意外と知られていないことなのですが、うつ病の症状のひとつに「痛み」があります。約6割のうつ病患者さんが何らかの痛みを併発しており、痛みはうつ病に多い症状なのです。
そして痛みの中で最も多いのが「頭痛」です。
内科や整形外科で調べても原因が分からない頭痛は、うつ病などの精神疾患が原因の可能性があります。
ここでは、うつ病で頭痛が起こる仕組み、うつ病の頭痛の特徴、そして治療法などを紹介していきます。
１．うつ病で頭痛が起こる機序
明確には解明されてないところもあるのですが、
「モノアミンが少なくなると、痛みを感じやすくなるから」と考えられています。
うつ病の発症は、脳内のモノアミンが少なくなることが一因だと言われています（モノアミン仮説）。
モノアミンとはセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの物質の総称で、
これらが少なくなると、落ち込んだりやる気が出なくなったりするのです。
モノアミンは気分だけでなく、「痛みの抑制」にも関わっていることが分かっています。
「下行性疼痛抑制系」という神経があるのですが、これは痛みを抑制するはたらきを持つ神経です。
そしてこの神経に関わっているのもモノアミンなのです。
モノアミン、その中でも特にノルアドレナリンが放出されると、痛みを和らげる作用があります。
うつ病で痛みが生じるのは、モノアミンの減少によって気分の低下だけでなく
痛みを抑える力も低下してしまうためなのです。
２．うつ病の頭痛の特徴
ある統計では、うつ病患者さんの約6割に何らかの痛みが伴っていると言われています。
痛みの中でも特に多いのが頭痛ですが、
その他にも腰痛、肩痛、胃痛、歯痛、舌痛など、あらゆる部位に痛みが起こり得ます。
実はうつ病の頭痛には、あまり特徴がありません。
特徴に乏しいのが特徴だと言ってもいいくらいで、「こういう痛みがうつ病の痛みです」といいずらく、
どんな痛みでも起きえます。
そのなかでも多いのは「鈍く慢性的な痛み」です。
刺されるような鋭い痛みよりは鈍い痛みが多く、
一時的に強く痛むよりは、長時間ジリジリ痛むようなことが多いように感じます。
３．うつ病で頭痛が起きたときの治療法
うつ病での頭痛が出現した時は、どのような治療法があるのでしょうか。
Ⅰ．うつ病を治せば痛みも治る
当たり前のことですが、うつ病が原因で痛みが出ているわけですから、
うつ病を治すことが大原則です。
目先の痛みを治すことだけにとらわれすぎず、
うつ病の治療をしっかりとしましょう。
うつ病の経過が良くなれば、痛みは自然と改善していきます。
Ⅱ．生活習慣を規則正しくする、運動をする
みなさん見落としがちな対処法ですが、これが結構有効です。
日中はなるべく身体を起こして、ベッドから離れて少しでも活動する。
散歩などでもいいので、身体を適度に動かす。
夜にはしっかりとお風呂に入って温まる。
これだけでも、痛みはだいぶ改善しますよ。
Ⅲ．痛みに効果的な抗うつ剤を使う
うつ病に伴う痛みが出現した場合、多くのケースではこの方法がとられます。
上で説明したように、ノルアドレナリンが痛みの抑制に大きく関わっているため、
ノルアドレナリンを増やす作用の強い抗うつ剤が痛みの改善には効果的です。
具体的には、第一選択としてSNRIが使われることが多いです。
サインバルタ、トレドミンなどですね。
これらはノルアドレナリンを増やすことに優れた抗うつ剤であり、
痛みの改善に定評のあるおくすりです。
また、Nassaもノルアドレナリンを増やす作用があるため、検討してもよいでしょう。
リフレックスやレメロンなどですね。
Nassaを使う場合は、眠気と体重増加の副作用が多いので気を付けてください。
SNRIやNassaがあまり効かなかった場合、次に検討されるのは「三環系抗うつ剤」です。
三環系抗うつ剤は副作用も多いため、主治医と相談しながら慎重に検討してください。
三環系の中でもノルアドレナリンへの作用が強い
ノリトレンやトフラニールが使われることが多いようです。
Ⅳ．筋弛緩薬を使う
筋肉の過緊張によって頭痛が起きている場合は、筋肉を和らげてあげるおくすりが有効なことがあります。
うつ病で精神的に疲弊している方は、時に筋緊張性の頭痛を起こします。
筋弛緩作用に優れるデパスやレキソタン、セルシンなどのベンゾジアゼピン系がよく用いられます。
ただしベンゾジアゼピン系はしばしば依存が問題となるので、漫然と長期間使用してはいけません。
主治医の指示に従い、勝手に増減せずに服薬してください。
Ⅴ．鎮痛剤を使う
補助的に、一般的な鎮痛剤を併用することもあります。
有名なものでいうとカロナールやロキソニン、ボルタレンなどです。
うつ病の痛みに効くというよりは、痛み全般に効くおくすりですが、
Ⅲ、Ⅳの方法でも痛みが十分に治まらない場合は検討することがあります。
一般的に鎮痛剤は胃腸を荒らしますので、長期間や大量の服薬はしないように気を付けましょう。
どうしても長期になりそうな時は、胃薬などを併用して胃腸を保護してくださいね。