治療中に遊ぶこと、手を抜く事、笑う事に罪悪感を感じてはいけない

うつ病などの精神疾患にかかってしまい、こころが疲れ切ってしまった時、そこから立ち直るためには回復過程をしっかりと踏むことが大切です。

まずはしっかりと休み、ある程度休んだら今度は少しずつリハビリを行っていく、というのがこころの治療における王道になります。

最近はこころの病気の対する啓蒙活動が進み、「しっかりと休むこと」については一般の方にも理解を得られるようになってきました。しかし、「こころのリハビリ」についてはまだまだ誤解や偏見が多いように感じます。

こころのリハビリを正しく行うことは、こころの病気の再発を防ぐために非常に大切なものとなります。

今日はこころのリハビリにおける注意点をお話したいと思います。患者さん本人だけでなく、その家族の方や同僚・上司の方にもぜひ知って頂きたいことです。

1.こころのリハビリとは?

こころが疲れてしまった時、そこから立ち直るためにはまずこころをしっかりと休めないといけません。

安静は精神科領域の治療において、欠かす事の出来ない治療法です。

しかし、いつまでも休んでばかりでは復帰することができません。ある程度こころが休まって回復してきたら、今度はこころのリハビリを行わなくてはいけません。

身体のリハビリと同じで、こころのリハビリも「ゆっくり、軽めの負荷から」というのが原則です。

軽い負荷のリハビリには、

・ちょっと外に出てみる
・仲の良い友人と会ってみる
・あまり気張らずにやれる趣味をやってみる
・ストレスが低い行動をしてみる

などが挙げられます。

リハビリは「無理をしすぎないこと」が非常に大切です。無理をして再びこころが傷ついてしまうと、また治療が最初からやり直しになってしまう可能性もあります。

安静中は「無理をしない」ことが大切ですが、こころのリハビリにおけるポイントは、「ちょっとだけ無理をする」ことです。翌日にこころの疲労が残らない程度に「ちょっと頑張る」程度が最良で、それ以上は再発のリスクを上げてしまうため危険です。

こころが疲れていた人がリハビリをする際、最初からいきなり

・仕事を何時間もする
・本格的な勉強をする
・会うと緊張するような上司と面談する

などを行うのは明らかに負荷が高すぎで、こころの回復を促すというメリットよりは、こころがまた疲れてしまうというデメリットの方が大きくなってしまいます。

最初は先ほどもあげたような、「軽い気持ちで出来るもの」「遊び感覚でも出来る行動」から行うのが正解です。

このような行動を一定期間続けて、こころの回復が進んできたと思ったら、その時初めて負荷を上げればいいのです。

身体のリハビリだって同じですよね。骨折した人がいきなり

・100m全力疾走する
・1日10kmのマラソンを再開する

なんてやろうものなら、医師から全力で止められるはずです。身体のリハビリというメリットよりも、また骨が傷ついてしまうというデメリットの方が明らかに高いからです。

2.療養中は遊んではいけない・暗い顔をしてないといけないという偏見

こころをしっかりと回復させるにはリハビリ過程において、

軽い負荷から始めていき、
少しずつ慎重に負荷を上げていき、
決して過大な負荷をかけない

ことが重要になります。

だから私たちも、リハビリの段階に入ってきたと感じたら、「順調に回復していますね。そろそろリハビリに入ってみましょう」と提案し、

「まずは仲のいい友人とお茶でも行ってみてはどうでしょうか?」
「趣味のテニスを短時間だけ再開してみましょう」

など、負荷の軽いリハビリを本人と相談しながら提案していきます。

しかし現状をみていると、このリハビリの過程のこの大切な過程を上手に踏めない人が圧倒的に多いのが実情です。

その理由は

・療養中の人は遊んではいけない
・療養中の人は暗い顔をしてなければいけない

という暗黙の認識が根強くあるからです。

患者さん本人もこの暗黙の認識を理解しているため、

「ちょっと友人と会いに行ってみる」
「ちょっと趣味を再開してみる」

ということを始めにくいのです。

友人と話して笑っているところを見られたら、「あいつ、病気とか言ってたクセに元気じゃないか」と誤解や批判を受けるのではないか、趣味を再開しようものなら「仕事はしないくせに好きなことはできるんだね」などと言われてしまうのではないかと考えてしまいます。

こうなると軽い行動は出来なくなってしまいますし、行動もビクビクしながら行うことになるため、「こころのリハビリ」としての役割を果たさなくなってしまいます。

軽い行動が出来ないため、こころのリハビリをすっ飛ばして

・いきなり仕事を再開する
・負荷の高い作業を始める

などを行わざるを得なくなります。これでは、こころが再び傷ついてしまっても当然です。

うつ病などの精神疾患は再発が高いことが問題となっています。その理由はいくつもありますが、「リハビリ過程を上手に踏めずに復帰してしまうから」というのは大きな理由の1つであると臨床現場にいるものとしては感じています。

3.こころのリハビリのためにやっているという意識を持とう

精神疾患は目に見えないものであるため、

「気のせいではないか」
「甘えではないのか」
「仮病ではないのか」

という誤解を受けやすい傾向があります。最近では徐々に理解が深まり、そのような誤解も少なくはなってきましたが、まだまだ一般の方の精神疾患に対する理解は不十分だというのが現状です。

問題は周囲が誤解しているだけならまだしも、本人までもがその誤解に影響されてしまうことです。

「みんな甘えだって言ってるし、実は私は甘えているだけなんじゃないか・・・」
「私のこころが弱いだけなんじゃないか・・・」

こころない人の言葉に影響されてしまい、自分自身でもこのように感じてしまっている方が少なくありません。

このように自分自身が自分の病気に対して正しく理解していない状況では、いくら治療者が「まずは軽い負荷のリハビリをしましょう」と勧めても、十分な理解を得られません。

そのため、こころのリハビリにおいて大切な心構えというのは、「これは治療の一環で、医師に指示をされてやっているのだ」という認識を忘れないことです。

「もっと頑張った方がいいんじゃないの?」
「甘えているだけなんじゃないの?」

残念ながら、このような事を言ってくる人もいるかもしれません。しかしその人達には申し訳ありませんが、その人達はこころの治療の素人です。あなたのしている事は、素人の推奨する治療法に従おうとしてしまっているという事なのです。普通に考えればそれはおかしい事ですよね。

私たちはこころの治療の専門家です。専門家が

「まずは友人とお茶をするくらいの負荷のリハビリをしましょう」
「まずは趣味を少し再開してみましょう」

と治療を指示しているのです。あなたは治療の効果を最良にするために、専門家の指示に従っているのだという認識を持つようにしてください。

4.周囲に誤解を与えないために出来る工夫

こころのリハビリをスムーズに行うためには、リハビリ過程をしっかりと踏むことが大切だとお話しました。

まずは「軽い負荷の行動」「遊び感覚でできる敷居の低い行動」から初めて、少しずつ負荷は上げていくのが王道の治療法です。

しかし現状の問題点は、この「軽い負荷の行動」を行う際に、周囲から誤解を受けやすいことです。

誤解する人がいても、専門家に指示されたのだから気にせずにリハビリを進めて頂きたいのですが、そうは言ってもなるべく誤解する人が少なくなるに越したことはありません。なるべく誤解を受けないために行える工夫を考えてみましょう。

Ⅰ.リハビリでやるように言われたと公言する

やはり一番は、「専門家である医師の指示のもとで行っているリハビリの一環なのだ」という事を周囲に正しく理解してもらう事です。

これが、

「(自分の判断で)遊びに行っている」

と思われてしまうと、「あいつはうつ病の治療中とか言ってたクセに遊んでいるじゃないか」と誤解されてしまうのです。

「こないだ診察に行ったら、先生に大分良くなってきていると言われた」
「だからそろそろ、こころのリハビリをしてくださいって言われたの」
「でもリハビリは無理しすぎると再発してしまうから、最初は軽いものからしなきゃいけないんだって」
「先生と相談して、まずは趣味のテニスをちょっとだけ再開することになったの」
「そのくらいの負荷が『治療として』今はちょうどいいんだって」

このように「治療として」のリハビリであることを周囲の方にもしっかりと理解してもらいましょう。

Ⅱ.診察に同席してもらう

もっと有効なのは、診察に同席してもらう事です。

実際の診察場面でも、親や配偶者・場合によっては職場の上司も診察に同席することがあります。

やはり医師が直接、

「今の〇〇さんには、治療として軽い負荷の行動が必要なんです」

としっかり説明すると、ほとんどの方は納得してくれます。

Ⅲ.診断書に記載してもらう

診断書に記載してもらうのも有効な方法です。どうしても周囲の理解が得られない場合は主治医に相談してみても良いでしょう。

診断書は基本的には病名を書くものですが、備考欄が病名記載欄の下部にあります。

一例ですが、

氏名:〇〇〇〇

診断名:うつ病

備考:上記のものはうつ病にて平成〇年〇月〇日より当院にて通院加療中である。症状は徐々に改善傾向であるため、今後は徐々に生活に負荷をかけていくことが望ましい。ただし、再発を防止するため、負荷は徐々にかけていく必要があり、まずは趣味などの負荷の低い行動から始めること。

など、周囲にも理解してもらいやすい書き方をしてもらえると、周囲も「治療の一環として必要なんだ」と理解しやすいでしょう。