抗うつ剤の中には、痛みを抑える作用を持つものがあります。
トリプタノールもその一つで、頭痛や神経痛などに使われることがあります。
トリプタノールが鎮痛作用を持つのは「ノルアドレナリン」のはたらきが関係していると言われています。
ここでは、トリプタノールが頭痛に効く機序をみていきましょう。
1.トリプタノールが痛みに効くのは何故?
抗うつ剤の中には、痛みに対して効果を示すものがいくつかあります。
トリプタノールもその一つですが、
他にもサインバルタやトレドミン、トフラニールなどが、痛みの改善によく用いられます。
これらの痛みに効果的な抗うつ剤の特徴は、
いずれも「ノルアドレナリンを増やす作用に優れる抗うつ剤である」という点です。
ノルアドレナリンは、意欲に関係する神経伝達物質だと考えられており、
ノルアドレナリンを増やす抗うつ剤は、意欲改善をもたらす作用を期待して投与されます。
そして実はノルアドレナリンは、意欲の改善だけでなく「痛みを抑える」作用もあります。
「痛み」は人にとって不快な刺激であるため、身体のある部位に疼痛が生じると
脳はその疼痛を和らげようとします。
「下行性疼痛抑制系」という痛みを和らげるはたらきを持つ神経があり、脳はこの神経を通じて、不快な痛みを軽くしようとします。
そしてこの神経に関わっているのがノルアドレナリンなのです。
下行性疼痛抑制系神経からノルアドレナリンが放出されると、痛みは和らぎます。
トリプタノールをはじめとした、ノルアドレナリンを増やす作用に優れる抗うつ剤は、
脳のノルアドレナリンを増やして意欲を改善させるだけでなく、下行性疼痛抑制系神経の
ノルアドレナリンを増やして、痛みを改善させるはたらきもあると考えられています。
2.抗うつ剤の鎮痛効果の比較
抗うつ剤は、頭痛にも効果があるため、
しばしば頭痛の治療薬として使われます。
よく使われるのが、
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)であるサインバルタ、トレドミン
- 三環系抗うつ剤であるトフラニール、ノリトレン、トリプタノール
などです。
でも、この中であなたはどれを使えばいいのでしょうか。
どのような基準で薬物を選べばいいのでしょうか?
どの抗うつ剤を選択するかは一概には言えないところで、
主治医が状況を見て判断するしかありません。
一般的には、まずSNRIから使うことが多いと思われます。
その理由は、SNRIの方が安全性が高く、副作用が少ないからです。
反対に三環系は、効果は強いのですが、副作用が多めです。
SNRIのサインバルタとトレドミンの使い分けですが、
強さとしてはサインバルタに分があります。
しかし、ノルアドレナリンを増やす比率はトレドミンの方が高いと言われています。
具体的に表でみてみましょう。
セロトニン再取込阻害 | ノルアドレナリン再取込阻害 | |
---|---|---|
サインバルタ | 4.6 | 16 |
トレドミン | 203 | 100 |
これはサインバルタとトレドミンの、セロトニンとノルアドレナリンそれぞれの
再取り込み阻害比率をみたものです。
数値が低いほど、効果が強いことを意味しています。
これをみると、全体的にサインバルタの方が再取り込み阻害の力が強いことが分かります。
つまり、理論的な効果はサインバルタの方が強いということです。
しかし、実はサインバルタはノルアドレナリンよりもセロトニンを3-4倍多く増やします。
ノルアドレナリンも増やすけど、それ以上にセロトニンを増やすおくすりなのです。
対してトレドミンはノルアドレナリンを多く増やし、その量はセロトニンの約2倍です。
これはあくまでも理論値なので、現実はこの通りにいかないこともありますが、
- 効果の強さでいうと、サンバルタ>トレドミン
- なるべくノルアドレナリンだけを増やしたいなら、トレドミン>サインバルタ
ということが言えるでしょう。
サインバルタやトレドミンなどのSNRIで、十分な痛みが取れなかった場合、
次に考えられるのが、トリプタノール、トフラニール、ノリトレンといった三環系です。
これも、どれを使うかは難しいところですが、効果の強さでいうと、
トリプタノール>トフラニール=ノリトレン
という印象があります。
個人差もあるし、先生によって意見の違いはあると思いますので、
あくまでも私が個人的に思う印象にすぎませんが。
それぞれの三環系のセロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害比率をみてみましょう。
ノルアドレナリンを優位に増やす、という意味では、
トフラニール>ノリトレン>トリプタノール
になります。
ここから、三環系の中から選ぶ際には、
- 効果の強さでいうなら、トリプタノール
- ノルアドレナリンを優位に増やすなら、トフラニール
ということが言えます。
3.頭痛に使うトリプタノールの用量
厳密に言うと、トリプタノールは「うつ病」と「夜尿症」にしか保険適応はありません。
そのため、保険的には「疼痛」に対しては使いずらいのですが、
疼痛に効果があるため、しばしば使われるのが現状です。
保険適応がない以上、痛みに対しての公的な「使用用量」はありません。
うつ病に関して言えば、トリプタノールは最大で300mgまで投与することができます。
しかし疼痛に関していうと、それより少ない量であることがほとんどです。
だいたい、10-25mgほどの量から開始し、様子をみながら効果不十分であれば、
増量していきます。
痛みに対して使う場合は多くて75mg程度でしょうか。
もちろん処方する医師によって違いはあると思いますが、
どんなに多くても150mgを超えることはほとんどありません。