うつ状態とは?うつ病とはどう違うのか

診察を受けた精神科医から「うつ状態」や「抑うつ状態」という診断を受けることがあります。

「うつ状態?それってうつ病とは何が違うの?」

うつ状態だと言われ、このような疑問を感じる方は多いのではないでしょうか。診察した医師が、うつ状態とはどんな状態なのかを説明すべきなのですが、忙しい外来現場で説明が不十分になってしまうこともあるようです。

うつ病とうつ状態はどう違うのでしょうか。そしてうつ状態とはどういう状態のことを言うのでしょうか。このコラムでは、「うつ状態」の意味についてお話しします。

1.うつ状態の意味とうつ病との違い

うつ状態とは、

・気分が落ち込んでいて
・意欲や関心が喪失していて
・疲れが取れず
・考え方が後ろ向きになっている

といった精神的エネルギーが低下した状態のことを指します。これだけをみると、うつ病と何が違うのか分かりにくいのですが、うつ状態はあくまでも「状態」であり、「病名」ではないというところが大きな違いになります。

うつ病は、「うつ病という疾患」が原因でうつ状態を呈しています。またうつ病は診断基準上、少なくとも2週間症状が以上持続し、症状の数も何個か以上満たす必要があり、その症状によって日常・社会生活に支障が出ていることも条件となります。

うつ状態は、上記のような精神的エネルギーが低下している症状が出現した状態を指します。診断基準があるわけではないので、何週間以上続いている必要があるとか、症状が何個以上ないといけないとかの明確な決まりはありません。

うつ状態だから、必ずしもうつ病であるとは限りません。うつ病ではうつ状態を呈しますが、うつ病以外の様々な疾患でもうつ状態は認められます。また、病気以外の正常な反応としてうつ状態を呈することもあります。

2.例えばこんな時、うつ状態と判断されます

うつ状態は、落ち込みなどのうつ症状が出ている状態を指します。うつ病でもうつ状態を呈しますが、うつ病以外にも様々な原因があります。

病気以外でも、正常な心因反応として一時的にうつ状態になることもあります。

例えば第一志望の大学に落ちた、仕事で大きな失敗をした、というエピソードがあれば、一時的に落ち込み、やる気がなくなってしまうのは当然の反応と言えるでしょう。つらいエピソードがあって落ち込んだ経験は誰にでもあると思いますが、これらも広く考えればうつ状態に該当します。

その他でも、様々な疾患でうつ状態は出現します。

例えば躁うつ病(双極性障害)は躁とうつの波を繰り返す疾患ですが、うつの時期にある時は「うつ病」ではありません。「躁うつ病のうつ状態」となります。統合失調症でも急性期を過ぎた慢性期ではうつ状態を呈することは珍しいことではありません。

パーソナリティ障害や発達障害の方がなんらかの原因でうつ状態になることだってありますし、認知症の方がうつ状態になることもあります。更年期障害で女性ホルモンの乱れからうつ状態になることもあります。精神科以外の疾患でも内科的なホルモンバランスの崩れやおくすりの副作用でうつ状態になることもあります。

このように、うつ状態は本当に様々な状況で認められる状態なのです。

3.精神科医がうつ状態と診断する意味

うつ状態は正確には病名ではないため、厳密には「診断する」とは言えませんが、実際は診断書に「うつ状態」と書くことはあります。

「うつ状態」という診断書には、どういう意味があるのでしょうか。詳しい意味は、その診断書を発行した主治医に聞かないと分かりませんが、臨床的には次のような意味で発行することがあります。

Ⅰ.正式な診断が得られるまでの仮診断として

精神科の疾患は、どんな名医であっても初診で確定診断を付けられないことがあります。精神状態というのは日々変わるものですし、その人の考え方や昔からの経過を全て医師が把握するにはどうしても時間が必要です。

しかし、どうしても初診で診断書を出さないといけないことはあります。診断書を出さないと会社に迷惑をかけてしまうとか、診断書がないと治療上必要な休養が取れないなどです。この場合、「診断名は不明です」と書くわけにはいきません。

その場合、病名はまだ確定はしていないけど、現時点ではうつ状態が前景に立っている状態だ、という意味で「うつ状態」と診断書に書くことがあります。

Ⅱ.患者さんを守る配慮として

うつ病などの診断基準は満たさないけども、ある程度の周囲からのサポートが必要だと判断されるとき、「うつ状態」という診断書を発行することがあります。

「この人には病名は何もつきません」と書いてしまうと、正常な人としての扱いを受けることになります。正常な扱いでいい方であればいいのですが、病名はつかないけど、ある程度の周囲のサポートが必要だと判断されるケースもあります。

診断書というのは、病気の診断を伝える他、診断した患者さんを医療的に守るという役割を持っています。

うつ病の診断基準は満たさないけども、ある程度の配慮が必要だと医師が判断したとき、「正常」ではなく「うつ状態」と記載することで、「うつ病まではいかないけど、精神的ダメージがあるのである程度の配慮をお願いします」と周囲に伝えやすくなります。

4.うつ状態の治療・対応方法

うつ状態は、あくまでも状態を指しており、これのみでは病気だと診断することはできません。

健康な人でも、一時的にうつ状態になってしまうことはあります。例えば、失恋したショックで一時的に落ち込んでしまっている「うつ状態」を「これは早急に治療が必要だ」とはならないわけです。うつ状態だから、すぐに治療が必要と考える必要はありません。

正常範囲内のうつ状態であった場合、安易に治療を始めずにそのまま様子をみることは必要です。

しかし、次のようなうつ状態は治療が必要な可能性があります。

  1. うつ状態の程度が強く、日常生活に支障を来している
  2. うつ状態が長く続いている
  3. うつ状態のみならず、不眠や焦燥感など他の精神症状も出現している
  4. 明らかに病気の症状としてうつ状態が出現している など。

これらの場合は、精神療法や薬物療法が必要になることがあります。うつ状態は説明した通り、様々な病気で出現する状態像ですので、治療方針は原疾患や症状によって大きく異なります。そのため、主治医としっかり相談して治療方針は決めていきます。