過呼吸・過換気症候群が生じたときの3つの対処法とあやまった対処法

過呼吸症候群(過換気症候群)は、強い不安・恐怖・緊張などの精神的ストレスをきっかけに、過呼吸が誘発されてしまう症候群です。

過呼吸は通常30分~1時間ほどで自然と改善し、後遺症を残すこともありません。そのため結果として見れば予後良好な疾患ではあります。しかし、発作中は非常に苦しく「このまま死んでしまうのではないか」という非常に強い恐怖に襲われます。結果としては予後は良い疾患ではありますが、発作の恐怖は軽視できるものではなく、過呼吸は軽く扱ってよいものではありません。

過呼吸を一度起こしてしまうと、「また過呼吸が起こったらどうしよう」という恐怖を抱えながら毎日を過ごす事になります。するとその不安・恐怖で過呼吸が誘発されてしまうという悪循環に陥ることもあります。

しかし過呼吸は、正しい対処法を知っていれば過剰に恐れる必要はありません。正しい対処法が出来るようになれば、「過呼吸が起こっても大丈夫」という安心感が生まれ、その安心感が過呼吸を生じにくくさせてくれます。

今日は過呼吸発作が生じたときの正しい対処法についてみていきましょう。また、よく用いられている方法だけど実は間違った対処法なども紹介します。

1.過呼吸に対する正しい知識を持つ事が最重要

一番重要なことは、過呼吸発作に対する正しい知識を持つことです。

過呼吸・過換気症候群は、身体的な異常で生じるものではないため、身体の異常は何もありません。原因は精神的ストレスによる自律神経系の異常です。

急に息を吸えない感覚に襲われるため、患者さんは「これは身体に何か重大な異常が生じているに違いない!」と感じてしまいますが、そのような事はないのです。発作はものすごく苦しく感じるけども、身体の異常は何も生じていないのだということはしっかりと理解しておきましょう。

そして、過呼吸発作は息が吸えないのではなく、吸えない「感覚」に襲われているだけだということもしっかり理解しておきましょう。その証拠に、救急外来で運ばれてきた過呼吸発作の患者さんの酸素濃度を測定すると、全ての症例で酸素濃度は正常以上を保てています。

そして、過呼吸発作はしばらく経てば、特別な対処をしなくても自然と治まります後遺症が残ることもありません。通常は30分~1時間で治まり、それ以上続くことは極めて稀です。

とは言っても、初めて過呼吸発作を起こした場合は、それが過呼吸症候群によるものなのか、それとも身体の異常で生じたものなのかの区別はつかないでしょう。そのため、最初は救急科や内科などを受診し、診察を受けたり採血・レントゲン・心電図など必要な検査を受ける必要はあります。

それで何も異常が見当たらず、診察医から「過呼吸症候群でしょう」という診断を受けた場合は、次回から同様の発作を起こした場合は、上記のような過呼吸発作に対する正しい理解をしてください。

2.過呼吸が生じたときの対処法

過呼吸発作が生じてしまった時は、 どのような対処法があるのでしょうか。

Ⅰ.待つ

過呼吸発作は、しばらく経てば自然と治まります。私も過呼吸の患者さんは診た経験は多い方だと思いますが、ピークは30分程度であり、救急車で運ばれて病院に着くころには、すでにほとんど改善している、というケースも珍しくありません。

1時間以上発作が持続することは極めて稀です。

そのため、発作を起こしたとしても「しばらくすれば必ず治まるから大丈夫」と思う気持ちが大切です。

時間が経てば治るものなのですから、焦ってあれこれしようとするのではなく、治まるまで待ちましょう。

Ⅱ.ゆっくり・浅い呼吸を意識する

過呼吸になると、血中の二酸化炭素濃度が低下します。すると血液がアルカリ性に傾き、全身の血管が収縮し、様々な症状が出現します。例えば、脳血管が収縮すれば意識がボーッとしますし、心臓の血管が収縮すれば動悸や胸痛を感じます。

また、手足のしびれや硬直、けいれんが生じることもあります。

これらは全て、過呼吸によって血液中の二酸化炭素濃度が低下した結果として生じています。

これら過呼吸に付随する症状を治めるためには、二酸化炭素濃度を上げてあげる必要があります。そのためにはゆっくりと浅く呼吸をすることです。

過呼吸発作中は、ゆっくり呼吸することは難しいかもしれません。しかし難しい中でも出来る範囲で「ゆっくり」を意識してください。二酸化炭素濃度が上がれば様々な症状は和らいでくるため、過呼吸発作も早く収まります。

また呼吸は「浅く」するようにしましょう。深くではなく浅くです。なぜならば、呼吸は十分すぎるくらい行えているため、ちょっと少なめと感じるくらいの呼吸がちょうど良いからです。深く呼吸してしまうと、それだけ換気が多くなってしまい、二酸化炭素濃度が上がりにくくなってしまいます。

可能であれば、息を吸った後に「数秒軽く息を止めてみる」ことも有効です。これも呼吸回数を減らし、血液中の二酸化炭素濃度を上げる作用が期待できます。

Ⅱ.抗不安薬を服用する

過呼吸発作の主な誘因は、不安・緊張・恐怖などの精神的ストレスの増大です。そのため、不安を和らげてくれるお薬である「抗不安薬」は過呼吸発作に有効です。

しかし発作中は呼吸苦から、お薬を服薬することが困難となりますので、「過呼吸が起こりそう」という時に服薬するのがベストです。過呼吸発作中に無理矢理お薬を飲むと誤嚥する可能性もありますので、しっかり飲め込めそうでなければ安易に服薬はすべきではありません。

このような理由から、病院などに搬送された場合は、注射できるタイプの抗不安薬を投与することもあります。注射であれば誤嚥リスクなく安全に投与することが可能です。

しかし抗不安薬は、過呼吸発作に対して必ず投与すべきものではありません。

過呼吸は基本的には自然と治まるものです。お薬を投与しなくても自然と治まるのです。そのため、抗不安薬はどうしても必要という場合を除いて投与する意義は少ないと言えるでしょう。

抗不安薬は過呼吸発作が起こりそうな時に予防的に服薬するのは意味がありますが、過呼吸は基本的には自然と治まるため、発作が起こってしまったら無理して抗不安薬を服薬したり注射する必要はありません。

3.過呼吸発作が生じたときに周囲がすべき接し方

家族や友人・同僚などが目の前で過呼吸発作を起こしてしまったら、周囲の人はどのように接したら良いでしょうか。周囲の方にぜひ知っていただきたい、正しい接し方について紹介します。

Ⅰ.一緒に慌てない

過呼吸発作が発症する誘因は、不安・恐怖です。反対に不安や恐怖を感じにくい状況、つまり安心できる状況であれば、発作は起こりにくいし起こったとしても治りやすくなります。

そのため、周囲がすべきことは患者さんを安心させてあげることです。

一番いけないのは、一緒になって慌ててしまうという事です。周囲が慌ててしまうと患者さん本人の不安も悪化してしまいます。

「大丈夫。必ず治るから安心して落ち着いて呼吸してね」と優しく話しかけてあげましょう。また、静かな場所で横に寝かせてあげるといいでしょう。

Ⅱ.話しかけてあげる

意外と大切なのは、患者さんに話しかけ続けることです。

「大丈夫?」
「苦しい?」
「分かる?」

など、頻繁に話しかけてあげてください。

これは安心させるという目的以外にも「呼吸を抑える」はたらきがあります。

人は話している時は呼吸していません。患者さんが話してくれれば、その間は呼吸をしていないため、二酸化炭素濃度が上がりやすくなります。つまり、患者さんが話せば話すほど過呼吸発作は早く改善するということです。

Ⅲ.ペーパーバッグ法が基本的には推奨されない

過呼吸発作になったら、ビニール袋を口に当ててペーパーバッグ法をすればいい、というのが一昔前の常識でした。

ビニール袋で口を覆えば、ビニール袋内は吐き出した息によりどんどん二酸化炭素が溜まります。それを吸えば二酸化炭素濃度が上がっていくため、発作も早く落ち着くという理論です。

ペーパーバッグ法は確かに理にかなった方法です。発作も早く落ち着くでしょう。

しかしペーパーバッグ法は現在では推奨されていません。

その理由は、自宅などでペーパーバッグ法を行うと、酸素濃度・二酸化炭素濃度を測定せずに行っているため、時に二酸化炭素濃度を上げすぎてしまう事があるからです。

二酸化炭素濃度は低すぎても問題ですが、高すぎても問題です。血液中の二酸化炭素濃度が高くなりすぎると頭痛や吐き気、めまいなどが生じることがあり、ひどい場合には意識を失うこともあります。

そのためペーパーバッグ法を行うのであれば、病院で酸素濃度を測定しながら行うべきで、病院外で行うべきではありません。