うつ病の患者さんに「がんばれ!」と言うのは本当に禁句なのか?

うつ病の接し方で「がんばれ」は禁句?

「うつ病は励ましてはいけない」

「うつ病の方に頑張れという言葉は使ってはいけない」

これは一般の人にも広く知られていることではないでしょうか。きっと、みなさんもどこかで聞いたことがあると思います。私が医学生の時に読んだ精神科の医学書にも「うつ病の人を励ますことは禁忌です」と書かれていた記憶があります。

でも、これって何でダメなのでしょうか。うつ病の人には、どんな事があっても「頑張れ!」と言ってはいけないのでしょうか。

確かに「頑張れ!」という励ましの言葉が、うつ病の方に対して良くない場合があるのは確かです。しかし、「頑張れと言ってはダメ!」と表面的にただ覚えているだけだという方も多い印象を受けます。

なぜダメなのかは理解しておらず、ただ「頑張れと言われないように気を付けないと・・・」ということにばかり気を遣い過ぎてしまえば、患者さんに対して腫れ物に触るかのような不自然な接し方になってしまいます。これでは患者さんに不信感や不安感、孤独感を与えてしまうでしょう。

このコラムでは、うつ病の方になぜ「頑張れ!」と言ってはいけないのか、うつ病の方との接し方で「頑張れ!」と言う事は、どんな場合でも本当に禁句なのか、について考えてみましょう。

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1.「がんばれ!」は禁句である真意は?

まずはなぜ、うつ病の患者さんと接するとき、「頑張れ!」と励ましてはいけないと言われるようになったのかを考えてみましょう。

従来、うつ病にかかりやすい方というのは、メランコリー親和型の性格傾向を持っていることが多いと考えられていました。

メランコリー親和型とは、

・責任感が強い
・真面目で几帳面
・他者との衝突を避ける

などの性格傾向を持つ方を指します。

メランコリー親和型の性格傾向を持つ方は責任感の強さや真面目さから、仕事などのストレスを一人で抱え込みすぎてしまい、うつ病を発症してしまうことが少なくないのです。更にこのような方は、うつ病で仕事ができない状態になっても、

「甘えていないで、仕事をしないと・・・」
「私が仕事をできないせいでみんなに迷惑をかけてしまっている・・・」

など自分に厳しく考えてしまうため、ストレスはいつまでも軽減されず溜まる一方になります。

このように考えてしまう人に対して、

「もっと頑張らないと!」「気合で乗り切ろう!」

などといった更なるプレッシャーをかけてしまう意味合いを持つ声をかけてしまうと、「あぁ、やっぱり私が甘えてるだけなんだ。もっと頑張らないと・・・!!」と考えてしまい、更に自分にストレスをかけて無理をしてしまいます。しかし無理矢理頑張ろうとしても、うつ病で精神エネルギーが低下している状態では頑張れないため、更に落ち込むという悪循環に陥ります。

その結果、「頑張れと言われたのに頑張れないなんて、私は本当にダメな人間だ」などと考えてしまい、最悪の場合は自殺行動に至ってしまう事もあります。

メランコリー親和型の性格傾向の方は、このようにパターンでうつ病を悪化させていくことが非常に多かったため、これを避けるため「うつ病の方を励ましてはいけない」というルールが生まれたのです。

つまり、「うつ病の方を励ましてはいけない」「頑張れと言ってはいけない」というのは、その人が大きなストレスやプレッシャーを感じているうつ病の原因に対して、更なる努力を要求するような言葉をかけてしまうと病状が悪化してしまうという意味なのです。

「うつ病の人に頑張れと言ってはいけない」という、うつ病患者さんの接し方のルールは、二つの要素からなっていることが分かります。それは、

1.メランコリー親和型傾向の性格を持つ人に対して
2.更に追い込むようなプレッシャをかけてはいけない

という事です。

この2つが該当する場合は、確かに「頑張れ!」などと励ますことは避けるべきでしょう。

しかし逆に言えば、これらに該当しない場合や片方しか該当しない場合は、一概に「励ましてはいけない」という事にはならないのです。

2.新型うつ病では適度なプレッシャーをかけることもある

「励ましてはいけない」というのは、従来の典型的なうつ病(=メランコリー親和型のうつ病)に対しての対応として以前から言われてきたルールです。

先ほど、「うつ病患者さんに頑張れと言ってはいけない」というのは、

1.メランコリー親和型傾向の性格を持つ人に対して
2.更に追い込むようなプレッシャをかけてはいけない

の2つに該当する場合だとお話しましたが、まず1.が該当しない場合について考えてみましょう。

「メランコリー親和型傾向の性格でない人」に対しては、場合によっては適度なプレッシャーをかけた方がいい事もあります。メランコリー親和型傾向のある方に、更にプレッシャーを与えるような発言は良くありませんが、メランコリー親和型でない場合は、時には適度なプレッシャーを与える方が好ましいこともあります。

最近はメランコリー親和型のうつ病以外にも、いくつかのタイプのうつ病が報告されています。特に「新型うつ病」と呼ばれるうつ病では、時に適度なプレッシャーや励ましをかけてあげることは、治療経過を良くするためにも大切だと指摘されています。

ちなみに、新型うつ病というのは俗称で正式な医学用語ではありません。正式な医学用語でいうと、現代型うつ病・未熟型うつ病・逃避型うつ病といったうつ病が「新型うつ病」に該当します。これらのうつ病の方には、「ちょっとしんどいかもしれないけど、ここは頑張りましょう」と時に励ましながら治療をする必要があるのです。

全例ではありませんが、新型うつ病の患者さんは、他責的(自分ではなく他者が悪いと考えてしまう)や逃避的(ストレス源から過剰に逃げることでストレス回避をはかる)という傾向を持つ事があります。この場合、治療者が「良くなるまで休みましょうね」という治療スタンスだと、いつまで経っても社会と向き合わず、結果として本人も苦しい想いをすることになります。

新型うつ病の方は、安易な休職や休養は経過を長引かせてしまうことがあるのです。そのため、「無理をしない範囲でもう少し頑張ってみよう」などと指導することは珍しくありません。新型うつ病の方への接し方は「言葉は優しく、こころは厳しく」接することが大切だと言われており、時に厳しく励ますことは治療経過上も必要なのです。

もちろん、新型うつ病であれば全てのケースで休職・休養しないというわけではなく、休職・休養が必要なこともあります。

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3.「がんばれ!」と言っていいこともある

メランコリー親和型のうつ病にかかってしまった方に対して、その人が責任・義務を感じるようなことに対して「もっと頑張らないと!」とプレッシャーをかける事は好ましくありません。例えば、仕事のストレスが原因でうつ病になった人に対して、「もっと仕事に責任を持って頑張らないと!」ということは良くないなのは明らかでしょう。

しかし、これに該当しないことに対して「がんばろう!」というのは問題ないこともありますし、むしろ言った方が良いこともあります。

1.メランコリー親和型傾向の性格を持つ人に対して
2.更に追い込むようなプレッシャをかけてはいけない

この2つに該当する場合は、うつ病の方に頑張れと言ってはいけないとお話しました。ここでは2.が該当しない場合を考えてみましょう。「頑張れ!」が患者さんに更にプレッシャーをかける意味合いでなければ、「頑張れ!」と言っても良いという事です。

うつ病の治療の鉄則は「休養・安静」ですが、なかなか休養と取ることを受け入れることができない患者さんは少なくありません。「休むなんて甘えじゃないか」「他の人に迷惑をかけてしまう」と考えてしまうのです。

これに対して、「今の〇〇さんには、心を休める必要があるんです。必ず治りますから治療を一緒に頑張っていきましょう。」「今は休むことが仕事です、休むことを頑張りましょう。」と声をかけることは、問題ないでしょう。確かに「頑張れ」という言葉を使ってはいますが、これは患者さんを追い込んだり、プレッシャーを与えるような「頑張れ」ではありません。

また、うつ病の症状がひどくて「もう死にたい」と訴える患者さんに対して、「このつらい気持ちは必ず治りますから死んではいけません。今はつらいけど、絶対に死なないように頑張りましょう」と励ますことも問題はありません。これもプレッシャーを与えるような発言ではないからです。

このように「休むことを頑張ろう」「治療を頑張ろう」という言葉は、今のあなたには休養や治療が必要なんだということをしっかりと伝えるために有効であるため、使っても良い「頑張れ」だと言うことができます。

「うつ病の患者さんを励ましてはいけない」
「うつ病の患者さんに頑張れと言ってはいけない」

というのは、「頑張れ」と言う言葉自体が問題だと言う意味ではないのです。プレッシャーを与えるような「頑張れ」ではなく、患者さんを安心させてあげられるような「頑張れ」なのであれば、それは使っても問題ありません。

「頑張れはダメ」と表面的な理解をするのではなく、このような事を正しく理解していただけると、うつ病の患者さんはより安心して毎日を送ることができます。

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