うつ病と診断されると、抗うつ剤が使われることがあります。
最初の抗うつ剤1剤の投与のみで寛解に至る患者さんはどれくらいなのでしょうか(寛解:病気の症状がほぼ消失した状態)。
もちろん、病気の重症度や使う抗うつ剤によっても違うため、一概には言えませんが、最初の1剤で寛解に至るのは約30%ほどです。
残りの70%の方は部分的な改善に留まったり、全く効果が得られなかったりと「不十分」な結果になります。
この場合、次の手段として、別の抗うつ剤を追加する、あるいは別の抗うつ剤に切り替えるという方法が取られます。
しかし、ここで疑問が浮かびます。
どれくらいの期間、抗うつ剤を飲んだ時点で、「効果あり」「効果なし」と判断すれば良いのでしょうか。
1週間飲んで効果がなければ、そのおくすりは効果が無いと判断されるのか、あるいは1か月くらいは様子をみた方がいいのか。そもそも明確な決まりはあるのでしょうか。
このコラムでは、「抗うつ剤の効果判定の期間」について考えてみたいと思います。
1.効果判定期間の明確な決まりはない
ある抗うつ剤を十分量投与し、そこからどのくらいで効果判定を行えば良いのか。
実はこれにははっきりとした決まりはありません。
主治医が個々に判断しているのが実情です。
おおよそで言うと、「早くても2週間」「出来れば1-2か月」というのが
だいたいの医師の効果判定の目安ではないかと思います。
とは言ってもこれはあくまでも目安であり、
実際は患者さんの重症度や使用する抗うつ剤の種類などによって異なるため、
状況を診ながら、主治医が個々に判断します。
早くても2週間、というのは昔の抗うつ剤(三環系など)は効果発現が遅く、
効き始めるのに2週間程度かかったため、「効果判定には最低でも2週間は必要」と言われていました。
最近の抗うつ剤は改良されているため、人によっては1週間以内に効果が出始めるものもあります。
しかし「しっかりとした効果」を判定するには最低でも2週間以上は必要でしょう。
また、2週間様子をみて少しでも効きを感じられれば、今後も更に効いてくる可能性があるけど、
2週間経っても全く効かない抗うつ剤はその後も効かない事が多い、と言う専門家もいます。
これは確かに一理あると私自身も経験から感じます。
ちなみに製薬会社は抗うつ剤を発売する時に、被験者に抗うつ剤を飲ませて定期的に精神状態を評価し、
どのくらいの期間まで改善し続けるか、という試験を必ず行います。
その結果をみると、だいたいどの抗うつ剤も、服薬後1か月間までは
日を追うごとにうつの程度が軽くなっていく結果が得られています。
その後、2か月、3か月後も緩やかにではありますが、更に少しずつ改善はしていきます。
ここから、出来れば1か月間は安易に抗うつ剤を増やさず様子をみる方が
より正確に抗うつ剤の効果を判定できるということが言えます。
まとめると、
最低ラインとして2週間である程度の判断はできるけど、
出来れば1-2か月様子をみるべき
というのが、効果判定の目安でしょう。
もちろん医師によって考え方の違いがありますから、必ずこうだと言うわけではありません。
主治医と相談しながら効果判定をしていきましょう。
2.臨床で感じる治療者と患者の効果判定期間のズレ
臨床では、患者さんと主治医の間では効果判定の意識にズレがあります。
患者さんは、気分の落ち込みがつらくて仕方ないわけですから、一日も早く治したいと思います。
だから服薬して1週間も経つと「もっと増やした方がいいのでは」「効かないから種類を変えてほしい」
と早期に増薬を要求します。
しかし私たち治療者は、上記の理由から、出来れば効果判定まで1か月はみたいと考えます。
患者さんの希望に沿って、1週間単位でどんどん抗うつ剤を増やしていけば、
確かに抗うつ剤の血中濃度がどんどん上がります。患者さんもその時は喜ぶでしょう。
しかし早期にどんどん増やしてどんどん切り替えたからと言って、早く治るわけではありません。
後々を考えると、効きすぎてしまって副作用に苦しむことになったり、
薬漬けになってしまい、減薬しづらくなってしまう、というリスクがあるのです。
あまりにうつの程度がひどい場合は、主治医の判断のもと、1週間単位でどんどん増やすこともあります。
しかし安易に短期間で効果を判断してしまい、どんどんと増やすべきではありません。
3.抗うつ剤の切り替え時期を考察した研究
海外で行われた、抗うつ剤の切り替えタイミングを考察した研究を一つ紹介します。
この研究は、1剤目にレクサプロを使用し、寛解に至らなかった症例に対して
4週目にサインバルタに変更した群と、8週目にサインバルタに変更した群に分け、
それぞれの治療経過をみたものです。
成人うつ病患者840例に対し、レクサプロ10mgを投与したところ、
4週間で寛解に至ったのは274例でした。(寛解率32%)
改善が不十分であった、残り566例のうち
1.サインバルタに切り替え
2.レクサプロのまま経過観察(用量は20mgまで増薬可)し、8週後でも効果不十分ならサインバルタへ切り替え
の2群に無作為に分けました。
16週後に評価したところ、上記2群の間で寛解に達するまでの時間あるいは治療反応率に差はなかったのですが、寛解率は早期切り替え群の方が優位に高かった(43%vs36%)という結果になりました。
この結果からは、早期に切り替えたからといって、早く治るわけではない、ということが言えます。
しかし、4週間後に切り替えた群の方が、寛解率は若干高いため、
(この結果では、14人に1人は早期切り替えのメリットがある計算になります)
抗うつ剤の効果を感じられない場合は、4週後時点で効果判定をする意味はありそうです。
(参考文献:Romera I et al.Early switch strategy in patients with major depressive disorder:
A double-blind,randomized study.J Clin Psychopharmacol 2012 Aug;32:479.)