適応障害の方との接し方で意識しておきたい2つのポイント

適応障害というのは、一般の方にとっては病気の正体が分かりにくい疾患です。

精神疾患はどれも「こころ」という目に見えない部分に障害が生じているため、周囲には理解されにくいという側面があります。それでもうつ病などは、徐々に世間の認知も高まり、最近では正しい接し方をして頂ける方も増えてきました。

しかし適応障害は症状が多彩であり、「適応できない事が原因」というちょっと変わった概念を持つ疾患であるため、周囲の方はどのように接していいのか迷うことも多いようです。

適応障害の有病率は5〜20%と言われており、非常に頻度の高い疾患の一つです。そのため現実的に適応障害の方と接する機会というのは少なくありません。

職場の同僚や部下が適応障害になってしまった、家族が適応障害になってしまったという方もいらっしゃるでしょう。

今日は適応障害の方にはどのような接し方をしていくのが良いかを考えてみましょう。

1.まずは適応障害を知ることから

適応障害の方との接し方を知るためには、まずは適応障害という疾患についてある程度理解する必要があります。疾患のことを分からずして正しい接し方を理解するというのは困難です。

とは言っても専門家並みの知識が必要だというわけではありません。最低限、知っておくべきことを押さえておくだけで良いのです。

適応障害については「適応障害とはどのような疾患なのか」で詳しく説明していますが、その特徴をかんたんに紹介します。

適応障害とは、ある環境の価値観と自分の価値観があまりにかけ離れていて、そのストレスによって様々な症状が発症してしまう疾患です。

これだけを聞くと「適応する努力が足りないのではないか」「やる気がないだけなのではないか」と誤解されてしまう事がありますが、適応障害というのはそういった「甘え」と言われるものとは異なります。

適応するための一定の努力をしたにも関わらず、適応に失敗してしまう際に診断される病名であり、適応する努力を全くせずに「この環境はイヤ」と逃げてしまう甘えとは異なるものです。

また適応障害は、環境と自分の価値観のズレの大きさで生じます。その環境の価値観が一般的に見てどんなに素晴らしいものであっても、本人の価値観と大きくズレていれば生じてしまいます。一般倫理的に見て良い価値観だから生じない、悪い価値観だから生じると言えるものではありません。

例えば一般家庭で生活していた方が急にお金持ちの家庭に嫁いだことで適応障害を発症してしまう事もあります。一般的に見てどんなに恵まれている環境であったとしても、今までの価値観とのズレが大きすぎれば発症してしまうことはあるのです。

また、適応障害の治療の流れは主に2段階に分けられます。

まずはストレス環境から離れる必要があります。例えば職場環境に適応できずに適応障害が発症してしまったのであれば、休職することもあります。環境から離れる目的は、まずはストレス因から離れることで、不安定になってしまっている心身の健康を取り戻すためです。

そして心身の健康を取り戻したら、今回の問題となった環境への適応についてどのように向き合っていくのか考えていきます。

「適応力を上げるためには、物事を柔軟に考えられる訓練をしよう」
「周囲からのサポート体制を強化して、その環境でも安心を得られるようにしよう」

と、適応力を上げる方向で治療していくこともあります。

また環境側と相談しながら

「異動・配置転換をしてもらう」
「職場に自分の価値観を一部でも受け入れてもらう」
「どうしても困難である場合は退職も検討する」

などの環境側を変える方法がとられる事もあります。

なお、適応障害の治療については「適応障害はどのように治療するのか」に詳しく書いていますので、ご覧下さい。

2.適応障害の方と接する時に分かって欲しい事

適応障害という疾患についてかんたんに見てきましたが、適応障害の方と接するに当たって、みなさんが特に誤解しやすいポイントが2つあります。

適応障害の方と接するためには次の点に気をつけて頂ければ嬉しく思います。

Ⅰ.「甘えている」と考えないでください

適応障害に対する誤解として多いのが

「適応する努力が足りない」

というものです。

価値観が異なる環境に身を置けば誰だってストレスを感じます。皆、それに何とかして適応しているのに「適応できません」という人をすぐに病気扱いするのはおかしいのではないか。それはただの甘えではないのか、ということです。

これは確かに一定の理解はできる言い分です。

自分にとって完全に合っている環境なんてそうそうあるものではありません。環境に適応する努力は生きていく上で必要な事で、それをせずに病気扱いする事は確かにおかしい事です。

しかし適応障害というのは、「適応するための一定の努力を行った」のにも関わらず適応に失敗してしまった時に付けられる疾患であり、適応する努力を怠っている人につけられる病名ではありません。

つまり「適応障害」=「適応する努力をしなかった」ではなく、「適応する努力を自分なりに行ったのだけど、それでも適応できなかった」という事を理解してあげて下さい。

自分の力で何とか適応しようと頑張って、それでも適応に失敗してしまった人に対して「努力が足りない。もっと頑張れ」と延々と頑張らせ続けることは本当に本人や周囲にとって意味のあることなのかというのも考えてみてください。

自分で何とか頑張ったけど適応できなかった事に更に頑張らせ続けても、より心身が疲弊してしまうだけで、得られるものはほとんどないでしょう。

本人はできる事を十分頑張ったのです。でも失敗してしまったのですから、更に自分で頑張るのではなく、第三者による協力(これを治療と考えます)を得るべきでしょう。

この場合を適応障害として扱い、休職などによって一旦心身を健常な状態に戻してから医療者や周囲の人などのサポートを得ながら適応できるように再挑戦した方が、よほど生産的ではないでしょうか。

Ⅱ.人それぞれの価値観がある事を理解してあげてください

適応障害は、「明らかに悪い環境だから生じる」「非常に素晴らしい環境なら生じない」というものではありません。

何故ならば、価値観というのは人それぞれで異なるものだからです。

例えば一般的に見て、誰もが羨ましがるような環境であっても、適応障害を発症してしまう事があります。

誰もがうらやむようなお金持ちと結婚して、急に豪華な生活になったのを機に適応障害を発症してしまう方もいます。一般的に考えれば、「良い事じゃないか」「そんな事で調子を崩すなんておかしい」と考えてしまうかもしれません。

しかしその豪華な生活が、本人の価値観と大きくかけ離れていれば適応障害を発症してしまうのです。

そのため、

「みんな適応できているんだから、あなただけ適応できないのはおかしい」

といった一般的な常識を元に判断をしてしまう事は非常に身勝手な判断になります。

適応障害の方と接する時は、

「人それぞれ価値観や常識は違うものだ」
「どんな環境であっても、その環境に合う人もあれば合わない人もいるのだ」

という事を意識して下さい。

3.治療段階に応じた適切な接し方

適応障害は、治療に2つのステップがある事をお話しました。

まずは十分に休み、それから現実と向き合っていきます。

このような適応障害の治り方を考えると、接し方も2つのステップに合わせて多少変えていくことが望ましい事が分かります。

Ⅰ.休養の時期は支持的・共感的に

休養の時期は、適応できない環境へのストレスで心身は大きく疲弊しています。この状態ではものごとを冷静に考えることが出来ません。

そのため、休養の時期は「健常なこころを取り戻す事」を最優先にすべきです

この間は、なるべくストレスとなるものは避け、早く正常な状態に戻ってもらう必要があります。

接し方もそれを意識したものとなると良いしょう。

つまり、本人にストレスとなることは出来る限り避けてあげる事が理想的で、

「もうちょっと頑張った方がいいと思うよ」
「ちょっとそれは甘えているんじゃないかと俺は思う」

など、本人がストレスを感じたり、焦ってしまうような発言は避けましょう。

職場の方が適応障害になってしまった場合も、「早く戻ってこいよ。みんな待ってるぞ」という接し方よりも「ゆっくり休めよ。仕事の事は今は考えなくていいからな」と言ってあげた方が良いでしょう。

本人の心身が回復しやすいように共感的・支持的に接するのが、この時期における良い接し方です。

Ⅱ.環境と向き合っている時には現実的な意見も

心身が健康を取り戻して来たら、今度は環境についてどう向き合っていくかを考えていかなければいけません。

ここまで来たら環境と向き合う事を避けるわけにはいきせん。本人にとっても少なからずストレスがかかる段階になります。この段階では十分な休養後ですので、患者さんもある程度正常な判断が出来る状態に回復しています。

ここでは接し方においても、現実的な意見を伝えるようにしても良いでしょう。

もちろん相手を責めたり強要したりするような言い方は良くありません。あくまでも、「自分はこう思うよ」という事は伝えてもいいという事です。

「今の仕事を辞めるのも手かもしれないけど、私はもうちょっと続けてみてもいいと思うよ」
「こういう点を工夫して、これからもやってみるのはどう?」

など、相手の事を思った上での提案は決して悪いことではありません。

患者さんは、様々な方の意見を元に最適な判断が出来るようになります。

4.適応障害は励ましていいのか?

「うつ病は励ましてはいけない」ということは広く知られています。同様に「適応障害も励ましてはいけないのですか?」と聞かれることがあります。

結論から言うと、これはケースバイケースです。うつ病と適応障害はまったく異なる疾患ですので、うつ病と同じように考える必要はありません。

そもそもうつ病ではなぜ励ましてはいけないのでしょうか。

それは限界まで頑張ってうつ病を発症してしまった方に、励ましをしてしまうと更にプレッシャーを与えてしまうためです。

ここから考えると適応障害においても、心身が疲弊しきってしまった時期にはあまり励ましは良くないことが分かります。適応障害の症状がひどいときや、心身を休めるための休養に入っている時は、「励ます」という方法は良くないことが多いでしょう。

しかし現実と向き合う時期になれば、適度の励ましは有効な事もあります。本人の判断能力も正常に回復している時期ですから、励ましの言葉を認知の歪みなく受け取ることができます。

このように適応障害においては、治療の時期において接し方が大きく異なってくるのです。