ルボックスとカフェイン【医師が教える抗うつ剤の全て】

「ルボックスとカフェインは相性が悪い」
「同時に摂取するとカフェインの体内量が5倍になる」

こんなウワサがあるようです。

ネットにこのようなことが書いてあり、不安になってしまった患者さんから時々質問を受けます。これは本当なのでしょうか?

この記事ではルボックスとカフェインの関係についてお話します。

1.製薬会社からの発表では?

ルボックスを発売しているアッヴィ社の添付文書を読むと、
ルボックスとカフェインの相互作用については何も記載がありません。

例えばアルコールなどは
「本剤(ルボックス)服用中は、飲酒を避けさせることが望ましい」などと
記載されていますから、併用に問題があるのであれば記載されるはずです。

という事は、少なくとも問題となるような大きな副作用は臨床試験レベルでは
認めなかったという事なのでしょう。

ここから、

ルボックスとカフェインを一緒に摂取しても大問題にはならない、

ということが分かります。

もし大問題になるようであれば必ず添付文書に記載するはずです。

 

2.薬理的なルボックスとカフェインの相互作用

ルボックスは、様々な物質との相互作用に注意をすべきお薬です。
それは、他のSSRIより多くの代謝酵素(物質などを分解する酵素)の働きを阻害してしまうからです。

ルボックスはSSRIのなかでは一番古いお薬なので、
最近の新しいSSRIと比べるとどうしても作りが荒く、余計なところへの作用が多いのです。

実際、添付文書の相互作用の欄にはこのように書かれています。

本剤(ルボックス)の代謝には肝薬物代謝酵素CYP2D6が関与していると考えられている。
また、本剤は肝薬物代謝酵素のうちCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4を阻害し、
特にCYP1A2、CYP2C19の阻害作用は強いと考えられている。

色々難しい言葉が並んでますが、CYPというのは「様々な物質を分解する酵素」だと考えてください。
デプロメールがいくつかのCYPを阻害するということは、いくつかの物質の分解をジャマしてしまうと
いうことです。

ここで注目すべきは、最後の一行です。
実はカフェインは分解の際、代謝酵素であるCYP1A2の影響を大きく受けます。

そしてそのCYP1A2の働きをルボックスは阻害するということです。

つまり、薬理学的にルボックスを服用するとカフェインの分解が遅くなるのです。

ルボックスとカフェインを併用するとカフェインが分解されにくくなる。
これは事実のようです。

ここから、ルボックスとカフェインは相性が悪い、というのは全くのデタラメではない事が分かります。
併用すると、カフェインが分解されにくくなるという傾向は確かにあるのです。

ただし、「ルボックスとカフェインを併用すると、体内カフェイン量が5倍になる」などという事が
ネットではなぜかウワサされていますが、その「5倍」には根拠はないと思われます。

そもそも何倍になるかはルボックスの量や個々人の代謝能力にもよりますし、一概に言えるものではありません。

3.ルボックスとカフェインの併用 -臨床での実感-

では実際にルボックスとカフェインを併用した人たちは、どんな様子なのでしょうか?
カフェインを含んだ飲み物と言えば、コーヒーやコーラなどですね。

私の臨床での実感としては、ルボックスを服用中の患者さんがコーヒーやコーラを飲んだからと言って
体調を崩したり、ルボックスの効きが悪くなったりといったことは、ほぼ起きないように感じます。

薬理学的にはルボックスとカフェインの相性が悪いのは事実ですが
少なくとも、日常で摂取する程度のカフェイン量であれば大きな問題にはならないようです。

4.ルボックスとカフェインの併用はしていいのか?

今までの話をまとめてみましょう。

  • ルボックスの添付文書には、ルボックスとカフェインの関係について特に記載なし
  • 薬理学的にはルボックスはカフェインの分解を遅らせる
  • 現場の実感としては普通のカフェインの摂取量であれば問題となる事はない

ここから考えると、

ルボックスがカフェインの分解を遅らせるのは事実である。
しかし、適度なカフェイン量であれば問題にならないことがほとんどであるため、
極端に大量のカフェインを摂取している人以外はさほど気にする事はない。

というのが、妥当な答えではないかと思います。

少量のカフェインで問題となるのであれば、添付文書に必ず書いてあるはずです。

普通の摂取量というと、1日コップ2-3杯程度のコーヒーでしょうか。
その程度であればまず問題ないでしょう。

少なくとも私の経験で言えば、今まで数多くルボックスを使ってきましたが問題になった人はいませんし、
同僚の精神科医でも問題になったケースはありません。

ただし毎日何リットルもコーヒーやコーラを飲むのであればそれは問題になるかもしれません。
その際は主治医としっかり相談して、ルボックス以外の抗うつ剤にするなどの対処をして下さい。

まぁ、でもその場合、何リットルもコーヒーやコーラを飲むことがまず異常ですから、
そちらの対処がまず必要な気もしますけど・・・。