燃え尽き症候群を診断することは出来るのか?診断基準はあるのか?

何かを精力的に一生懸命頑張っていた人が、ある日「燃え尽きる」ようにやる気がなくなり、動けなくなってしまう。このような状態を「燃え尽き症候群(バーンアウトシンドローム)」と呼びます。

燃え尽き症候群は精神疾患として定義されているものではないため、明確な診断基準などは存在しません。

しかし精神科で診察を受けて、「いわゆる燃え尽き症候群ですね」と先生から言われたことがある方もいるでしょう。このように燃え尽き症候群には明確な診断基準はないものの、広く知られている概念になります。

燃え尽き症候群は診断できるものなのでしょうか。また燃え尽き症候群を診断するための診断基準などはあるのでしょうか。

今日は燃え尽き症候群の診断についてお話させて頂きます。

1.燃え尽き症候群の診断はできるのか

燃え尽き症候群(バーンアウトシンドローム)は、1970年頃より使われるようになってきた概念です。この概念はその後広く受け入れられました。「燃え尽き症候群」「バーンアウト」という言葉を一度は聞いたことがある、という方も多いのではないでしょうか。

しかし燃え尽き症候群は、「疾患」として明確に定義されているものではありません。疾患名やその診断基準が記載されている書物を見ても、「燃え尽き症候群」の記載はなく、この症候群は診断基準的には定義されていないものになります。

そのため厳密に言えば、「燃え尽き症候群と診断する」というのは出来ないと言う事になります。

現状として燃え尽き症候群に該当するような方は、診断基準に照らし合わせると「うつ病」「適応障害」「一過性ストレス障害」などの診断基準を満たすことが多いため、これらの診断名が付く事が多いと思われます。

ちなみに、これは別にウソの診断をしているというわけではありません。

「燃え尽き症候群なのか、うつ病なのか、私は一体どっちなのですか?」という質問を受けることがありますが、両者は概念が全く異なるものであり、併発することは十分あり得ることです。

燃え尽き症候群は「経過」が重要になります。

精力的・活力的に行動していた人が、無理がある頑張り方を続けていて、いつか燃え尽きてしまう。

このような経過が確認され、燃え尽きの症状として矛盾しない症状があれば、これは「燃え尽き症候群」と言ってもいいでしょう。

対してうつ病は経過ももちろん重要なのですが、診断的に言えば「症状」が大切です。

「抑うつ気分」「興味と喜びの喪失」「疲労感」「食欲低下」「睡眠障害」「死に対する考え」など、一定数以上の症状を一定期間以上認めれば診断的にはうつ病の診断になります。

燃え尽き症候群が生じた結果として、うつ病に値する症状が出現することも十分あり得ます。このような場合、診断書には正式な病名として認定されていない「燃え尽き症候群」とは書きずらいため、「うつ病」「うつ状態」などと書く事が多いのです。

2.燃え尽き症候群かどうかはどう判断すればいいのか

燃え尽き症候群を明確に診断できるような診断基準はない、という事をお話しました。では専門家はどのようにして「これは燃え尽き症候群です」と判断しているのでしょうか。

燃え尽き症候群という概念が生まれたのは、そもそもが1970年台であり、他の精神疾患と比べると最近になります。

燃え尽き症候群を始めて報告したのは、アメリカの精神科医であるフロイデンバーガーだと言われています。彼は、保健施設で勤務している同僚の多くが、最初は精力的に仕事をしていたのに、しばらく経つとその火が燃え尽きたようになってしまうことに気付き、これを「燃え尽き症候群」と名付けました。

ここから分かるように燃え尽き症候群というのは、「精力的に活動していた対象」があり、それに対して自分の期待との何らかにズレが生じた結果、燃え尽きてしまうような状態なのです。

「こんな症状は、燃え尽き症候群の可能性がある」と、燃え尽き症候群を症状だけで判断しないように注意が必要です。もちろん燃え尽き症候群に比較的生じやすい症状はあるのですが、重要なのは表面的な症状ではありません。

燃え尽きに至るような「経過」があって、その結果燃え尽きて種々の症状が出ているのが燃え尽き症候群です。その経過を考えずに症状だけで燃え尽き症候群かどうかを判断するのは不可能です。

そのため、まずは燃え尽きるような経過があったのかをふり返ることがチェックの精度を上げるために重要なことです。

その上で、燃え尽き症候群に比較的多いと言われている症状が出ているかを見ていくのが、正しい判定方法になります。

Ⅰ.燃え尽きるような経過があるのか

燃え尽きてしまいやすい経過には主に次の3つのパターンがあります。

  • 燃えすぎている(いわゆる過重労働、オーバーワーク)
  • 無理して燃えている(本来の自分の理想と違う事に、自分を欺いて無理して燃えている)
  • 極端に燃えている(ある特定の事だけに精力的に活動している)

「燃えすぎている」パターンは、自分が持っているエネルギー以上の活動をしてしまう事でエネルギーが枯渇してしまう事です。仕事に対して熱心すぎる方が、毎日遅くまで残業、休日も出勤という生活を続け、ある日燃え尽きてしまう、という例が典型的です。

「無理して燃えている」パターンは、本当は自分がやりたいことではないのに、無理矢理「自分はこれをすべきなのだ」と自分を納得させて燃えているパターンです。本来燃えられるものではないことに燃えているわけで、明らかに不自然な燃え方をしているため、いずれ燃え尽きてしまいます。

例えば、「患者さんを笑顔にしたい」という期待・目標を持って看護師になったのに、実際働いてみると医者と患者さんの板挟みに遭い、毎日両者からクレームばかり言われてしまうばかりの毎日だったとします。最初はそれでも「やりたかった仕事だから」「辛いこともあるのは当然」と考えて頑張りますが、クレーム処理ばかりの毎日が続いていつか燃え尽きてしまう、といったものです。

「極端に燃えすぎている」パターンは、本来人生の全てをかけるものでないことに自分の全てを注いでしまうような事です。その対象があるうちはいいのですが、なくなると、人生を見失ってしまい燃え尽きてしまいます。

例えば、受験勉強を頑張り続けているうちに、「〇〇大学に合格することが自分の全て」と錯覚してしまい、実際にその大学に受かったら何をすればいいいのか分からなくなって燃え尽きてしまう、などのケースがあります。

この3つが主ですが、きれいにどれかに当てはまるとは限らず、いくつかが重なり合って発症するケースも少なくありません。

燃え尽きに至る経過には、このような何らかの「不自然な燃え方」が必ずあります。このような不自然な燃え方が原因となって燃え尽き、種々の症状が出ている場合は燃え尽き症候群の可能性が高くなるでしょう。

しかし問題は、この燃え方が「不自然な燃え方だ」と自分では気付けない場合もあることです。最初は不自然な燃え方に違和感を持っていても、それが一定期間続いていると、その燃え方が自分の本来の自然な燃え方だと錯覚してしまうことがあるからです。

そのため、不自然な燃え方かどうかというのは専門家に判断してもらうのが一番確実となります。

Ⅱ.燃え尽き症候群に認められやすい症状が出ているのか

不自然な燃え方が続いていて、それによってある症状が認められる場合、燃え尽き症候群の可能性は高くなります。

燃え尽き症候群に多い症状については、「燃え尽き症候群ではどのような症状が現れるのか?」で詳しく紹介しています。

簡単に説明すると、

  • 情緒の枯渇
  • 脱人格化
  • 個人的達成感の低下

の3つが燃え尽き症候群に多く認められる症状になります。中でも最初の「情緒の枯渇」はほぼ必発の症状と言えます。

「情緒の枯渇(Emotional Exhaustion)」は、簡単に言えば「精神エネルギーがゼロになってしまう」ことです。これこそが「燃え尽き」と呼ばれる所以であり、燃え尽き症候群の中核症状になります。

気力・意欲などが沸かなくなり、絶望感や空虚感を感じるようになります。頭では「動かなきゃ」「やらなきゃ」と理解はしているのですが、心のエネルギーがゼロになっているため活動することができません。

「脱人格化(Depersonalization)」は、性格が変わったかのように冷淡で事務的な態度になってしまう事です。

今までは熱心に相手に寄り添い、親身に相談に乗っていたような方が、よそよそしい態度になったり、突き放すような冷たい態度、淡々とした冷たい態度をとるようになります。

脱人格化は、切れかけているエネルギーを温存するために生じると考えられています。エネルギーを節約するために、大きな精神エネルギーを使うような行動を取らなくなるのです。

「個人的達成感の低下(Decrease Sense of Personal Accomplishment)」は、仕事など精力的に行っていた作業に対して、やりがいや達成感、充実感を感じられなくなることです。

「こんなことしても何にもならない」
「自分がこんなことしても誰の役にも立たない」

と考えてしまうようになります。

またそれ以外にも

  • 自律神経症状
  • 社会機能の低下(引きこもり)

などが認められることがありますが、これらの症状はあらゆる精神疾患で出現する症状ですので、燃え尽き症候群に特異的だとは言えません。

このように、

  • 燃え尽きてもおかしくないような不自然な燃え方の経過がある
  • 燃え尽き症候群に出る事の多い症状が認められる

ことによって、燃え尽き症候群と判定されるのです。