ブロバリン原末の効果と特徴【医師が教える睡眠薬の全て】

ブロバリン原末(一般名:ブロモバレリル尿素)は1915年に発売された非常に古い睡眠薬です。

非常に古いお薬であり副作用も多いため、現在ではほとんど見かける事はありませんが、長期入院患者さんなどごく一部の患者さんに未だ用いられている事があります。

またこれだけ古いお薬であるにも関わらず、その成分(ブロモバレリル尿素)が一部の市販の睡眠薬に配合されているものがあり、専門家の間では問題視されています。

ブロバリンにはどのような効果・特徴があるのでしょうか。ここではブロバリンの効果や強さについて紹介します。

1.ブロバリンの特徴

ブロバリンはどのような睡眠薬なのでしょうか。その特徴をまずはお話します。

ブロバリンは極めて古い睡眠薬です。効果と副作用のバランスが悪く、眠りに導く効果はしっかりしているものの、副作用が極めて多いという問題があります。現在の不眠症治療においては用いるべきではない睡眠薬の1つです。

現在の睡眠薬は、「ベンゾジアゼピン系」「非ベンゾジアゼピン系」の2種類の睡眠薬が睡眠障害の治療の中心となっています。これらのお薬は1980年頃より使われるようになり、効果の良さの副作用の少なさのバランスが良く、定評があります。

【ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
GABA-A受容体に結合することで、催眠作用・筋弛緩作用などを発揮する。効果と安全性のバランスに優れるが長期使用による耐性・依存性に注意が必要
(代表薬:ハルシオン、レンドルミン、サイレース、ロヒプノール、ドラールなど)

【非ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
GABA-A受容体のω1という部位に選択的に結合することで筋弛緩作用を起こしにくくし、ふらつきや転倒のリスクが減っている睡眠薬。耐性・依存性はベンゾジアゼピン系よりは軽いという報告もある。
(代表薬:マイスリー、アモバン、ルネスタ)

また最近では「オレキシン受容体拮抗薬」「メラトニン受容体作動薬」といった、依存性のほとんどない新しい睡眠薬も登場してきています。これらのお薬は安全性の高さから、今後の睡眠薬の主役を担う可能性の高いお薬です。

【オレキシン受容体拮抗薬】
脳を覚醒させる物質であるオレキシンをブロックすることで眠りに導く。耐性・依存性がないと言われている
(代表薬:ベルソムラ)

【メラトニン受容体作動薬】
眠りに導くメラトニンという物質の作用を後押しする。耐性・依存性はないが効果も弱め
(代表薬:ロゼレム)

一方でブロバリンはと言うと、1915年から使われている古いお薬で、安全性が極めて低い睡眠薬になります。古いお薬であり脳全体を鎮静させてしまうため、呼吸抑制(呼吸が浅くなったり止まってしまう)が生じたり、中毒になりやすいという問題があります。

ブロバリンはその危険性の高さから、昔は自殺をするために良く用いられており、実際に1900年代にはブロバリンの大量服薬による自殺は少なくありませんでした。このような背景からアメリカではブロバリンなどのブロムワレリル尿素を含む医薬品は現在では発売禁止となっているほどです。

またブロバリンは耐性・依存性が強いことも問題点です。

【耐性】
服薬を続けていくと、徐々に身体がお薬に慣れていき、お薬の効きが悪くなってくること。耐性が形成されてしまうと、同じ効果を得るためにはより多い量が必要となるため、大量処方につながりやすい。

【依存性】
服薬を続けていくうちに、そのお薬を手放せなくなってしまうこと。依存性が形成されてしまうと、お薬を飲まないと精神的に不安定になったり、発汗やふるえといった離脱症状が出現してしまう。

ブロバリンは使用を続けていると耐性が形成されるため、最初は少量でぐっすり眠れていても、すぐに少量では眠れなくなってきます。すると服用する量を増やさなくてはいけなくなります。そうこうしているうちに服薬量が大量になってしまい、危険な副作用(呼吸抑制や中毒など)が出現するリスクが上がっていきます。しかしそのころには依存性が形成されているため、ブロバリンをやめることができなくなっています。

このようにブロバリンは副作用に大きな問題のある睡眠薬なのです。

では一方でブロバリンの効果の強さはどのくらいなのでしょうか。

ブロバリンは睡眠薬としての効果はしっかりしています。ただし脳全体の活動を抑制してしまうため副作用も多く、また危険性も高いお薬になり、効果の強さと副作用の多さのバランスが取れていないお薬です。

ブロバリンは「眠らせる強さ」だけを見れば、その効果は悪くはありません。問題は副作用にあります。効果が強いだけなら、そこまで問題はないのですが、ブロバリンは効果は良いけども、副作用が非常に強いのです。

このような理由から、ブロバリンはメリットよりもデメリットの方が多い睡眠薬です。1900年代前半など、睡眠薬がほとんどなかった時代にはまだ用途もあったお薬ですが、安全な睡眠薬が充実してきた現在においては、全く必要のない睡眠薬だと言っても言い過ぎではないでしょう。

2.ブロバリンの作用時間

ブロバリンの作用時間はどのくらいなのでしょうか。

ブロバリンは即効性に優れる睡眠薬で、作用は比較的速やかに発現します。服用してからお薬の血中濃度が最大になるまでにかかる時間を最高血中濃度到達時間と呼びますが、ブロバリンの最高血中濃度到達時間は約30分と報告されています。

一般的に最高血中濃度到達時間が速いお薬ほど即効性があります。ブロバリンは即効性に優れるお薬で、服用してからおおよそ20分前後で眠気を感じ始めます。

効果の持続時間はというと、個人差もありますが約4時間前後と報告されています。

ただしブロバリンの半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間)は2.5時間と短めなのですが、代謝物であるブロムの半減期は12日と非常に長いため、人によっては眠気を日中にまで持ち越してしまう事があります。

3.ブロバリンの作用機序

ブロバリンはどのような作用によって不眠を改善させているのでしょうか。

ブロバリンの主成分であるブロムワレリル尿素は、体内でBr(ブロム)というイオンになります(ブロムは「臭素」とも呼ばれる元素です)。

このBrイオンが脳に移行し、細胞外液中でCl(クロール)イオンと競合して脳神経のはたらきを抑制する事で、脳を鎮静させると考えられています。

この作用は覚醒中枢のみならず、大脳皮質や上行性脳幹網様体賦活系といった脳の幅広い部位で生じるため、単に眠りを導くだけでなく、身体活動を全体的に鎮静させてしまう作用があるのです。

4.ブロバリンの副作用

ブロバリンは古いお薬であり、副作用に注意が必要なお薬です。

ブロバリンの副作用については、「ブロバリンの副作用と対処法」の記事にて詳しく紹介しています。

特に注意すべきが呼吸抑制(呼吸が浅くなったり止まってしまう)や中毒(ブロム中毒)です。このような副作用は、ブロバリンを大量・長期に服用していればしているほど生じやすくなります。

ブロム中毒では、

  • ふらつき、しびれ、ふるえといった神経症状
  • 倦怠感
  • 嘔気
  • 意識障害

などが生じます。

また連用していると耐性・依存性も生じてしまいます。

このような副作用の問題から、ブロバリンはたとえ不眠で困っていたとしても、極力用いるべきでないお薬になります。