一口に抗うつ剤と言っても、たくさんの種類があります。どの抗うつ剤を使うかは主治医が考えてくれますが、どのような種類があって、どうやって選んでいるのかは実際に服用している当事者としては気になるところでしょう。
抗うつ剤の使い方には、厳密な決まりがあるわけではありません。症状は患者さんそれぞれで違うため、使う抗うつ剤も個々の患者さんの状態に合わせて臨機応変に考えていきます。うつ病治療のガイドラインや主治医の経験、医学知識などの様々な情報をもとに選択する抗うつ剤は決定されるのです。
今日は抗うつ剤の強さや副作用の比較、どのように使い分けているのかなどについてお話していきます。
目次
1.抗うつ剤の種類一覧
まずは抗うつ剤にはどんな種類があるのか見てみましょう。古いものから順に紹介していきます。
Ⅰ.三環系抗うつ剤(TCA)
【特徴】 効果は強力だが、副作用も多い
三環系抗うつ剤は、一番歴史の古い抗うつ剤です。1950年頃から使われるようになりました。
強力な抗うつ作用がありますが、副作用も多く、重篤な副作用が起こることもあります。そのため、現在では安易には処方せず、他の抗うつ剤が効かない例や難治例に限って使用されます。
三環系抗うつ剤の作用機序はモノアミンの再取り込みを阻害することです。モノアミンとは気分に影響を与える神経伝達物質の総称でセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどがあります。
再取り込みを阻害する、というと分かりにくい言い方ですね。再取り込みとは「吸収・分解されてしまうこと」と考えてください。モノアミンの吸収・分解を抑えて、モノアミンを増やすということです。うつ病はモノアミンが少なくなるのが一因だと考えられているため、抗うつ剤はモノアミンを増やすはたらきがあります。
三環系抗うつ剤は古いお薬のため作りが荒く、モノアミンのみならず色々なところに作用してしまいます。これが三環系に副作用が多い原因で、具体的には口渇・便秘・尿閉(抗コリン作用)、性機能障害、めまい・ふらつき、などがよく認められます。また頻度は低いですが、不整脈を誘発することもあります。大量に服薬してしまうと命に関わることもあります。
商品名としては、トフラニール、アナフラニール、トリプタノール、アモキサン、ノリトレンなどがあります。
Ⅱ.四環系抗うつ剤
【特徴】 効果は弱め。眠りを深くする作用に優れる
三環系は「効果は強力なんだけど副作用も多い」というものでした。副作用による問題が多かったため、もう少し安全性の高い抗うつ剤が望まれ、開発されたのが四環系抗うつ剤です。
確かに三環系と比べると副作用は少なくなりました。また三環系は効果発現まで2週間ほどかかりましたが、四環系は1週間程度で効果が出ることもあり、即効性も改善されました。
しかし四環系は残念ながら抗うつ効果が弱かったため、そこまで広くは普及はしませんでした。眠気を誘うものが多く、深部睡眠を深める(眠りの質を深くする)作用に優れるため、不眠の強いタイプのうつ病に使われます。
四環系抗うつ剤の作用機序もモノアミンの再取り込みを阻害することです。四環系は三環系と比べノルアドレナリンを優位に増やすものが多いのも特徴です。
商品名としては、ルジオミール、テトラミド、テシプールなどがあります。
Ⅲ.選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)
【特徴】 効果もあり副作用も少なくバランスが良い
三環系抗うつ剤は作りが荒いため、モノアミン以外の様々なところにも作用してしまい、副作用を起こしてしまいます。モノアミンだけに選択的に作用して余計なところに作用しなければ効果もあって副作用も少ない抗うつ剤になるはずだと考え、開発されたのがSSRIです。
SSRIは、モノアミンのうち特にセロトニンだけを選択的に増やす作用に優れます。
セロトニンに選択的に作用し、その他の部分にはあまり作用しないため、三環系と比べると副作用は大分少なくなりました。特に命に関わるような重篤な副作用はほとんどなくなった点は大きいです。
作用機序としては主にセロトニンの再取り込みを阻害することです。
効果もしっかりあるため、効果と副作用のバランスが良く、SSRIは現在のうつ病治療の第一選択になっています。
商品名としては、ルボックス・デプロメール、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロがあります。
Ⅳ.セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)
【特徴】 効果もあり副作用も少なくバランスが良い.意欲低下や痛みの強い例に効果的
セロトニンは落ち込みや不安を改善させると考えられていますが、ノルアドレナリンは意欲を改善させると考えられてます。またノルアドレナリンには心因性の痛みを軽減するはたらきもあります。
セロトニンだけでなくノルアドレナリンも増やすことを狙ったのがSNRIで、その作用機序はセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することです。
SNRIも効果と副作用のバランスが取れており、SSRIと同じくうつ病治療の第一選択となっています。
商品名としてはトレドミン、サインバルタがあります。
Ⅴ.ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性 抗うつ薬(NaSSA)
【特徴】 効果は強めだが副作用もやや多め。眠気と体重増加が起きやすい
NaSSAはSSRI・SNRIと違い、再取り込みを阻害するわけではなくセロトニンとノルアドレナリンの分泌を増やすことで抗うつ作用を発揮します。SSRI・SNRIと作用機序が異なるため、SSRI・SNRIが合わなかった方でも効く可能性があります。
SSRIやSNRIは三環系から進化して誕生しましたが、NaSSAは四環系から進化して生まれました。そのため、四環系と同じく眠りを深くする作用に優れます。抗うつ作用は強く、その効果には定評がありますが、眠気・体重増加の副作用がやや多く、これらの副作用で服薬中断となってしまう患者さんもいます。
商品名としてはリフレックス・レメロンがあります。
Ⅵ.その他の抗うつ剤
トリアゾロピリジン系抗うつ剤(SARI)
【特徴】 抗うつ効果は弱いが眠りを深くする作用に優れる
SARIは抗うつ作用は非常に弱いのですが、眠りを深くする作用に優れます。現在では抗うつ剤として用いるというよりは、他の抗うつ剤を補強したり、眠りを深くする目的で投与します。四環系抗うつ剤と同じような立ち位置の抗うつ剤です。
作用機序はセロトニンの再取込みを阻害することです。また、眠気はSARIがセロトニン2A受容体を遮断するために生じます。
商品名にはデジレル、レスリンがあります。
スルピリド
【特徴】 即効性があり、使い勝手は良いが副作用に注意
スルピリドはドーパミンを増やす作用に優れるお薬です。即効性もあり、効果も強力ではないものの定評があります。効果という面では良薬であり、SSRI登場前までは良く使われていました。しかし、他の抗うつ剤にない副作用の問題から最近のうつ病治療の第一選択としては推奨されなくなってきました。
スルピリドは抗うつ剤というよりも抗精神病薬(統合失調症の治療薬)の特性を持つおくすりで、その作用の本質はドーパミンを遮断することです。低用量で使うと抗うつ効果がありますが、高用量で使うと統合失調症の症状を改善する効果があります。
そのため、昔の抗精神病薬にみられるような神経症状やホルモンバランスを乱す副作用が出現することがあります。具体的には、薬剤性のパーキンソン症候群を引き起こしてしまったり、錐体外路症状と呼ばれる不随意運動、ホルモンバランスの崩れによる乳汁分泌や性機能障害などです。
これらの副作用のため、最近ではうつ病治療の第一選択としては推奨されず、新規抗うつ剤が効かないなどやむを得ない場合に限り使用されます。
商品名としてドグマチールなどがあります。
これらが主に使われている抗うつ剤です。
2.抗うつ剤の強さ・副作用の比較
代表的な抗うつ剤を見てきましたが、それぞれの強さはどのようになっているのでしょうか。
効果の強さは、おおよそですが次のようになります。
TCA≧SSRI=SNRI=NaSSA>スルピリド>四環系=SARI
また、副作用の多さで見ると、次のようになります。
TCA>四環系=スルピリド>SSRI=SNRI=NaSSA=SARI
(個人差があり、あくまで目安です)
3.まずは新規抗うつ剤から始めるのが原則
現在のうつ病の治療では、抗うつ剤を使う場合は新規抗うつ剤から始めるのが原則になっています。新規抗うつ剤とは、SSRI、SNRI、NaSSAの三種類を指します。
なぜ新規抗うつ剤から使うかと言うと、副作用が少ないからです。薬剤は安全性が高いものから使うのが鉄則です。病気を治すためにおくすりを使ったのに、副作用で別の病気になってしまった、では何のために治療したのか分かりませんよね。
新規抗うつ剤だけでは十分な改善が得られなかったり、新規抗うつ剤が何らかの理由で使えない場合に限り、四環系や三環系抗うつ剤が検討されます。
では、新規抗うつ剤のうち、どれを使うのがいいのでしょうか。
実は治癒率だけをみると、どれを使っても総合的には大きな差はないため、どれを使っても間違いではありません。
よく考えればこれは当たり前の話で、明らかにこの抗うつ剤が一番優れている!というものがあれば皆がそれを使っているはずです。それぞれの抗うつ剤には一長一短がありますが、総合的に見るとどれも同じくらいの効果・副作用だと考えられています。
新規抗うつ剤の強さと副作用をランキングしたMANGA studyという報告があります。この結果は賛否両論あり、絶対的な指標にはなりませんがこういった報告の結果も薬剤選択の参考にすることがあります。
【MANGA study】
MANGA studyでは、有効性(効果)と忍容性(副作用の少なさ)のふたつで評価しています。日本では未発売のフルオキセチンを1とした時、他の抗うつ剤はどのくらいかというものを評価しています。有効性・忍容性ともに数値が高い方が「良い」ということを表しています。
この結果を見ると効果はリフレックス・レメロン(NaSSA)が最強となっています。その代わり副作用も多めという結果ですね。これは確かにその通りでしょう。NaSSAは効果は良いんだけど眠気や体重増加の副作用で使用を断念することもあります。
レクサプロ(SSRI)やジェイゾロフト(SSRI)は効果も良くて副作用も少ないという理想的な位置づけになっていますね。
個人的にはサインバルタ(SNRI)の評価がちょっと悪すぎる気がします。臨床的な印象としてはサインバルタは効果は強めで副作用もそこまで多くはありません。
では、新規抗うつ剤それぞれの特徴を見てみましょう。
SSRIは最もスタンダードな抗うつ剤です。SSRIは種類が多く、日本では現在4種類あります。また、新規抗うつ剤の中では歴史が一番古いため、使い慣れている先生が多く、データが豊富にあるのも利点です。口渇、便秘、吐き気、性機能障害などが起こることがあります。
SNRIはノルアドレナリンを増やしてくれる作用があるため、意欲低下に効きやすいと考えられています。そのため、意欲低下が主体のうつ病の方には良いでしょう。またノルアドレナリンは痛みを抑える作用もありますので、精神的な原因で痛みを感じている場合にも検討されます。副作用はSSRIとだいたい同じで、加えて尿閉が起きることがありますので、特に前立腺肥大症などがある方は注意が必要です。
NaSSAは鎮静系抗うつ剤と呼ばれ、眠りを深くする作用に優れます。不眠を併発している場合は良い適応になります。ただし、体重増加や眠気の副作用に注意が必要です。副作用がSSRI・SNRIと違い、吐き気や性機能障害は少なくなっています。
このように細かい特徴はそれぞれ違うため、それも念頭に置きながら抗うつ剤を選択していきます。
4.三環系は重症例や難治例に限って使用
現在のうつ病治療ではまず新規抗うつ剤から治療を始めることを学びました。では、三環系抗うつ剤などはもう出番はないのでしょうか。副作用が怖いため、なるべく使いたくないのが私たち精神科医の本音ですが、そうは言ってもまだまだ使わざるを得ないのが現状です。
例えば新規抗うつ剤を使っても改善が得られない場合などは、三環系抗うつ剤を使うことがあります。副作用が多いという難点はあるものの、やはり三環系の抗うつ効果は強力です。新規抗うつ剤をいくら使っても治らなかった型が三環系に変えたら少しずつ改善した、というケースは時々経験します。
三環系は、難治性・重症のうつ病の方にとっては最後の切り札になる強力な抗うつ剤なのです。
では、三環系抗うつ剤の中での使い分けはあるのでしょうか?
理論上はセロトニンが落ち込みや不安を改善させ、ノルアドレナリンが意欲を改善させると考えられています。
トリプタノールはセロトニンとノルアドレナリン両方を増やす
トフラニールやノリトレンはノルアドレナリンを優位に増やす
アナフラニールはセロトニンを優位に増やす
ため、症状に応じてこれらを使い分けます。
5.四環系やSARIは不眠治療に使われることがほとんど
四環系抗うつ剤やSARIは、抗うつ作用だけをみると弱く、十分ではありません。十分な抗うつ剤がなかった頃(SSRIやSNRIの誕生前)は使われることがありましたが、最近では「抗うつ剤」として使われることはほとんどありません。
これらのおくすりは眠気を誘うため、睡眠薬的に使うことが多いです。
現在、主に用いられているベンゾジアゼピン系睡眠薬は即効性はありますが、耐性や依存性が問題となっています。また、ベンゾジアゼピン系はくすりの力で強制的に眠らせるため、眠れるようにはなるけど睡眠の質は浅くなっていると言われています。
対して四環系やSARIは耐性・依存性も起きませんし、睡眠の質を深くする(深部睡眠を増加させる)と言われています。即効性はありませんが、睡眠薬として良いはたらきをしてくれることも多いのです。
特にうつ病で不眠を合併している時などは、よい適応になります。
6.スルピリドはまだまだ使われているのが現状
スルピリドは現在のうつ病治療の第一選択としては推奨されていないと先ほど書きました。
しかし実際の臨床ではまだまだ処方されていることは多いのが現状です。なぜならばスルピリドは「使い勝手が良い」からです。即効性もあって抗うつ効果もそれなりにあります。消化管運動を促進する作用もあるため、胃腸症状がある方にも使えます。先ほど説明した困った副作用が後々出てくる可能性はあるのですが、内服後にさしあたってすぐ困る副作用が出にくいという特徴もあります。
しかし副作用の問題から、今後はうつ病治療に使われる頻度は徐々に減っていくでしょう。
(注:ページ上部の画像はイメージ画像であり、実際の抗うつ剤とは異なることをご了承下さい)