ルボックスの効果・特徴 【医師が教える抗うつ剤の全て】

ルボックスは1999年にアッヴィ社より発売されたSSRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤です。世界初のSSRIであり、発売された当時は大きな注目を浴びた抗うつ剤でした。

ちなみにSSRとIは「選択的セロトニン再取込阻害薬」の略で、セロトニンを増やすことで抗うつ効果を発揮する抗うつ剤です。

それまでに主流であった三環系・四環系抗うつ剤と比べて、より選択的にセロトニンに作用するため、効果もよくて副作用も少ない、というのがSSRIの前評判で、ルボックスの発売以降、うつ病治療の中心は三環系/四環系からSSRIへと移っていきました。

世界初のSSRIという事で、多くの精神疾患患者に使われたルボックスでしたが、その後パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロなどのSSRIやSNRI、Nassaなどが次々と発売される中、近年は徐々に処方される機会は減ってきています。

ここでは、ルボックスという抗うつ剤の効果や特徴について詳しく説明させて頂きます。

ちなみに「デプロメール」というSSRIがありますが、デプロメールはルボックスと全く薬です。販売している会社が違うだけで中身は一緒なので、デプロメールの事を知りたい方もご覧ください。

1.ルボックスの特徴

まずは、ルボックスの全体像をつかむため、ざっくりと特徴を紹介します。

【良い特徴】

  • 高用量まで使える
  • 細かい用量設定が可能
  • ジェネリックがある

【悪い特徴】

  • 他のSSRIに比べるとリスク/ベネフィット比が小さい
  • ちょっと苦い

新しい抗うつ剤がどんどん発明されていく中、
次第にルボックスの処方頻度は少なくなっています。

悪いお薬ではありませんし、効果がないわけでもありません。
しかし発売から15年以上が経ち、古株のSSRIとなってしまった今では
どうしても新しい抗うつ剤が第一選択になってしまうのが現状です。

ルボックスの副作用は、三環系などよりは少ないものの新しいSSRIと比べると多めです。
しかしその分効果が強いかというと、特段そんなことはありません。

となると、どうしても他のSSRIを使う事が多くなるのはやむを得ないところでしょう。

しかし、ルボックスがもう全く必要ない抗うつ剤なのかというとそんな事はありません。
私が思う、ルボックスの大きな利点は2つあります。

一つ目は「高容量まで使える」という事です。

パキシルは40mgまで(強迫性障害のみ50mgまで)、ジェイゾロフトは100mgまで、レクサプロは20mgまでと
他のSSRIは上限量が添付文書に明記されています。
そのため、例えばパキシルであれば50mg以上投与することは絶対に不可能です。

しかし、ルボックスは添付文書にこのように書かれています。

通常、成人にはフルボキサミンマレイン酸塩(ルボックスのこと)として、
1日50mgを初期用量とし、1日150mgまで増量し、1日2回に分割して経口投与する。
なお、年齢・症状に応じて適宜増減する。

最後の一行がポイントです。

上限量は150mgなんだけど、「症状に応じてそれ以上使う事も可能」なのです。
このような、幅を持たせた記載があるSSRIは現状ではルボックス/デプロメールだけです。

パキシルの40mgがルボックスの150mgに相当する量ですので、
実質、他のSSRIよりも多い量を使えるという事になります。

これは難治性の精神疾患、高容量の抗うつ剤が必要となる精神疾患(強迫性障害など)の
治療にとても役立ちます。
実際、「強迫性障害の治療にはルボックス」という医師は少なくありません。

ただし、この「適宜増減」というのは非常にあいまいで、困ったことに県によって解釈が異なります。
おかしな話ですが、私のエリアでいうと東京都は300mgまで使用を認めていますが、
神奈川県は150mgまでしか認めてくれず、150mgより多い量を処方すると保険を切られます。

なので、ルボックスを300mg処方する必要があると思われる方は、
東京の心療内科に紹介しないといけない、なんていうおかしな状況になってます。

二つ目の利点は、「細かい用量設定が可能」だということです。

例えばジェイゾロフトであれば最大100mgまで使えますから、0-100mgの間で治療します。
対してルボックスは0-300mgの間での治療になります。

ジェイゾロフトは6.25mg刻み(25mg錠を1/4錠にする)の増減が限度でしょうから、
0-100mgの間だと16段階の調整が可能ということになります。

対してルボックスも6.25mg刻み(25mgを1/4錠にする)の増減が限度ですが、
0-300mgの間の量なので、48段階の調整が可能です。

より細かく用量設定できるということは、きめ細やかな治療ができるということですし、
離脱症状を起こさずに減薬しやすいということでもあります。

この2つの利点は、他のSSRIには真似できないルボックスの大きな長所です。

短所は、一番古いSSRIのため副作用が多いということです。

例えばパキシルなんかは副作用が多いかわりに効果も強い、という一長一短なところがありましたが、
ルボックスは副作用はやや多いけど、効果は普通というところで、
リスク/ベネフィット比が他のSSRIに比べるとやや低いと感じます。

2.ルボックスの作用機序

ルボックスは、SSRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤です。

SSRIとはSelective Serotonin Reuptake Inhibitorの略で、
「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」という意味です。

難しい名前ですが、要するに、

セロトニンを増やすお薬

ということです。

神経と神経の間を神経間隙と言いますが、抗うつ剤は神経間隙のセロトニン濃度を
増やすことで抗うつ効果を発揮します。

SSRIは神経間隙に放出されたセロトニンが吸収(=再取り込み)されるのをジャマ(=阻害)します。
SSRIによってセロトニンはいつまでも吸収されないため、いつまでも神経間隙に残り、
神経間隙のセロトニン濃度が上昇する、という仕組みです。

ルボックス以外のSSRIには

デプロメール、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロ

などがあります。

ちなみにデプロメールはルボックスと全く同じお薬です。
ただ、発売している会社が違うというだけです。

デプロメールはMeiji Seikaファルマ社が、ルボックスはアッヴィ社がそれぞれ発売しています。

どのSSRIも同じようにセロトニンの再取り込みを阻害することで
神経間隙のセロトニン濃度を上げます。

3.ルボックスの適応疾患

ルボックスの添付文書を読むと、

うつ病、うつ状態、強迫性障害、社会不安障害

に適応があると記載があります。

高容量まで使用できることが大きなメリットであるルボックスは、
一般的に高容量の抗うつ剤が必要となると言われている不安障害圏疾患や強迫性障害によく使われます。
特に強迫性障害に使うケースは多いと感じます。

もちろんうつ病にも使われますが、最近はうつ病だと他のSSRIもたくさんありますので、
ルボックスの出番は徐々に減ってきているようです。

4.ルボックスの強さ

ルボックスの強さは他のSSRIと比べて、「強くもなく弱くもなく」といったところです。

MANGA studyという有名な研究報告があります。

この研究は「抗うつ剤の効果と副作用をランキングしてみよう!」 という研究で、
結果には賛否両論あるものの、抗うつ剤をランキングするという画期的な内容が
大きな反響を呼んだ試験でした。

この試験結果でもルボックスは位置づけは「強さは普通、副作用はやや多い」というものでした。
結果をご覧ください。

MangaStudyこの図は、Manga Studyの結果を図に示したものです。

有効性とは薬の効果で数字が大きいほど効果が高いことを示しており、
忍容性とは副作用の少なさで、大きいほど副作用が少ないことを表しています。

フルオキセチン(国内未発売)という抗うつ剤を「1」とした場合の、
それぞれの 抗うつ剤の比較です。

あくまでも研究結果の一つなので、この結果がすべてと考えてはいけませんが、
この結果ではルボックスは有効性も忍容性もあまり高くは評価されていません。

効果は普通くらい、副作用は多め。このような結果です。

しかし、上述したように300mgという高容量まで使用できるというのは大きな特徴で、
300mgまで上げると、強い抗うつ、抗不安効果を得られる事もあります。

5.ルボックスが向いている人は?

ルボックスの特徴をおさらいしてみましょう。

  • 高用量まで使える
  • 細かい用量設定が可能
  • ジェネリックがある

ここから考えると、

「高用量のSSRIが必要となりそうな方」

に使いたい抗うつ剤であると言えます。

高用量必要なのかは自分では分かりませんので、医師の判断に任せるしかありません。
一般的に不安障害圏や強迫性障害はうつ病よりも高用量必要になる事が多いため、
このような疾患の方はルボックスは候補に挙がるでしょう。

また、細かい用量設定が可能である事から、減薬の際の離脱症状が心配な方にも使いやすいお薬かと思われます。

ジェネリックがあるのも大きなポイントです。
現在ジェネリックがあるSSRIはパキシルとルボックス(=デプロメール)だけです。

ジェネリックは先発品の6-7割の薬価ですので、安く済ませる事ができます。
ちなみにルボックスの先発品とジェネリックの薬価は下記のようになっています。

 25mg50mg75mg
デプロメール/ルボックス(先発品)37.8円65.4円90.6円
フルボキサミンマレイン酸塩(ジェネリック)20.6円~27.1円35.7円~44.5円43.5円~61.6円

一部のジェネリックは先発品の半額以下のものもあります。
ルボックスのジェネリックは、パキシルのジェネリックも含めたSSRIの中では現在もっとも安価です。

6.ルボックスの導入例

ルボックスは添付文書には

50mgを初期用量として150mgまで増量し、1日2回に分けて内服する。
なお,年齢・症状に応じて適宜増減する。

と記載されています。

実臨床においても、ほとんど添付文書通りの使い方をします。

50mgより開始しますが、副作用が心配な場合は25mgから始めることもあります。
1-2週間様子をみて、25-50mg程度ずつ増やしていきます。

添付文書では150mgまで上げる、と書かれていますが、150mg上げる前の量で
十分な効果が得られたら、それ以上は上げずにその量で維持することもあります。

150mgまで上げても効果不十分の場合は、「適宜増減する」ことが可能ですので、
300mgまで更に少しずつ増量していきます。

ただし前に書いたように、県によっては150mg以上上げる事は認めてくれない県もありますので、
注意が必要です。

効果を感じるのに個人差はありますが、だいたい2週間から1か月程度と言われています。

内服しはじめのころは、吐き気や胃部不快感などが出現することが多いようです。
これはSSRIに多い副作用で、ルボックスでも多く認められます。

この副作用は、数週間ほど様子をみれば自然と消失することがほとんどですが、
つらい場合は胃薬や吐き気止めを一時的に併用することもあります。

その後も、口渇、便秘、性機能障害などの副作用が出る事があります。

便秘は下剤を使えば対応できます。
口渇は漢方薬などで改善が得られることもありますが、基本的には付き合っていかないといけません。

性機能障害も基本的には付き合っていくべき副作用ですが、
Nassaを少量加えるといくらか改善することがあります。

最大量投与して、1-2か月経過をみても改善が全く得られない場合は、
ルボックスが効いていないと考えられますので、別の抗うつ剤に切り替えます。

ルボックスの効果が十分に出て、気分が十分安定したと感じられたら(=寛解(remission))、
そこから6-12ヶ月はお薬を飲み続けましょう。

良くなったからと言ってすぐに内服をやめてはいけません。
この時期は症状が再燃しやすい時期ですので、しっかりと服薬を続けましょう。

6-12ヶ月間服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、
「回復(Recovery)」したと考えます。

治療終了に向けて、2-3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していきましょう。
問題なくお薬をやめることができたら、治療終了となります。

(注:ページ上部の画像はイメージ画像であり、実際のルボックス錠とは異なることをご了承下さい)