ルジオミール(一般名マプロチリン)は1981年に発売された抗うつ剤で、四環系という古いタイプの抗うつ剤に属します。
現在はSSRI/SNRIやNassaなどといった新しい抗うつ剤が使われることが多いため、ルジオミールなどの四環系抗うつ剤が使われる機会は少なくなっています。
しかし四環系は、「眠りを深くする」という作用を持つため、睡眠薬などでは効果を認めない不眠症状に対して現在でも用いられることがあります。またルジオミールはノルアドレナリンに集中的に作用するという特徴を持ち、意欲・やる気の改善が乏しい方にも使われる抗うつ剤です。
古いお薬ではありますが、必要な時に正しく使えば、良い効果を期待できるお薬なのです。
ここでは四環系系抗うつ剤であるルジオミールの効果や特徴について詳しくみてみましょう。
1.ルジオミールの特徴
まずは、ルジオミールのイメージをつかんでいただくため、その特徴を紹介します。
【良い特徴】
- 眠りを深くする作用に優れる(深部睡眠を増やす)
- 三環系と比べて副作用が少ない
- 意欲低下・無気力に効果的
【悪い特徴】
- 抗うつ効果が弱い
- 高用量でけいれん発作の可能性がある
ルジオミールをはじめとした四環系抗うつ剤は、三環系抗うつ剤の次に開発されたお薬になります。
三環系抗うつ剤は、「効果も強いけど副作用も強い」お薬でした。強力な抗うつ効果があるのは良いのですが副作用も強力であり、時に命に関わるような重篤な副作用が生じることもありました。
「いくら効果が強いからといっても、これではまずいだろう」
という事で安全性の向上を目指して開発されたのが四環系抗うつ剤であり、ルジオミールもその一つになります。
四環系抗うつ剤は三環系抗うつ剤と比べると、副作用は大幅に軽減され、安全性は高くなりました。それだけであればよかったのですが、同時に抗うつ効果も弱くなってしまったのです。
四環系抗うつ剤は、「三環系の副作用の多さは軽減されたけども、効果は弱い抗うつ剤」であるといえます。
その後、優れた抗うつ効果を持つSSRI、SNRI、NaSSAなどの新規抗うつ剤が次々と発売されたことにより、現在では四環系は使用される頻度が少なくなっています。
SSRI:ルボックス、デプロメール、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロ
SNRI:トレドミン、サインバルタ
NaSSA:レメロン、リフレックス
しかし四環系抗うつ剤ならではの特徴として、「眠りを深くする作用に優れる」ということが挙げられます。これは「眠気」「ふらつき」といった副作用になってしまう事もあるのですが、不眠で困っている方にとっては助かる作用です。四環系は睡眠薬とは異なった機序で眠りを深くするため、睡眠薬の効果が不十分な不眠症状で苦しんでいる方に使われることがあります。
また、四環系の中でルジオミールはノルアドレナリンを集中的に増やすという特徴があります。ノルアドレナリンが増えると意欲・気力の改善が得られるため、意欲低下や無気力が重い患者さんにはルジオミールは効果が期待できます。
ルジオミールは高用量投与でけいれん発作の誘発が報告されています。そのためてんかんなどのけいれん性疾患を持っている方はルジオミールを服薬することができません。
2.ルジオミールの作用機序
ルジオミールは、四環系と呼ばれるタイプの抗うつ剤です。
抗うつ剤は、脳のモノアミンを増やすことで抗うつ効果を発揮します。具体的に言うと、モノアミンの再取り込み(吸収)を抑える事で脳内モノアミンの濃度を上げます。抗うつ剤が、モノアミンが吸収・分解させないようにはたらくため、脳内のモノアミン濃度が上昇し、気分の改善が得られるのです。
四環系抗うつ剤であるルジオミールでもそれは同じで、モノアミンの再取り込み阻害作用がルジオミールの作用機序になります。
ちなみにモノアミンとは、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの気分に関係する物質の総称のことで、セロトニンは落ち込みや不安を改善させ、ノルアドレナリンは意欲ややる気を改善させ、ドーパミンは楽しみや快楽を改善させると考えられています。
ルジオミールは、大きな特徴としてモノアミンの中でもノルアドレナリンを集中的に増やすという点が挙げられます。
ノルアドレナリンを多く増やしたいような状態、例えば意欲低下・無気力が前景に立つうつ病などではルジオミールを使うことで、より改善が期待できるということです。
具体的にセロトニンとノルアドレナリンを増やす比率を表にしたものを示します。
表をみると、ルジオミールはセロトニンに比べてノルアドレナリンを20倍ほど多く増やすことが分かります。動物実験においては、セロトニンを増やす作用(再取り込み阻害作用)は「見られない」と報告されています。
ルジオミールはノルアドレナリンを集中的に増やしたいような病態においては、良いお薬であるといえます。
3.ルジオミールの適応疾患
ルジオミールの添付文書を読むと、
うつ病、うつ状態
に適応があると記載があります。
実際の臨床では、眠りを深くする作用に優れるルジオミールは、不眠症の患者さんに補助的に用いられることが多いお薬です。
うつ病、うつ状態に対しても用いられることはありますが、四環系抗うつ剤の抗うつ効果は弱いため、単剤で用いられることは少なく、他の抗うつ剤に補助的にルジオミールを加えるように用いられることが多いと感じます。
ルジオミールは意欲・気力に影響するノルアドレナリンを集中的に増やしてくれますから、他の抗うつ剤で治療していて「意欲低下の改善が乏しい」「無気力がもうちょっと治れば・・・」というようなケースには使う価値があるでしょう。
4.ルジオミールの強さ
ルジオミールは、四環系抗うつ剤に属します。
四環系抗うつ剤は、三環系と比べて副作用が軽減された代わりに、効果も弱くなったお薬です。
そのため、抗うつ効果だけを見ると「弱い」お薬になります。
三環系抗うつ剤よりも弱いのはもちろんですが、新規抗うつ剤であるSSRI、SNRI、NaSSAよりも抗うつ効果は乏しいと考えてよいでしょう。
ただしルジオミールは、四環系抗うつ剤の中では比較的効果がしっかりしているお薬であると感じます。四環系抗うつ剤にはルジオミールの他に
・テトラミド(一般名ミアンセリン)
・テシプール(一般名セチプチリン)
の2つがありますが、これらよりは抗うつ効果は強い印象を持ちます。
5.ルジオミールが向いている人は?
ルジオミールは、優れた抗うつ剤が増えてきた現在においては、使われる頻度は少なくなっています。
新規抗うつ剤が誕生するまでは、主な抗うつ剤というのは「効果も強いけども副作用も強い三環系抗うつ剤」と「効果は弱いけども副作用も軽い四環系抗うつ剤」の2種類でしたので、この両者を使い分けていました。
しかし現在においては、「効果も十分あって副作用も少ない」という新規抗うつ剤が次々と誕生しているため、四環系抗うつ剤が必要なケースはあまりなくなっているのです。
ルジオミールのメリットは、
・眠りを深くする作用に優れる
・意欲・気力に影響するノルアドレナリンを集中的に増やす
点にありますので、ルジオミールが向いている方というのは、
・不眠の症状も改善させたい方
・意欲低下・無気力が主体の方
などになります。
しかし最初からルジオミールを用いるというのは少なく、まずは新規抗うつ剤は試して、それでも不眠症状の改善が乏しいとか、意欲低下・無気力の改善が乏しいような場合に検討されるお薬になります。
6.ルジオミールの導入例
ルジオミールは添付文書には
1日30mg~75mgを2~3回に分割経口投与する。また上記容量は1日1回夕食後あるいは就寝前に投与できる。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と記載されています。
1日2~3回に分けて服薬する方法の他、1日1回夕食後か寝る前に投与することも認められています。これはルジオミールを服用すると眠くなることが多いためだと考えられます。
また、このような異なる投与方法がどちらも認められているのは、ルジオミールは半減期が19~73時間と個人差が非常に大きいためというのもあります。人によって作用時間に幅があるため、1日1回投与で問題ない方もいるし、1日複数回投与した方が効果が安定する方もいることも理由でしょう(半減期:お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間のことで、お薬の作用時間の一つの目安になる値)。
実際の臨床現場では、日中に眠気の副作用が出てしまうと困るため、1日1回夕食後あるいは眠前に投与することが多いです。この投与法であれば、眠気が出ても睡眠中ですので眠気による大きな弊害が生じることはありません。むしろ睡眠を深くしてくれるので良い効果になります。
眠気があまり出現せず、日中の気力改善を狙いたい場合は、1日2回朝と夕食後に服薬したり、1日3回毎食後に服薬することもあります。
開始量は明言されていませんが、少量から開始するのが通常です。ルジオミールには10mg錠と25mg錠の2剤型がありますので、まずは1日10mg~25mgくらいから開始することが多いです。もちろん、副作用が心配な方は5mgなどのより少量から開始しても構いません。少なく始めれば、効果が出るのも遅くなってしまいますが副作用が出にくくなるというメリットがあります。
1~2週間の間隔をあげて少量ずつ(10~25mg程度)増やしていきます。効果を感じればその量で維持しますが、効果不十分であれば少しずつ増やしていきます。
効果を感じるのに個人差はありますが、早くても1週間、遅い場合は1か月ほどかかることもあります。三環系抗うつ剤よりはやや効果発現が早いといわれています。
副作用は三環系抗うつ剤よりも少なくはなっていますが、出現することはあります。特に多いのが眠気やふらつきです。これは軽いものであれば自然と改善することもありますが、改善ない場合は夕食後や眠前服用に服用方法を変更することで対応します。それでも改善が得られなければ減薬や変薬などをせざるをえないこともあります。
抗コリン作用(口渇、便秘や尿閉など)や循環器系副作用(不整脈など)は三環系と比べると大分少なくなっていますが、全く生じないわけではありません。便秘はひどければ下剤を使って対応します。口渇は漢方薬などで改善が得られることもありますが、基本的には付き合っていかないといけません。
ある程度の量を投与して1~2か月経過をみても改善が全く得られない場合は、ルジオミールは効いていないと判断されますので、別の抗うつ剤に切り替えることも検討します。
ルジオミールの効果が十分に出て、気分が十分に安定したと感じられたら(=寛解(remission))、そこから6~12ヶ月はお薬を飲み続けましょう。良くなったからと言ってすぐに内服をやめてはいけません。この時期は症状が再燃しやすい時期ですので、しっかりと服薬を続けましょう。
6~12ヶ月間服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、「回復(Recovery)」したと考えます。
治療終了に向けて、2~3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していきましょう。問題なくお薬をやめることができたら、治療終了となります。