仮面うつ病とは、どのようなうつ病なのか?仮面うつ病の特徴と傾向

仮面うつ病とは

うつ病は、いくつかのタイプに分けられます。様々な分け方があるのですが、その中のひとつに「仮面うつ病」といううつ病があります。

仮面うつ病・・・・。

この名前をはじめて聞く方は、どんなうつ病なのかちょっとイメージが沸かないかもしれません。

仮面うつ病とは簡単にいうと、「他の症状という仮面によって、うつ病本来の症状が見えにくくなっているうつ病」です。その本質はうつ病なのですが、一見するとうつ病以外の疾患に見えやすく、他の病気だと誤診される可能性の高い疾患です。

しかし仮面うつ病の本質は「うつ病」ですから、「これは一見うつ病っぽくないけど、実はうつ病なんだ」としっかり見極めなければ、治療は一向に進みません。

ここでは仮面うつ病がなぜ生じるのか、どんな方がなりやすいのか、そして仮面うつ病を見破るためにはどんなことに注意すればいいのかなどを紹介していきます。

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1.仮面うつ病ってどういううつ病なの?

仮面うつ病は、1950年代に提唱された古い概念です。

うつ病と言うと、

・落ち込み
・興味や喜びを感じなくなる
・やる気や集中力がなくなる
・消えたくなる

などの精神的な症状が認められるものが典型的です。こういった症状がある場合は、「あなたはうつ病の可能性があります」と言いやすく、診断も正確に行われやすいでしょう。

しかし、うつ病の中には、

・お腹が痛い
・なんかだるい
・頭痛が止まらない
・下痢が続いている

など一見すると、うつ病とは関係なさそうな症状を主とするタイプがあるのです。これが仮面うつ病です。

このような症状が出現すると、「これは身体の病気だろう」と考えて内科を受診する方がほとんどです。しかし、内科でいくら検査しても原因となるような異常が見つかりませんし、胃薬や頭痛薬など内科的な治療をしても一向に改善しません。

「これはどうも内科の病気ではなさそうだ」ということで、より詳しく症状を聴いてみると、身体症状の背後に抑うつ症状がわずかに隠れているのです。そしてこういった方にうつ病の治療を行うと、良く反応し、改善していきます。

このように、主に軽症のうつ病の患者さんの中に、落ち込みなどうつ病に典型的な精神症状があまり目立たず、倦怠感や頭痛、腹痛などの身体症状が目立つタイプのうつ病がいることが見出され、これらのうつ病は「仮面うつ病」と名付けられました。

まるでうつ病が身体症状という「仮面」をかぶっているかのようであったため、「仮面うつ病」と呼ばれるようになったのです。

精神科医である新福氏は、仮面うつ病について次のように定義しています。

典型的なうつ症状、特に悲哀、憂うつが存在しないか、または見落とされるくらいわずかであるのに反して、他の症状が顕著かつ支配的であるため、診断を著しく困難にしているうつ病またはうつ状態

ちなみに「他の症状」というのは

身体症状としては、疲労感(倦怠感)、睡眠障害、食欲減退、頭痛、肩こり、背部痛、口渇、腹部不快感、便秘、下痢、心悸亢進、胸部圧迫感、呼吸困難、頻尿、性欲減退、月経不順、めまい、視覚異常、聴覚異常、皮膚パレステジー、ほてりなど

精神症状としては、強迫症状、心気症、不安、離人症、記銘減弱など。

と記載されています。

仮面うつ病で主に前景に立つのは身体症状ですが、時々上記のようなうつ症状以外の精神症状が前景に立つこともあります。

2.仮面うつ病はうつ病と何が違うのか?

仮面うつ病は、うつ病の典型的な症状が乏しく、それ以外の症状が目立つため、一見するとうつ病ではないような印象を与えます。

しかし、それはあくまでもうつ病が「仮面でおおわれて見えにくくなっている」だけであり、その本質はうつ病なのです。典型的なうつ症状は無いわけではなく、あくまでも身体症状に隠れて「見えにくくなっている」だけです。

しっかりと診察を行い、よくよく患者さんのお話を聞けば、そこにはうつ病症状もわずかに存在していることが見えてきます。

つまり、うつ病と仮面うつ病は、その本質は同じだと言えます。どちらも同じ「うつ病」です。

仮面うつ病は、うつ病に身体症状が「仮面」として覆いかぶさっている点のみが違いです。

実際に仮面うつ病は、うつ病と同じように抗うつ剤がよく効くことが報告されています。

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3.仮面うつ病を疑うポイント

「お腹がずっと痛いんです」
「だるさが取れないんです」

このような身体症状を患者さんが訴えた時、私たち医師はまずは内科系の身体疾患ではないかと考えます。「お腹が痛い」と言われれば、胃腸などの腹部に何かの異常があるのではないかと考えるでしょう。

しかし、これらが仮面うつ病による症状であることもあります。

これはどのようにして見分ければ良いのでしょうか。

身体症状を訴える方や、うつ症状以外の精神症状を訴える方に対して、私たちが「これは仮面うつ病ではないか?」と考えるポイントには次のようなものがあります。

Ⅰ.精神エネルギーの低下がある

特に身体症状が前景に立っている仮面うつ病では、

「頭が痛いんです」
「だるさが取れないんです」
「下痢が止まらないんです」

などと身体的な異常を訴えるため、まずは内科系の疾患が疑われます。

もちろん、実際に内科系疾患である可能性は否定できませんので、一度は内科で診察や検査を受けて異常がないかを診る必要はあります。

しかしこれらが内科系の疾患なのか、それともうつ病が身体症状という「仮面」をかぶっているのかを見分けるポイントもあります。

抽象的な表現になりますが、「精神エネルギーの低下があるかどうか」は両者を見分ける重要なポイントになります。

本当に胃腸系の異常でお腹の痛みが生じている場合と、仮面うつ病でお腹の痛みが生じている場合では、後者は本質がうつ病という精神疾患ですから、精神エネルギーがどことなく低下している様子があるのです。

これを見分けるのは非常に難しいのですが、熟練された精神科医はこの精神エネルギーの低下を鋭く見破ります。

Ⅱ.身体症状の出現が内科的に説明がつかない

仮面うつ病で出現する身体症状は、多岐に渡ります。そしてそれは、しばしば内科的には説明がつかない症状の出方をします。

例えば、

「下痢が止まらないんです」
「お腹も痛いんです」
「吐き気もあるんです」

という症状を患者さんが訴えたら、これらの症状は全て胃腸系の症状のため、実際に胃腸系の内科疾患の可能性が高くなります。

しかし仮面うつ病の場合、

「下痢が止まらないんです」
「動悸がするんです」
「眼が見えにくいんです」

と異なる臓器の症状を同時に訴えることが少なくありません。この場合の、それぞれの臓器を考えてみると、

・下痢=胃腸系の異常
・動悸=心臓系の異常
・眼=眼科系の異常

と考えられます。

胃腸と心臓と眼という3つの臓器が、同時期に偶然それぞれ病気を発症する、というのは非常に稀でしょう。絶対にありえないとは言えませんが、確率は非常に低いと考えられます。

このような内科的に考えると、かなり珍しい症状の出方をする症例では、仮面うつ病の可能性を考える必要が出てきます。

Ⅲ.性格傾向

仮面うつ病の本質は、うつ病です。典型的なうつ病(≒内因性うつ病)は、発症しやすい性格傾向があります。内因性うつ病は、「メランコリー親和型」の性格傾向を持つ方に発症しやすいことが指摘されています。

メランコリー親和型とは、

・秩序や規則を重んじる
・完璧主義で責任感が強い
・他者との衝突を避ける

などの特徴を持つ性格傾向の事です。

メランコリー親和型の性格傾向を持っている方は、うつ病を発症しやすいことが推測されるため、このような方が身体症状やうつ症状以外の精神症状を訴えた時は、仮面うつ病も念頭に置かなくてはいけません。

4.なぜ、仮面うつ病が生じるのか

仮面うつ病では、なぜうつ病が身体症状という「仮面」をかぶるような症状の出方をするのでしょうか。

これについては、次のように考えられています。

仮面うつ病の本質はうつ病であり、うつ病の中での典型的なうつ病である「内因性うつ病」であることがほとんどです。

内因性うつ病というのは、「ストレス・環境」などの外的要因ではなく、「遺伝・体質」などの内的要因が主な原因となって生じるうつ病で、先ほど説明したようなメランコリー親和型の性格傾向を持つ方に多く発症します。

・秩序や規則を重んじる
・完璧主義で責任感が強い
・他者との衝突を避ける

このような性格傾向を持つ方は、「自分に厳しい」方が多いようです。

そのため、自分自身が

・落ち込み
・興味を持てない
・やる気が出ない
・集中できない

などの精神症状が出現していること、精神的弱さをさらけ出すことが耐えられないため、行き場を失ったストレスが身体症状として現れているのではないかと考えられています。

精神的に破綻することよりも身体的に破綻することが無意識に選択された結果、身体症状が目立つ形のうつ病を発症してしまうのです。

5.仮面うつ病はどのように治療をするのか

仮面うつ病は、どのように治療をすればよいのでしょうか。

先ほども説明した通り、仮面うつ病の本質はうつ病ですから、治療は基本的にうつ病と同じです。

うつ病治療の3本柱は、

・休息
・薬物(抗うつ剤、抗不安薬、睡眠薬など)
・精神療法(カウンセリングなど)

ですので、仮面うつ病もこれと同じような治療を行います。

また、うつ病が改善するまではある程度の時間がかかりますので、その間、必要に応じて身体症状に対してのお薬の投与を行う事もあります。

頭痛であれば鎮痛薬、
腹痛であれば胃薬、
肩こりには筋弛緩薬 などですね。

身体症状に対する治療は、あくまでもその場しのぎの治療に過ぎず、仮面うつ病そのものを治している治療ではありません。しかし、仮面うつ病の患者さんが一番困っているのは身体症状ですので、その苦痛を和らげてあげることは意味のあることです。

ひとつ、治療にあたって気を付けないといけないことがあります。それは患者さんが、「自分がうつ病だということ受け入れる」ことが仮面うつ病においては非常に重要だということです。

そもそもが身体症状が主なので、「実はあなたの症状は内科の病気ではなくて、うつ病なんですよ」と伝えても、なかなか受け入れられない方がいます。また、仮面うつ病になりやすい方は先ほど説明したように自分に厳しい方が多いため、「自分がうつ病にかかった」ことを「自分が精神的に弱い」と考えてしまい、これも受け入れられない一因となります。

しかし、そうではなく、「うつ病は誰にだって発症しえる病気なんだ」「こころが弱いからうつ病になるわけではないのだ」ということをしっかりと理解しなければいけません。その上で「自分はうつ病で、うつ病の治療が必要なのだ」ということを受け入れて頂くことがとても大事です。

この、「本人にうつ病を受け入れてもらう」ことが、仮面うつ病の治療で一番難しいところです。

私たち治療者も、うつ病に対して患者さんが持っている誤解を解き、治療の必要性をしっかりと伝える必要があります。

また患者さん側も、「うつ病」に対しての偏見を持たず、「病気」という正しい認識を持って頂く必要があります。

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