向精神薬(精神に作用するお薬)は、服用する事で太ってしまうものが多くあります。体重増加は向精神薬の代表的な副作用の1つです。
これは、精神科のお薬は心身をリラックスさせたり鎮静的に作用するものが多いため、代謝が落ちたり、食欲が上がりやすい事が一因です。
抗うつ剤も太ってしまう可能性のあるお薬の1つです。患者さんからも「この薬を始めてから〇kg太ってしまいました・・・。何とかなりませんか?」と相談される事は少なくありません。
サインバルタも代表的な抗うつ剤の1つですが、このサインバルタにも体重増加の副作用は生じるのでしょうか。またその頻度はどのくらいで、何か有効な予防策や対処法はあるのでしょうか。
ここでは、サインバルタと体重増加について、その原因や頻度・対処法などについて紹介していきたいと思います。
1.サインバルタは太るお薬なのか
まず、みなさんが一番知りたいところである「サインバルタって太るの?」という疑問に対する答えをみていきましょう。
結論から言うと、「サインバルタで太る可能性はある。しかしその頻度は他の抗うつ剤と比べると少なく、作用機序的に考えても太りにくい抗うつ剤であると言える」というのが答えになります。
サインバルタカプセルの添付文書を見ると、体重に関する副作用としては次のように記載されています。
・体重増加(頻度:1-5%未満)
・体重減少(頻度:1-5%未満)
サインバルタの副作用の報告を見ると、体重増加と体重減少の両方がおおよそ同程度の頻度で生じています。これは一体どういうことなのでしょうか。
実際に患者さんにサインバルタを投与した現場での印象としても、まさにこの添付文書の通りです。サインバルタを使うと太ってしまう方もいる一方で、体重がやや落ちてしまう方もいます。
サインバルタは服用によって体重が増える方もいれば落ちる方もいるため、統計的に見ると「あまり体重は変化させない薬」という位置づけになっています。ただ個々の症例で見れば、体重が増えてしまう方もいらっしゃるため、「絶対に太らないお薬」であるとは言えません。
ではサインバルタで体重増加(そして体重減少)が生じる機序について見ていきましょう。
サインバルタに限らず抗うつ剤で太ってしまう理由は、抗うつ剤にヒスタミンのはたらきをブロックしてしまう作用があるからだと考えられています。より具体的に言うとヒスタミンが作用する部位の1つであるヒスタミン1受容体(H1受容体)に蓋をしてしまい、ヒスタミンが作用できないようにしてしまうのです。これを「抗ヒスタミン作用」と言います。
サインバルタにも抗ヒスタミン作用があります。しかしその強さは他の抗うつ剤であるSSRIや三環系抗うつ剤などと比べると少ないと考えられています。
【SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)】
選択的セロトニン再取込み阻害薬。神経間に分泌されたセロトニンの吸収・分解を抑える事によってセロトニンの濃度を上げるお薬。
セロトニンの低下は落ち込みや不安を引き起こすと考えられているため、これにより気分の改善が得られる。
パキシル(パロキセチン)、ルボックス・デプロメール(フルボキサミン)、ジェイゾロフト(セルトラリン)、レクサプロ(エスシタロプラム)などがある。
【三環系抗うつ剤(TCA)】
1950年頃より使われている最古の抗うつ剤。抗うつ作用は強力だが副作用も多く、稀に命に関わるような重篤な副作用の報告もあるため、現在では限られた症例にのみ用いられている。
セロトニン(落ち込みや不安に関係)とノルアドレナリン(意欲に関係)を増やす作用を持つ。
トフラニール(イミプラミン)、アナフラニール(クロミプラミン)、トリプタノール(アミトリプチリン)、アモキサン(アモキサピン)などがある。
反面、サインバルタをはじめとするSNRIは、「意欲や活気を上げる」という特徴があり、これは、体の活動レベルを上げるため、体重を減らす方向に働きやすいという面もあります。
この二つの側面が綱引きをし、人によっては体重が増えたり減ったりするわけです。ただ、太るにせよ痩せるにせよ、その程度は軽度で多くは数キロ程度のとどまります。
つまり、「サインバルタで太るかどうか?」という問いには、
個々の体質によって太ることもあるし痩せることもある。ただ、いずれにせよその程度は軽度であり、多くは数キロの増減にとどまる。
という答えになります。
2.サインバルタの体重増加。-他抗うつ剤との比較-
サインバルタ、トレドミンといったSNRIと呼ばれる抗うつ剤は、上記の理由から、体重増加の頻度は少ないと言えます。
抗うつ剤の中でも、体重増加は少ない部類に入りますので、「太るのはどうしてもいやだ」という方はサインバルタを候補に考えてみてもいいのかもしれません。
他の抗うつ剤との比較を表にまとめてますので、参考にしてみてください。
抗うつ剤 | 体重増加 | 抗うつ剤 | 体重増加 |
(三環系)トフラニール | ++ | (SSRI)ルボックス/デプロメール | + |
(三環系)アナフラニール | ++ | (SSRI)パキシル | ++ |
(三環系)トリプタノール | +++ | (SSRI)ジェイゾロフト | + |
(三環系)ノリトレン | ++ | (SSRI)レクサプロ | + |
(三環系)アモキサン | ++ | (SNRI)サインバルタ | ± |
(四環系)テトラミド | + | (SNRI)トレドミン | ± |
(四環系)ルジオミール | ++ | (Nassa)リフレックス/レメロン | +++ |
デジレル | + | ||
ドグマチール | + |
3.太ったのは抗うつ剤のせいではないかも!?
「サインバルタを飲み始めてから太った・・・」と感じたら、副作用以外の理由を疑ってみることも必要です。
もちろん、サインバルタの副作用で太ることはありますが、サインバルタを処方されているということは、うつ状態など、つらい状態であることがほとんどだと思います。
例えば、うつ病で精神的なエネルギーが低下していて、何とかご飯は食べるけど一日中、全然動けずにいたとしたら、カロリーが全然消費されないため、太りやすくなります。
ストレスで過食がちで、ついついスナック菓子などの間食が多くなっているのであれば、それが太る原因なのかもしれません。
その体重増加は本当にサインバルタが原因なのか?改めて、見直してみましょう。
精神的に不安定なときは、自分のことを客観視できないこともありますので、そういう時は、家族に聞いてみたり主治医と相談してみてください。
その上で、サインバルタの副作用で太っているのかそれ以外の原因なのかを見極めてください。
4.サインバルタで体重が増えてしまったら?
サインバルタで体重が大きく増えることはあまり経験することではありません。しかし、可能性は0ではなく、中には困るくらい太ってしまう人もいます。
サインバルタの内服で体重が増えてしまったら、どのような方法を取ればいいでしょうか?
Ⅰ.生活習慣を見直す
まず一番大切なことは、生活習慣を見直すことです。
サインバルタの副作用で太ったとしても、規則正しい生活を送ったり、適度な運動をしたりと体の代謝を改善する行動を行えば、体重は落ちやすくなります。
抗うつ剤の体重増加というのは「体重が落ちなくなる」のではなく、からだをリラックスさせることにより体重が「落ちにくくなっている」だけです。
しかるべき行動をとれば、落ちやすくなります。
食事は規則正しく3食食べていますか?
量やバランスは大丈夫でしょうか?
間食や夜食など、太る原因になる食行動をしていませんか?
適度な運動はしていますか? 一日一回くらいは、体を動かさないといけませんよ。散歩でもいいですが、ジョギングやサイクリングなどやや強度のあるものの方が
代謝は良くなります。
Ⅱ.抗うつ剤の量を減らしてみる
もし精神状態が安定しているのであれば、減薬を考えてみるのもいいかもしれません。サインバルタ以外にも抗うつ剤を内服しているのであれば、そっちが原因かもしれませんから、どの薬から減らすかは主治医とよく相談してください。
体重増加で困っているのであれば、主治医に相談することは大切なことです。主治医は、あなたの体重増加を重く捉えていないかもしれないからです。体重が増えてどのくらい困るかは人それぞれです。
ガリガリに痩せてた男性であればちょっと体重が増えても全然困らないでしょう。でも、とてもスタイルに気を使っている若い女性にとって、体重が数キロ増えることは、とても怖いことかもしれません。
体重増加に対して主治医とあなたとの間に認識のギャップがある恐れがありますので、少なくとも自分が困っていることなのであれば、相談してみてください。
ただし、病状によっては薬の量を減らせないこともあります。相談の上でも、お薬を減らせなかった場合は、自分で勝手に減らすことはせず、主治医の判断に従ってください。
Ⅲ.別の抗うつ剤に変えてみる
別の抗うつ剤に変えてみるという手もあります。
とはいっても、ほとんどの抗うつ剤はサインバルタより体重増加が生じる可能性が高いため、難しいところではありますが・・・。
候補に挙がるのは、SSRIの中でも比較的体重増加の頻度が少ないジェイゾロフト、同じSNRIのトレドミンあたりでしょうか。
ただし、それぞれの抗うつ剤には長所と短所がありますので、体重増加だけで考えるのではなく、総合的に判断することが大切です。
やはり主治医とよく相談することが大切ですね。
まとめ
・サインバルタの副作用には、体重増加と体重減少があり、人によって体重が増えることもあるし、減ることもある。ただ、どちらにせよその程度は軽度であり、数キロの増減に収まることがほとんど。
・サインバルタは他の抗うつ剤と比べ、体重増加が生じる可能性は低い
・サインバルタで体重増加が生じた場合、まずはそれが本当にサインバルタのせいなのかをしっかりと見極め、生活習慣を改善したり、精神状態が落ち着いていれば主治医と相談して減薬したり、主治医と相談して別の抗うつ剤に変更したりすることで改善をはかる。