うつ病なのにジプレキサを処方されたのは何故?

うつ病とジプレキサ

ジプレキサは、統合失調症と双極性障害(躁うつ病)に対して適応を持つおくすりです。添付文書を見ても、適応疾患にはこの2つの病名しか書いていません。

しかし実際の臨床現場では、それ以外の疾患に使われることもあります。医師の判断によっては、うつ病に対してジプレキサを使用することだってあるのです。

うつ病に対してジプレキサを使うこと自体はおかしいことではありませんが、使用する際に医師の説明が不十分であったり、患者さんの理解が不十分であったりすると、しばしば患者さんは不安に感じ、主治医への不信感につながってしまいます。

「先生にはうつ病と言われてたのに、統合失調症のくすりが処方された。私は統合失調症なのか?」と。

このような誤解や不信を生まないため、今日はうつ病でジプレキサが処方されることについて、お話したいと思います。

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1.適応外処方という使い方

適応外処方というのは、添付文書に記載されている適応疾患以外の疾患にそのおくすりを使うことです。

例えばジプレキサの適応疾患は、「統合失調症」「双極性障害」の2疾患ですので、それ以外の疾患に処方すれば適応外処方になります。今回のテーマである「うつ病に対してジプレキサを使う事」も適応外処方です。

臨床現場では、適応外処方は時々行われ、珍しい事ではありません。もちろん、原則的には「適応疾患に処方する」というルールに従った診療を心がけるべきで、なるべく適応外処方をしないようにする努力は必要です。

しかし病気というのは、個人個人で症状が大きく異なります。特に精神疾患は「こころ」という目に見えないものを治療するわけですので、必ずしもルール通りにはいかないことがあります。

適応内の処方では限界がある、と医師が判断した時、適応外処方が行われることがあります。

適応外処方の適応は慎重に判断されるべきで、何でも許されるわけではありません。頭痛で困っている患者さんに糖尿病のくすりを出しても意味がないことは明らかで、ある程度の根拠がないと適応外処方は認められません。

適応外処方が行われる例としては、

  • 日本ではまだ適応疾患に認められていないけど、海外では適応疾患になっていて治療実績があるもの
  • 最近の研究でその疾患に対しても効果があることが分かってきたもの

こういったケースがあります。

2.ジプレキサをうつ病に処方するのはどんな時?

基本的にジプレキサは統合失調症と双極性障害に適応を持つおくすりですので、うつ病には使用しません。

そのため、うつ病の患者さんに対していきなりジプレキサを処方する、ということはほとんどありません。うつ病の患者さんへのジプレキサ投与は、適応外処方ですのでいきなり投与していいものではなく、やむを得ないケースに限られるからです。その判断は慎重に行わないといけません。

しかし、うつ病にジプレキサが用いられるケースはあります。何故、ジプレキサが使われたのかというのは個々の症例で異なるため、ここで答えを出すことはできませんが、臨床で比較的よく認められる「うつ病でジプレキサが処方されるケース」を紹介します。

Ⅰ.抗うつ剤のみでは改善が不十分

うつ病に対して、用いられるおくすりはやはり抗うつ剤が基本です。

抗うつ剤にも色々な種類があります。

新規抗うつ剤と呼ばれる、SSRIやSNRI、NaSSA。そして比較的古い抗うつ剤である三環系抗うつ剤や四環系抗うつ剤などが代表的な抗うつ剤です。

うつ病に対しての薬物療法を行う場合は、まずはこのような抗うつ剤から始めるのが原則です。

しかし、抗うつ剤をいくつか試してみても十分な効果が得られない場合もあります。

この場合、「増強療法(Augmentation therapy)」と言って、抗うつ剤に少量の抗精神病薬や気分安定薬、甲状腺ホルモン剤などを併用する方法があります。

ジプレキサは抗精神病薬ですので、この増強療法に使われることがあるのです

増強療法は、抗うつ剤では効果不十分な時に限り検討される治療法です。ガイドラインでも推奨されている方法ではありますが、効果があるとする研究結果もあれば効果がなかったとする研究結果もあります。

そのため、少なくとも、「抗うつ剤だけでは効かない」というやむを得ないケースに限って検討される治療法で、抗うつ剤を十分試していないのにすべき治療法ではありません。

Ⅱ.妄想などの精神病症状が強い

うつ病でも、妄想などの精神病症状が出ることがあります。

うつ病の妄想で代表的なのが、「罪業妄想」「心気妄想」「貧困妄想」の3つです。

罪業妄想は、自分の考えや行動に過剰に罪の意識を持ってしまう妄想です。取るに足らないようなことでも、過剰に罪の意識を持ってしまうのが特徴で、「会社の今期の業績が落ちたのは、私があの日会社のグチを言ったせいだ」と明らかに関係ないようなことでも自分に責任があると考えてしまいます。

心気妄想とは、些細な症状が出ただけで「自分は重症の病気なんだ」と考えてしまう妄想です。ちょっと咳が出たり、お腹が痛くなっただけで「自分は癌に違いない」「先生は私を心配させないためにわざとそれを言わないんだ」と考えます。

貧困妄想とは、実際は生活に必要なお金があるにも関わらず「お金がない。うちはもうダメだ」と考えてしまう妄想です。

これらの妄想は、落ち込みからきているものであり、「気分に一致する妄想」として「落ち込みからこのように考えてしまうのだろう」とある程度理解ができる妄想です。うつ病で妄想が見られる場合、このような気分に一致した妄想が一般的です(気分に一致しない妄想などが出現することもあります)。

いずれにせよ、うつ病に精神病症状が現れた場合、抗うつ剤だけでなく抗精神病薬を併用することがあります。

Ⅲ.衝動性が強いうつ病

ジプレキサの特徴のひとつに、鎮静効果が強いことが挙げられます。抗うつ剤で、同程度の鎮静効果を持つものはあまりありません。

そのため、うつ病で治療しているけども衝動性が高くなってしまったり、興奮・攻撃性が高くなってしまった時にジプレキサが用いられることがあります。

Ⅳ.不眠が強い

ジプレキサの特徴のひとつに、催眠効果が強いことが挙げられます。

うつ病で不眠を併発している場合は、催眠効果の強い抗うつ剤を使用したり、睡眠薬を使用することが一般的です。しかしこれらの催眠効果が不十分な場合は、ジプレキサなどの催眠効果の強い抗精神病薬が検討されることもあります。

Ⅴ.双極性障害や統合失調症の疑いがある

精神疾患は、血液検査などの明確に診断できるツールに乏しいため、最初のうちは診断が確定できないということがあります。

一見落ち込んでいて、うつ病のように見えていたけど、経過中に急に躁状態になって双極性障害だと分かった。こういうことは精神科医なら誰もが一度は経験することです。

現在はうつ病として診断しているけども、双極性障害や統合失調症の可能性もありうる、というケースでは抗精神病薬を併用するケースがあります。

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3.疑問に思ったら主治医に聞こう

「私はうつ病のはずなのに、統合失調症のくすりが処方されているんです。どういうことなのでしょうか」

このような質問は、時々私のメール相談に寄せられます。

メールで頂いた情報のみからこの回答をするのは困難です。うつ病に対してジプレキサを使うべきなのかの判断は、治療をしっかり行い経過を診ながら慎重に判断されるもので、メールでそれを全てを把握すること難しいからです。

前項で、うつ病でもジプレキサが処方されるケースを紹介しましたが、実際はこれ以外のケースでも医師の判断によってはジプレキサが用いられることがあります。

疑問に感じた場合は、処方した医師に直接聞いてみることが大切です

今はネットですぐにおくすりの適応疾患を調べることができます。自分が飲んでいるおくすりについて知りたいというのは当然の感情ですし、調べることは何も悪いことではありません。そして調べた結果として疑問を感じた、というのもとても自然なことです。

主治医を疑うような言い方をしたり責めるような言い方はよくありませんが、疑問に思ったことを素直に聞いてみるのは悪いことではありません。「なんで私にこんなくすりを・・・」と不信感を募らせるよりも、しっかりと理由を聞いて納得した方が主治医と患者さんの関係も悪化せずに済みます。

「こんな質問したら怒られるかも」
「先生も忙しいのに、こんな質問していいのだろうか」

このように先生に気を遣って、質問しない患者さんは多いようです。

しかし、実は私たち医師からすれば疑問に感じていることは質問してくれた方が助かるのです。

なぜなら、疑問は不安や不信につながります。患者さんの不安や不信が強くなれば精神状態も不安定になり、治療経過が悪くなることは明らかです。

しっかり質問して納得してくれた方が、患者さんのこころもすっきりしますし、それによって精神も安定して、治療経過もよくなります。

分からないことは主治医に質問しましょう。治療に対しての疑問に答えるのも主治医の仕事です。

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