ストレスや生活習慣の乱れなどによって自律神経のバランスが乱れると、心身に様々な症状が現れます。
このような状態は「自律神経失調症」と呼ばれます。
自律神経は全身のあらゆる臓器・器官に分布しているため、自律神経が失調した時に生じる症状は非常に多岐に渡ります。また自律神経の機能は検査などで判定できるものではないため、「この症状は本当に自律神経のバランスの乱れで生じているのか」を確実に裏付ける根拠というのはありません。
自律神経失調症の症状は、それが本当に自律神経失調症で生じているのかどうかが分かりにくく、これは患者さんを更に不安にさせます。例えば自律神経のバランスが乱れて動悸が生じているのに、「心臓に悪い病気があるのではないか」と不安になってしまえば、それによって更に動悸がひどくなるでしょう。
このような悪循環に陥らないように、自律神経失調症の症状の特徴について知っておくことは大切です。
自律神経失調症の症状はこのような分かりにくい一面がありますが、「このような場合は自律神経失調症の症状の可能性が高い」という特徴もいくつかあります。
ここでは自律神経失調症で生じる症状にはどのようなものがあるのか、そしてその症状が自律神経失調症で生じているという事を裏付けやすい特徴にはどのようなものがあるのかを紹介させていただきます。
1.自律神経失調症ではあらゆる症状が生じる
自律神経失調症ではどのような症状が生じるのでしょうか。
これは回答が難しく、強いて言えば「あらゆる症状が生じ得る」というというのが答えになります。
自律神経は全身の臓器や血管、皮膚に分布しており、状況に応じて自動的に適切にはたらいてくれる神経です。
私たちが普段意識しなくても、
- 胃腸が勝手に食べ物を吸収してくれる
- 肝臓が勝手に身体の毒物を解毒してくれる
- 腎臓が勝手に尿を作ってくれる
- 心臓や血管が勝手に拍動して全身に血液を送ってくれる
のは、自律神経のはたらきのおかげなのです。
このように私たちを助けてくれる自律神経ですが、全身に分布しているためにバランスが乱れてしまうと全身のあらゆるところに症状が出てしまうのです。
この「あらゆる症状が生じうる」というのが自律神経失調症の特徴であり、自律神経失調症の症状が分かりにくい理由です。
しかしあらゆる症状が生じうると言っても、生じやすい症状や出現する症状の特徴はあります。それをしっかりと理解する事が自律神経失調症の症状を理解するための重要なポイントになります。
自律神経失調症の症状は大きく分けると、
- 身体症状
- 精神症状
の2つに分けられます。
まずはそれぞれの代表的な症状をみていきましょう。
2.自律神経失調症で生じる身体症状
自律神経は末梢神経に属し、身体の末梢(脳・脊髄以外)にあるすべての臓器に分布しています。
そのため自律神経が失調すると、全身に様々な症状を引き起こします。
代表的な症状をいくつか紹介します。
【部位】 | 【症状】 |
頭 | 頭痛、頭重、脱毛 |
目 | 目の痛み、疲れ、違和感、羞明、めまい |
耳 | 耳鳴り、異物感、耳痛 |
口 | 口渇(口の渇き)、唾液が出すぎる、味を感じない |
喉 | ヒステリー球(喉の異物感)、飲み込みずらい、しゃべりにくい |
肩 | 肩こり、痛み |
心臓 | 動悸、胸痛 |
肺 | 息苦しい、呼吸が出来ない |
手足 | ふるえ、しびれ、冷感、脱力感 |
胃腸 | 便秘、下痢、食欲低下、お腹の張り、腹痛、吐き気、放屁(おなら) |
膀胱 | 残尿感、頻尿、排尿困難、排尿時痛 |
生殖器 | 勃起障害、射精障害、性欲低下、生理不順 |
皮膚 | 痒み、痛み、じんましん |
筋肉 | 筋肉痛、脱力感 |
血管 | 血圧上昇、たちくらみ |
全身 | ほてり、微熱、だるさ、倦怠感、疲労感 |
このように自律神経は身体のあらゆる部位に分布しているため、症状も身体のあらゆる部位に起こりうるのです。
ただしこの症状すべてが出るわけではありません。
自律神経のバランスを乱しやすい原因には「ストレス」や「生活習慣の乱れ」がありますが、このような原因があっても生じる症状はその人それぞれで全く異なってきます。
胃腸系の症状が出やすい人もいれば、心臓系の症状が出やすい人もいます。これは元々自律神経の過敏な部位があるなどといった生まれ持った体質もあるのでしょう。そのため「このようなストレスを受けたらこのような部位の自律神経が乱れやすい」という法則性はありません。
3.自律神経失調症で生じる精神症状
自律神経失調症では身体症状のみならず、精神症状も生じます。
自律神経は末梢神経であり、脳や脊髄にある中枢神経ではありません(参照:「自律神経とは?自律神経失調症を理解するために知っておきたい事」)。それなのになぜ脳が関係するような精神的な症状も認めるのでしょうか。
それは自律神経のバランスの乱れは直接脳に影響は与えませんが、末梢の臓器から分泌されるホルモンのバランスを乱すことによって間接的に精神状態に影響を与えるからではないかと考えられます。
「ストレスホルモン」と呼ばれるコルチゾールや女性ホルモンなど、精神状態に影響を与えるホルモンというのは多くあります。これらの分泌量が不安定になれば、精神状態もそれにともなって不安定になるのです。
では自律神経失調症ではどのような精神症状が出現するのでしょうか。
実はこれも身体症状と同じく、あらゆる症状が生じえます。自律神経のバランスの乱れで影響を受けるホルモンもまた様々だからです。
頻度が多い症状としては、
- 落ち込み
- 不安
- イライラ、焦り
- 意欲・気力低下
- 不眠
- 集中力低下
- 攻撃性
- 希死念慮
- 罪責感
などがあります。
4.自律神経失調症とその他の疾患で生じる症状の見分け方
自律神経失調症で生じうる症状を紹介してきました。
自律神経のバランスが乱れるとあらゆる症状が出現しうることが理解頂けたと思います。
では、ある症状が生じたとき「これは自律神経の失調で生じているのかどうか」というのはどうやって判断すればいいのでしょうか。
実はこれを確実に判定できる方法はありません。自律神経の失調というのはあくまでも身体所見や症状から総合的に判定するものであって、検査などで確実に分かるものではないからです。
しかし「症状にこのような特徴がある場合は自律神経失調症の可能性が高い」というポイントはいくつかあります。自律神経失調症による症状なのか、それともその他の疾患による症状なのかを見分けるポイントについてお話しします。
Ⅰ.複数の部位に異常が生じている
身体の複数の部位に異常が生じている場合は、自律神経失調症の可能性が高くなります。
自律神経は全身のあらゆる部位に分布しているため、その機能が失調すると身体の様々な部位に異常が生じる事があります。
例えばストレスを受けて自律神経のバランスが崩れてしまったとき、胃腸の自律神経のバランスが崩れれば胃痛や下痢・腹部膨満などが生じます。また心臓の自律神経のバランスが崩れれば動悸や胸痛が生じます。
しかし身体疾患が原因で症状が出ている場合、複数の部位に症状が出ることは多くはありません。例えば食生活が荒れているせいで胃炎や胃潰瘍になってしまった場合、胃は痛みますが通常は心臓が痛んだり動悸がすることはありません。心臓に不整脈が出現した場合も、動悸は認められますが、胃痛が認められることはありません。
自律神経失調症でも単一の部位にしか異常が出ないこともあるため、この方法で100%見分ける事ができるわけではありませんが、
- 自律神経失調症は全く異なる複数の部位に症状が生じる傾向がある
- 身体疾患であれば、基本的には単一の部位に症状が生じる事が多い
これは両者を見分ける一つの目安にはなります。
Ⅱ.ストレスや生活習慣との関連
自律神経失調症は様々な原因で生じますが、もっとも多いのは
- ストレス
- 生活習慣の乱れ
の2つです。
という事は、「ストレスが続いている」や「生活習慣が乱れる事が多くなっている」という状況に関連して症状が出るようであれば、それは自律神経失調症の可能性が高くなります。
特に、
「ストレスを感じると動悸がする」
「ストレスがあると下痢になる」
とストレスと明らかに関連があれば自律神経失調症の可能性は非常に高いでしょう。
心臓に何らかの器質的異常があって動悸が生じているのであれば、ストレスとは関係なく起こるはずです(多少のストレスの影響は受けることもありますが)。またウイルスや細菌の感染で下痢になっているのであれば、これもストレスとは関係なく下痢が続くはずです。
自分の症状がストレスや生活習慣の乱れと関連しているかどうかも両者を見分ける1つのポイントになります。
Ⅲ.自分の体質との照らし合わせ
同じ人間であっても性格や外見がみなさん異なるように、自律神経の特徴も人によって個人差があります。
身体の中でも、特に自律神経が過敏な部位が人によってはあるものです。
例えば同じようなストレスを受けても、ある人は胃が痛くなるかもしれませんし、またある人は息が苦しくなるかもしれません。人によって自律神経のバランスが崩れやすい部位というのがあります。
これは体質のようなもので、多くの場合幼少期から同じように認められます。
「昔からイヤな事があると耳が痛くなる」
「昔からストレスを受けるとめまいがする」
など、元々の自律神経の過敏性に特徴がある方は、これも加味して考えると、今出ている症状が自律神経失調症による症状なのかが見分けやすくなります。ストレスを受けてめまいが出る事が多い方は、やはりめまいがしている時は自律神経失調症である可能性が高くなります。