ラミクタール錠の副作用と対処法【医師が教える気分安定薬の全て】

ラミクタール(一般名:ラモトリギン)は2008年から発売されている気分安定薬です。

気分安定薬というのは、主に双極性障害(躁うつ病)に用いられる治療薬の事で、気分の高揚を抑えたり、気分の落ち込みを持ち上げたりといった気分の波を抑える作用を持つお薬の事です。

ラミクタールは気分安定薬の中では新しいお薬であり、全体的にみれば気分安定薬の中でも副作用は少ないお薬になります。安全性に優れる事が特徴の1つではありますが、副作用がないわけではありません。副作用でいくつか注意すべき点は挙げられます。

ここではラミクタールの副作用について、その特徴と対処法などを紹介していきます。

1.ラミクタールの副作用の特徴

まずはラミクタールの副作用について、大切なポイントをお話しします。

  • 全体的には副作用は少なく、安全性に優れる
  • 発疹が出たら要注意(特に服用初期)
  • 気分安定薬で唯一、催奇形性がない

ラミクタールは気分安定薬の中で副作用が少ないお薬になります。全体的に見ればもっとも安全性に優れる気分安定薬だと言っても良いでしょう。

しかし副作用はないわけではありません。他の気分安定薬とは副作用のタイプが異なるため、注意すべき点も異なります。

ラミクタールの副作用でもっとも注意すべきなのは「重篤な皮膚障害」になります。

重篤な皮膚障害は、

  • ラミクタールの飲み始め
  • 用法・用量を守らない使い方
  • 小さい子(小児)

などで特に生じやすい傾向にあります。

最初は皮膚・粘膜の小さな発疹や高熱などから始まります。発疹は次第に全身に広がっていき、最悪のケースでは死に至ることもあります。

死亡と聞くと怖く感じるかもしれませんが、日本で報告されているラミクタールの皮膚障害による死亡例はいずれも用法・用量を守らずに使用したケースになります。そのためラミクタール服用中は用法・用量を厳守し、特に服用初期は発疹が生じていないかしっかりと確認する櫃ようがあります。

皮膚障害以外では、

  • 胃腸系の副作用(吐き気・下痢など)
  • 眠気・めまい
  • 肝機能障害(AST、ALTなどの上昇)

が時々見られますが、こちらは重篤となる事はほとんどありません。

ラミクタールの副作用の特徴として、もう1つ知っておいて頂きたい事に「催奇形性の報告がない」という事が挙げられます。催奇形性とは、妊婦さんが服用した場合に赤ちゃんに奇形が生じてしまうリスクがあるという事です。

実は催奇形性のない気分安定薬というのは現時点ではこのラミクタールだけになります。

現在使われている気分安定薬はラミクタール以外にも、

  • リーマス(一般名:炭酸リチウム)
  • デパケン(一般名:バルプロ酸ナトリウム)
  • テグレトール(一般名:カルバマゼピン)

がありますが、このいずれも催奇形性が報告されています。そのため妊婦さんはこれらのお薬を使用する事ができません。

気分安定薬は主に双極性障害の治療に用いられますが、双極性障害は若い女性も発症する可能性があります。双極性障害は自然と治る疾患ではないため、発症したら基本的にはずっと服用を続けなくてはいけません。

もし双極性障害の女性の方が急に妊娠してしまった場合、上記3種類のお薬を服用していた場合大変に困る事になります。原則は中止しなくてはいけませんが、急な中止によって精神状態が悪化してしまえばそれも赤ちゃんに悪影響をきたします。かといって服用を続ければ赤ちゃんに奇形が生じるリスクが上がってしまいます。

気分安定薬を服用中の女性が妊娠してしまう(あるいは妊娠を希望する)と、必ずこの問題が生じます。

しかしラミクタールだけは例外なのです。ラミクタールには明らかな催奇形性は報告されていませんので、妊娠中でも比較的安全に服用を続ける事ができます。

これはラミクタールの大きなメリットといえるでしょう。特に今後妊娠の可能性があるような双極性障害の方におすすめしやすい気分安定薬なのです。

2.ラミクタールで重篤な皮膚障害を起こさないために

ラミクタールの副作用でもっとも注意すべきなのが「重篤な皮膚障害」になります。

これは滅多に生じるものではありませんし、少なくとも日本では発症例はいずれも用法・用量を守らなかった不適切な使用例で、適正に使用した上で発症したケースは今のところありません。

しかし生じる可能性のある副作用ですので、ラミクタールを服用する方はみなさんこの副作用の特徴について知っておく必要があります。

重篤な皮膚障害を起こさないためには、どのような時にこの副作用が生じるのかを服用者も理解し、皮膚障害の徴候が出たら速やかに対処できるようにしておく事が大切です。

ラミクタールで重篤な皮膚障害を生じさせないために大切な事をお話します。

Ⅰ.用法通りの使用を徹底する

これは服用者というより処方する医師が徹底すべき事になりますが、服用者も知っておくとなお良いでしょう。

ラミクタールに限らずお薬は用法・用量を守って服用する事が大切ですが、ラミクタールでこの事はより一層重要になります。

用法通りに使用することを必ず守ってください。ラミクタールは元々、急に増薬すれば皮膚障害が起こりやすくなることが知られており、発売当初から慎重に少しずつ増薬するように決められています。

双極性障害にラミクタールを使用する場合は、

通常、成人には
・最初の2週間は1日25mgを1日1回経口投与
・次の2週間は1日50mgを1日1回又は2回に分割して経口投与し
・5週目は1日100mgを1日1回又は2回に分割して経口投与する。
・6週目以降は維持用量として1日200mgを1日1回又は2回に分割して経口投与する。
・症状に応じて適宜増減するが、増量は1週間以上の間隔をあけて1日量として最大100mgずつ、1日用量は最大400mgまでとし、いずれも1日1回又は2回に分割して経口投与する。
(ラミクタールの添付文書より)

という使い方になります。かなり慎重に増量していく事が決められていますね。

またラミクタールとデパケン(一般名:バルプロ酸ナトリウム)は相互作用するため、デパケンと併用する場合は更に慎重な増薬が求められます。

デパケンと併用する場合は、

通常、成人には
・最初の2週間は1回25mgを隔日に経口投与
・次の2週間は1日25mgを1日1回経口投与し
・5週目は1日50mgを1日1回又は2回に分割して経口投与する。
・6週目以降は維持用量として1日100mgを1日1回又は2回に分割して経口投与する。
・症状に応じて適宜増減するが、増量は1週間以上の間隔をあけて1日量として最大50mgずつ、1日用量は最大200mgまでとし、いずれも1日1回又は2回に分割して経口投与する。
(ラミクタールの添付文書より)

となっています。

つらい症状に苦しんでいると1日でも早く治したいという気持ちから、急いで増薬をしてしまったり、つい多く飲んでしまったりしたくなるかもしれません。気持ちは分かりますがラミクタールは急に増薬すると危険が大きいお薬であるため、必ず用法・用量を守るようにしましょう。

重篤な皮膚障害による死亡例は、いずれも用法を守らなかったがために起きている事を忘れてはいけません。

Ⅱ.重篤な皮膚障害に至る徴候を知る

ラミクタールで生じる重篤な皮膚障害は次のような特徴があると報告されています。

1.服用初期に生じやすい

ラミクタールによる皮膚障害の副作用は、投与初期(8週間以内)に多いと報告されているため、飲み始めは特に注意する必要があります。ラミクタールを服薬して間もない間は、皮膚に発疹が出たりしていないか注意深く観察してください。

もし発疹を見つけたら主治医にすぐに報告し、指示を仰いでください。発疹は軽いものであれば自然と消えていくこともありますが、原則として軽微でも皮膚に異常があればラミクタールは中止が望ましいと考えられています。

2.発疹の性状

ラミクタールの発疹はいきなり全身に出ることは少なく、最初は局所に小さなものが出ることがほとんどです。形状としては、斑状や丘疹状に現れることが多いと言われています。

斑状・・・まだら状
丘疹状・・・正常皮膚との境界が明瞭な1cm以下の盛り上がった発疹。形は円形だったり多角形だったり様々。

3.小児で生じやすい

ラミクタールの皮膚障害は成人と比べて小児で重篤になりやすいと報告されています。そのため、小さなお子様にラミクタールを使用する際は、とりわけ注意深い皮膚の観察が必要です。

4.発疹以外に生じる随伴症状

発疹に加えて次のような症状を伴う場合は、重篤な皮膚障害に至る可能性が高くなると報告されています。

・38度以上の発熱
・眼の充血
・口唇や口の中のびらん
・咽頭痛
・全身倦怠感
・リンパ節の腫れ

発疹とともにこのような症状が出現した場合は、すぐに主治医に連絡しましょう。この場合、原則ラミクタールは中止となります。

5.デパケン(バルプロ酸Na)との併用している際は注意

同じ双極性障害の治療薬にデパケン(バルプロ酸ナトリウム)がありますが、ラミクタールとデパケンを併用した場合は、皮膚障害が起こりやすいことが報告されています。

しかし実際はデパケンと併用せざるを得ないケースもあります。デパケンとラミクタールを併用する際は、先ほど記載したようにラミクタールを更に慎重にゆっくりと増薬することが必要となります。

Ⅲ.ラミクタール服薬時に発疹を見つけたら

すぐに主治医に報告してください。受診日までまだ日がある場合でも、すぐに病院・クリニックに電話して相談しましょう。

投与初期である場合や、ラミクタールによる発疹である可能性が否定できない時は、原則ラミクタールは中止となります。

万が一どうしても主治医に連絡できない場合は、その日のラミクタールの服薬は中止して下さい。そして、翌日以降なるべく早く主治医に連絡をするようにしてください。

ラミクタールを服薬してしばらく経っている場合や、明らかに他の原因で発疹が出来ている場合(蚊に刺されたなど)では、ラミクタールの中止をしないこともありますが、この判断は専門家が慎重に行う必要があります。独自に判断することは極めて危険ですので、必ず主治医に相談しましょう。

3.ラミクタールで生じる各副作用と対処法

最後に重篤な皮膚障害以外で生じる可能性のあるラミクタールの副作用とその対処法を紹介します。

Ⅰ.胃腸系の副作用

特に服用初期に、

  • 吐き気
  • 下痢
  • 食欲不振

などといった胃腸系の副作用が生じる事があります。

これらの副作用は多くの場合、程度は軽く一過性です。そのため、少しの間様子を見ていると自然と症状が和らいでくることもあります。

あまりに症状が続く場合は、整腸剤や吐き気止めなどを併用する事もありますし、あまりに程度が思い場合は服用と中止する事もありますが、ラミクタールでここまで行う事は多くはありません。

Ⅱ.眠気・めまい

ラミクタールは脳神経に作用することで、

  • 眠気
  • めまい

などが生じることがあります。

これも頻度は多くはありませんし、程度も強くはない事がほとんどです。

Ⅲ.肝機能障害

ラミクタールは肝臓に負担をかけ、

  • AST、ALT
  • γGTP

などの肝酵素を上昇させる事があります。

ほとんどが様子を見れる軽度のものになりますが、ごくまれに肝機能が悪化して、

  • 肝炎
  • 黄疸

などをきたすこともあります。

ラミクタールを服用中は定期的に血液検査を行い、このような副作用が生じていないか確認しておく方が安全です。

また肝機能がある程度悪化している場合は、ラミクタールを適宜減量(場合によっては中止)する必要もあります。