サインバルタで吐き気が生じる原因とその対処法

サインバルタ(一般名:デュロキセチン)は、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)という種類に属する抗うつ剤です。

サインバルタは、特に服用の初期にしばしば吐き気・気分不良といった副作用に悩まされることがあります。これはサインバルタに限らずSSRI・SNRIと呼ばれる抗うつ剤で生じやすい副作用の1つです。

なぜサインバルタを服用すると吐き気が生じるのでしょうか。また吐き気を予防する方法や、吐き気が生じてしまった際の対処法などはあるのでしょうか。

ここではサインバルタの吐き気の原因と対処法について紹介していきます。

1.サインバルタで吐き気が生じる理由

サインバルタを服用すると吐き気が生じる事があります。吐き気はサインバルタの副作用の中でも比較的生じやすいもので、特に内服初期、つまり「飲み始め」に起こりやすいという特徴があります。

抗うつ剤というのは、「気分が改善させる」という作用を得るには少し時間がかかります。サインバルタもどんなに早くても効果が出始めるまでには1週間程度はかかります。しっかりとした効果を得るのであれば1カ月ほどは見ないといけません。

このように効果が得られるまでには結構時間がかかるのですが、一方で吐き気のような副作用は服用して数時間後には出てきてしまいます。

服用したばかりの時というのは、効果はまだ良く分からないけど、吐き気などの不快な副作用だけが出てしまうのです。このような抗うつ剤の作用と副作用の出方を知らないと、服用直後に「このお薬、本当に大丈夫なんだろうか?」と不安になってしまうかもしれません。

では、なぜサインバルタをはじめとした抗うつ剤では服用初期に吐き気が生じるのでしょうか。

サインバルタをはじめ、多くの抗うつ剤は「脳神経間のセロトニン量を増やす」ことを目的に投与されます。セロトニンは気分に関係する物質であり、セロトニンの低下は気分の落ち込みや不安の増悪を引き起こすと考えられているためです。

しかし抗うつ剤を服用すると、お薬の成分は血液中に入り全身に回りますので、脳だけでなく身体の様々な部位のセロトニン量を増やしてしまいます。

セロトニンが作用する部位を「セロトニン受容体」と呼びますが、実はセロトニン受容体のうち脳に存在するのはわずか10%ほどで、残り90%以上は脳以外に存在しています。そして脳以外でセロトニン受容体が一番多い部位は胃や腸といった消化管なのです。

この消化管に存在するセロトニン受容体をサインバルタが刺激してしまう事により、吐き気や気分不良といった副作用が生じてしまうのです。

このような消化器系の副作用は不快な症状ではありますが、別の見方をすれば吐き気が生じているという事は、身体の中でセロトニンを増やす変化が起き始めているという事でもあります。

2.サインバルタ以外の抗うつ剤との吐き気の比較

吐き気の副作用は、SSRI・SNRIと呼ばれる抗うつ剤のほとんどに認められます。

SSRIとは「選択的セロトニン再取込み阻害薬」という抗うつ剤です。またSNRIとは「セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬」という抗うつ剤です。いずれもセロトニンを増やす作用を持つため、吐き気も生じてしまう可能性があるのです。

これらの抗うつ剤で吐き気が生じる頻度はおおむね30~40%程度と報告されており、サインバルタも同程度になります。

一方で抗うつ剤の中でも、三環系抗うつ剤や四環系抗うつ剤、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)といった抗うつ剤では吐き気の副作用は比較的少なめになります。

各種抗うつ剤の吐き気の生じやすさを比較すると、おおよそ次の表のようになります。

抗うつ剤吐き気の頻度抗うつ剤吐き気の頻度
(Nassa)リフレックス/レメロン(ー)(SSRI)パキシル(++)
(四環系)ルジオミール(-)(SSRI)ルボックス/デプロメール(+++)
(四環系)テトラミド(-)(SSRI)ジェイゾロフト(++)
デジレル(-)(SSRI)レクサプロ(++)
(三環系)トフラニール(±)(SNRI)トレドミン(+)
(三環系)トリプタノール(±)(SNRI)サインバルタ(++)
(三環系)アナフラニール(+)スルピリド(-)
(三環系)ノリトレン(±)
(三環系)アモキサン(±)

吐き気はSSRI・SNRIに多く認められ、その他の抗うつ剤では少なめであるのが分かります。

またSSRI・SNRIの中でもデプロメール・ルボックス(一般名:フルボキサミンマレイン酸塩)で特に多めであり、トレドミン(一般名:ミルナシプラン)はやや少なめになります。

ただしこの表はあくまでも目安に過ぎず、実際は個人差もあります。

3.サインバルタで吐き気が生じた際の対処法

サインバルタを処方してもらい、服用を始めたら強い吐き気に襲われた。

このような経験をしてしまうと「この薬は危ないお薬なんじゃないか」「自分には合わないお薬なのではないか」と不安になってしまうかもしれません。吐き気は軽症例も含めればSSRI・SNRIを服用して約30~40%の頻度で生じるため、このような経験をしてしまう事は決して珍しい事ではありません。

しかし心配はいりません。この吐き気はほとんどの場合で適切に対応することで改善させる事が可能です。

では具体的にどのような対処法があるのか、一般的に取られる対処法を紹介します。

なお、ここで紹介する対処法は必ずサインバルタを処方してもらった主治医と相談の上で行い、独断では決して行わないようにしてください。

Ⅰ.様子をみる

サインバルタの服用によって吐き気が認められた場合、吐き気の程度が様子を見れる程度なのであれば、まず考えたいのは「様子を見てみる」という対処法です。

というのも、吐き気の副作用が生じても、90%以上の症例で、1~2集患もすれば自然とこの副作用は改善していくからです。

服用初期においてはセロトニン量を増やすお薬が身体に急に入ってきたため、身体もすぐには対応できず副作用が現れてしまいます。しかし1~2週間もすればお薬に身体も慣れてくるため、吐き気は徐々に軽減していきます。

ほとんどのケースで吐き気がつらいのは最初の1~2週間ほどです。逆に言えばこの期間を乗り切る事が出来れば、吐き気はなくなっていくという事です。

吐き気が出ているということは身体のセロトニン量が増えているという証拠です。「お薬がちゃんと効いているんだ」と前向きに考えてみてください。

自然と改善することが分かっているので、軽い吐き気であれば、様子を見てみることも有効な方法の1つです。

Ⅱ.胃薬を併用する

SSRIやSNRIの服用を始めると、30~40%の確率で吐き気が生じるのですから、あらかじめこれらのお薬の服用を開始する際は胃薬や吐き気止めを併用しておく事も有用です。

現在、抗うつ剤の吐き気の対処法として、一番行われている方法がこれになります。

内科で胃腸炎や胃潰瘍の時に処方される胃薬というのは、サインバルタの副作用で生じる吐き気にも一定の効果があります。

抗うつ剤の副作用による吐き気を抑えるためによく使われる胃薬としては、

【商品名】 【一般名】 【作用】
ガスモチン モサプリド 消化管運動改善薬。胃腸の蠕動運動を促進する
ソロン ソファルコン 胃粘膜保護・防御因子増強薬。胃のプロスタグランジンを増加させる
ナウゼリン ドンペリドン 吐き気止め。ドパミン受容体を遮断することで吐き気を抑える
ガスター ファモチジン 胃壁のヒスタミン受容体を阻害することで、胃酸の過分泌を抑える

などがあります。

吐き気が生じる頻度は少なくありません。そのため、吐き気が出てから慌てて対処するのではなく、最初から予防的に抗うつ剤と胃薬をセットで出すことも多いです。

胃腸の調子を崩しやすい方や、吐き気の副作用が心配で抗うつ剤の服用に抵抗があるという方は主治医と相談し、胃薬もあらかじめ投与してもらうようにしましょう。

Ⅲ.抗うつ剤の種類を変える

吐き気はすべての抗うつ剤で認められる副作用ではありません。

SSRI・SNRIには多く生じる副作用ではありますが、吐き気が生じにくい抗うつ剤もあります。

上記の方法でも吐き気の改善が得られない場合は、抗うつ剤の種類を変える事を検討しても良いでしょう。

一般的に吐き気が少ない抗うつ剤というと、

  • リフレックス・レメロン(一般名:ミルタザピン)
  • ドグマチール(一般名:スルピリド)

などが候補に上がります。

ただしこれはあくまでも「吐き気」が少ない抗うつ剤というだけで、それ以外の副作用に関してはこれらの抗うつ剤の方が多い事もありますので、総合的に考える必要があります。

リフレックス・レメロンは吐き気は少ないのですが、体重増加や眠気などの頻度が多めになります。

ドグマチールは元々は胃薬として開発され、発売後に抗うつ作用がある事も分かったお薬です。元々が胃薬ですから胃腸の副作用が起きる可能性は少なく、かえって胃腸には良いくらいです。

ただしドグマチールは古いお薬であり、ドーパミン系にも作用する事によって錐体外路症状や高プロラクチン血症といった副作用のリスクがあります。

【錐体外路症状(EPS)】
ドーパミンのブロックによって生じる神経症状。手足のふるえやムズムズ、不随意運動(身体が勝手に動いてしまう)などが生じる。

【高プロラクチン血症】
脳のドーパミンをブロックすることでプロラクチンというホルモンが増えてしまう事。プロラクチンは本来は産後の女性が乳汁を出すだめに分泌されるホルモンであり、これが通常の方に生じると乳房の張りや乳汁分泌などが生じ、長期的には性機能障害や骨粗しょう症、乳がんなどのリスクとなる。

このように吐き気の少ない抗うつ剤であっても別の副作用のリスクはあります。どの抗うつ剤にも一長一短ありますので、作用と副作用を総合的にみて、自分に最適な抗うつ剤を主治医と一緒に選んでいく事が大切です。

まとめ

・サインバルタの吐き気は、胃腸に存在するセロトニン3受容体が刺激されることによって生じる
・吐き気はSSRI・SNRIの30-40%程度に認められる副作用である。
・吐き気のほとんどは1~2週間で改善するため、様子をみるのも手である。
・胃薬は吐き気予防に効果があるため、併用してもよい。
・どうしても吐き気の改善が得られない場合は、別の抗うつ剤に変更するのも手である。