マタニティブルーとはどんな状態でどのように治せばいいのか

新しい命を授かる出産というイベントは、誰にとっても非常に嬉しいものです。

しかし出産をする本人にとっては嬉しい反面、新たなプレッシャーがのしかかってくるイベントでもあります。

「母親としての責任」「育児のプレッシャー」などについて

「自分が責任を持ってやれるのだろうか」
「ちゃんと子供を育てられるだろうか」

と不安に感じてしまうのは当然です。特に初めての出産の場合、分からないことだらけですから不安はより強くなります。

更に産後はホルモンバランスの乱れも加わるため、出産後に精神的に不安定になる方は少なくありません。

このような出産後の一時的な気分の不安定を一般的に「マタニティブルー」と呼びます。

一方で、出産後は同様の理由からうつ病の発症率が高まることも指摘されており、これらは「産後うつ病」と呼ばれています。

マタニティブルーは出産した母親の約半数が経験すると言われており、非常に身近なものです。

今日はマタニティブルーについて、その原因や対処法について見ていきましょう。

1.マタニティブルーとはどんな状態か

マタニティブルー(Maternity Blue)は、別名「the 3rd day blue」とも呼ばれています。

出産後に、

  • 落ち込み
  • 不安
  • 易怒性(怒りっぽい)
  • 涙もろさ
  • 不眠
  • 焦り
  • 集中力低下
  • 意欲低下

などといった抑うつ症状が出現します。症状の程度は軽度であり、「the 3rd day blue」の名の通り、産後3~5日に症状はピークとなります。経過は良好であり、出産して10日も経てば自然と症状は消えていきます。

マタニティブルーを経験される方は非常に多く、出産をした母親の約半数が経験すると言われています。

マタニティブルーは基本的には一時的な気分の不安定であり自然と良くなるものになります。そのため様子をみて問題ありません。マタニティブルーは「病気」「疾患」ではなく産後の正常範囲内の変化という扱いになります。

2.マタニティブルーの原因

マタニティブルーは出産した母親の約半数に生じると報告されています。非常に多くの方に認められる症状だというのが分かると思います。

ではマタニティブルーはなぜ生じるのでしょうか。

マタニティブルーが生じる原因としては、主に次の3つが指摘されています。

Ⅰ.ホルモンバランスの変化

マタニティブルーは、出産したプレッシャーによる「気持ちの問題」だけではありません。

実は妊娠・出産というイベントは、女性ホルモンを大きく変動させます。

ホルモンバランスの大きな変動は、気分の変化を引き起こします。女性であれば誰もが月経(生理)前後でイライラが増したり、涙もろくなったりしたという経験があるでしょう。これもホルモンバランスの変動によるものです。

具体的に言うと、女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンの2つがあります。これらのホルモンは妊娠中に徐々に増えていき、出産後に急激に減少することが知られています。

この、産後に生じる女性ホルモンの急激な減少はマタニティブルーの一因になっていると考えられています。

また副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンも、女性ホルモンと同じく出産後に急激に減少することが報告されており、これもマタニティブルーの一因になっているのではないかと指摘されています。

Ⅱ.母親としてのプレッシャー

出産は、女性にとって非常に大きなライフイベントの1つです。

赤ちゃんを産み、目の前にこれから育てていくべき赤ちゃんが実際に現れるため、「母親」という自覚と責任感をはっきりと感じることになります。

赤ちゃんを授かる出産というのは、とても嬉しい出来事です。

しかし一方で、

「私にちゃんと子育てが出来るのだろうか」
「私なんかに母親の資格があるのだろうか」

と不安を感じてしまうイベントでもあります。多くの女性にとって子供を育てるというのは何十回と経験するものでありません。初めてという方も多く、また子育ては約20年に渡る長い作業です。不安を感じるのは当然と言えるでしょう。

更に、

  • 精神疾患の既往
  • 年齢の若い時期での出産
  • 夫との関係の希薄さ
  • 家族との関係の希薄さ
  • 社会的支援の欠如

などがある場合は、特に「母親になる」というストレスに耐えられなくなり、マタニティブルーが生じやすいと言われています。

子育てに不安になることは、何ら異常な事ではありません。しかしそのような場合でも家族・夫・社会などの周囲のサポートが充実していれば、不安は軽減されるのです。

Ⅲ.月経前症候群(PMS)の既往

元々、月経前後で気分が不安定になりやすい方は、マタニティブルーも発症しやすいと報告されています。月経前に気分が不安定になりやすい病態を月経前症候群(PMS)と言いますが、この疾患の既往がある方はマタニティブルーのリスクも高いと考えておいた方がよいでしょう。

というのも、マタニティブルーも月経前症候群(PMS9もどちらも「女性ホルモンバランスの崩れ」が気分の不安定を引き起こしているという共通点があるからです。

PMSの既往がある方は、女性ホルモンバランスの崩れで気分が不安定になりやすい方であるため、出産後のホルモンバランスの崩れでも気分が崩れやすいのです。

3.産後うつ病とマタニティブルーはどう違うのか

マタニティブルーと産後うつ病は、どちらも「出産後に生じる抑うつ症状」であり、多くの共通点があります。

では、この両者の違いはなんでしょうか。

一番の違いは、産後うつ病は治療が必要な「病気」ですが、マタニティブルーは自然に治っていくものであり「正常範囲内の変化」だとという点です。

産後うつ病とマタニティブルーは連続性のあるものなのか、あるいはまったく無関係なものなのかに対してははっきりとした結論は出ていません。しかし、症状が似ていることや、マタニティブルーから産後うつ病へ移行するケースもあることから、「マタニティブルーは産後うつ病の前段階である」という理解が現在では一般的です。

マタニティブルーは、自然に改善するもので病気ではありません。そのため、様子をみても良いものですが、稀に産後うつ病に移行するケースもあります。

いつまで経っても改善しないマタニティブルーであれば、それは産後うつ病に移行している可能性がありますので、精神科・心療内科を受診した方がよいでしょう。

目安として、マタニティブルーは出産後3日後をピークに症状が出現し、10日~2週間ほどで自然と良くなります。一方、産後うつ病は、出産後数週間~数か月経ってから生じることが多いと言われており、また症状も2週間以上続きます。

そのため出産直後の軽度の抑うつ症状であれば、マタニティブルーの可能性が高いため少し様子を見てみてもよいでしょう。しかし、産後数週間~数か月経過してから抑うつ症状が出現し、一向に改善しない場合は、病院を受診してみることをおすすめします。

産後うつ病に関しては「産後うつ病のチェック。産後うつに特徴的な症状」で詳しく説明しています。

4.マタニティブルーかな、と感じた時の対処法

出産後、イライラや落ち込み、不安などいつもの自分と異なる精神状態の変化があった場合、それはマタニティブルーなのかもしれません。

マタニティブルーが起こった時、どのように対処すればいいのでしょうか。

マタニティブルーは自然と治るものであるため、特殊な治療法が必要なものではありません。しかしなるべくつらい気持ちを浅くするため、より早期に改善させるため、そして産後うつ病へ移行させないために役立つ対処法をいくつか紹介します。

Ⅰ.その感情変化は異常なものではないことを理解する

そもそもマタニティブルーは病気ではありません。出産した女性の約半数が経験するものであり、産後の「普通の現象」だととらえても良いでしょう。

これは出産した事で、女性ホルモンのバランスが急激に崩れたため、そして「母親」という新たなプレッシャーが芽生えたために生じているものなのです。そのため、出産後に一時的に精神状態が不安定になることは何もおかしいことではありません。

普通に考えてみても、「これから母親としてこの子をしっかり育てないといけない!」という意識が芽生えれば、ある程度の不安を感じるのは当然のことで、むしろ何も不安を覚えない方が珍しいでしょう。

一般的にマタニティブルーは、出産後3~5日が症状のピークで、それ以降は徐々に改善し、10日~2週間もすれば症状はほぼなくなります。

「この精神状態の変化は普通のことだし、自然と治るものなんだ」

と理解しておくだけでも、気持ちは楽になります。

Ⅱ.なるべく誰かに話すこと

不安に感じている事などは、なるべく誰かに話しましょう。

出来ればこれから一緒に子育てをしていくご主人様にお話を聞いてもらうのが理想ですが、現実的にはご主人様はお仕事などで忙しいケースも多く、十分な時間が取れないこともあります。

その場合は両親や親友に話を聞いてもらいましょう。出来れば同じ「出産」というイベントを経験したことのある方であれば共感してもらいやすく、話をしてより安心できるでしょう。また、入院中であれば看護師や産科医にお話をしてもよいでしょう。

自分の不安定になっている気持ちを誰かに伝えるだけでも、気持ちはずっと楽になります。

Ⅲ.少し身体を動かしてみる

出産前後は、入院していることもあり、身体を動かす頻度が少なくなっています。

そのため、運動などで適度に身体を動かすと気分は前向きになります。

出産直後に激しい運動をするのは良くありませんが、散歩したりストレッチをしたりと軽く身体を動かしてみるのは、精神状態の改善にとても有効です。

可能であれば外へ出て日光を浴びることが出来ればなおよいでしょう。

Ⅳ.一人で抱え込まないようにする

育児は一人で全てをやることは困難です。

人を一人育てるというのは、とても大変なことです。夫をはじめ両親、時には友人や近所の人にも手伝ってもらう必要があります。

そのため「私が責任をもって子育ての全てをやらなくては!」と考えてはいけません。「子育てはみんなで協力してやっていくものなんだ」と考えるようにしてください。

自分が子供だった頃を思い出してみてください。もちろん、母親に育ててもらった部分が大きいとは思いますが、それ以外にも父親にも育ててもらったし、おじいちゃん・おばあちゃんに面倒をみてもらったこともあるでしょう。親戚や近所のおじさん・おばさん、両親のお友達や学校の先生など、多くの方のお世話になってきたと思います。

子育ては自分ひとりだけでやるものではありません。それを改めて理解すると気持ちは軽くなります。