自律神経失調症はうつ病や不安障害といった精神疾患と異なり、明確化された診断基準も乏しく、症状のあいまいさや多様さを持つ疾患であるため、その治し方というのも確立された方法はありません。
幅広い症状を持つ疾患であるため、患者さんの原因や症状によって適した治療法は異なります。
にも関わらず自律神経失調症は「放っておいても問題ない」「大袈裟に言っているだけ」と軽視されがちなのが現実で、これは問題です。
自律神経失調症は自律神経という目に見えない部位が失調しているため分かりにくい疾患ではありますが、その症状は決して気のせいではありません。自律神経という身体の一部に異常が生じている以上、しっかりと治してあげる必要がある疾患なのです。
ここでは自律神経失調症を改善させるための治し方について、特に大切な点を紹介させて頂きます。
1.理解・共感してくれる人を作ろう
自律神経の異常は目に見えません。また症状が身体のあちこちに現れたり、それぞれの症状は「頭が痛い」「動悸がする」などといった命に直結するような症状ではないため、しばしば周囲の理解を得られない事があります。
「あの人はいつも大袈裟だ」
「気持ちが弱いだけでしょ」
このように見られてしまう事があります。
本人は自律神経失調症の症状で非常に苦しんでいるのに、周囲からこう思われてしまうと、「誰にも分かってもらえない」という強い孤独感・不安を感じます。
誰からも理解してもらえない事や孤独感というのは、私たち人間にとって非常に大きなストレスとなります。こうなってしまうと、自律神経失調症は更に悪化していく事になってしまいます。
反対に安心や信頼を感じられると、こころは落ち着きそれだけで自律神経の失調が改善に向かっていく事もあります。
そのため、自律神経失調症を改善させるためにまず大切な事は、自分の苦しみ・つらさを理解・共感してくれる人を作る事になります。
自律神経失調症は、実際に自律神経のバランスが乱れて生じているため、症状が生じているのは気のせいではありません。検査では確認できないだけで自律神経のバランスは実際に崩れているのです。
それを分かってくれる方、「それはつらいよね」と理解してくれる方は必ず必要です。そして、そのような方に定期的に話を聞いてもらうようにしましょう。つらい気持ちは自分の中に溜め込んではいけません。
話を聞いてもらい、理解・共感してもらえるだけでも、「自分は一人じゃないんだ」「つらいけど支えてくれる人もいるんだ」と安心・信頼が得られます。
出来れば、家族や恋人・親友など自分にとって深く接する人が理解・共感してくれる事が理想です。あるいは実際に自律神経失調症を経験した事がある方も良いでしょう。経験者は、自分の体験から患者さんの苦しみを深く理解・共感しやすいからです。
どうしても身近にそういった理解者がいないという場合は、精神科・心療内科で医療者に相談してみて下さい。私たち医療者は専門家ですから、自律神経失調症という疾患を正しく理解しています。
患者さんの苦しみが「気のせい」「その人がおおげさなだけ」ではなく、本当につらいのだという事も分かっています。
実際、診察で特にお薬などを使わずとも、患者さんの苦しみを聞かせて頂き、理解・共感をするだけで症状が軽減していく事は珍しい事ではありません。
まず患者さんに実践して頂きたいのは、自分の症状やつらさを正しく理解・共感してくれる人を作る事です。
2.自律神経を整える生活を
自律神経失調症は、主に2つの原因があります。
詳しくは、「自律神経を乱して自律神経失調症を引き起こす2つの原因」でお話していますが、
- ストレス
- 不規則な生活習慣
が自律神経失調症を引き起こす2大原因です。
という事は、自律神経失調症を改善させるためには、
- ストレスをなるべく低くする
- 生活習慣を整える
の2つが有効である事が分かります。
この中で、比較的すぐに実践できるのが「生活習慣の改善」です。
ストレスは、自分の努力や工夫だけでは改善できない事がほとんどです。例えば、仕事内容や仕事の人間関係がストレスであったとしても、いきなり仕事をやめることは出来ないでしょうし、かといって仕事で接する人間の性格を変える事も困難です。
一方で生活習慣の改善は、自分の努力や工夫だけで行えます。
ここから考えると、自律神経を整えるためにまず実践すべき事は生活習慣の改善だという事が分かるでしょう。
自律神経失調症に陥っている方は、生活習慣の乱れがある事が多く認められます。ストレスなどによって
- 夜遅くまで起きてしまっている
- 日中ほとんど身体を動かしていない
- 日中ほとんど日の光を浴びていない
- 食事の間隔が不規則
- 食事のバランスが偏っている
- タバコの本数が増えている
- アルコールの量が多くなっている
このような生活になっている事が多いのです。これらはいずれも自律神経のバランスを乱してしまう行動になります。
自律神経を整えるための生活習慣というのは、何も特別な事をする必要はありません。
- 朝起きて、日中はしっかり活動し、夜はしっかり寝る
- 睡眠時間を十分に取る
- 食事を規則正しく、バランス良く食べる
- 適度に身体を動かす
- タバコやアルコールは少なめに
このように、一般的に「健康に良い」と言われている行動をするだけで十分です。
しかし、このように誰もが知っている健康的な生活ですが、これをしっかりと実践できている方というのは驚くほど少ないのが現実です。改めて自律神経を整える生活をしているかどうかというのを見直す事は、自律神経失調症を改善させるために非常に大切です。
また、上記のような健康的な生活をする事はもちろん基本ですが、それ以外にも
- ぬるめのお風呂への入浴を長めに
- 有酸素運動を定期的にする
- 自律訓練法を取り入れてみる
- 自分が安らげると感じられる事を定期的に行う
と自律神経のバランスを整えるのに良いと言われる行動を合わせて行う事で、より良い効果が得られます。
3.自分がストレスに負けてしまう理由を探そう
自律神経失調症の2大原因として、不規則な生活習慣の他に「ストレス」があります。
とは言ってもストレスのすべてが悪なわけではありません。ある程度のストレスは生きていく上で必要な刺激です。
問題となるのは、過剰なストレスです。
一般的に見てストレスが強すぎる場合もありますし、一般的に見ればストレスは適正内だけど本人のストレスに対する対処法が不適切であるという場合もあります。
それぞれの改善方法について考えてみましょう。
Ⅰ.ストレスが大きすぎる場合
一般的にみて、かかっているストレスが強すぎる場合は、ストレスの軽減を図るしかありません。
例えば極端な例ですが、
- 毎日深夜まで残業
- 休日も出勤して仕事している
- 趣味をしたり身体を休める時間がほとんどない
といった生活を送っていたら、これは誰が見ても明らかにストレスがかかりすぎです。
どんなに考え方を変えてみたりする事で改善できるようなものではありません。
この場合は、何とかストレスを軽減しなければ改善は得られないでしょう。
- 産業医に相談して、残業や休日出勤を減らす
- 上司や同僚に相談して仕事量の配分の再検討をしてもらう
- 定期的に趣味をする時間を意識的に作る
など、周囲の力も借りながらストレスの軽減を図っていきましょう。
Ⅱ.ストレスへの対処法が苦手な場合
普通の方であればストレスに感じないような事をストレスと感じている場合、自分の中で物事を過大にとらえ過ぎている状態になっていることが考えられます。
例えばちょっとした仕事を頼まれた時、「まぁ、大した仕事じゃないから大丈夫」と思えるか、それとも「ちゃんと出来ずにみんなに迷惑をかけたらどうしよう・・・」と考えるかで、こころに生じているダメージは全く異なったものになります。
このような場合、受けたストレス因を客観的に適正に受け取ることができるようになれば、ストレスはゼロにはならないまでも大きく減らすことができるでしょう。
ではどのようにすれば、ストレスを適正に受け取ることができるようになるでしょうか。
この答えは、その人その人によって異なってくるため、出来れば専門家に相談して頂きたいところです。精神科医や心療内科医、臨床心理士などの専門家に相談してみましょう。
一般的な答えとして、自律神経失調症の治療に用いられるような方法を紹介します。
<森田療法>
元々不安が強いような方・神経質な方は、「森田療法」の考え方を学ぶのも良いでしょう。森田療法は元々、心配性・神経質な性格傾向である「ヒポコンドリー性基調」の方を対象に確率された、こころを穏やかにするための物事の考え方になります。
人と比べて、何でも「心配だ」「不安だ」と感じてしまいやすい傾向のある方はぜひ取り入れてみて下さい。
<認知行動療法>
ストレスのとらえ方を修正するためには「認知行動療法」も有効です。認知行動療法は、自分の物事のとらえ方(認知)のかたよりを自覚し、「このように考えてみることはできないだろうか」と多角的な認知を学んでいく治療法です。
例えば大きな仕事を任された時、
「こんな仕事、自分にはできっこない。失敗したら皆に迷惑をかけるし嫌われてしまう・・・。どうしよう」
と考えるのと
「仕事も慣れてきたし、そろそろ大きな仕事をやってみるのも成長する良いチャンスだ。分からないことは上司に相談しながらやればいいし頑張ってみよう」
と考えるのとでは、同じストレス因であっても受けるストレスの大きさは全く異なってきますよね。
<交流分析・対人関係療法>
交流分析や対人関係療法というのは、かんたんに言えば人との付き合い方を再度見直すことで、対人関係によるストレスが生じるのを減らすことを目指す治療法です。
私達が受けるストレスは、その多くが対人関係に基づいていると言われています。そのため、ストレスを軽減させるためには対人関係をストレス少なく行えるような考え方・行動を意識することは非常に大切です。
<暴露療法>
特定の状況に対してストレスを過剰に感じてしまうような場合では、その特定の状況に応じた治療法が有効な事もあります。
例えば、特定の状況で恐怖や不安などが出現してしまう場合(例えば、人前に出ると不安から動悸や震えが止まらなくなる、など)は、暴露療法の考え方を取り入れてみると良いでしょう。
暴露療法は、不安を感じるような状況に敢えて自分を晒すことで、慣れる訓練をする治療法です。
暴露療法を成功させるためのポイントは、
・最初は弱い負荷から始めていく
・小さな成功体験を積み重ねることで不安を克服していく
の2つです。
暴露療法は、不安な状況に自分を晒すため、晒し方を間違えるとかえってその状況に恐怖を感じるようになってしまいます。これではより症状が悪化してしまい逆効果です。
そうさせないためには、乗り越えられそうな小さな不安から挑戦していく事が大切です。最初は小さな一歩であっても、徐々に徐々に乗り越えていく事で「これは本当は怖いものではないのだ」と深く理解できるようになり、不安が和らいでいきます。