リフレックス(一般名:ミルタザピン)は、2009年にMeiji Seikaファルマ社より販売された抗うつ剤です。
抗うつ剤の中でもNaSSAと呼ばれるタイプになり、これは「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬」と呼ばれ、主にノルアドレナリンやセロトニンを増やす作用に優れる抗うつ剤になります。
ちなみにMSD社も「レメロン(一般名:ミルタザピン)」というNaSSAを発売してますが、レメロンもリフレックスも主成分は同じお薬です(販売している会社が違うだけで主成分は全く同じです)。
リフレックスの特徴は、他の代表的な抗うつ剤(三環系抗うつ剤やSSRI、SNRIなど)と異なる作用機序で気分を改善させてくれる事です。
そのため他の抗うつ剤があまり効かなかった患者さんでも、作用機序の異なるリフレックスであれば効く可能性があり、うつ病治療の新たな選択肢の1つとなっています。
副作用に少しクセのある抗うつ剤ではありますが、その特徴を理解して正しく使えば非常に大きな助けになる可能性を秘めています。
ここでは、リフレックスという抗うつ剤の効果や特徴について詳しく見ていきましょう。
1.リフレックスの特徴
まずは、リフレックスのイメージをつかんでもらうため、その特徴を紹介します。
【良い特徴】
- 抗うつ作用が強い
- 即効性がある
- 眠りを深くする作用もあり、不眠にも効果的
- 他の抗うつ剤と作用機序が違う
- 口渇、便秘、性機能障害、吐き気といった従来の抗うつ剤で多かった副作用が少ない
【悪い特徴】
- 体重増加が生じやすい
- 眠気が生じやすい
リフレックスは種々の抗うつ剤の中でも、抗うつ作用が強く、また服用を始めてから効果が発現するまでの期間も短い抗うつ剤になります。
一般的に抗うつ剤は、だいたい2週間ほどは服用を続けないと効果が現れないと言われていますが、リフレックスは服用後数日から1週間程度で効果が現れることもあります。
また、MANGAstudyという研究では、「抗うつ剤の中でリフレックスが一番効果が強い」と結論づけられており、その効果の強さには定評があります。
副作用の現れ方も特徴的です。
三環系、四環系、SSRI、SNRIに見られるような抗コリン作用や性機能障害、胃腸障害がほとんどありません。代わりに眠気と体重増加が出やすいという特徴があります。
ただし眠気は、上手に使えば不眠で困っている患者さんに質のいい眠りを提供できるというメリットにもなります。
2.リフレックスの作用機序
リフレックスは、Nassaと呼ばれるタイプの抗うつ剤に分類されます。
NassaとはNoradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressantの略で、日本語に訳すと「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬」になります。
分かりにくいですよね・・・。まぁ、要するに、
ノルアドレナリンとセロトニンを増やすお薬
ということです。
注目すべきは、Nassaは他の抗うつ剤と違う機序でセロトニンやノルアドレナリンを増やしてくれる、という点です。
三環系や四環系、SSRIやSNRIなどの抗うつ剤は「セロトニンの再取込を阻害する」ことでセロトニンを増やします。セロトニンが吸収(=再取込)されないようにすれば、いつまでもセロトニンが残るので、結果としてセロトニンの濃度が増えていく、という仕組みです。
しかしNassaはセロトニンの分泌自体を増やします。吸収を抑えるのではなく、分泌量を増やすことで、セロトニンの濃度を上げるのです。専門的に言うと、シナプス前部にあるα2受容体を阻害することで、ノルアドレナリンとセロトニンの神経伝達を増強します。
他の抗うつ剤と作用機序が異なるということは、理論上は両者を併用すれば、相乗効果が期待できるということです。
リフレックスでセロトニンの分泌を増やして、SSRIやSNRIで吸収を抑えれば、セロトニン濃度が大きく上がりそう、というのは想像に難くありません。
実際、SNRIであるサインバルタとリフレックスを併用する、という治療が一時期流行りました。この処方は、「カリフォルニアロケット」と呼ばれてます。2剤の相乗効果でロケットのように改善していくことをイメージしてつけられたネーミングです。
3.リフレックスの適応疾患
リフレックスの添付文書には、
うつ病、うつ状態
に適応があると記載があります。
実臨床においても、「うつ病、うつ状態」の患者さんに処方することが多いですが、その他の疾患にも使うことがあります。
不安を改善する作用にも優れるため、パニック障害や社交不安障害といった不安障害にも効果は見込めます。これはセロトニンが増える事が不安の改善につながる他、リフレックスの持つ、セロトニン2C受容体遮断作用にも不安を和らげる効果があるためです。
深い眠りを導いてくれる作用から、不眠症の患者さんに使われることも少なくありません。睡眠薬だけでは効果不十分なときに、有効な一手になります。
また、精神疾患ではありませんが、慢性の掻痒(痒み)に対して、他の痒み止めが無効なときに使うことがあります。これは、リフレックスの抗ヒスタミン作用が痒みを抑える働きがあるからです。
4.リフレックスの強さ
MANGA studyという有名な研究報告があります。この研究は「抗うつ剤の強さや副作用の多さをランク付けしてみよう!」 というものです。
研究結果には賛否両論ありますが、抗うつ剤をランキングする、という前代未聞の試みであったため、大きな反響を呼んだ試験でした。
この試験結果で、「一番効果が高い」と評価されたのがリフレックスです。
この図は、mangastudyの結果を図に示したものです。
有効性とは薬の効果で数字が大きいほど効果が高いことを示しており、忍容性とは副作用の少なさで、大きいほど副作用が少ないことを表しています。フルオキセチン(国内未発売)という抗うつ剤を「1」とした場合の、それぞれの 抗うつ剤の比較です。
リフレックスは有効性だけみればトップに君臨しています。ただ、その分忍容性が低く、「効果は良いんだけど副作用も多いお薬」という位置づけです。
実際、リフレックスという抗うつ剤はこの結果の通りだと感じます。
効果は抗うつ剤の中では抜群、でも副作用も強い
それがリフレックスです。
ちなみに副作用は別の記事で詳しく書きますが、副作用として多いものに、体重増加と眠気があります。
5.リフレックスが向いている人は?
リフレックスの特徴をおさらいしてみましょう。
- 効果は強い
- 眠気と体重増加が起きやすい
- 他の抗うつ剤の副作用の特徴が違う
ここから考えると、「不眠を伴ううつ病」の方には良い適応だと思われます。眠れるようになるし、憂鬱な気分も改善させてくれるわけですから、うまく効けば、一石二鳥で改善が得られます。
吐き気や胃部不快感、性機能障害といった他の抗うつ剤で見られやすい副作用がほとんどないのもこのお薬の特徴です。このような副作用で苦しんでいる方も、リフレックスを試す価値はあるかもしれません。
反対に、「日中に眠気が出ると困る人」への投与は慎重にすべきでしょう。眠気は日中まで持ち越すこともあります。
リフレックスは非常に良いお薬であり、投与してみたい患者さんは多くいるのですが、日中に作業をする人には投与しずらいというのは大きな欠点です。
社会人や学生など、ほとんどの方は日中に集中力を要する作業をしており、日中に眠気が出たら困る人というのは多いのです。
すでに仕事を休職しており、治療体制が十分整っている方には投与しやすいかもしれませんが、そうでない場合、眠気で集中力や作業効率が落ちて困ってしまうかもしれないし、もっとひどい場合は、朝起きれなくなって遅刻してしまうかもしれません。
そうなると、かえって自分を責めてしまうことにもなりそうですよね。
また、リフレックスは体重増加の頻度が多いお薬ですから、太ることに過敏な方にはあまりお勧めできません。
6.リフレックスの導入例
リフレックスは添付文書には
15mgを1日1回、眠る前に投与から開始して下さい
と記載されています。
しかし、実際は15mgから開始してしまうと、多くの場合で強い眠気に苦しむことになります。
私もリフレックスの発売当初は添付文書通り15mgから開始していましたが、
「一日中眠りこけてしまった」
「身体がだるくて数日動けなかった」
などと患者さんから怒られてしまうことが時々ありました。
なので、7.5mg(半錠)や3.75mg(1/4錠)から開始するのが良いかと思います。
効果の発現は他の抗うつ剤より早く、1週間程度で効果を感じられる方も少なくありません。
内服初期の副作用は、眠気・倦怠感が多くみられます。ただ、不思議なことに「3日」経つとかなり楽になる、という方が多いです。これは何でなのか本当に不思議なのですが、「最初の3日を乗り切ったら眠気がかなり良くなった」という感想を持つ患者さんは少なくありません。
製薬会社の方にこの事をお話ししたところ、同じような印象を持っている先生は多いとのことでした。
眠気や倦怠感は最初の3日を乗り切ると改善する例は多いようです。副作用が出てしまった方も、3日は何とか飲み続けてみるといいかもしれません。
1~2週間様子をみて、リフレックスを続けられそうと感じられたら、15mg→30mg→45mgと徐々に増やしていきます(最大量は45mgです)。増やす間隔は最低でも1週間は空けましょう。
また、必ず最大量まで上げないといけないわけではなく、薬効が十分感じられればその量で上げ止めて構いません。
典型的な経過としては、まずは眠くなるため睡眠が改善され、その後に不安や落ち込み、焦燥感が改善されてきます。更に服薬を続けていくと意欲が改善されてきます。
最大量投与して、1~2か月経過をみても改善が全く得られない場合は、リフレックスが効いていないと考えられますので、別の抗うつ剤に切り替えます。
リフレックスの効果が十分に出て、気分が十分安定したと感じられても、そこから6~12ヶ月はお薬を飲み続けましょう。この時期が一番再発しやすい時期だからです。
6~12ヶ月間服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、その後2~3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していき、治療終了となります。
(注:ページ上部の画像はイメージ画像であり、実際のリフレックス錠とは異なります)
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