セルシンの副作用と対処法【医師が教える抗不安薬のすべて】

セルシン錠(一般名:ジアゼパム)は1964年に発売されたベンゾジアゼピン系抗不安薬で、かなり古い部類のお薬に入ります。

抗不安薬は不安感を和らげる作用を持ち、「安定剤」「精神安定剤」とも呼ばれています。

セルシンは古いお薬ではありますが、昔は抗不安薬の代表選手として頻用されていました。長い実績と幅広い作用を持つことから、現在でもまだ使用される機会があるお薬です。

しかし多くの作用を持つという事は便利な反面で、副作用も出やすいということにもなりますので注意が必要です。

セルシンにはどのような副作用があって、他の抗不安薬と比べて副作用にどのような特徴があるのでしょうか。

ここでは、セルシンの副作用やその対処法について紹介します。

1.セルシンの副作用の特徴

セルシンは1964年に発売されたお薬ですが、1980年頃までは抗不安薬の代表選手として頻用されていました。その理由は、「幅広く効果をまんべんなく持つ」からで、どんなケースにおいても使いやすい抗不安薬であったからだと思われます。

しかし多くの作用を持つということは、使い勝手がよく助かる一方で、様々な副作用も出やすいということにもなります。

様々な症状に対して効果を示すセルシンは、ついつい服薬されてしまう事が多く、そのためしばしば「耐性」「依存性」が問題となります。耐性・依存性は全てのベンゾジアゼピン系に共通する副作用ですが、セルシンは有効な症状が多いお薬である分、服用する頻度も多くなりがちですので、より注意が必要となります。

【耐性】
お薬の服薬を続けていくうちに、徐々に身体がお薬に慣れていき、お薬の効きが悪くなってくること。耐性が形成されてしまうと、同じ効果を得るためにはより多い量が必要となるため、大量処方につながりやすい。

【依存性】
お薬の服薬を続けていくうちに、そのお薬を手放せなくなってしまうこと。依存性が形成されてしまうと、お薬を飲まないと精神的に不安定になったり、発汗やふるえといった離脱症状が出現してしまう。

特に大量の服薬・長期の服薬を続けていると耐性・依存性が形成されやすいため、お薬の量はなるべく少量・短期間になるようにし、漫然と飲み続けないようにしなければいけません。必ず医師の指示を守って、決められた量の内服にとどめることが非常に大切です。

またセルシンには、

  • 抗不安作用(不安を和らげる)
  • 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)
  • 催眠作用(眠くする)
  • 抗けいれん作用(けいれんを抑える)

といった4つの作用があります。

セルシンに限らずベンゾジアゼピン系のお薬は全てこの4つの作用を持っていますが、それぞれの作用の強さはお薬によって異なります。セルシンはと言うと、

  • 抗不安作用は中等度
  • 催眠作用は中等度
  • 筋弛緩作用は中等度
  • 抗けいれん作用は中等度

と、それぞれの作用をそれなりにまんべんなく持っています。

そのため、この作用に関連した症状が時に副作用として出現します。具体的には、

  • 催眠作用によって、眠気やせん妄が生じる
  • 筋弛緩作用によってふらつきや転倒が生じる

などがあります。

2.セルシンで生じる副作用はどのようなものがあるか

セルシンで特に注意すべき副作用には次のようなものがあります。

  • 耐性・依存性
  • 眠気
  • ふらつき
  • 転倒

短期的に見ると、眠気・ふらつき・転倒といった副作用に注意が必要です。しかし一番気を付けるべきなのは、長期的にみて形成される耐性・依存性になります。なお、これらはセルシンに限らず他のベンゾジアゼピン系でも認められる副作用になります。

では、それぞれの副作用やその対処法を詳しくみていきましょう。

Ⅰ.耐性・依存性形成

多くの抗不安薬に言える事ですが、長期的に見ると「耐性」「依存性」は一番の問題となります。全てのベンゾジアゼピン系は、無茶な使い方を続けると耐性・依存性を起こす危険性があるのです。

耐性というのは、身体がお薬に慣れてきてしまう事です。

セルシンの服薬を長期・大量に続けていると、最初はセルシンを1錠飲めば十分効いていたのに、だんだんと身体が慣れてきてしまい、次第に2錠、3錠と量を増やさないと効かなくなってきてしまいます。

そして依存性というのは、その物質なしではいられなくなってしまう状態です。

これもセルシンの服薬を長期・大量に続けていると、次第にセルシンがないと落ち着かなくなってしまい、セルシンが切れるとソワソワやイライラといった精神不安定が出現したり、ふるえや発汗などといった身体症状が出現してしまいます。

耐性も依存性もアルコールで考えると分かりやすいかもしれません。アルコールにも耐性と依存性があることが知られています。

アルコールを常用していると、次第に最初に飲んでいた程度の量では酔えなくなるため飲酒量が増えていきます。これは耐性が形成されているという事です。

また大量の飲酒を続けていると、次第にいつも飲酒していないと落ち着かなくなり、常にアルコールを求めるようになります、これは依存性が形成されているという事です。

抗不安薬には耐性と依存性がありますが、アルコールと比べて特段強くというわけではなく、医師の指示通りに内服していれば問題になる事は多くはありません。お酒だって節度を持った摂取であれば、耐性・依存性が問題となることはありませんよね。それと同じです。

耐性・依存を形成しないためには、まず「必ず医師の指示通りに服用する」ことが鉄則です。アルコールも抗不安薬も、量が多ければ多いほど耐性・依存性が早く形成される事が分かっています。

医師は、耐性・依存性をなるべく起こさないように量を考えて処方しています。それを勝手に量を調節してしまうと、耐性・依存性が形成されやすくなる可能性があります。

またアルコールとの併用も危険です。アルコールと抗不安薬を一緒に飲むと、これも耐性・依存性の急速形成の原因になると言われています。

また、セルシンを「漫然と飲み続けない」ことも大切です。

基本的に抗不安薬というのは、「一時的なお薬」です。

ずっと飲み続けるものではなく、不安の原因が解消されるまでの「一時的な」ものです(長期的に不安を取りたい場合は、抗不安薬ではなくSSRIなどが用いられます)。

定期的に「量を減らせないか」と検討する必要があり、必要ない状態なのに漫然と内服を続けてはいけません。

服薬期間が長期化すればするほど、耐性・依存形成のリスクが上がります。

Ⅱ.眠気、倦怠感、ふらつき

ベンゾジアゼピン系は、催眠効果、筋弛緩効果があるため、これが強く出すぎると、眠気やだるさを感じます。ふらつきが出てしまい、それが元で転倒してしまうケースもあります。

セルシンにも筋弛緩作用や催眠作用がありますので、これらの副作用が生じる可能性があります。

もしこれらの副作用が生じてしまったら、どうすればいいでしょうか。

もし内服してまだ間もないのであれば、「様子をみてみる」のも1つの方法になります。なぜならば、服薬を続けることで「お薬が身体に慣れてくる」ことがあるからです。

様子を見れる程度の眠気やだるさであれば、1~2週間様子をみているだけで、副作用が自然と改善していくことは少なくありません。

それでも改善しないという場合、次の対処法は「服薬量を減らすこと」になります。

量を減らせば作用も副作用も弱まります。抗不安作用が弱まってしまうというデメリットはありますが、副作用がつらすぎる場合は仕方ありません。

例えば、セルシンを1日10mg内服すると眠気が強く出てしまうのであれば、1日量を4mgや6mgなどに減薬すれば副作用は軽減するでしょう。

また、「お薬の種類を変える」という方法もあります。より筋弛緩作用や催眠作用が少ない抗不安薬に変更すると、改善を得られる可能性があります。

Ⅲ.物忘れ(健忘)

セルシンに限らず、ベンゾジアゼピン系のお薬は心身をリラックスさせるはたらきがあるため、頭がボーッとしてしまい物忘れが出現することがあります。

実際、ベンゾジアゼピン系を長く使っている高齢者は認知症を発症しやすくなる、という報告もあります(詳しくは「高齢者にベンゾジアゼピン系を長期投与すると認知症になりやすくなる【研究報告】」をご覧ください)。

適度に心身がリラックスし、緊張がほぐれるのは良いことですが、日常生活に支障が出るほどの物忘れが出現している場合は、お薬を減薬あるいは変薬する必要があるでしょう。

これらが臨床でよく取られる副作用とその対処法です。

なおこれらの方法は独断で行うと、症状を悪化させてしまう可能性がありますので、必ず主治医と相談しながら行ってください。

3.副作用を過度に怖がり過ぎず、適正に使用しましょう

ベンゾジアゼピン系には依存性があり、近年はこれが問題としてメディアに取り上げられることも増えてきました。

そのため、「ベンゾジアゼピン系は絶対に飲みたくない」と拒否される患者さんも時にいらっしゃいます。「お薬は飲みたくない」という希望を治療者に伝えることは何も悪いことではないのですが、中には「ベンゾジアゼピン系は必ず依存する」と過剰に恐怖を感じており、、そのイメージだけで拒否してしまっている方もいらっしゃいます。

例えば、同じように依存性のあるアルコールを考えてみてください。世の成人のほとんどはアルコールを時々飲むと思いますが、その中で依存になってしまうのは無茶な飲み方をするようなごく一部の方だけで、適度な摂取にとどめているほとんどの方はまず依存になる事などありません。

ベンゾジアゼピン系だってこれと同じです。必要な期間・必要な量のみの服薬を、専門家である精神科医のもとで使用しているのであれば、依存性が生じない患者さんもたくさんいるのです。

もちろん、お薬を飲まないでも良いような状態なのであればお薬なしで治療することが一番ですので、飲む必要はありません。しかし、どんなお薬にも副作用はあります。お薬の服薬を考える場合は、副作用だけを見て「怖いからイヤだ」と拒否するのではなく、効果と副作用のバランスを考えて冷静に判断して頂きたいと思っています。

専門家である精神科医が「今のあなたはベンゾジアゼピン系を服薬した方がいいでしょう」と提案するのであれば、それは総合的に見ればお薬を使うメリットの方が高いから提案しているという事を忘れないでください。あなたにとって害しかない治療法を専門家が勧めるはずがありません。そのため、このような状態で服薬を拒否すれば、確かに依存性が生じるリスクはなくなりますが、別のデメリットが生じる可能性があるのです。

例えば、不安がものすごく強い方で、このままベンゾジアゼピン系を服薬しなければ、外出などの生活に必要な活動も行えなくなってしまう可能性が高い患者さんがいたとします。

この方に、期間を決めてベンゾジアゼピン系を投与することがあります。もちろん依存性が生じるリスクはゼロではありませんが、ベンゾジアゼピン系でまずは不安を取り、活動が行えるようになって自信がついてきたところで依存形成しないうちにベンゾジアゼピン系を減らす、というのは悪い治療計画ではないでしょう。

この場合、もしベンゾジアゼピン系を拒否していれば、不安がどんどん増悪して仕事に行けなくなったり、必要な外出も出来なくなってしまったりという状態になってしまうかもしれません。確かに依存が生じるかもしれないというデメリットはありましたが、総合的にはメリットの方が高いと考えることができます。

ベンゾジアゼピン系に依存性があるのは事実であり、依存で苦しい思いをしてしまっている方がいらっしゃるのも事実です。そのため、これらのお薬を安易に使ってはいけないのは間違いのない事です。

しかし偏ったイメージで過剰に怖がるのではなく、お薬のメリットにもしっかりと目を向けて、総合的な判断で服薬をするかどうかを考えて頂きたいのです。メリットとデメリットをしっかりと見極めて、必要なのであればその期間はしっかりと使って病気を治して頂きたいと思っています。