うつ病は本当に「こころの風邪」なのか?

うつ病は心の風邪なのか

少し前に「うつ病はこころの風邪です」というキャッチコピーが大々的に使われ、大きな注目を浴びました。

このキャッチコピーは世間の「うつ病」に対する認知度を上げることに大きく貢献しました。また、うつ病は「誰にでも生じうる身近な病気なのだ」という認識を助け、このキャッチコピーを機にうつ病について理解を深めて頂けた方も増えたと感じます。

しかし一方でこのキャッチコピーは、「うつ病は風邪のようにかんたんに治るものではない」「うつ病が風邪のように軽い病気だと誤解されてしまう」という批判もありました。

「うつ病はこころの風邪」は、キャッチコピーのゴロの良さやイメージのしやすさもあり、世間にうつ病という病気を認知させるために大きく貢献したことは間違いありません。

でも、うつ病って本当にこころの風邪なのでしょうか。

今日は、「うつ病はこころの風邪」という表現について、思うところを書いてみたいと思います。

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1.うつ病が風邪と共通している点

「うつ病はこころの風邪です」

このキャッチコピーの意図するところは、「風邪のように、誰でもかかる可能性のある身近な病気なんだよ」というところだと思います。

うつ病は特殊な病気、一部のおかしい人がかかる病気といった偏見が根強く残っていた当時、まずは世間に精神科に対する正しい理解をしてもらう必要性がありました。

最近になってこそ、精神疾患や精神科に対する誤解や偏見は少なくなりましたが、一昔前は精神疾患は大きな偏見を持たれていたのです。

「精神科は頭のおかしい人間が行くところ」
「身内から精神疾患が出るのは一族の恥」

このような認識が普通に世間でまかり通ってたと聞きます。実際、今でも特にご年配の方などでは、精神疾患に誤解と偏見を持っている方が少なくありません。悲しい事ですが、年配の方が今でも精神科病院のことを「きちがい病院」などと呼んだりするのを聞きます。これはそのご年配の方が悪いということではなく、世間がそのような誤解と偏見を普通に持っていた時代があるという事を表していると感じます(もちろん、すべてのご年配の方がこのような偏見を持っているわけではありません)。

この誤解を解くため、そしてうつ病を「身近な病気」「普通にかかりうる病気」だという正しい認識を持ってもらいたくて作られたのが「こころの風邪」という表現なのでしょう。

風邪は、誰でも一回はかかったことがある、代表的な身近な病気だと言えます。

「うつ病は風邪と同じように誰でもかかりうる病気なのですよ」「特別な人だけがかかる病気ではないんですよ」という事が、このキャッチコピーの真意です。

特殊な人がかかる病気ではなく、誰でもかかってしまう可能性のある病気

こういう意味で、「うつ病はこころの風邪です」という表現は正しいでしょう。

そして、このキャッチコピーは、うつ病と言う疾患を世間に認知させるために大きな貢献をしてくれたことは間違いありません。

2.うつ病が風邪と異なる点

しかし一方で、「うつ病はこころの風邪」とは必ずしも言えない側面もあります。

一般的に風邪は軽症であることが多く、病院に行かなくても自然と治ってしまうことも少なくありません。使われるお薬も基本的には、対症療法と呼ばれる症状を抑える作用を持つお薬が中心です。

中には重症化して肺炎になってしまう例もあるし、風邪で死亡してしまうことも稀ながらあります。しかし世間の一般的なイメージとしては、「風邪は軽い病気」「数日で自然と治る病気」というものでしょう。

「うつ病はこころの風邪」というキャッチコピーが批判をされる理由の一つに「風邪のように軽い病気」「風邪のように簡単に治る病気」という誤解を与えてしまいかねない点が挙げられます。

「風邪って放っておいても治るよね」
「風邪なんて気合で治せるよ」
「風邪って数日で治る病気だよね」

このようなイメージを持っている方が「うつ病はこころの風邪」というキャッチコピーを聞けば、うつ病も同じように軽いものだと考えてしまう危険があるという事です。

もちろん、うつ病はこのように簡単に考えて良い病気ではありません。

風邪の症状ももちろんつらいとは思いますが、うつ病の症状は落ち込みや不安・絶望感、意欲低下などが長期間続き、生活に大きな支障を来たすものです。また一回治ったと思っても、再発例も高いという特徴もあります。

最悪の場合は自殺に至ることもあるということを考えれば、重症度を風邪と同列に考えるのはちょっと無理があるでしょう。実際、毎年約3万人いる日本の自殺者の中の少なくない率がうつ病であると報告されています。

風邪で死亡することも極稀にありえるものの、その頻度はうつ病と明らかに異なるでしょう。

重症度という意味で考えれば、一般的な風邪とうつ病というものは異なり、「うつ病はこころの風邪」という表現は正しいとは言えません。

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3.うつ病はこころの風邪と言っていいのか?

「うつ病はこころの風邪」という表現は、うつ病の世間に対する認知度を上げてくれた一方で、「うつ病で風邪くらいの軽い病気なんだ」だと誤解される言葉にもなってしまいました。

そう考えると、「うつ病はこころの風邪」という表現は、一部正解で一部間違いな表現だと言うことになります。

またこのキャッチコピーを作成したのが製薬会社だというのも批判の対象になってしまいました。製薬会社はお薬を売ることで利益を得ています。そのため、「抗うつ剤をたくさん売りたいからこんなキャッチコピーを考えたのだろう」と疑われてしまったのです。

その結果、最初は広く受け入れられた「うつ病はこころの風邪」は、最近ではほとんど見かけることはなくなりました。

4.では、うつ病はこころの何なのか?

うつ病は誰でもかかりうる病気です。そういう意味では「こころの風邪」という表現は的を得た表現です。

しかし多くの風邪と同じのように放っておいて治るものではありません。そして、多くの風邪のように、すぐに治るものでもありません。ほとんどが自然と治癒する風邪と、難治化・重症化することも少なくないうつ病を同じ扱いにするのは無理があります。

風邪のように普通にかかりうる病気ではあるけども、風邪と違ってかんたんに治る病気ではなく放置しておくと危険な疾患ですので、そのような身体疾患に例えられるのがより適切でしょう。

これを満たす身体疾患を考えると、「こころの風邪」よりも

「こころの骨折」

などといった表現の方が近いかもしれません。

骨折は、誰でも受傷する可能性のあるものです。しかしそのまま放っておくのは危険で、骨折したら適切な治療をしなければいけません。折れたまま放置していたら歩けなくなったり、動きが不自由になったりと生活に大きな支障を来たすようになってしまいます。また、骨折の部位が悪い(骨盤骨折、頭がい骨骨折など)と命に関わることもあります。

そうは言っても、うつ病と骨折もまったく同じものではありませんので、これも完璧にうつ病を言い表した表現ではありません。また、これだとなんかゴロが悪くて世間に広まらなさそうですね・・・。

少なくともうつ病は、

  • 風邪のように誰にでもかかる可能性のある病気である
  • しかし風邪と違って、放置しておくのは危険で適切な治療が必要な病気である
  • 風邪と違って、適切な治療をしないと長期化・難治化したり、命に関わる可能性もある病気である

というのが正しい認識になります。

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