アモキサンは1980年に武田薬品から発売された抗うつ剤で、三環系という古いタイプの抗うつ剤に分類されます。
現在はSSRI/SNRIに主役の座を譲った昔の抗うつ剤ではありますが、未だ処方される頻度は少なくありません。特にアモキサンは三環系の中では使いやすいため、三環系を検討するケースではよく使われます。
ここでは三環系抗うつ剤アモキサンの効果や特徴について詳しくみてみましょう。
1.アモキサンの特徴
まずは、アモキサンの全体像をイメージしてもらうため、このお薬の特徴をざっくりとですが紹介します。
【良い特徴】
- 強力な抗うつ作用(特に意欲改善作用が強い)
- 即効性がある(4ー7日程度で効果が現れることも)
- 副作用は多いが、三環系の中では少なめ
- 薬価が安い
- 妄想を伴ううつ病にも効果がある
【悪い特徴】
- 三環系なので副作用が多い
- カプセルと細粒のみで錠剤がない
- 抗精神病薬のような錐体外路症状が起こることがある
効果も強いけど副作用も強いのが三環系抗うつ剤ですが、その中でアモキサンは効果の良さは他に劣らないままで副作用は他より少なめという、三環系の中では優等生です。
とは言ってもSSRIやSNRIと比べれば多いですけどね。
その安全性の高さから、アモキサンはSSRIが登場するまではうつ病治療の代表選手といってもいいくらいよく処方される抗うつ剤でした。
効果発現の速さも特徴的です。
三環系は効果が出るまでに2週間はかかると言われますが、アモキサンの効果は早ければ一週間以内に現れ、これは患者さんにとても喜ばれます。
また、アモキサンにはドーパミン2受容体遮断作用という他の抗うつ剤には無いユニークな作用があります。
これは統合失調症の幻覚妄想症状を抑える抗精神病薬と同じ作用です。この作用があることはアモキサンのメリットでもありデメリットでもあります。
メリットは統合失調症様の精神病症状(妄想、幻覚、精神運動興奮など)に対しても効果が見込める事。うつ病は妄想が症状として現れることもありますが、そんな時によい適応となります。
デメリットは、抗精神病薬に認められる副作用(錐体外路症状など)が出やすいということです。
錐体外路症状には、
- 手足の震えや固まり
- ジスキネジア(口をモグモグさせたり、舌を出したりひっこめたりする不随意運動)
- アカシジア(ムズムズ・ソワソワしてじっとしてられない)
などがあります。
アモキサン含め、三環系は薬価の安さもメリットです。
SSRIなどと比較すると、5~10倍も違います。
アモキサンは25mgで10円と安価です。添付文書上は300mgまで使えますが、300mgまで使うことは滅多になく使っても150mg、多くても200mg程度です。薬価は150mgなら60円、200mgなら80円です。
対してSSRIのパキシルを例にとると、パキシルは20-40mgで使われますが、20mgで184円、40mgだと370円ほどします。
全然違いますね。
2.アモキサンの作用機序
アモキサンは、三環系と呼ばれるタイプの抗うつ剤です。「第二世代」の三環系と呼ばれることもあり、三環系の中では新しいお薬です。
現在主流になっているSSRIが発売される前は処方される頻度がとても多いお薬でした。
三環系の作用機序は、脳の神経間のモノアミンの濃度を上げることです。具体的にはモノアミンの再取り込み(吸収)を抑える事で、濃度を上げます。
モノアミンとはセロトニン、ノルアドレナリンなどの物質の総称で、これらは気分に関係する物質だと考えられています。
アモキサンはセロトニン、ノルアドレナリン両方の濃度を上げますが、ノルアドレナリンにより強く作用すると言われており、特に意欲改善に効果を発揮します。(ノルアドレナリンは意欲改善に関係すると言われています)。
三環系は昔のお薬で、今のSSRI/SNRIに比べると作りが荒いため、モノアミン以外の様々な部位にも作用してしまい、副作用もやや多めです。
代表的なものを挙げると、
- ムスカリン受容体に作用して抗コリン作用(口渇、便秘や尿閉)
- ヒスタミン受容体に作用して眠気や体重増加
- アドレナリン受容体に作用して、ふらつきやめまい
などを起こします。
また、アモキサンの作用機序の大きな特徴は、ドーパミンにも作用するという点です。
これは統合失調症の治療に使う抗精神病薬(リスパダール、ジプレキサなど)と同じ作用で、幻覚妄想に対して効果があり、そのためアモキサンは妄想性のうつ病に効果があると言われます。また、抗精神病薬で問題となる副作用である錐体外路症状(EPS)も起こり得るという事でもあります。
と、理論上はこのように言われているのですが、私個人の実感でいうと、臨床ではこのドーパミン作用はあまり感じません。
妄想性うつ病に明らかに著効するという印象もないし、EPSがよく起こるという印象もありません。しかし理論上は効くはずですので、妄想性うつ病に使用する機会は少なくはありません。
4.アモキサンの適応疾患
アモキサンの添付文書を読むと、
うつ病、うつ状態
に適応があると記載があります。
実際においても、「うつ病、うつ状態」の患者さんに処方することは一番多いと言えます。しかし、その他の疾患にも使うことがあります。
ノルアドレナリンに強力に作用するアモキサンは、SNRIと同じく「鎮痛作用」があります(これはアモキサンに限らず多くの三環系に言える事です)。
そのため、うつ病に伴う疼痛はもちろん、他の鎮痛剤で抑えきれない「痛み」に対して用いることもあります。
また、セロトニンの濃度も増やすことから、不安障害圏の疾患にも効くはずです。適応外になるため、第一選択にはなりませんが、SSRIなど他の抗うつ剤で効果が不十分な場合、アモキサンによる治療も候補に挙がります。
5.アモキサンの強さ
アモキサンは、三環系抗うつ剤に属します。
三環系は副作用への懸念も大きいお薬ですが、その強力な効果には定評があり、これが未だ三環系が使用され続けている大きな理由です。SSRIやSNRIだけではどうしても治らない患者さんもいるのです。そういう方にとって、三環系は大きな武器となります。
実際、SSRI/SNRIが効かなかったけど、三環系に変えたらようやく改善してきた、というケースは経験します。
アモキサンの効果はSSRI、SNRI、Nassaといった新規抗うつ剤よりは強い、と考えて間違いありません。
三環系間での比較ですが、これは難しいところです。副作用が軽い分、効果もやや弱い印象があるという医師もいますが、他の三環系と変わらない効果があるという意見の医師もいます。
少なくとも、他の三環系と比べ、大きな遜色はないという認識で間違ってはいないと思います。
6.アモキサンが向いている人は?
現在はSSRI/SNRIやNassaといった新規抗うつ剤が薬物治療の第一選択となっていますので、まずはこれらを使います。
新規抗うつ剤で治療をしたけれど、どうしても十分な効果を得られない場合、新規抗うつ剤よりも抗うつ効果が強い三環系が次の選択肢になります。
なので、一番最初からアモキサンを使うケースは現代においては少なく、第一選択で効果が得られなかった時の第二選択で使われるお薬がアモキサンです。
時々、年配の先生が「昔から使い慣れている薬だから」という理由で、三環系を最初から出すこともあるようですが、こういうケースは今後は少なくなっていくでしょう。
三環系の中で最も副作用が少ないと言われるアモキサンは、第二選択の治療の際にはよく候補に挙がる抗うつ剤です。
新規抗うつ剤では効果不十分だったから、もう一段階強い抗うつ剤を試したい。でもあまり副作用が強すぎるのは心配だ。こういった場合はアモキサンがいいと思われます。
他にも即効性が欲しい場合や特に意欲改善を図りたい場合もいい適応となります。
また、三環系は安価ですので「なるべくお薬代を少なくしたい」という時も選択肢に挙がるお薬です。
7.アモキサンの導入例
アモキサンは添付文書には
25mg-75mgを1日1~数回に分けて内服する事。
効果不十分の場合は150mgまで、
特に症状が重篤な場合は300mgまで増量することもある。
と幅を持たせた記載をされています。
25mgで開始し、1-2週間の間隔を上げて25mgずつ増やしていきます。効果を感じればその量で維持しますが、効果不十分であれば、少しずつ漸増を続けます。
三環系は副作用が多く、特に高用量になると危険な副作用の可能性も多くなってきます。75mg以上は慎重に増やしていき、外来ではせいぜい150-200mgが限度です。
もちろん300mgまで使う事は法的に認められていますが、三環系は過量服薬してしまうと致命的になります。
例えば、1日300mgを28日分処方していて、それを患者さんが誤って一気に飲んでしまったら命に関わる大問題となります。
なので外来では高用量は使いずらいのです。150mgでも慎重になります。
効果を感じるのに個人差はありますが、アモキサンの効果発現は比較的早く、増やしてから1週間以内に効果が出てくる事は珍しくありません。
副作用として多いものは、抗コリン作用です。これは口渇、便秘や尿閉などの症状として現れます。アモキサンの抗コリン作用は三環系の中では少ない方ですが、それでもまずまず出ます。
便秘はひどければ下剤を使って対応します。口渇は漢方薬などで改善が得られることもありますが、基本的には付き合っていかないといけません。
ある程度の量を投与して1-2か月経過をみても改善が全く得られない場合は、アモキサンが効いていないと判断されますので、抗うつ剤に切り替えます。
アモキサンの効果が十分に出て、気分が十分安定したと感じられたら(=寛解(remission))、そこから6-12ヶ月はお薬を飲み続けましょう。
良くなったからと言ってすぐに内服をやめてはいけません。この時期は症状が再燃しやすい時期ですので、しっかりと服薬を続けましょう。
6-12ヶ月間服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、「回復(Recovery)」したと考えます。
治療終了に向けて、2-3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していきましょう。問題なくお薬をやめることができたら、治療終了となります。
(注:ページ上部の画像はイメージ画像であり、実際のアモキサン錠とは異なります)