過食症では様々な症状が認められます。
ただ過食をするだけでなく食べたものを吐いたり、反対に絶食をしたりします。更に落ち込みや不安、自傷などの症状が出現する事もあります。
「過食症」という名称から、過食が過食症の主症状であるかのように感じられますが、実は過食は過食症の表面的な症状に過ぎません。
食欲の衝動が抑えられず過食してしまう根底にはどのような考えがあるのかをいうところまで理解できると、なぜ過食症でこれらの症状が現れるのかという事が分かります。また、それに伴い治療への正しい道筋が見えてきます。
この根底にある考えというのは、実は患者さん本人も気付いていない事があります。過食症で悩んでいる方は過食症状だけでなく、それを作り上げている自分の考え方について深く見直してみましょう。
今日は過食症の方に認められる症状について詳しくお話しします。
1.過食症の症状の特徴
過食症は、その名の通り「過食(食事を食べ過ぎてしまう)」が症状として認められます。
しかし間違えてはいけないのは、この「過食」という症状はあくまでも過食症の表面的な症状に過ぎません。
過食症の症状について知ろうとする時は、表面的な「過食」だけをみるのではなく、「どのような考えから過食が出てしまっているのか」という根底にある考えを見落とさないことが大切です。これは患者さん自身も気付いていない事が多いようです。
表面的な過食症状だけを見て治療をしようとすると、まず上手くいきません。症状の根底にあるものをしっかりと見極める事は非常に大切なのです。
では過食症の方の根底にある考えというのは、どのようなものでしょうか。
過食症に限らず「摂食障害」の方の根底にあるのは、
- 肥満恐怖(肥満への過度な恐怖)
- 自己の身体像(ボディイメージ)の歪み(一般的に見れば痩せていても、太っていると錯覚してしまう)
- 自己評価の低下(自分は痩せないと価値がないと考えてしまう)
という考えだと考えられています(なぜこのような考えが生じてしまうかは、「過食症の原因。なぜ過食をしてしまうのか」をご覧ください)
このような考えが形成されてしまうと、極端なダイエットを行うことで自分の価値を保とうとします。この極端なダイエットを達成できてしまうと拒食症となりますが、ダイエットの反動から過食衝動が生じてしまう事もあり、このようなケースは過食症となります。
また過食症の方は、ストレス解消の方法として過食を行いやすいという側面もあります。過食でストレス解消をしようとするのです。
しかし過食はストレス解消法としては適していません。何故ならば過食している一瞬だけはストレス解消になりますが、過食後は強い後悔と自己嫌悪に陥るため、総合的に考えればむしろストレスを溜め込むことになってしまうからです。
過食というあやまったストレス解消法を身に付けてしまうと、過食によってストレスがたまり更に過食がひどくなるという悪循環に陥ってしまいます。
なぜ過食症の方は、過食でストレス解消をしようとしてしまうのでしょうか。過食症の方は「感情不耐性」を認める事が多いと考えられています。感情不耐性とは何かの強い感情(大抵はネガティブな感情)が生じた時、それを耐える事が出来ずに衝動的な行動を取ってしまう事です。
感情不耐性によりストレスを衝動的に「過食」という方法で解決しようとしてしまうのです。
しかし過食症の方は、好きで過食しているわけではありません。むしろ「太りたくない」「食事量を減らしたい」と考えています。
そのため、過食後には様々な問題が出現し、それによって様々な症状が現れます。
身体的には、「今の過食をなかった事にしたい」という考えから、代償行為が認められます。
代償行為というのは、
- 自己誘発性嘔吐(食べたものを吐こうとする)
- 下剤乱用(下剤を過剰に使って、食べたものを排泄しようとする)
- 極端な絶食
- 極端な運動
などです。これによって過食した分を取り戻そうとするのです。
しかしこれらの行動は身体的には危険な行為です。嘔吐や下剤乱用を続ければ、身体の電解質のバランスが崩れたり、脱水になったりする危険があります。また胃液を頻回に嘔吐していると歯が溶けてしまう事もあります。
過食の反動から極端に絶食や運動をすれば、これも身体に悪影響を来たします。また激しい絶食・運動をすれば食べ物を渇望するようになり過食衝動を抑えられなくなります。極端な絶食・運動は再び引き起こすことになってしまいます。
精神的には、過食をしてしまった後悔から
- 自己評価の更なる低下
- 抑うつ気分
- 不安
などが出現します。
本来は肥満恐怖や身体像の障害から「太りたくない」と思っているのに、それを実現できない事から、「自分はなんてダメな人間なんだ」と考えてしまい、自己評価が低下します。
自己評価が低下すれば精神エネルギーも低下し、うつ状態や不安が高い状態となってしまいます。人生に絶望的になってしまったり、何に対してもやる気を持てなくなる事もあります。ひどい場合は、「死にたい」という希死念慮や自殺願望が生じる事もあります。
過食症の方は感情不耐性によってストレス解消法が上手でないため、更に
- アルコール
- 薬物
- ギャンブル
- 自傷行為
などでのストレス解消に至ってしまう事もあり、これも危険です。
2.過食症の症状(根底にあるもの)
ここからは前項で紹介した過食症の症状を1つずつ詳しく見ていきましょう。
過食症では表面的には過食が認められますが、患者さんはむしろ「太りたくない」と強く考えています。
「太りたくない」という気持ちからダイエットなどを行うのですが、食欲のコントロールが出来ずに過食に至ってしまうのです。
太る事に対する異常な恐怖と、食欲の制御不能はなぜ生じるのでしょうか。それは過食症の方には次のような考えが根底にあるからだと考えられています。
Ⅰ.肥満恐怖
過食症の方は、太ることへの強い恐怖を持っています。これは過食症に限らず拒食症も同じで、摂食障害に共通する症状です。
傾向としては拒食症では「太る事が怖い」という肥満恐怖と、「どんどん痩せたい」というやせ願望を持っていますが、過食症では肥満恐怖は強いものの、やせ願望はそれほど強くない事が一般的です。
若い女性の方であれば太ることは誰でもイヤだと思いますが、摂食障害の場合はそれとは異質な「恐怖」を持っているのです。そのため一般的なダイエットでは収まらず、極端なダイエットを行おうとします。
しかし極端なダイエットは失敗することがほとんどです。過食症ではダイエット中の食事への渇望に耐え切れず、過食を衝動的にしてしまいます。
しかし肥満恐怖が強いため過食後は、口に指を突っ込んで吐こうとしたり(自己誘発性嘔吐)、下剤を大量に飲んで出そうとしたり、極端な絶食や運動をして代償しようとします。しかしこれらの誤った過食解決法がさらに次の過食衝動を生んでしまい、過食症の悪循環に陥っていくのです。
Ⅱ.身体像(ボディーイメージ)の歪み
過食症の方は、自身の身体像(ボディーイメージ)を歪んでとらえてしまっています。
客観的に見れば、十分痩せている体型・体重であったり、標準的であっても「こんな体重ではダメだ」「こんな体型では太り過ぎている」と認識してしまうのです。
この自己の身体像の障害は、他者がいくら「太ってないよ」と説得しても修正されることはありません。他者からみると妄想的なレベルにまで自己体型への評価が歪んでしまっていることもあります。
このように認識が歪んでしまう背景には、
- 太っていることでバカにされたりからかわれた辛い過去の体験
- 自己評価、自尊心の低さ
などがあると考えられています。
Ⅲ.低い自己評価
過食症の方は、多くのケースで自己評価の低さが認められます。
自分に対して「価値がない」「何も出来ない」と考えてしまうのです。このように自己評価が低くなってしまう原因は様々ですが、子供の頃に親から十分な愛情を受けれなかったり(例:アダルトチルドレン)、「自分なんていない方がいい」と感じてしまうような辛い体験(例:いじめなど)によって形成されます。
自己評価が低い中で、肥満恐怖や身体像の障害が生じてしまうと、
「太っていたら生きていけない」
「太っている自分に価値はない」
と考えてしまい、摂食障害が発症するのです。
3.過食症の身体症状
過食症の方に認める症状は多くありますが、大きく分けると身体的な症状と精神的な症状に分けられます。
いずれも根底にある「肥満恐怖」「身体像の障害」「自己評価の低下」から生じている症状になります。
ここでは過食症で生じる身体症状を紹介します。
Ⅰ.過食
過食症の多くは、「拒食」から始まります。
最初はダイエット(食事制限)から始まるのですが、そこから極端な食事制限を完遂すると拒食症となりますが、途中で過食衝動に耐えられずに過食を繰り返すようになると過食症になります。
過食は主に2つの理由で行われます。
1つ目は、無理な拒食の反動としての過食です。過食症の方も拒食症と同じで「太るのが怖い」という強い恐怖があります。そのため、体重を落とすための食事制限を行うのですが、明らかに極端な食事制限を行ってしまうため、食欲の渇望に耐えられなくなり、過食をしてしまうのです。
2つ目はストレス解消としての過食です。過食症の方の多くはストレス解消法が上手ではありません。自分の中に生じたストレスを上手に解消する事が出来ずに過食する事でストレス解消を行ってしまいます。
Ⅱ.代償行為
代償行為とは、食べ物を過食してしまったあとに、過食を「無かったことにする」ために行われる行為です。
一見すると過食をリセットしている行為なのですが、これらの代償行為を続けると心身に様々な問題が生じます。
代表的な代償行為には、
- 自己誘発性嘔吐(過食したものを吐く)
- 下剤乱用(下剤で過食したものを出そうとする)
- 過剰な運動
- 過剰な絶食
などがあります。
自己誘発性嘔吐は、過食後に食べたものを吐こうとする行為です。口に指やスプーンなどを突っ込んで吐こうとします。自己誘発性嘔吐を繰り返している方には指に特徴的な「吐きだこ」が出来ることがあります。
自己誘発性嘔吐を続けていると、胃の入り口の筋肉が緩んで胃酸が逆流しやすくなってしまったり、胃酸が歯を溶かすため歯がボロボロになってしまったりします。また胃酸を吐き続けるため、身体の中の電解質のバランスが崩れてしまう事もあります。
下剤乱用は、大量に下剤を使う事で食べたものを排泄しようとする行為です。しかし下剤は便を柔らかくしたり腸の動きを活性化させるお薬であって、食べ物を身体に吸収させなくするお薬ではありません。そのため下剤をたくさん使ったからといって、食べたものが吸収されるのを防げるわけではありません。
下剤を大量に使うと下痢になって電解質のバランスが崩れたり、腸管が過剰に動くため腹痛や腸管に傷が生じたりします。
過食で摂取したカロリーをリセットするため、過食後に過剰に運動をしたり、過剰な絶食を行う場合もあります。適度な運動・食事制限であれば良いのですが、過剰な運動・絶食はむしろ食欲の制御をしにくくさせ、次の過食を起こしやすくしてしまいます。
いずれの代償行為も過食症の根本の解決になっておらず、むしろ長期的にみれば過食症状をより悪化させたり、心身をより傷付けてしまう行為です。
4.過食症の精神症状
過食症の方に認める身体症状についてみてきました。
次は過食症で生じる精神症状をみていきましょう。
Ⅰ.うつ状態・不安
過食行為というのは、「ダイエットの失敗」になります。
過食症の方は過食したいわけではなく、むしろ「痩せたい」と強く考えています。そのため、過食後には強い後悔と自責感に襲われます。
摂食障害の根底には「低い自己評価」がありましたが、過食の後悔によってこの自己評価は更に低下していきます。
すると、
- 無気力
- 集中力低下
- 抑うつ
- 不安の増悪
- イライラ
などの精神症状が出現します。
過食症から二次的にうつ病や不安障害になってしまうこともあります。
Ⅱ.他の誤ったストレス解消
過食症の方はストレス解消が苦手です。
過食症の方の多くに認められるのが「感情不耐性」です。これは何か嫌な感情が生じたとき、それに耐える力が弱く、衝動的な行為で解消しようとしてしまう事です。
過食も感情不耐性によって生じる行為の1つなのです。
他にも感情不耐性の結果生じる誤ったストレス解消法として、
- アルコール依存
- 薬物依存
- ギャンブル依存
- 自傷行為
などがあり、過食症の方はこれらを行う頻度も多くなります。
これらはいずれもストレス解消法としては正しくありません。正しいストレス解消法というのは衝動的に行われるものではありません。
Ⅲ.希死念慮
無理な食事制限⇔過食の悪循環で苦しみ、自己評価がどんどん低下していくと、最終的には、
「自分なんて生きていても仕方がない」
と考えてしまう事があります。
摂食障害を甘く考えている方もいますが、摂食障害は死に至る可能性が決して低い疾患ではありません。
放置せず、適切な治療を行う事がとても大切です。