うつ病は自然と治るのか

うつ病が疑われた場合は「すぐに病院を受診すべき」だと一般的には言われています。

これはもちろんその通りなのですが、一方で私たちの身体には「自然治癒力」も備わっています。

例えば風邪(急性上気道炎)も病気の1つですが、軽い風邪であれば病院を受診せずとも、自然治癒力だけで治ってしまうこともあります。

風邪とうつ病を同じものとして扱う事は出来ませんが、うつ病も自然治癒力のみで治すことは可能なのでしょうか?

今日は、「うつ病は自然と治るのか」ということについて、考えてみたいと思います。

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1.うつ病は医学的な治療をしなくても治るのか

精神科というのは他の科と比べると、まだまだ受診をしにくい科で、

「花粉症になったから耳鼻科に行こう」
「風邪を引いたから内科に行こう」

と同じ感覚ではなかなか受診できないものです。

そのため、精神的不調を感じていても精神科受診をせず、自分で治そうとする方も結構いらっしゃるのではと感じています。

そのような方はそもそも病院に来ませんので、どのような経過をたどるかといったデータはあまりありません。しかし、「自然治癒力で治す」ことは、うつ病においても可能だと考えられるのでしょうか。

結論から言ってしまえば、これは

「条件が整えば可能」

と考えられます。

ある一定の条件を満たしていれば、自分の力だけで治すことは可能でしょう。

うつ病も病気であり、病気に対して私たちの身体には「自然治癒力」が備わっています。病気は人工的な医療行為を加えなければ絶対に治らないものではなく、本来自分の力でも治していけるものです。

しかし、どんなうつ病でも自然と治すことが出来るわけではありません。一定の条件を満たしていない場合は、医学的な治療も併用した方が良いでしょう。

また、その「一定の条件を満たしているのか」の判断は自分だけではなかなかできないものです。そのため、「自然に治していけるのか」「医学的な治療も行った方が良いのか」の判断は一度は専門家(精神科医)の意見を聞くことが望ましく、そう考えると一度は病院を受診してみるのがやはり安全だと言うことになります。

2.自然治癒力のみで治せるうつ病の条件

うつ病を自然治癒力のみで治したいと希望される方は多いです。

抗うつ剤にそこまで劇的な効果があるわけではないことが明らかになり、また副作用の問題もあることから、「お薬を使わずに治したい」という要望は、近年より強まっている印象があります。

抗うつ剤を安易に使うべきでないのは事実です。しかし必要な方には使うべきなのも事実です。

「自然治癒力だけで治すことが正しい」
「抗うつ剤だけで治すことが正しい」

これらはどちらも間違いで、患者さんの個々の状態に応じて最適な治療法を柔軟に選択すべきでしょう。

では、うつ病を自然治癒力だけで治したいと希望する場合、どのような条件が整えば検討できるのを考えてみましょう。

Ⅰ.軽症である

自然に治していくにあたって、重症度が低いことは重要です。

これは身体疾患でも同じで、軽い風邪なら自然治癒力だけで治りますが、重症肺炎であれば入院して医療を受けないと命に関わってしまうことになるでしょう。

軽症の具体的な程度というのは、ざっくりと言えば「うつ病の症状はあるけど、生活は何とか送れている」ような状態を言います。

実は軽症うつ病においては、抗うつ剤とプラセボ(何の成分も入っていない偽薬)の治療成績には差がないという報告も多く、抗うつ剤が必ずしも効くわけではないのです。

つまり安易にお薬を使うのではなく、自然治癒力で治す事も選択肢の1つになります。

また軽症であれば、最低限必要な活動は何とか出来るため、自然治癒力を高めるための行動もしやすいでしょう。

逆に重症例のうつ病は、抗うつ剤とプラセボの治療成績に差がつき、抗うつ剤の方が治療成績が高くなります。重症例の場合は、うつ症状によって十分に活動することも出来ず、自然治癒力も低下してしまっていることも多いため、お薬などを使う必要性も高くなります。

Ⅱ.自然治癒力が発揮される環境にある

医療行為ではなく、自然治癒力で治そうとするのであれば当然、自然治癒力が発揮されるような環境がある程度整っていないといけません。

自然治癒力は、

  • 大きなストレスから離れている(十分な精神的休養が取れる)
  • 生活のリズムが整っている
  • 適度に身体を動かしている
  • 食事・睡眠がしっかり取れている

といった状況で高まります。

このような環境がある程度、整っているのであれば医療行為の介入がなくとも治せる可能性が高くなります。

また、ただこれらの環境が整っているだけでなく、このような自然治癒力を高めるような行動を行えるかどうかも大切です。

いくら環境が整っていたとしても、このような行動を行う気力や余裕がない場合は、やはり医療による介入が望まれるでしょう。

Ⅲ.認知の歪みが少ない

うつ病を発症してしまうと、認知(ものごとのとらえ方)に歪みが出てくることがあります。

いつもより悪い方向にものごとをとらえてしまうのです。

いつもであれば受け流せる冗談を「私に価値がないから、あのように言われてしまうのだ」と考えてしまったり、周囲の何気ない行動に対しても「私を嫌っているからあのような行動を取ったのだろう」と悪い方向に認知が行われやすい傾向があります。

認知が歪んでいるかどうかは、自分だけではなかなか気付かないものです。認知の歪みが強いのに、それに気付かず自然治癒力だけで治そうとしてしまうと、事あるごとに否定的に考えてしまいこころが傷付いてしまうため、なかなか治りません。

この認知の歪みが強い場合は、それに気づき、適切な修正を行う必要があります。

「認知の歪みがあるのかどうか」は自分ではなかなか気付きませんので、これに該当するかはやはり一度は専門家を受診することが望ましいでしょう。

Ⅳ.自分のこころの休め方をある程度理解している

こころに安静を与える方法は、人によって大きく異なります。

「ケーキを食べている時が一番幸せ」と感じる人もいれば、「ケーキなんて見るだけで吐き気がする」という人もいます。

身体を安静にする方法は、万人に共通です。風邪を引いたときは、食事や水分をしっかりと取り、暖かくして寝るという意見に異論がある人はいないでしょう。

しかしこころを安静にする方法は人によって異なるのです。

そのため、自分のこころを安静にする方法が分かっていないというケースが少なからずあります。

自然治癒力のみで治そうとするのであれば、自分のこころの休め方をある程度把握出来ている必要があります。

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3.自然治癒力で治したいと思っても一度は病院を受診すべき

ここまでのお話から、例え自然治癒力のみで治したいと思っても、一度は病院を受診してから判断することが安全だと言えます。

なぜならば、精神疾患というのは症状が見えにくいため「自分の状態は自然治癒力のみで治せるものなのか」の判断を自分自身で行いにくいからです。

風邪であれば、自分の熱や咳・頭痛といった分かりやすい症状からある程度自分の状態を判断できます。

しかしうつ病の場合、「自分に認知の歪みがあるのか」などといった判断はなかなか自分一人ではできません。認知の歪みが生じている方のほとんどは、自分に認知の歪みが生じていることに気付いていません。

また身体疾患では、身体を安静にする方法は万人にとって共通の方法が多いため、そのやり方を間違えることはそうそうありません。しかし、精神疾患ではこころを安静にする方法は人によって異なるため、自分のこころを安静にする方法をよくわかっておらず、やり方を間違えてしまうという危険もあります。

そのため、一度精神科を受診して、「自然治癒力のみで治せるのか」の判断を専門家にしてもらってから、治療方針を考えるのが安全な方法でしょう。

4.自然治癒力のみで治したうつ病患者さんの一例

うつ病が疑われるけど、精神科を受診したがらない方にその理由を聞くと、「精神科に行ったら必ずお薬を飲まされるから」と答えることがあります。

しかしそんなことはありません。

お薬の必要性が高ければもちろん私たちはお薬を勧めます。しかしお薬以外の方法でも治療できそうであれば、お薬以外の方法も提案します。

私が診察させて頂いた患者さんで、自然治癒力だけで治した例を一例紹介させて頂きます(プライバシーのため、多少の改変をしています)。

30代のAさん(男性)という、営業職の仕事をしている方がいました。責任感があって社交的で、社内はもちろん取引先からの評判もとても良い方でした。

そんなAさんですが、転勤にて本社異動となったのをきっかけに徐々に疲労感や不眠が出現するようになりました。また仕事で小さなミスが目立つようになり、仕事中もボーッとすることが多くなりました。

心配した上司が職場の健康相談室に連れて行ったところ、産業医から「うつ病の疑いがあるから精神科を受診しなさい」と指示されました。

Aさんは「精神科なんて行ったらお薬漬けにされてしまう」と最初は受診を拒みましたが、会社からの強い命令もあり、しぶしぶ私の元を受診しました。

診察を行ったところ、Aさんはうつ病の診断を満たすと考えられました。それを伝えるとAさんは「お薬は飲みたくない」と訴え、「自然に治せないか」と相談されました。

ここで本人の希望に反して抗うつ剤を無理矢理投与することは、ノセボ効果が出てしまう可能性が強いと考えられました。

(ノセボ効果とは、お薬に害があると信じ込んで飲めば、実際に副作用が出やすくなってしまうこと)

Aさんはうつ病ではありましたが、出勤もなんとか出来ており、仕事のミスは最近目立つものの、大きな支障までには至っておらず軽症と考えられました。

また幸いなことに職場はメンタルヘルスに理解があり、必要があれば「休職」は可能だということでした。

お薬を使わない代わりに、自然治癒力を高めるような

・規則正しい生活をする
・1日1回は外に出て身体を動かす
・三食規則正しく食べる

などの行動が出来そうかと聞くと、「やれると思います」との返答でした。またこれらの行動が十分にできない時は、改めて抗うつ剤の服薬も検討すると言って頂きました。

ここまで話したところでAさんは、「最近の自分がうつ病の症状に当てはまるというのは確かに感じている」と、今の自分の精神状態が健常時とは違うことは理解していることを話してくれました。

また、自分がうつ病だと診断されることに正直良い気はしないが、なんらかの対処はしないといけないという意識も持っていることを打ち明けてくれました。

診察で認知の歪みが強くないことも確認し、職場のメンタルヘルス担当の方も交えて相談し、抗うつ剤は使わずに、休職の上自然治癒力で治るのを待つこととしました。

休職が始まると、最初は生活の変化に戸惑い、リズムが多少崩れてしまうことはありましたが、「先生はお薬を使わないで欲しいという私の希望を聞いてくださったんだから」と言い、指示通りの自然治癒力が高まる生活を心がけてくれました。

経過は良好で、2週間もすると

「趣味の登山にいってみたいとまた思うようになってきた」
「職場の同僚とご飯でも行ってみようと思う」

という訴えが聞かれました。そして実際に、登山や食事も無理なく行くことが出来、まずまず楽しむことが出来たようでした。

その後も精神状態は安定していたため休職後1ヶ月半で職場復帰としましたが、復帰後も悪化することはなく、異動前と同じように精力的に仕事ができるようになりました。

Aさんはその後、「自然治癒力だけで治せたことに大きな自信を持てた」とお話してくれました。また「精神疾患は薬漬けにされて治らない、という誤解を持っていたが、薬も1つの方法だけど様々な治療方法がある事が分かった」と言ってくれました。

Aさんは自身の経験からメンタルヘルスに強い関心を持つようになり、メンタルヘルスの資格を取って、職場のメンタルヘルス向上に貢献したいと最後の診察でおっしゃってくれました。

医者として、医学的な治療をせず自然に経過を見ていくというのは、正直言えば心配もありました。自然治癒力のみで治せるような環境が整っている方のいうのは実際はそこまで多くはありません。

しかしAさんを治療した経験からは、自然治癒力の有効さを改めて感じます。

5.うつ病を治療しないとどうなるかをみた研究

医学的な治療をしないうつ病患者さんがどうなるのかを見た研究というのは少ないのですが、ないわけではありません。

例えば、抗うつ剤の多くは比較対象としてプラセボ(何の成分も入っていない偽薬)を用いますが、プラセボで治療した群も時間が経つにつれて一定の率でうつ病は改善していきます。これはプラセボ効果もあるでしょうが、自然治癒力で治っているという事も考えられるでしょう。

医学的な治療をしないうつ病患者さんの経過を追った研究を1つ紹介します。

Posternakらは、未治療のうつ病患者さんと、治療介入したうつ病患者さんをそれぞれ15年間追跡して比較しました。

すると、未治療群では中央値13週で回復し、一方で治療介入群では中央値23週で回復していました。

また、未治療群と治療介入群の回復率を比較すると、

回復率 1か月後 2か月後 3か月後 6か月後 1年後 2年後
未治療群 23% 37% 52% 67% 85% 89%
治療介入群 15% 26% 38% 52% 70% 75%

と未治療群の方が高い回復率となりました。

この研究結果だけを見ると、「医学的な治療はむしろ害なのではないか」と感じてしまうかもしれません。

しかし「病院を受診しないで様子を見よう」と思うような未治療群の人はそもそも軽症である可能性が高く、また反対に病院を受診する方は重症例も含んでいることが考えられます。

軽症うつ病の改善率と、重症うつ病の改善率を比較すれば、前者の方が改善率が高いのは当然です。両者のうつ病の重症度が異なる可能性があるため、この結果だけで「医学的な治療は意味がない」とは言えません。

しかし、この研究で注目すべき点は、治療介入をしなくても自然治癒力だけで治っている例が決して少なくないことです。

病気というとつい私たちは医学的に治療をしてしまおうとしがちですが、「自然治癒力」が本来備わっていることを忘れてはいけません。

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