イソミタール原末(一般名:アモバルビタール)はバルビツール酸系という種類に属する睡眠薬になります。
バルビツール酸系は一番最初に開発された睡眠薬で、イソミタールも1950年に発売されています。
イソミタールは眠りに導く効果は強力であるものの、副作用も多いため現在ではほとんど処方される事はありません。現在の不眠症治療においては極力用いるべきではない睡眠薬になります。
イソミタールにはどのような効果・特徴があるのでしょうか。ここではイソミタールの効果や強さについて紹介します。
1.イソミタールの効果
現在の睡眠薬は、「ベンゾジアゼピン系」「非ベンゾジアゼピン系」の2種類の睡眠薬が睡眠障害の治療の中心となっています。
【ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
GABA-A受容体に結合することで、催眠作用・筋弛緩作用などを発揮する。効果と安全性のバランスに優れるが長期使用による耐性・依存性に注意が必要
(代表薬:ハルシオン、レンドルミン、サイレース、ロヒプノール、ドラールなど)
【非ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
GABA-A受容体のω1という部位に選択的に結合することで筋弛緩作用を起こしにくくし、ふらつきや転倒のリスクが減っている睡眠薬。耐性・依存性はベンゾジアゼピン系よりは軽いという報告もある。
(代表薬:マイスリー、アモバン、ルネスタ)
また最近では「オレキシン受容体拮抗薬」「メラトニン受容体作動薬」といった、依存性のほとんどない新しい睡眠薬も登場してきています。これらのお薬は安全性の高さから、今後の睡眠薬の主役を担う可能性の高いお薬です。
【オレキシン受容体拮抗薬】
脳を覚醒させる物質であるオレキシンをブロックすることで眠りに導く。耐性・依存性がないと言われている
(代表薬:ベルソムラ)
【メラトニン受容体作動薬】
眠りに導くメラトニンという物質の作用を後押しする。耐性・依存性はないが効果も弱め
(代表薬:ロゼレム)
一方でイソミタールはというと、「バルビツール酸系」という種類に属する睡眠薬になります。
バルビツール酸系は1950年頃より使われ始めた、一番古い睡眠薬です。麻酔薬としても使われるほどの催眠効果を持っているのですが、一方で過量服薬をすると呼吸が止まってしまったり、血圧低下によるショックが生じるといった危険性も高く、また耐性・依存性が非常に強く・また急速に形成されることも大きな問題点でした。
【耐性】
服薬を続けていくと、徐々に身体がお薬に慣れていき、お薬の効きが悪くなってくること。耐性が形成されてしまうと、同じ効果を得るためにはより多い量が必要となるため、大量処方につながりやすい。
【依存性】
服薬を続けていくうちに、そのお薬を手放せなくなってしまうこと。依存性が形成されてしまうと、お薬を飲まないと精神的に不安定になったり、発汗やふるえといった離脱症状が出現してしまう。
そのため、1980年頃にベンゾジアゼピン系睡眠薬が登場してからは使用されることは少なくなり、現在ではほとんど処方されることはないお薬となっています。
睡眠薬を処方した時、患者さんが関心を持つのが「睡眠薬の強さ」です。
「先生、一番強い睡眠薬をください」
「睡眠薬は怖いから、一番弱いやつをください」
と睡眠薬の強さに対して、希望を頂くことは少なくありません。
イソミタールは睡眠薬としての効果は非常に強く、「最強レベル」だと言っても過言ではありません。眠らせる作用が強いバルビツール酸系の中でも「最強」と評価する医師・患者さんも少なくありません。
ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬ではほとんど眠れない方でも、イソミタールを使ったら、まるで麻酔がかかったようにストンと眠れるという事はよくあります。イソミタールは「非常に強い睡眠薬」だと言って良いでしょう。
一昔前は、イソミタールと非バルビツール酸系の「ブロバリン」の2つの睡眠薬を併用する事が流行っており、強力に眠りを導く処方であったため患者さんにも人気がありました(精神科医の間では「イソブロ」と呼ばれていました)。
またイソミタールは睡眠のうち、レム睡眠を抑制するという作用があり、これにより「夢」を見る頻度が少なくなると考えられています。夢で熟眠感が得られなかったり、悪夢で苦しんでいる方にとってイソミタールのレム睡眠抑制作用は時に役立つことがあります。
しかし問題は副作用にあります。効果が強いだけなら、そこまで問題はないのですが、イソミタールは効果が強い分副作用も強力なのです。
イソミタールをはじめとしたバルビツール酸系の副作用の大きな問題点は2つあります。それは、
- 耐性・依存性が強く、また急速に生じる
- 大量に服薬すると呼吸停止などのリスクもある
という非常に大きな問題なのです。
イソミタールを始めて飲むとストンと眠れるため、不眠で困ってきた患者さんは「これは素晴らしい睡眠薬だ!」と感動するかもしれません。
しかし、それは長くは続かないことを知っておかなければいけません。
イソミタールは耐性形成が急速に進むため、最初は1錠でぐっすり眠れていても、すぐに1錠では眠れなくなってきます。すると2錠、3錠・・・と増やさなくてはいけなくなります。そうこうしているうちに服薬量が大量になってしまい、危険な副作用が出現するリスクが上がっていきます。しかしそのころには依存性が形成されているため、イソミタールをやめることができなくなっています。
バルビツール酸系が主役であった1950年頃は、このような悪循環に至るケースが非常に多く認められたため、バルビツール酸系は使われなくなっていったのです。
そして現在においてもバルビツール酸系は極力用いるべきではありません。最悪の場合、命を落とすリスクもあるお薬だという事を覚えておかなくてはいけません。
2.他睡眠薬との比較
イソミタールをはじめとしたバルビツール酸系は、睡眠に導く効果としては非常に強い作用を持つお薬になります。効果だけを見れば、睡眠薬の中でもトップクラスでしょう。
ただし感覚としては「ぐっすり眠れるお薬」というよりは「薬で強制的に意識を落とされるお薬」という印象を持つ患者さんが多いようです。
睡眠薬はいくつかの種類があり、これらは強さに差があります。
睡眠薬の種類は昔のものから挙げると、
- バルビツール酸系
- 非バルビツール酸系
- ベンゾジアゼピン系
- 非ベンゾジアゼピン系
- メラトニン受容体作動薬
- オレキシン受容体拮抗薬
などがあります。
これらの強さを比較してみると、
バルビツール酸系=非バルビツール酸系>>ベンゾジアゼピン系=非ベンゾジアゼピン系=オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬
となります。
(あくまで目安で個人差があります)
「バルビツール酸系」「非バルビツール酸系」は最古の睡眠薬で、非常に強力な睡眠作用があります。しかし同時に非常に危険な副作用もあります。依存性も強く、また過量投与で呼吸が止まったり致命的になることもあります。そのため、現在では極力使わない睡眠薬です。
メラトニン受容体作動薬は、耐性や依存性形成もなく「自然な眠りの後押しをしてくれるお薬」というものです。安全性の高さが評価されていますが、眠りに導く効果は弱めであるため、良いお薬なのですが現状ではそこまで多くは普及していません。
現状では、効果と安全性のバランスの良い
- ベンゾジアゼピン系
- 非ベンゾジアゼピン系
- オレキシン受容体拮抗薬
の3種類が主に用いられています。
3.イソミタールの作用時間
イソミタールの作用時間はどのくらいなのでしょうか。
イソミタールの説明文書を読むと、
服用後約30分で入眠し、4~6時間熟眠が得られる
と記載されています。
イソミタールは作用の持続時間としては中程度であり、中間型のバルビツール酸系睡眠薬になります。
服用してからの即効性もあり、ある程度の時間効き続けてくれるため、入眠障害(寝付けないタイプの不眠)にも中途覚醒(夜中に目覚めてしまうタイプの不眠)にも効果が期待できます。
4.イソミタールの作用機序
イソミタールはどのような作用によって不眠を改善させているのでしょうか。
イソミタールはバルビツール酸系に属しますが、バルビツール酸系の催眠作用は、GABA(ɤアミノ酪酸)のはたらきを強めることになります。具体的にはGABAが作用する部位であるGABA受容体(特にGABA-A受容体)のバルビツール酸系結合部位にイソミタールが結合することで、眠くなるのです。
GABAは脳のはたらきを抑制させる神経に関与しているため、イソミタールによってGABAのはたらきが強まれば眠くなります。
ちなみにベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系も、同様にGABA-A受容体のはたらきを強めるのが作用機序になりますので、バルビツール酸系とベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系は、作用機序としては似ています。
しかしバルビツール酸系の方が強力にGABA受容体を刺激するため、強力な催眠効果と強力な副作用が生じるのです。
5.イソミタールの副作用
イソミタールの副作用については、「イソミタールの副作用と対処法」の記事にて詳しく紹介しています(近日執筆予定です)。
イソミタールは日中の眠気やふらつき、倦怠感、物忘れといった副作用が生じやすいお薬です。
また耐性・依存性もすぐに生じてしまい、その程度も強いため注意して服用する必要があります。
更に注意すべきなのは、頻度は稀であるものの命に関わるような重篤な副作用が生じるリスクがある点です。呼吸抑制(呼吸が浅くなったり止まってしまったりする)、重篤な不整脈、血圧低下などの報告があります。
イソミタールは常用量(通常使われる用量、イソミタールであれば0.1~0.3g)の5倍程度で中毒量となります。誤って数日分服用してしまうだけで、危険な状態になる可能性があるお薬なのです。安全性は低いと言わざるをえません。
たとえ不眠で困っていたとしても、極力用いるべきでないお薬になります。