高齢者にベンゾジアゼピン系を長期投与すると認知症になりやすくなる【研究報告】

ベンゾジアゼピン系薬剤は、睡眠薬、抗不安薬、筋弛緩薬などとして精神科領域で広く使われています。重篤な副作用も少ないため使い勝手がよいおくすりですが、使用はなるべく短期間にとどめることが推奨されています。

その理由は、長期使用で耐性や依存性などの弊害が報告されているからです。

今回、英国のBMJ誌に「ベンゾジアゼピン系は高齢者の認知症を起こしやすくする」という研究結果が新たに報告されました。ベンゾジアゼピン系は脳を鎮静させてしまうため、以前から「認知症を起こしやすくするのでは」という指摘があり議論されていました。

研究報告の詳細およびそこから考えるベンゾジアゼピン系の使用法について考えてみたいと思います。

1.高齢者へのベンゾジアゼピン系長期投与は認知症リスクを上昇させる

ベンゾジアゼピン系のおくすりを投与されている高齢者は、そうでない高齢者と比べて
43~51%ほどもアルツハイマー型認知症になりやすい。

また、ベンゾジアゼピン系の使用量が多く、使用歴が長いほど、
アルツハイマー型認知症になるリスクが高くなる。

Sophie Billioti de Gage氏らが、2014年9月にBMJ誌にて報告しました。

同氏らは、ベンゾジアゼピン系投与とアルツハイマー型認知症の発症の関連を調べるために、
カナダのケベック州の66歳以上の高齢者(アルツハイマー型認知症患者者1796名、比較対象者8784名)
を対象に調査を行いました。

ベンゾジアゼピン系の投与量によって違いを見るために

〇累積暴露期間3か月以下相当群
〇累積暴露期間3~6か月相当群
〇累積暴露期間6か月以上相当群

の3群に分け、
またベンゾジアゼピン系の半減期による違いを見るために

〇短時間型(半減期20時間未満)
〇長時間型(半減期20時間以上)

の2群に分けて分析は行われました。

その結果、ベンゾジアゼピン系の使用はアルツハイマー型認知症のリスク上昇に関係する、
という結果となりました。
そのオッズ比は1.51でした。

オッズ比についての細かい説明はここでは省きますが、ものすごくかんたんに言うと、
値が1であればベンゾジアゼピン系使用者と非使用者の認知症発症比率が同じくらいという事であり、
1より大きければ大きいほどベンゾジアゼピン系使用とアルツハイマー病発症の
関連性が高い事を表しています。

投与量で見ると、

〇累積暴露期間3か月以下相当群は、オッズ比1.09(統計学的にみると関連性なし)
〇累積暴露期間3~6か月以下相当群ではオッズ比1.31
〇累積暴露期間6か月以下相当群は、オッズ比1.84

と、投与量が多いほどアルツハイマー型認知症を発症しやすいという結果になりました。

半減期で見ると、

〇短時間型ベンゾジアゼピン系では、オッズ比1.43
〇長時間型ベンゾジアゼピン系では、オッズ比1.70

と、長時間型の方がアルツハイマー型認知症を発症しやすいという結果になりました。

▽ 詳細はBMJのサイトから見れます(英語)
 http://www.bmj.com/content/349/bmj.g5205 

2.ベンゾジアゼピン系使用にあたって気を付ける事

高齢者にベンゾジアゼピン系を長期間使用すると、認知症を発症しやすくなってしまう。
今回の研究は、そのような結果となりました。

この研究からは、

〇 ベンゾジアゼピン系投与はなるべく短期間にとどめるべき

という事が改めて言えると思います。

これは今までも言われていた事ですが、今までは、耐性や依存性形成の観点からでした。
これからは更に認知症予防の観点も意識しながら同様に短期間使用にとどめるです。

また、認知症予防という観点から見れば

〇 どうしても使用を続けなくてはいけない場合は、短時間型が良い

という事が言えますが、短時間型の方が耐性・依存性は形成しやすいという傾向もあるため、
どちらを選ぶかは一概には言えません。
ここは主治医と今の状態をよく相談して個々に判断すべきところでしょう。

このような研究を紹介すると、過敏になってしまい、
「ベンゾジアゼピン系は怖いから今後一切使いません!」と言う患者さんがいます。

気持ちは分かりますが、それは少し早計かと思われます。

確かに必要のないケースで使うことは避けるべきですが、
ベンゾジアゼピン系が必要だと判断される状態なのであれば
一定期間使用することは悪いことではありません。

例えば、重度の不眠に苦しんでいるケースで、医師からみてベンゾジアゼピン系睡眠薬が
必要だと判断されるにも関わらず「認知症になりたくないから睡眠薬を使いません!」と言えば、
不眠が続いてしまいます。

不眠が長く続けば、様々な弊害が出てくるでしょう。
不眠は血圧を上げ、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクにもなります。
ベンゾジアゼピン系を使わないことでかえって寿命を縮めてしまうことだってあるのです。

ベンゾジアゼピン系というのはお酒によく似ていると感じます。
適度に使えばメリットが多いけど、過度に使えばデメリットが多くなります。

適度の飲酒は、気持ちも良くなるし、コミュニケーションも円滑になります。
でも過度の飲酒は、人に迷惑をかけるし身体を壊します。

ベンゾジアゼピン系も同じで、適度に使えば問題はありません。
実際、この研究でも累積暴露期間3か月以下相当群では、
アルツハイマー型認知症発症と関連なしという結果になっています。

ベンゾジアゼピン系の使用は主治医としっかりと相談しながら、
必要以上に服薬しないよう注意して、上手に付き合っていきましょう。