「過呼吸で死ぬことはない」「過呼吸で死亡した人はいない」は本当か

過呼吸・過換気症候群という病気があります。

これは主に精神的ストレスの増悪が原因となり、呼吸中枢や自律神経のバランスが一時的に崩れ過呼吸発作を生じるものです。

過呼吸発作は一時的なものであり、時間が経てば必ず自然と治まります。発作中は「このまま死んでしまうのではないか・・・」「おかしくなってしまうのではないか・・・」という恐怖に襲われますが、実際は死ぬことはありません。

「過呼吸で死ぬことはないですから、落ち着いて対処していきましょう」

私たちは患者さんにこのように指導します。しかし「本当に死ぬことはないの?」と不安に感じる方もいらっしゃると思います。

今日は過呼吸・過換気症候群で死ぬことは本当にないのか、という事について詳しく考えてみましょう。

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1.過呼吸・過換気症候群で死ぬことはない

結論から言ってしまうと、過呼吸発作が原因となって命を落とすようなことはない、と考えてよいでしょう。

発作中は息が苦しくなったり、意識がボーッとしたり、胸が痛くなってきたり、手足がしびれてきたり・・・、と様々な症状が出現するため、当の本人が「死んでしまうのではないか」と怖くなってしまう気持ちも分かります。

しかし、これらの症状は過呼吸によって一時的に生じている身体の異常に過ぎず、命を落としたり後遺症を残すことはありません。

まず、過呼吸発作の時は非常に息が苦しく感じます。苦しくて酸素が足りないような感覚に襲われ、その恐怖が過呼吸を更に悪化させています。しかし、過呼吸発作中の患者さんの酸素濃度を測定してみると、ほぼ間違いなく正常値以上の酸素濃度が測定できます。

つまり過呼吸中は、酸素濃度は足りていないのではなく、「足りないような感覚」に陥っているだけだということです。つまり、この呼吸苦は低酸素状態には実際はなっていないため、酸素不足によって命を落とすような事はありません。

次に過呼吸によって合併する種々の症状ですが(意識低下、胸痛、腹痛など)、これは過呼吸で血液中の二酸化炭素濃度が減った結果、血管が収縮するために生じていると考えられています。

血管が収縮した分、血流が落ちるため、

・脳への血流が落ちることによって意識がボーッとする
・心臓周囲の血流が落ちることで胸痛を感じる
・腸管への血流が落ちることで腹痛を感じる

のです。そこに更に精神的ストレスが加わるため、症状はより悪化しやすい傾向にあります。

これらの症状も血管が一時的に収縮して生じているだけです。血管は多少収縮していますが、完全に詰まってしまうことはありません。、過呼吸が落ち着けば血管は拡がりますので、これらの症状から命に関わるような重篤な状態に進展していくことはありません。

また仮に、意識レベルが低下して失神したとしても、意識を失えば精神的ストレスから解放されるため、過呼吸は治まります。呼吸は正常化しますので、命を落とすことはありません。

過呼吸発作では手足のしびれや硬直・けいれんなども生じます。ここから、「手足がこのまま動かなくなるのでは」と心配になりますが、これも一時的なものですので後遺症は残りません。手足のしびれは、血液中の二酸化炭素濃度が減った結果、血液がアルカリ性に傾き、それを修正しようと身体がはたらく中で、血液中のカルシウムイオンの濃度が少なくなるために生じます。

これも一時的に血液中のカルシウムイオンが少なくなって生じているだけで、過呼吸が治まれば改善します。

以上から、過呼吸で死ぬということはない、と考えて問題ありません。

2.過呼吸で死亡するわずかな可能性を避けるために

では過呼吸・過換気症候群で死亡する可能性が100%ないかというと、絶対とは言えません。非常に稀にはなりますが、過呼吸・過換気で命を落とすような状況が考えられないわけではありません。

しかしそのほとんどは、過呼吸自体が問題であったわけではなく、過呼吸に伴って生じた別の原因が理由です。

稀なケースではありますが、過呼吸で命に関わるようなケースを紹介します。いずれも過呼吸発作に対する正しい対応をすれば回避可能なものばかりですので、これを見て「過呼吸ってやっぱり死ぬこともあるんだ・・・」と不安になる必要はありません。

Ⅰ.何らかの疾患が隠れていた場合

過呼吸・過換気症候群のほとんどは、精神的ストレスが原因で生じます。

しかし、それ以外の原因で生じる可能性が絶対にないわけではありません。

非常に稀ではありますが、中には

・心筋梗塞を起こして、その胸痛をきっかけに過呼吸が発症した
・気胸を起こして、その呼吸苦をきっかけに過呼吸が発症した

など、重篤な疾患が生じて、そこから二次的に過呼吸が生じることもあります。

この場合、過呼吸というのは二次的な現象であり、原因の本質は心筋梗塞や気胸といった器質的疾患にあります。そしてこのようなケースでは「過呼吸だから大丈夫だろう」と放置してしまうと、器質的疾患の増悪により死亡に至ってしまうことがあります。

そのため初めて過換気発作を起こした場合は、念のため病院で検査してもらう必要があります。検査の結果、器質的な異常が全くなかった、ということがほとんどではあるのですが、だからといって絶対にないかは検査をするまでは分かりません。

過呼吸を起こした場合、一度は内科などで精査をしてもらいましょう。

Ⅱ.極端なペーパーバック法を行った場合

これも非常に稀なケースにはなりますが、過換気発作に対してペーパーバッグ法を行いすぎると、今度は酸素濃度が低くなりすぎて二酸化炭素濃度が上がりすぎてしまうため、重篤な状態になってしまう可能性はあります。

過呼吸中は二酸化炭素濃度が少なくなっているため、体内の二酸化炭素濃度を上げる必要がありますが、多すぎる二酸化炭素は毒となります。少し濃度が高いくらいであれば、頭痛やめまい、吐き気程度の症状で済みますが、更に二酸化炭素濃度が上がると「CO2ナルコーシス」という状態になり、意識レベルが下がり、昏睡、痙攣などが生じて、最悪の場合では命に関わることもあります。

CO2ナルコーシスになるまでペーパーバックを行い続ける、という事は現実的にはほとんどないとは思いますが、このような理由から、現在では過呼吸発作に対してのペーパーバック法は推奨されていません。

Ⅲ.過呼吸でパニックになった二次被害

過呼吸発作というのは突然生じますので、起こした人はパニックになってしまいます。突然、息が出来ない感覚に襲われるのですから、パニックになってしまうのは当然です。

しかしそこで慌てすぎてしまい、大暴れしたり、逃げ出そうとしたりすると、二次的に怪我や事故を起こしてしまう可能性があります。

実際、過呼吸発作が突然起こってしまい、慌てて転んでしまった、などという人もいます。転ぶくらいであればまだ命に関わることはありませんが、運悪く交通量の多い場所などで過呼吸発作を起こしてしまい、そこでパニックになって大暴れしてしまうと、二次的に交通事故などに巻き込まれる可能性だってありえます。

過呼吸発作を起こした時、死ぬことはないのだから慌てず落ち着いて対応しましょう、という医師が指示するのは、このような二次的な被害を防ぐ意味もあるのです。

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