病気を「受け入れる」事、出来ていますか?

こころの病気を受け入れる大切さ

こころの病気はその実体が目に見えないため、「本当に病気なのか」が分かりにくい面があります。そのため周囲から適切な理解が得られない事もあります。

中には自分自身でも「自分が本当に病気なのかが分からない」「先生からは病気だと言われたけど納得できていない」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、本当に病気なのにそれを受け入れていないのであれば、これは本人に大きな不利益をもたらします。

こころの病気に限らず、病気にかかってしまった場合は、「病気である自分」を受け入れる事が非常に重要です。

「今の自分は病気であり、治療が必要なのだ」という姿勢を持たなければ、治療のスタートラインに立てません。このような状態では、しっかりと治療する事は困難です。治療者が無理矢理治療をしても、中途半端で不十分な治療になり、病気が長引いたり難治化してしまうようになります。

こころの病気が思うように治らなかったり、治療が長期に渡ってしまっているという方は、「病気を受け入れる」という姿勢を持てているかどうかを見直してみましょう。

今日は病気を「受け入れる」大切さをお話します。

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1.病気を受け入れる事は病気と向き合う事

こころの病気・身体の病気に関わらず、治療にあたってまずすべき事は何でしょうか。

それはお薬を飲むことでも生活習慣を改める事でもありません。それよりももっと大切な事があります。

それは「自分が病気であると受け入れる事」です。

自分が病気であると認めないと、適切な治療を始めることが出来ません。

これは身体の病気を例に考えれば分かりやすいでしょう。

例えばあなたが胃潰瘍になってしまったとします。胃カメラで撮った胃の中の写真を見ると、明らかに胃壁に潰瘍があります。

医師はあなたにこう告げます。

「あなたは胃潰瘍という病気です。治療が必要です。」と。

続けて、

「胃酸の分泌を抑えるお薬を飲みましょう」
「胃腸に負担をかけるようなタバコやアルコールは控えましょう」
「食生活を規則正しくする事が大切です」
「ストレスで胃酸が出過ぎる事がありますので仕事内容も見直してみて下さい」

と医師はあなたに治療の方法を伝えます。

胃カメラにはあなたの胃に潰瘍がはっきりと映っています。「これは治さないといけない」と思い、あなたは医師に指示された治療法に従うでしょう。

これは「自分は胃潰瘍という病気で、治療が必要なのだ」と「病気である自分」を認めたから行える行動です。

でももし、医師が胃カメラの所見を見せてくれず、ちゃんとした説明もないままに「まぁ、たぶん胃潰瘍でしょう。この薬でも飲んで下さい」と一方的に言われたらどうでしょうか。

「自分が胃潰瘍なはずがない」「この医師はウソをついているのだ」と思ってしまうかもしれません。この時、あなたは「病気である自分」を受け入れていません。

この心境の時、果たしてあなたは医師に指示された治療法に従うでしょうか。

「先生は適当に診断しただけだろう」「自分は胃潰瘍ではない」と思っていれば、処方された胃薬など飲まないでしょう。食事に気を付ける事もしないでしょうし、タバコもお酒も今まで通りやってしまうでしょう。残業も休日出勤も気にせず続けてしまうかもしれません。

この状況で胃潰瘍が治るかというと、治らないですよね。治らないどころか、もっともっと悪化してしまう可能性があります。

身体の病気では、このような事態になる事は稀です。身体疾患では胃カメラをはじめ、血液検査やレントゲン、CTなどの「患者さんが納得しやすいツール」を使って「あなたは病気ですよ」と伝えやすいからです。

しかしこころの病気は、「こころ」という目には見えないものを扱うため、身体の病気と同じようにいかないところがあります。

もちろんこころの病気の診断は、専門家である精神科医が行いますが、「レントゲンでこころに傷が入っています」「血液検査でうつ病のマーカーが上がっています」と明確な所見を提示する事が出来ません。こころの病気は目に見える所見が乏しいのです。

目に見える所見が乏しいため、病気である本人も、その周囲の人たちも「本当に病気なのか」と確信を持ちにくいという特徴があります。

また、こころの病気に対する偏見から、

「自分がこころの病気にかかるはずなんてない」
「自分はそんな弱い人間ではない」
「こころの病気になっただなんて恥ずかしい」

と考えてしまう方も多く、それが「自分は病気ではない」という気持ちを後押ししてしまいます。

しかし、こころの病気を発症しているのに、それをいつまでも受け入れないでいると、どうなってしまうでしょうか。

先ほどの胃潰瘍を受け入れなかった例と同じような事が起きる事は明らかです。

自分が病気だと思っていないから、

「仕事の量を減らしましょう」
「このような考え方をしてみて下さい」
「抗うつ剤を毎日飲むようにしましょう」
「適度に運動するようにしましょう」

このように治療の方法を提案されても、まったく従わないか中途半端にしかやろうとしません。

むしろ「自分は病気じゃないんだから」と周囲を安心させようといつもより無理して仕事を頑張ったりしてしまう事もあります。

当然ですが、これでは病気は治りません。治らないどころか悪化してしまいます。

このように、病気というのはまずは「自分は病気なんだ」と受け入れる事が大切なのです。それをしないと治療を始める事が出来ませんし、受け入れが出来ていない状況で無理矢理治療を始めても高い確率で失敗してしまうのです。

2.こころの病気が受け入れにくいのはなぜか

わたしたち精神科医は、こころの病気(精神疾患)の診断を行っています。

精神疾患の診断というのは、身体疾患の診断と比べるととても難しく、それゆえに患者さんに説明し、納得してもらう事も非常に難しいと感じます。

例えば「高血圧症」を診断する時、「収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上」が1つの診断基準です。

血圧計で血圧を測れば、その人の「血圧」が数値として表示されます。その数値が診断基準を超えれば「あなたは高血圧です」と言えます。「それはおかしい」と結果を疑う患者さんはほとんどいないでしょう。

一方で「うつ病」を診断する時、「抑うつ気分」を認める事が診断基準の1つですが、どこからを「抑うつ気分」とするかは、明確な数値的基準がありません。

診断基準の1つであるDSM-5には、うつ病の「抑うつ気分」について、

その人自身の明言(例えば悲しみまたは空虚感を感じる)か、他者の観察(例えば涙を流しているように見える)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。

注: 小児や青年ではいらいらした気分もありうる。

と詳しく書かれてはいますが、これもやはり数値のような誰もが判断できるような指標ではありません。

このように精神疾患は身体疾患と比べると具体性に劣る診断基準をもとに診断していくため、どうしても「自分は本当に病気なのか」と患者さんは感じてしまいやすいのです。

実際、こころの病気の診断はされているけども、「自分は本当に病気なのかが分からない」と感じている方は少なくないように思います。

精神科は転院やドクターショッピング、セカンドオピニオンが多い科ですが、これも患者さんが「自分は本当に病気なのだろうか」という気持ちを持っている事が一因でしょう。

精神疾患はその特性上、症状を可視化・数値化できるものではありません。うつ病で上昇する血液検査のマーカーの研究なども行われていますが、これらも少なくとも現時点では高い精度で診断できるツールとは言えません。

この特性はこころの病気である以上、仕方のないものです。

自分が病気だと完全に受け入れる事が出来ていない患者さんは少なくありませんが、このような方々を減らすには、私達精神科医が、しっかりと丁寧に説明し、「この先生が言うんだからそうなのだ」と信頼して頂けるようにするしかないのです。

現状の精神医学界とみると、まだまだこれが不十分であると感じます。

患者さんが病気を受け入れられないと、一番不利益を受けるのはその患者さん自身なのです。

本来であればある程度の期間治療をすれば治るはずだった病気が、受け入れが不十分であった事で、治療が長期化してしまったり、難治化してしまうケースは少なくないように思われます。

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3.こころの病気を受け入れるために出来る事

こころの病気は、「自分が病気である事を受け入れにくい」特徴を持つ病気です。

しかししっかりと受け入れる事が出来ないと、それは治療に悪影響を及ぼすようになります。

「自分が病気である」という事を受け入れられるようになるためには、なぜこころの病気は受け入れる事が出来にくいのかを改めてしっかりと理解しておく必要があります。

Ⅰ.主治医を信頼する

検査値のような具体的な診断基準がない精神疾患を受け入れるためには、診断された人が診断した人を信頼していなければいけません。

つまり患者さんが主治医を信頼していなければ、受け入れる事は困難です。

「この先生が言うんだからきっとそうなのだ」

このように思えれば、自分が病気であると受け入れられるでしょう。

医師と患者さんの信頼関係が精神科ではとりわけ重要になる理由はここにあります。

私の経験からは、主治医を信頼するためには、まず医師に自分の気持ちを正直に伝える事だと感じます。もちろん、いきなり最初から言えないという場合は徐々にでも構いません。

自分のつらい症状や想いをぶつけて、主治医がそれをしっかりと受け取ってくれた時、患者さんは医師に心を開いてくれるようになると感じます。すると「この先生の事を信頼してみよう」という気持ちも少しずつ芽生えてくるのです。

ある程度の期間、先生の診察を受けて、どうしてもしっくりと来ない場合は、医師を変えてみる事も手になります(ただしあまり頻繁にドクターショッピングする事はお勧めしません)。

Ⅱ.「こころの病気にかかる」=「情けない」という誤解を解く

身体の病気だと受け入れられるけど、こころの病気は受け入れられない。

このような理由の一つに「こころの病気にかかるのは情けない」という気持ちがあります。

これは完全な誤解なのですが、まだまだこのような誤解は多くの方に見受けられるのです。

「うつ病はこころの弱い人がなるもの」
「気合と根性があれば、こころの病気になどならない」

このような考えは、以前よりは少なくなってきたものの、まだまだ世間には根付いています。

こころの病気は「病気」であり、気の持ちようや根性でどうにかなるものではありません。またこころが強い人はかからなくて、こころの弱い人がかかるというものでもありません。

身体の病気と同じく、誰でも発症する可能性のあるものなのです。

こころの病気を受け入れるためには、この事を正しく理解する必要があります。

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