ミルナシプランとは 【医師が教える抗うつ剤のすべて】

ミルナシプランのイメージ

「ミルナシプラン」という言葉は、元々は抗うつ剤トレドミンの一般名を表す用語でしたが、最近ではジェネリックの名称としても使われています(一般名:国際的に決められた薬物の名前のこと)。

今は「ミルナシプラン」というとジェネリックを指していることがほとんどです。

ここではジェネリック医薬品である「ミルナシプラン」についての説明をしたいと思います。

ちなみに、トレドミンのジェネリックですから、効果や副作用などすべてトレドミンと同じです。より詳しく知りたい方は、トレドミンの記事も合わせてご覧ください。

▽ トレドミンの全て【医師が教える抗うつ剤のすべて】

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1.ミルナシプランはどんな抗うつ剤なの?

ミルナシプランは、「トレドミン」という抗うつ剤のジェネリック医薬品です。
最近のジェネリック薬は「一般名+会社名」という名称になっている事がほとんどのため、
一般名である「ミルナシプラン」がおくすりの名前になっているのです。

これは、次々とジェネリック薬が発売されている現状で、
ジェネリック薬があまりに多くなりすぎて現場が混乱しているため、
名称を統一して混乱や投与ミスをなくすという狙いがあります。

ちなみに一般名というのは、国際的に決められたお薬の名前のことで、全世界でほぼ共通の名称です。

具体的には、

  • ミルナシプラン「日医工」
  • ミルナシプラン「NP」
  • ミルナシプラン「サワイ」

など、多くのジェネリックがあります。
どれもトレドミンのジェネリックであり、効果や副作用もトレドミンと同等です。

ミルナシプランはSNRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤です。

SNRIは「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」のことで、
セロトニンとノルアドレナリンの両方を増やすことで抗うつ効果を発揮します。

セロトニンは落ち込みを改善させ、ノルアドレナリンはやる気を改善させると考えられており、
ミルナシプランはこの両方に効果があります。

ミルナシプランの抗うつ剤としての特徴は、

  • 効果は弱く、穏やかに効く
  • 意欲改善効果に優れる
  • 副作用が少なく、安全性が高い
  • 痛みを改善させる効果がある

という点が挙げられます。

ちなみにSNRIは、他にもサインバルタがありますが
ミルナシプランとサインバルタは特徴がだいぶ異なります。

ミルナシプランは「緩やかな効果で、副作用も軽め」というイメージですが、
サインバルタは「効果は強めだけど、副作用もやや多め」というイメージです。

また、同じSNRIではあってもセロトニンとノルアドレナリンそれぞれの再取り込み比率や
再取り込みの力が異なります。

 セロトニン再取込阻害ノルアドレナリン再取込阻害
サインバルタ4.616
トレドミン203100

この数値はki値というもので、低いほど作用が強いことを表しています。

全体的に見てもサインバルタの方が圧倒的に再取り込みの力が強いのが分かります。
また、サインバルタはセロトニンに対する作用の方が強いですが、
ミルナシプランはノルアドレナリンに対する作用の方が強いようです。

 

2.ミルナシプランの副作用

全てのくすりに言えることですが、どんなくすりでも副作用があります。
一般的に安全と思われている漢方薬にだって、副作用の報告はいくつもあるのです。

ミルナシプランは、他の抗うつ剤と比べると副作用が少ないといえるおくすりですが、
それでも副作用の報告はあります。

ここでは、報告されている副作用の中から、臨床で特に見ることの多い副作用を紹介します。
なお、これらの副作用はミルナシプランに限らず、多くの抗うつ剤でも同様に認められます。

 

Ⅰ.尿閉(尿が出にくくなる、出なくなる)

ミルナシプランをはじめとしたSNRIは尿閉が起こりやすいのが特徴です。
これはノルアドレナリンに尿道を締める作用があるためです。

前立腺肥大などの疾患を持っていて、元々おしっこが出にくいという方は特に注意が必要です。

尿閉が心配な場合は、ノルアドレナリン作用のない抗うつ剤を選択するとよいでしょう。
SSRI(特にジェイゾロフトやレクサプロ)が候補に挙がります。

また、尿閉の副作用を改善するおくすりを併用するのも手です。
ベサコリン、ウブレチドなどの尿の排出を助けるおくすりが用いられることがあります。

Ⅱ.便秘、口渇(抗コリン作用)

抗コリン作用とは、アセチルコリンという物質の働きをブロックしてしまうことで生じる、
抗うつ剤の代表的な副作用です。

口渇や便秘が有名ですが、他にも
尿閉、顔面紅潮、めまい、悪心、眠気なども起こることがあります。

抗コリン作用は三環系(トフラニール、アナフラニール、トリプタノールなど)で多く認められ、
四環系(ルジオミール、テトラミドなど)でもまずまず認められます。

SSRIは三環系・四環系と比べると大分少なくなっていますが、全く出ないわけではありません。
パキシルやルボックス/デプロメールでは比較的多く、レクサプロとジェイゾロフトは少ないようです。

SNRI(ミルナシプラン、サインバルタ)も抗コリン作用は少なめです。

抗コリン作用が弱い抗うつ剤としては、 Nassa(リフレックス/レメロン)やドグマチールなどがあり、
これらはほとんど抗コリン作用を認めません。

抗コリン作用がつらい場合は、これらのお薬に変更するのも手になります。

抗コリン作用への対応策としては

  • 抗コリン作用の少ない抗うつ剤に変更する(Nassaやドグマチールなど)
  • 抗うつ剤の量を減らす
  • 抗コリン作用を和らげるお薬を併用する

などの方法があります。
抗コリン作用を和らげるお薬として、

  • 便秘がつらい場合は下剤(マグラックス、アローゼン、大建中湯など)、
  • 口渇がつらい場合は漢方薬(白虎加人参湯など)、

などが用いられます。

Ⅲ.ふらつきやめまい(α1受容体遮断作用など)

これは抗うつ剤がα(アドレナリン)1受容体という部位を遮断し、
血圧を下げてしまうために起こる副作用です。

これも三環系や四環系で多く、SSRIでは大分軽減されています。

Nassaはα1受容体遮断作用は弱いのですが、抗ヒスタミン作用というものがあり、
これが眠気を引き起こすため、ふらつきめまいは少なくありません。

デジレルもα1受容体遮断作用は強くないものの、5HT(セロトニン)2A受容体という
神経興奮をさせる受容体を遮断するため、ふらつきやめまいを生じさせます。

SNRI(サインバルタ、ミルナシプラン)は、ノルアドレナリンに作用することで逆に
血圧を上げる働きもあるため、めまいやふらつきが起こる頻度は少ないようです。

ふらつき、めまいがつらい場合も、

  • ふらつき、めまいの少ない抗うつ剤に変更する
  • 抗うつ剤の量を減らす
  • α1受容体遮断作用を和らげるお薬を試す

などの方法がとられます。

お薬としては昇圧剤(リズミック、メトリジンなど)が用いられることがありますが、
血圧を上げるお薬ですので、高血圧の方などは使用する際に注意が必要です。

これらはα1受容体を刺激することで血圧を上げます。

 Ⅳ.眠気(抗ヒスタミン作用)

眠気はほとんどの抗うつ剤に起こりうる副作用です。
抗うつ剤は身体をリラックスさせますから、当然と言えば当然かもしれません。

中でも、「鎮静系抗うつ剤」と呼ばれるものは眠気が特に強く出ます。
Nassaや四環系、デジレルなどですね。
鎮静系抗うつ剤は眠気の強さを逆手にとって、睡眠薬として利用されることもあるほどです。

鎮静系ではないSSRIやSNRIは、眠気の頻度は少なめです。
パキシルとルボックス/デプロメールはやや多いですが、
ジェイゾロフトやレクサプロ、そしてミルナシプランやサインバルタの眠気は軽いことが多いです。

眠気への対処法としては、

  • 眠気の少ない抗うつ剤(ジェイゾロフト、サインバルタ等)に変更する
  • 抗うつ剤の量を減らす
  • 睡眠環境を見直す

などがあります。

Ⅴ.不眠(セロトニン2刺激作用)

SSRIやSNRIは深部睡眠(深い眠り)を障害するため、不眠となる事があります。
ミルナシプランも例外ではなく、深部睡眠が障害される可能性があります。

SSRIには「眠気」と「不眠」両方の副作用があるので、不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。

これは「眠くなるけど、浅い眠りになってしまう」ということで、飲酒時の状態をイメージすると
分かりやすいと思います。

飲酒すると眠くなりますよね。でもお酒を飲みすぎた時って眠りは浅くなり、
夢をみたり早朝に起きてしまったりしやすくなります。
状態としては、これに似たようなイメージです。

この副作用はセロトニンに選択的に作用するSSRIやSNRIで多く認められ、
次いで三環系にも時々認められます。

反対に、四環系やデジレル、Nassaなどの鎮静系坑うつ剤は、
深部睡眠を促進するため、眠くはなるけど深い眠りを導いてくれます。
そのため、不眠はほぼ認めません。

不眠で困る場合は、服薬を朝食後などに変えると改善することがあります。

薬の量を減らせそうなら、減らすのも手です。

それでも改善が得られない場合は、鎮静系抗うつ剤に変えたり、
少量の鎮静系抗うつ剤を上乗せすると改善することもあります。

鎮静系抗うつ剤は深部睡眠を促進するため、不眠の副作用を打ち消してくれる可能性があるからです。

Ⅵ.性機能障害(セロトニン2A刺激作用、α1受容体遮断作用)

勃起障害や射精障害と言った性機能障害もSSRI、SNRIに多い副作用です。
この原因は詳しくは分かっていませんが、セロトニンが関与していると言われています。
また、α(アドレナリン)1受容体をブロックすることも関係していると考えられています。

デジレルでもやや多く認められます。
(デジレルの場合は持続勃起という、他の抗うつ剤には無い副作用にも注意しなければいけません)

三環系でも性機能障害は起こしますが、SSRI、SNRIほどではありません。
四環系やNassaは、性機能障害をほとんど起こしません。

ミルナシプランも性機能障害を起こす可能性はあります。
SSRI/SNRIの中では、パキシルそしてジェイゾロフトに特に多い印象がありますが、
その他のSSRI/SNRIでも可能性は十分ありえます。

性機能障害は、他人に相談しずらいので私たち医療者も見逃がしがちです。
こればかりは本人しか分からない事ですから。
でも、診察でよくよく話を聞いてみると、困っている方は少なくありません。

例えば、性機能障害で夫婦生活に溝ができてしまい、家庭の雰囲気がギスギスしている、
と相談されたこともありました。

これは重大な問題です。

家庭がリラックスできる状況でなければ、病気の治りが遅くなるのは明らかです。
相談しずらい内容ですが、困っているのであれば必ず主治医に必ず相談してください。
親身に相談に乗ってくれるはずです。

具体的な対処法としては、抗うつ剤の減量あるいは変薬になります。

Ⅶ.体重増加(抗ヒスタミン作用)

体重増加は眠気と同じく、主に抗ヒスタミン作用で生じるため、
眠気の多いお薬は体重も増えやすいと言えます。

Nassaに多く、三環系やパキシルもそれに続きます。
ミルナシプランはというと、体重増加は少ないおくすりです。

しかし抗うつ剤は長期間内服を続けるものですので、内服を継続しているうちに
徐々に太ってくるという可能性は十分あります。

運動や規則正しい食事などの生活習慣の改善で予防するのが一番ですが、
それでも十分な改善が得られない場合は、他剤に変更するもの手になります。

体重を上げにくいという面でいえば、ジェイゾロフトやサインバルタなどが候補に挙がりますが、
ミルナシプランがそもそも体重増加が少ないおくすりですので、変わらない可能性もあります。

Ⅷ.吐き気(セロトニン3刺激作用)

SSRIには吐き気や胃部不快感といった胃腸障害の副作用がつきものです。

これは、胃腸にもセロトニン受容体が存在するために起こる副作用です。
胃腸にはセロトニン3受容体が分布しており、抗うつ剤の内服によってこの受容体が刺激されることで、
吐き気が起きます。

SSRIやSNRIはすべて、この吐き気を高頻度で起こしえます。
ミルナシプランも例外ではなく、吐き気を起こす可能性は十分にあります。

「吐き気は起きるだろう」くらいの気持ちを持って内服を始めた方がいいかもしれません。

しかし吐き気の副作用は、長くは続きませんので安心してください。
1-2週間我慢すれば、ほとんどの場合で自然と改善します。

なので、「我慢する」ことが一番の対応策になります。

どうしてもつらい場合は、胃薬を併用しましょう。

ガスモチンやソロン、ムコスタなどの胃腸薬がよく使われます。

収まらない場合は、胃酸の分泌を抑えるお薬(H2ブロッカーやPPIなど)を一時的に使うこともありますが、
本来は抗うつ剤の副作用止めに使うお薬ではないので、使用するかは主治医とよく相談して下さい。

副作用の総評

一通りの説明が終わったところで、もう一度他抗うつ剤との比較をみてみましょう。
ミルナシプランはトレドミンのジェネリックですので「トレドミン=ミルナシプラン」と考えてご覧ください。

抗うつ剤口渇,便秘等フラツキ吐気眠気不眠性機能障害体重増加
トリプタノール++++++±+++-++++
トフラニール+++++±++++++
アナフラニール++++++++++++
テトラミド++-++--+
デジレル/レスリン++-++-+++
リフレックス-++-+++--+++
ルボックス/デプロメール++++++++++
パキシル+++++++++++++
ジェイゾロフト±+++±+++++
レクサプロ++++±+++++
サインバルタ+±++±++++±
トレドミン+±++±+++±
ドグマチール±±-±±++

ミルナシプランの副作用は全体的に軽度であることが分かるでしょう。

SNRIの特性上、尿閉は多め。
吐き気と性機能障害は他のSSRI/SNRIと同程度には生じる。
他の副作用は全体的に軽度

というところでしょうか。

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3.ミルナシプランが向いている人は?

効果は弱めだけど、副作用も弱め。
意欲改善に効果がある。

これがミルナシプランの特徴です。

また、SNRIには「痛みを改善させる」という効果があり、これも特徴になります。
ミルナシプランは肝臓の代謝酵素に影響しないため、肝機能が悪い方にも使いやすいというメリットもあります。

ここから考えると、

  • 意欲低下が主体のうつ病で、そこまで程度が重くない方
  • 痛みを伴ううつ病で、そこまで程度が重くない方

に推奨しやすい抗うつ剤であると思われます。

また、

  • 肝機能が悪い方
  • 他の抗うつ剤で治療してて、あと一歩の改善が欲しい方

などにも、いい適応になるでしょう。

反面、尿閉の副作用が起きやすいので、元々尿が出にくい方(前立腺疾患など)は
ミルナシプランの使用は慎重になるべきでしょう。

4.ミルナシプランの薬価

トレドミン錠(正規品)        12.5mg    21円
トレドミン錠(正規品)         15mg    24.4円
トレドミン錠(正規品)         25mg    35.7円
トレドミン錠(正規品)         50mg    60.5円

ミルナシプラン錠(ジェネリック)12.5mg  12.9~15.1円
ミルナシプラン錠(ジェネリック)15mg   13.7~17.9円
ミルナシプラン錠(ジェネリック)25mg     21.5~26.3円
ミルナシプラン錠(ジェネリック)50mg     37.5~49.4円

正規品と比べるとジェネリックは大分安いですね。

ジェネリックの薬価は各製薬会社によってバラツキがありますが、効果はどれも変わりません。

5.一般名:ミルナシプランとは?

ジェネリック薬が「一般名+会社名」という名称になったため、
一般名を目にする機会が増えてきました。

ちなみに一般名というのは、その薬物の国際的な名称のことです。

優れたお薬は、日本だけでなく全世界で使われています。
となると全世界で共通の薬物の名称が必要になります。
それが一般名なのです。

つまり、ミルナシプラン(milnacipran)と言えば海外の医師にも通じますし、
論文や専門誌など多くの国の医師が見る可能性のあるものにはすべて「milnacipran」と書かれています。

対して「トレドミン」というのは商品名で、トレドミンを発売しているヤンセン社が
販売する際に独自につけたミルナシプランの名称です。

ちなみに余談になりますが、「トレドミン」という名前の由来は、英語の
「Tolerance is dominant」(安全性に優れる)から来ています。
副作用の少ないおくすり、という名前の由来通り、トレドミンは副作用が少ないのです。

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