5.喉が詰まる感じが生じたらどうしたらいい?
喉が詰まる感じが生じてしまい、一向に改善しない場合は、どのような対処法を取ればいいでしょうか。
もちろん正解は「病院を受診しましょう」なのですが、それ以外にも症状を軽減させるために自分で行える対処法や、病院受診の手順などを紹介させていただきます。
Ⅰ.ストレスの軽減を工夫してみよう
まずは生活習慣の改善でストレスを出来るだけ軽減できないか試してみましょう。
ストレスをゼロにする事は出来ませんが、意外と工夫次第で小さくする事は出来るものです。
例えば、
- 規則正しい生活をする
- なるべくダラダラと残業しないようにする
- 苦手な人とあまり積極的にかかわらないようにする
- あまり乗り気でない集まりは断る
- しっかりと睡眠をとる
- 休日にストレス解消となる事をする
などなど、自分が出来る範囲で構いませんので、少しでもストレスを軽減できるように生活の工夫をしてみましょう。
Ⅱ.症状の特徴をとらえよう
喉の詰まる感じが続いていたら、
- どのような時に悪くなるのか
- その他に気になる症状はあるのか
など、その症状について詳しく分析してみましょう。あなたにどのような症状がどう生じているのかはあなたにしか分かりません。
もし喉の詰まる感じの原因がヒステリー球であれば、ストレスの軽減とともに症状も軽減していく傾向にあり、このストレスと症状との関連性も正しい診断のための一歩となります。
反対にストレスと症状が全く関連しない場合は、ヒステリー球のような精神的原因ではなく、身体的原因である可能性が高くなります。
それをしっかりと見極めて医療者に伝える事は、治療の精度を高めるためにとても大切になります。
Ⅲ.まずは身体疾患の除外から
喉の詰まる感じが続く時、「何科を受診したらいいのか」を悩まれるかもしれません。
- まずは耳鼻咽喉科で喉を診てもらったり内科で甲状腺を診てもらった方がいいのか
- 精神科・心療内科でストレス性かを診てもらった方がいいのか
どちらの科を受診したらいいのでしょうか。
喉の詰まる感じが続く場合、まず受診すべきは内科・耳鼻咽喉科になります。
なぜならば、喉の違和感の多くはヒステリー球であるものの、実際に喉に何らかの疾患が生じている可能性が絶対ないとは言えないからです。
・喉に何らかの器質的疾患(ガンなど)が生じている
・ヒステリー球
この2つは治療法が全く異なります。
そして多くの場合、器質的疾患は検査にて診断が可能です。対してヒステリー球などの精神的な原因で生じる疾患は、確実に診断できる検査はありません。
そのため、まずは器質的疾患の有無を確認した方が、精度の高い診断が出来るのです。
Ⅳ.身体疾患がなかったら精神科・心療内科へ
もし内科・耳鼻咽喉科を受診して「特に喉に異常はありません」と言われたら、次に精神的な原因の可能性を考えます。
内科・耳鼻科の先生もヒステリー球についてはご存知ですから、「ストレスで喉の違和感が出る事もありますから、精神科・心療内科を受診されたらいかがでしょうか」と提案される事もあります。
精神科・心療内科を受診する際も、器質的疾患がない事を明確にするため、内科・耳鼻科の先生から頂いた紹介状や検査結果などがあると尚良いでしょう。
6.精神科・心療内科で行われるヒステリー球の治療法
喉の詰まる感じに対して耳鼻咽喉科や内科で異常がなく、「精神的な原因でしょう」と考えられた場合、精神科・心療内科ではどのような治療が行われるのでしょうか。
実際の治療は患者様の症状や重症度によって異なるため、主治医の指示に従って頂きたいのですが、ここでは代表的な治療法を紹介させて頂きます。
1.心身を安定させる軽減させる生活習慣・環境調整を
ヒステリー球は迷走神経をはじめとした自律神経のバランスが失調する事で発症します。
自律神経は心身の体調の影響を受けやすい神経であり、心身の状態が不安定だと乱れやすくなります。つまり身体が疲れていたり、こころが疲れていると乱れやすいという事です。
という事は、自律神経のバランスを整えるためには、心身の体調を良好に保つ事が基本になります。
身体の状態を安定させるためには、
- 夜はしっかり睡眠を取る
- 食事をしっかり食べて栄養を取る
- 適度に身体を動かす
といった事が大切になります。反対に、
- 昼夜逆転している。睡眠不足が続いている
- 食事時間が不規則だったり栄養バランスが偏っている
- 一日中、家の中に引きこもっている
といった生活習慣だと身体の状態は安定せず、ヒステリー球も改善しにくくなります。
また精神の状態を安定させるには、「安心を感じやすい環境を整える」必要があります。
自分が心から落ち着ける場所であったり、心許せる空間を多く作る事であなたのこころは安心しやすくなります。
反対に常に緊張していたりビクビクしてしまうような環境に身を置いているとこころが休まりませんからヒステリー球も改善しにくいでしょう。
自分にとって完璧に理想となる環境を作るのは難しいかもしれません。しかし出来る範囲で工夫をし、少しでも心身が安定するような環境を作る努力をする事はヒステリー球の治療の基本としてとても重要な事です。
このように生活習慣・環境に問題がないかを確認し、問題がある場合は改善策を提案していくという治療が行われます。
2.必要あればお薬を検討する
ヒステリー球に対する特効薬はありません。
そのため、ストレス性の喉のつまりが生じた際、必ずお薬を使わないといけないということはありません。
しかし精神状態の悪化でヒステリー球が生じているのであれば、精神状態を安定させてくれるお薬は間接的にヒステリー球を改善させてくれます。
多くの場合、ヒステリー球は「不安」「心配」によって生じます。そのため不安が強い方や心配性の方はヒステリー球を発症しやすい傾向にあります。
この場合、不安を和らげるような作用を持つお薬が効果的です。
具体的には、
- 抗うつ剤(セロトニンを増やす作用の強いもの)
- 抗不安薬(いわゆる精神安定剤)
- 漢方薬
などが用いられます。
抗うつ剤は一般的にはうつ病に使うお薬というイメージがあるかもしれませんが、実は不安改善にも効果的です。抗うつ剤のうち、特に「セロトニン」という物質を増やす作用が強いものが用いられます。
セロトニンは落ち込みの他、不安にも強く関連していると考えられているためです。
具体的には、「SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)」というお薬を使うのが一般的で、商品名でいうと、ルボックス・デプロメール(一般名:フルボキサミン)、パキシル(一般名:パロキセチン)、ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)、レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)などがあります。
抗不安薬は脳神経のGABA-A受容体を刺激することにより、神経のはたらきを穏やかにするお薬で、
- 抗不安作用(不安を和らげる)
- 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)
- 催眠作用(眠気を催す)
- 抗けいれん作用(けいれんを抑える)
といった作用を持ちます。即効性があるため使い勝手が良い反面で、眠気やふらつきといった副作用が生じる可能性があります。
また高用量の服用を長期間続けてしまうと、耐性(お薬が効きにくくなってくる)・依存性(お薬をやめられなくなってしまう)が生じるリスクもあります。
漢方薬の中には、安神作用(精神を落ち着かせる作用)を持つものがあり、しばしばヒステリー球の治療に用いられます。
用いられる漢方薬は患者様の症状の強さや「証」(漢方医学でいう体質のような概念)によって異なりますが、
- 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
- 柴朴湯(さいぼくとう)
などがよく用いられます。
3.精神療法で不安をコントロールできる考え方を身に着ける
不安が喉の詰まりを引き起こしている場合、自分で不安をコントロールできるようになれば喉の詰まりも生じにくくなります。
「不安な気持ちを自分でコントロールするなんて無理だ」と感じるかもしれませんが、そんな事はありません。
「不安」は私たちの感情の1つです。そして感情というものは私たち自身が作り出しているものです。
ある事象に対して、「これは不安だ」と判断しているのは他ならぬ自分自身であり、「不安な事象」というものがあるわけではありません。
例えば明日みんなの前で発表するとします。この時、確かに存在しているのは「明日、皆の前で発表する予定がある」という事象だけで、「不安な事象」が存在しているわけではありません。
皆の前での発表という事象に対して、各々が「楽しみだ」「ワクワクする」「緊張する」「怖い」と様々な判断をします。このように「不安」は自分自身が作り出しているものなのです。
そして自分が作り出しているものである以上、その感情は自分でコントロールする事ができます。
では不安をコントロールする方法とはどのようなものがあるのでしょうか。
いくつかのアプローチ法がありますが精神療法としては、
- 認知行動療法
- 森田療法
などがあります。
患者様の元々の性格傾向や症状、現在の精神状態などを見ながら適切な治療法を選択していきます。
Ⅰ.認知行動療法(CBT)
不安が強い方・心配性の方は、ある事象に対して過度に不安を感じてしまいます。これは一般的な思考回路と比べて「物事のとらえ方が歪んでしまっている」とも言えます。
認知行動療法は、歪んでしまった認知(物事のとらえ方)を修正していくことを目的とします。
認知行動療法では、まずあなたの不安や心配が生じるメカニズムを分析していきます。不安・心配が生じやすい状況を客観的に見ていき、その中で自分の不安・心配に対するクセ(自動思考)を把握します。
その上で不安・心配を過剰に生じさせなくするにはどうしたらいいのか、あるいは不安・心配が起こりそうな時・起こった時にはどのように考えればいいのかを治療者とともに見直していきます。
認知行動療法については、詳しくは「認知行動療法はどのような特徴を持つ治療法なのか」をご覧ください。
Ⅱ.森田療法
森田療法は、不安や心配といった感情を「私たち人間に生じる自然な感情」と受け入れていく事を目指します。
不安や心配を無理矢理消そうとはしません。なぜならば不安が生じたり、それで喉の違和感が生じたりするのは生理的な反応であるためです。
森田療法では不安・心配といった不快な感情に焦点を当てるのではなく、「そのような反応にとらわれてしまうこと」が問題だと考えます。
人前で過剰に不安を感じてしまう方は、「人前で不安にならないようにしたい」「人前で動悸が出ないようにしたい」と考えるのではなく、「これは正常な反応なのだから仕方がないんだ」と考えるようにします。
「不安を抑えたい」と意識すればするほど、不安は強くなっていく傾向があり、むしろ受け入れてしまう事ができると、不安はコントロールできる程度に治まっていきます。
また森田療法では恐怖や不安を過剰に感じてしまうのは、「人から良く思われたい」「より良く生きたい」という欲望があるからだと考えます。その欲望を苦しみを生み出す元にするのではなく、「よりよく生きる」ために使っていく事も目指します。
まとめると、
・不安や恐怖、それに伴う症状は生理反応なのだから、無理して抑えようとしない。
・不安・恐怖は本来、「より良く生きたい」という前向きな気持ちからきていることに気付こう
ということです。
森田療法は、神経質、心配性、完璧主義などの神経質的な性格傾向を持つ方に、特に有効であると考えられています。森田療法は、外来では患者さんは日記を書いていただき、それを治療者と確認していきながら進められていきます。