して、「この人は私のことを何もわかってくれない!」「誰もわかってくれないし私はひとりぼっちだ」とますます悲観的になってまいます。
このように育児に対して悲観的になるのが、産後うつ病の大きな特徴です。
子育て・育児に対して悲観的になることが多く、周囲に理解してもらえないと感じている場合はうつ病の症状も疑ってみることが大切です。
3.マタニティーブルーとは違うの?
産後にわけもなく泣いてしまったり、ちょっとしたことで怒ってしまったりと不安定になることがあり、これはマタニティーブルーと呼ばれます。
マタニティーブルーと産後うつ病が同じような意味合いでは使われることも多いのですが、これらは同じものではありません。
マタニティーブルーというのは、病気ではなく出産後に起こる正常な反応です。女性は出産すると、ホルモンバランスが大きく変わるため、それに伴って気分が一時的に不安定になります。しかしこれは数日で自然と改善していくため、治療する必要はありません。
対して産後うつ病というのはうつ病ですので、病気です。
ホルモンバランスの崩れがきっかけになることはありますが、それ以外にもストレスや環境変化など様々な原因によって起こります。数週間経っても改善しない事も多く、場合によっては悪化していくこともあります。適切な治療が必要な疾患なのです。
4.産後うつ病をチェックする検査「EPDS」
産後に精神的な不調を感じても、ほとんどの母親は精神科・心療内科を受診しようとはしません。精神科はあまり行きたいところではないし、「うつ病」なんて診断もされたいものではありません。そもそも子育てで忙しく、そんな暇はないと考えるからです。
また自分自身で不調を感じて周囲に相談しても「母親になったのに何弱気になってるの!」と流されてしまい、受診に至らないこともあります。
しかし産後うつ病の発症率は10~15%と決して稀なものではありません。気になる症状があれば、放置せずに受診をし、適切な治療を受けて頂きたいと私たちは考えます。
うつ病を放置しておけば、育児や親子関係に悪影響が出てしまいます。適切な治療を受けることでこのようなことは避けることが可能となります。治療を受けるメリットは大きくあるのです。
自分が産後うつ病に該当するのかを簡単にチェックできる「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」というものがあります。これは診断できる検査ではありませんが、自分は産後うつ病の可能性が高いのどうかをある程度推測できますので、まずはこの検査をしてみるのも一つの方法です。
エジンバラ産後うつ病質問票は10個の質問からなり、それぞれ4つの選択肢の中から一番今の自分に合うものを選んでいきます。5分ほどで出来る検査ですので、「私って産後うつ病なのかな」と感じている方は一度やってみることをおすすめします。
(エジンバラ産後うつ病質問票は、無断転載が禁じられているためここでは紹介できません。ネットで検索すれば見つかります)
EPDSは産後うつ病で頻度の多い症状を中心に10個の質問からなります。回答は4つの選択肢の中から1つを選ぶというもので、5分ほどで簡単に行える検査です。1980年ごろに英国で開発され、世界的に使用されています。日本語訳もされており、日本でも広く使用されています。
EPDSは「ここ1週間の自分の状態」を答えてください。30点満点で、9点以上は産後うつ病を疑います。点数が高いほど産後うつ病の可能性が高くなります。