小精神療法から学ぶ、うつ病治療の大原則

精神療法とは、カウセリングのように患者さんにお話してもらう中で心理的側面にアプローチしていく治療法です。精神科の治療において、精神療法は欠かすことのできない非常に大切な治療法です。

しかし実際の診察では、精神療法が十分に行われていない現実があります。「先生に全然話を聞いてもらえなかった」と不満を感じる患者さんは少なくないでしょう。精神療法は、患者さんのお話をじっくりと聞く必要があるため、時間の限られた外来の中で行うことは困難なのもまた事実なのです。

それを解決する方法として「小精神療法」というものがあります。

小精神療法とは、1980年頃に提唱された精神療法のひとつです。「時間の少ない外来診察でも効率よく精神療法を行えないか」という考えから作られたもので、短時間でも施行できるように作られた特殊な精神療法です。その内容は有益なものも多く、かなり昔に提唱されたものにも関わらず現在の外来診察においても多くの精神科医が取り入れています。

重要ポイントが非常に簡潔にまとまっているため、治療者である私たちだけでなく患者さんもその内容について知っておいて損はありません。

今日はうつ病における小精神療法を紹介し、そこからうつ病治療における大切なことを学んでいきましょう。

1.小精神療法とは何なのか?

小精神療法とは、精神科医である笠原先生が1980年ごろに提唱した精神療法で、忙しい外来の中でも施行できることを目標に作られています。

精神科の治療は大きく分けると、お薬による治療である「薬物療法」と、カウンセリングなどの心理的側面から治療する「精神療法」があります。

どちらもバランス良く取り入れることが大切ですが、精神療法はじっくりと時間をかけて行うものなので、忙しい外来現場ではどうしても薬物療法の比重が大きくなってしまう現実があります。

診察で患者さん一人一人に本格的な精神療法を導入すれば、患者さん一人あたり30分~60分程度の時間がかかります。これくらいの時間をかけてじっくりと十分な診察を行うことは理想ですが、日本の保険制度下ではここまでの時間確保は困難です。

精神科外来を受診している方であればよくご存じでしょうが、日々多くの患者さんがいらっしゃるため、一人当たり60分の時間を取ることは困難です。それをすれば、医師が1日に診れる患者さんの数は10人程度が限界となり、精神科の受診の必要があるのに受診できない人が出てきてしまいます。

現状では臨床心理士などがカウンセリングを行い、医師の治療の補助をしているのですが、カウンセリングの多くは自費で、高額の料金がかかります。経済的に余裕のある方であればカウンセリングでじっくりと精神療法を受けることは可能ですが、そうでない場合は診察の限られた時間の中で治療を行わなくてはいけません。

これを何とか解決するために提唱されたのが小精神療法です。小精神療法は、短時間で簡単に行うことができて、患者さんにとっても有益なものをコンパクトにまとめて患者さんに分かりやすく伝えていくという方法です。

小精神療法では、本格的な精神療法のような「性格や考え方を変えていく事」は行いません。それは、考え方を変える必要がない、という意味ではなく、それに関しては中途半端に踏み込むべきではないからです。性格や考え方を変えるような治療は理想的なものではありますが、それは本格的に精神療法を導入して行うべきもので、多くの時間を要するものです。簡便に行えるものではありません。

そうではなく、外来という限られた時間の中で、出来る限り患者さんに有益な精神療法をと追及した結果、性格や考え方を変えることには焦点を当てずに、患者さんを従来の状態に回復させることを目指しているのが小精神療法です。

小精神療法の細かい手技などは、医療者側が知っておくべきものなので、ここでは詳しい説明はしません。しかし、小精神療法を通して私たちが患者さんに伝えたいことというのは、うつ病治療の本質であるため患者さん方も知っておいて損のないことです。

30年以上前に提唱されたものであるにも関わらず、現在でも多くの精神科医が、この小精神療法を診察に取り入れています。

2.うつ病の小精神療法の7つのポイント

私たちが小精神療法を行う際、患者さんに伝えたいポイントは次の7つが挙げられます。

30年前に提唱されている概念のため、今では患者さんにとっても当たり前である内容も多いのですが、忘れてはいけない基本的な重要事項が詰まっています。

うつ病治療の最重要事項ですので、みなさんぜひ、改めて見直してみて下さい。

Ⅰ.うつ病は病気であることを理解する

うつ病は病気である、と患者さんに正しく理解していただくことは非常に大切です。私たちは患者さんがうつ病について正しく理解できるよう分かりやすく丁寧な説明をしなくてはいけません。また、患者さん自身も「これは病気なんだ」と正しく認識しなければいけません。

いまだに「うつ病なんて甘えだ」「気合があればうつになんてならない」なんて言う方がいらっしゃいます。昔と比べるとうつ病に対する理解は大分浸透してきましたが、それでもまだうつ病を「病気」だと認識していない方もいらっしゃるのが現状です。

改めて言うまでもないことですが、うつ病は「病気」です。

甘えているからだとか、弱いからだとか、根性が足りないだとか、そんな話で済ませていいものではありません。

運悪く、周囲に「うつ病なんて甘えだよ」なんて言う人がいると、患者さん本人も「そうなのかな。自分が甘えているだけなのかな」と思ってしまうことがあります。しかしそれは全くのあやまりであり、病気の経過を悪くする危険な考え方です。

うつ病は病気なんだという理解をしっかりと持ってください。

「うつ病にかかる自分なんてダメだ」なんて自分を責めてはいけません。うつ病は誰にでも起こりうる病気なのです。「うつ病は甘え」と誤解してしまっていると、自責感が悪化したり自信が更になくなり、うつ病の経過も悪くなってしまいます。

Ⅱ.休息が必要であることを理解する

うつ病の治療において、「休息」は必要です。

典型的なうつ病は、頑張り屋さんや責任感の強い方がかかりやすいと言われており、これらの人たちは「休息すること」をなかなか受け入れることができません。「休んだら他のみんなに迷惑がかかる」「自分がもっと頑張れば済む話だ」と、こう考えてしまうのです。

しかし、これも大きなあやまりです。「休息は治療の一環である」という認識を持たなくてはいけません。

程度によっては仕事を休職することもあります。しかし、休んでいることに対して「自分はただサボっているだけなのでは・・・」と考えてしまうと、これも自責感の悪化につながり、うつ病の経過を悪くしてしまいます。

うつ病において休息は「治療」なんだということをしっかりと理解しなくてはいけません。

Ⅲ.必ず治る病気であることを理解する

うつ病は治る疾患だと考えられています。中には難治性の方など、「治りにくい方」がいないわけではありませんが、基本的には治ります。

うつ病になり、気分がふさぎ込む状態が毎日続くと「一生このままなんじゃないか」「もう自分は社会に戻れないのではないか」と悲観的になってしまいます。

しかし、悲観的な思考そのものがうつ病の症状なのです。うつ病の症状によって「自分はもう治らない」と感じてしまっているだけで、実際はしっかりと精神科医の指示のもとで治療を行えば治っていきます。

「必ず良くなっていくんだ」という気持ちを忘れないことは、治療において大切なことです。

Ⅳ.治療中に自殺を行わないことを約束する

先ほど説明した通り、うつ病は治る疾患です。

しかし、うつ病の真っただ中にいると、自分に価値を感じることができなくなったり、人生が絶望感にしか感じられなくなります。そんな毎日が続けば、「もう生きていても仕方ない」と思ってしまうこともあります。

しかしそれはうつ病という「病気」によって、無価値感や絶望感という症状が出ているためにそう感じているだけなのです。うつ病が治れば、自尊心も戻ってきますし、将来に対して前向きに考えられるようになります。

うつ病は治る疾患なのに、自殺など絶対にしてはいけません。その無価値感・絶望感・死にたい気持ちは、正常なあなたが感じているものではありません。その気持ち自体が病気の症状なのです。

しかし、頭では「この死にたい気持ち自体が症状なのだ」と理解してはいても、実際に死にたい気持ちが抑えられなくなることもあります。

そのため、自殺をせずに乗り切るために、必ず「自殺だけはしない」と約束してください。約束する相手は親でも構いませんし、主治医とでも構いません。

誰かとそう約束した、というのは一つの抑止力になります。

Ⅴ.経過中の症状は一進一退であることを理解する

うつ病は治療をはじめても、良くなったり悪くなったりを繰り返し、経過には波があるのが普通です。直線状にきれいに治癒していく患者さんというのはほとんど見たことがありません。

昨日は調子良かったのに、今日起きたら絶望感がまた強くなっていた。

これは経過中に良くあることですが、「やっと治ってきた!」と感じた矢先に症状がまたぶり返してしまうと、絶望的になってしまうものです。「もうこれは一生治らないのではないか」と考えてしまうかもしれません。

しかし、うつ病の経過は波があるのが普通なのです。良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、全体的には少しずつ底上げされていき治っていきます。

経過には波があるということを、理解しておくことは非常に大切です。これを知っておけば、症状が多少ぶり返しても、「うつ病とはそういう経過をたどる病気なんだ」と受け入れることができます。

不要に落ち込むこともなくなります。

Ⅵ.治療が終わるまで重大な決断は延期する

うつ病の真っただ中にいる時は、正常な判断ができないことがあります。

いつもよりネガティブに考えてしまうし、将来に絶望しているし、自分に価値を感じられない状態です。また頭も霧がかかったような状態でうまく考えられなくなります。

この状態の時に重要な決断をしてしまうと、後々後悔してしまう可能性が高くなります。

重大な決断とは、たとえば結婚や離婚、転勤や退職、引っ越しなどです。

ネガティブな状態だと「もう私とは離婚した方があの人のためだ」「私が会社を辞めるのが皆のためなんだ」と考えてしまいがちですが、これは正常な判断ではないことがあります。うつ病の症状によって、そう考えてしまっているだけのことがあるからです。

あとで変更がきかないような大きな決断は、うつ病が治るまでなるべく延期するようにしましょう。

Ⅶ.服薬の重要性を理解する

うつ病の治療がはじまると、お薬も使うことが普通です。お薬は抗うつ剤を使うことが一般的ですが、それ以外にも症状に応じて抗不安薬、睡眠薬なども併用することがあります。お薬も治療において欠かせない、非常に大切なものです。

抗うつ剤の有効性はいくつもの研究でしっかりと確認されています。そのため、専門家である精神科医が「抗うつ剤が必要」と判断したのであれば、抗うつ剤はしっかりと服薬しなければいけません。

繰り返しますがうつ病は病気なのです。

「薬に頼っているようではダメだ」と考えてしまう方がいますが、それは間違いです。この考え方は

「肺炎なんて気合で治さないとダメだ」
「骨折したけど、手術に頼るようではダメだ。」

と言っているのと同じです。病気であるからにはしかるべき治療を受けなければいけないのです。