うつ病は原因にはどんなものがあるのでしょうか。
様々な原因が合わさって発症すると考えられていますが、うつ病の原因はまだ完全には解明されていません。うつ病は、何かひとつの特定の原因があるというものではなく、いくつのもの要因が合わさって発症するというのが今の医学の見解です。
うつ病の原因のひとつに「性格」があります。これは「物事のとらえ方」と言ってもいいかもしれません。
ある出来事に遭遇した時、性格によって受け取り方はそれぞれ異なります。例えば何かに失敗してしまった時、「良い経験になった」と前向きに捉える人もいれば、「自分はダメだ。生きている価値がない」とひどく落ち込んでしまう人もいます。
どちらの方がうつ病になりやすいかと言えば、明らかに後者でしょう。うつ病の原因のひとつとして、性格(ものごとのとらえ方)は大きく関わっています。
ここではうつ病になりやすい性格をみていき、そのような性格の方はどのようにしてうつ病を予防すればいいのかも考えてみましょう。
1.うつ病になりやすい性格とは
こころの病気は、元々の性格が影響していることが少なくありません。これを「病前性格」と言います。
同じ出来事であっても、「楽しい」と受け取る人もいれば「つらい、苦しい」と受け取る人もいてそれぞれの性格によって受け取り方は大きく異なります。
うつ病には、うつ病になりやすい病前性格が指摘されています。
典型的なうつ病の患者さんに多い病前性格として、「メランコリー親和型人格」や「執着気質」などが挙げられます。
メランコリー親和型人格とは
ドイツの精神科医であるテレンバッハが提唱。秩序正しく、几帳面。
仕事などでも正確、綿密、勤勉で責任感が強く、
対人関係においては、他人との衝突を避け、他人に合わせようとする
道徳的には、法を守り、秩序を乱すものを嫌う
執着気質とは
日本の精神科医である下田光造氏が提唱。
一度起こった感情が冷めにくく、持続・増強しやすい傾向を持つ。「几帳面さ」「熱中性」を主として、仕事熱心、凝り性、徹底的、正直、強い正義感、ごまかさない
などの特徴がみられる。世間的には模範生として信頼されることが多い。
どちらも似ていますね。
真面目で熱心、責任感があり、人の道に外れるような事をする人は許せないという性格です。世間一般的には、「優等生」「常識人」に当たる人たちで、別に悪い性格というわけではありません。
むしろ、他者の事を考え、自分を犠牲にしてまで任務を全うするため、「すごくいい人」「信頼をおける人」です。
ですが、責任を自分一人で抱え込んだり、なんでも自分のせいにしてしまったり、自分を犠牲にしすぎて傷ついてしまう事も多い性格でもあります。ルールや秩序を頑なに守る反面で、融通が効かずに環境変化にも弱い一面もあります。
このような性格傾向を持つ方は、うつ病になりやすいと言われています。
2.「新型うつ病」になりやすい性格も同じ??
最近は「新型うつ病」という言葉をよく聞くようになりました。実は「新型うつ病」というのはメディアが作った造語であり、正式な医療用語ではありません。
医療用語としては「逃避型うつ病」「未熟型うつ病」と呼ばれるものが新型うつ病に相当する正式な病名です非定型うつ病も新型うつ病だと考える専門家もいます)。
しかし、「新型うつ病」という用語が一般には浸透していますので、ここでは分かりやすさを重視して、「新型うつ病」という呼び方で書かせていただきます。
近年、従来のうつ病とは異なるタイプのうつ病が増えてきており、これらは「新型うつ病」と呼ばれていいます。
従来うつ病は、落ち込みや疲労感、無気力などが持続的に続き、患者さんは、自分のせいで周りに迷惑をかけて申し訳ないと苦しみ、自分がうつ病だという事を受け入れない事が多いのですが、新型うつ病は少し違います。
しかし、新型うつ病は、「気分反応性」という側面を持ちます。
落ち込みや疲労感はあるものの、「遊び」「趣味」などの楽しい事があると一転して元気になります。従来のうつ病では不眠や食欲低下が目立ちますが、新型うつ病では過眠過食が多くみられます。
新型うつ病の患者さんは病気に対しての受け入れも良く、自らうつ病の診断を希望して来院する事もあります。
この2つのうつ病には他にも多くの相違点があるのですが、その説明はこのコラムの趣旨とはずれますので、別のコラムに譲ります。
とにかく、従来のうつ病と大きく異なるタイプのうつ病である「新型うつ病」が近年増加していますが、この新型うつ病の病前性格は、従来のうつ病の病前性格とはまったく異なる事が多いようです。
具体的には、新型うつ病の病前性格としては「ディスチミア親和型性格」が典型的です。
ディスチミア親和型性格とは
自己愛が強く、漠然とした自分に対する万能感を持つ。
他罰的で、責任感に乏しく逃避的。秩序や規則にも抵抗を示す。一方で他人から良くみられたいという気持ちが強く、他人の評価を過剰に気にし、
人間関係も過敏で傷つきやすい。
従来のうつ病も、新型うつ病も、どちらもうつ病の診断基準を満たすのですが、その細かい症状や病前性格は大きく異なるのです。
3.うつ病を予防するためには
このコラムを読んで、「うつ病の病前性格に当てはまるところが多い」と感じる方はうつ病を発症する可能性が一般より高めである可能性があります。
うつ病にまで至らなくても、過剰に自分を責めたり、ものごとを否定的に考えてしまいがちのため、日常生活の中でつらいことも多いのではないでしょうか。もし、自分の性格で不自由さを感じているのであれば、早めに対策を取りましょう。
病前性格がうつ病の一因である場合、性格を「修正していく」事が治療になります。
ちなみにメランコリー親和型性格は別に悪い性格ではありません。秩序を守り、責任感があり、真面目で熱心。むしろ素晴らしい性格ですよね。
だから、性格を全て治す必要なんてまったくありません。その性格の素晴らしい部分はそのままでいいのです。
けれども、その性格の一部があなたを苦しめているのも事実です。その苦しめている部分はどこなのかを見出し、その点を少しずつ修正していく事が目標です。
多くの方は、
〇 真面目で熱心「すぎる」
〇 自分を犠牲にし「すぎる」
〇 他者に気を遣い「すぎる」
ことが自分を苦しめてしまう原因です。
これらを、
〇 自分が壊れない程度の真面目・熱心さ
〇 自分が壊れない程度の自己犠牲
〇 自分が壊れない程度の他者への気遣い
に修正できればいいのです。
これは、言葉で言うのは簡単なのですが、実際にやるとなるとなかなか大変です。自分で客観的に自分の性格を分析して修正できれば一番楽ですが、自分の事は自分では分からないものです。
そのため、精神科医や臨床心理士など、専門家と相談しながら時間をかけてやっていく事が理想です。
性格を修正していく作業は、根気と覚悟が必要です。今までずっとこの性格で生きてきたのに、それを変えるわけですから当然です。時間もかかります。最低でも半年はかかるという気持ちで取り組みましょう。
また、一部とはいえ性格を変えるという事は、今までの自分の一部を否定するという事です。これは必要なことだと頭では理解していたとしても、抵抗があるのが普通です。
人間は本質的に変化を恐れる生き物であり、元へ元へと戻ってしまいやすい傾向があります。意識して、適切なフォローをもらいながらやっていかないとすぐに元の性格に戻ってしまいます。
性格を少しずつでも「修正したい」と感じる方は、診察やカウンセリングで専門家に相談し、根気と覚悟を持ってじっくり取り組みましょう。
4.性格以外にはどんな原因がある?
このコラムでは、うつ病の原因のひとつとして、「性格」に焦点を当てました。病前性格がうつ病発症の一因であることは間違いありません。しかし、その他にも原因はあります。
具体的には、
〇 遺伝
〇 ストレス(環境変化などの外的要因)
〇 脳内の変化(神経伝達物質や神経など)
なども関係すると言われています(これらについては、別のコラムで詳しくお話します)。
また、うつ病は「原因なく起こる」事もあります。明らかなストレスも認めず、親族にうつ病の家族歴も無く、性格もうつ病になりにくい性格なのに、うつ病になってしまう事だってあるのです。
15人に1人が生涯に1回はうつ病を経験すると言われており、うつ病は誰にでも起こりうる疾患なのです。