何か悩み事がある時、それを誰かに相談できると気持ちは軽くなります。
悩み事を一人で抱え込まず、誰かに相談する事は精神科的に見てもとても有効な対処法です。実際、診察でも悩み事を相談される事はとても多いものです。医師に相談して、「聞いてもらえて楽になりました」「アドバイスがもらえて落ち着きました」と感謝される方もたくさんいらっしゃいます。
人に相談する事は、気持ちを落ち着けるために有効な方法である事がここからも分かります。何か困ったことやつらい事がある場合、一人で抱え込まず、早めに「人に相談する」「周囲に吐き出す」ことは精神衛生上もとても大切なことなのです。
しかし、ただつらい気持ちに任せて勢いで相談をしてしまうと、期待していたような結果が得られなかったり、中にはかえって不快な気持ちになってしまう事もあります。つらい時はすぐに誰かに相談をしたいものですが、相談前にひと工夫すると、より有意義な相談にすることができます。
今日は、悩み事を相談をする時に、有意義な相談にするためのポイントについて考えてみましょう。周囲の人や主治医に悩み事を相談する時の参考にしていただければ幸いです。
1.相談をするときの2つの目的
悩み事があると、それを「誰かに相談したい」と感じることがあります。
この時、相談をすることであなたは何を期待しているのでしょうか。
「誰かに相談したい!」という勢いに任せて相談するのもいいのですが、その前に「相談することで私は何を期待しているのだろう?」ということについて考えてみましょう。このひと手間を加えると、その相談はより有意義なものとなります。
私たちが悩み事を相談をするとき、その背景にある期待には、主に次の2つのどちらかである事がほとんどです。
それは、
「自分の気持ちを誰かに分かって欲しい」
という気持ちか、あるいは
「悩みに対する現実的な解決法を知りたい」
というものです。
相談をする背景にはこの2つの期待があることが多く、この両方を求めている事もあれば、片方しか求めていない事もあります。
そしてこれどちらを自分が求めているのかというのは、実は自分自身では自覚できていない事が少なくありません。
悩み事がある時というのは、気持ちが不安定になっています。「一刻も早くこの不安定な感情を消したい」と焦っているため、冷静に自分の気持ちを見つめる事がなかなかできないのです。
しかしここで勢いに任せて慌てて相談するのではなく、相談する前に「自分がどちらを求めているのか」を見直すと、相談はより有意義なものとなります。また可能であれば相談される側も、相手がどちらの意図を持って相談しているのかを察する事ができれば、相手の気持ちを更に楽にすることができるでしょう。
この2つの目的、それぞれについて簡単に見てみてましょう。
Ⅰ.自分の気持ちを誰かに分かって欲しい
日常における相談の多くは、こちらの目的が多いようです。診察で患者さんから相談を頂く際も、こちらの目的で相談される方が多いように感じます。
この場合、相談はしているけども、具体的なアドバイスを求めているというわけではありません。相談をしている主な目的は「自分の気持ちを分かってもらいたい」「溜め込んでいるつらい気持ちを吐き出したい」という思いにないます。
「これを誰かに話したからといって、現実的に何も解決しない事は分かっている。でもとにかく誰かに話を聞いてもらいたい」というような相談です。
もちろん、現状の悩みをパッと解決してくれるような魔法のような方法があれば、それが一番です。しかし現実的に考えれば、そんな上手い話があるはずもない、という悩み事もあります。この時、相談者も「これは誰かに相談したからといってパッと解決するものではない」という事はよく分かっています。でも、たとえ現状が変わらなかったとしても、誰かに聞いてもらったり誰かに応援してもらえるだけでも気持ちは楽になるものなのです。
「今の仕事が辛くて・・・・」
「夫婦関係がうまくいってなくて・・・」
このような相談を受けても、多くの人にとってこれらの問題は解決できないものです。
「じゃあ俺が君にとっての理想の仕事を探してきてあげよう」
「じゃあ俺が旦那さんを君の理想の旦那さんに変えてあげよう」
こんな魔法のような解決法を提示できる人など、まずいないでしょう。
もちろん相談者もそんな事は分かっています。話したからといって何かが現実的に変わるわけではないのだけど、一人でストレスを溜めこむのではなく、話す事でストレスを発散する事、そして相談相手に理解・共感してもらう事で安心や勇気をもらう事がこの相談の目的になります。
そのため、相談される側は
「そんな事、オレに言われても解決しようがないよ」
「それって別の人に相談した方が良い事だよね?」
「離婚すればいいんじゃない」
などと現実的な返答をする事はよくありません。
そんな事は相談者だって分かっているのです。なのにそれを言われてしまうと、それ以上相談できなくなってしまいますし、この相談の目的である安心や勇気をもらう事も叶わなくなってしまいます。
これではせっかく相談したのに、
「自分の気持ちを分かってもらえなかった」
「私はきっと大切に思われていないんだ」
という悪い結果をもたらしてしまいます。
相談相手は、現実的には何もできなかったとしても、相談者のつらい気持ちを理解・共感し、
「私はあなたの味方だよ」
「話を聞いてあげる事しかできないけどいつでも話してね」
と寄り添った対応をする事が望まれます。たとえ現実的な解決法を提示できなかったとしても、理解し寄り添うだけでも相談者の気持ちは楽になるのです。
Ⅱ.現実的な解決法を知りたい
相談の内容が、困っている事に対して具体的な解決法を求めているという場合もあります。特にその道の専門家であったり、職場の上司などに相談する場合は、このようなケースの相談も少なくありません。
この場合、相談者は具体的な解決法を求めていますので、具体的な解決法を提示するか、解決法がないのであれば「ない」とはっきり答えてあげる必要があります。
例えば、
「この仕事のここのやり方が分からなくて・・・。教えてもらえると助かります。」
といった相談は、具体的な解決法を求めています。このような相談をされた時に、
「それは大変だね」
「私は聞いてあげる事しかできないけど、いつでも相談してね」
などといった共感のみの対応で終わってしまえば、相手は不満に感じるでしょう。
診察においても
「このお薬が自分に合っているかどうか知りたいんです」
と解決法を求めている相談したのに、「そうですよね。それは知りたいですよね」と医師が共感だけしかしてくれなければ、「この先生は、ちゃんとした答えをくれないし頼りない先生だな」と感じてしまうでしょう。
「今までの経過から判断すると、このお薬はあなたに向いていると思いますよ」
と具体的な回答を提示した方が相手も安心しますし、もしまだ分からないのであれば、
「〇〇さんは、まだこのお薬を使って短いですから、あと×週間くらい様子を診てからでないとお答えするのは難しいです」
と正直に答えてもらった方が患者さんは満足するでしょう。
2.どちらの目的で相談しているのかが食い違うとイヤな思いをする事も
相談の2つの目的をお話しました。
読むと当たり前の事なのですが、この2つの目的の認識不足や食い違いによって、相談がうまく機能しなかったり、せっかく相談したのに感情が悪化してしまう事がしばしば認められます。
精神科で診察をしていると、相談という行為がうまく機能していないケースにしばしば出会います。
相談がうまく機能していないと、
「夫に相談しても、『じゃあこうすればいいじゃない』と現実的な回答をするばかりで、私の話を全然聞いてくれないんです」
「○○さんは優しいけど、具体的な指示がないから頼りないんです」
と、せっかく相談しているのに、このような不満が出てきてしまうのです。
相談というのは誰にでも出来る事ではありません。
見ず知らずの人に自分の悩みをいきなり相談できる人なんていないでしょうし、知っている人の中でも信頼できる人にしか相談は出来ません。相談というのはするだけでもエネルギーが必要です。せっかく大きなエネルギーを使って相談をするのですから、それでイヤな思いをしてしまう事はもったいないですよね。
相談を有意義なものにするためには、相談がうまく機能するような工夫をする必要があります。
相談がうまく機能していないケースというのはどんなものがあるのでしょうか。よく見かける2つの失敗パターンを紹介します。
Ⅰ.自分が相談の目的をハッキリさせていない
「つらい気持ちを分かってもらいたい」のか「現実的な解決法が知りたいのか」。
相談をする際に、自分自身がどちらを求めているのか、はっきりさせないまま相談に入ってしまう方がいらっしゃいます。何かつらい事があって、パニック状態のまま「とりあえず誰かに話を聞いてもらいたい!」と勢いで相談をしてしまうような人に多いパターンです。
自分でどちらを求めているのか分からずに相手に話せば、相手もどちらを求められているのかが分からないため、相談者が期待していない方の回答を提示してしまう事もあるでしょう。
実は「つらい気持ちを分かってもらいたい」という想いが背景にあったのに、それを自分で十分に認識していなかったため、相手も誤解してしまい、具体的な解決策を提示してしまう事があります。
「仕事がつらいんだよね・・・」という相談に対して、実は
「それは大変だね」
「今が一番辛い時期だからもう少しがんばってみようよ」
という答えが欲しかったのに、
「有給とってしばらく休んだら?」
「イヤならやめればいいじゃない。仕事なんてたくさんあるんだから」
といった答えがきてしまうことがあります。
相手は悪気なく、本人の事を思ってアドバイスしているのですが、本人が望んでいた回答ではないため、せっかく相談したのによい結果をもたらさなくなってしまいます。
Ⅱ.自分の相談の目的と相手の受け取り方に食い違いがある
世の中には様々な性格の人がいます。
そのため、相談する相手によっては「気持ちを共感する事を重視する人」もいれば「具体的な解決法をすぐに提示したがる人」もいます。一般的な傾向としては、男性はすぐに具体的な解決法を提示したがり、女性は気持ちを共感する事を重視すると言われています。
これはどちらがいいとか悪いとか言う話ではありません。色々な性格・考え方の人がいるのは当然の事です。
しかし相談する相手の性格によっては、自分の相談の意図をうまく汲んでもらえず、自分が求めている回答と異なるものが返ってきてしまう事があります。
この場合も相談する方も不満に感じてしまいますし、相談された側も「せっかく時間を作ってアドバイスしてあげたのに・・・」と不満を感じてしまい、せっかくの相談が良くない方向に向かってしまいます。
3.相談をする時に見直しておきたいこと
何か悩み事がある時、それを誰かに「相談する」のはとても有効な方法です。誰かに話すだけでもモヤモヤした感情がスッキリしますし、時には自分では思いつかなかったような解決法に出会えることもあります。
しかし相談したことによって、かえって落ち込んでしまったり、不快な気持ちになってしまう事もあります。
せっかく相談するのであれば、有意義な相談にしたいものです。有意義な相談にするために、自分で気を付けられることについて考えてみましょう。
Ⅰ.主にどちらを目的とした相談なのか
相談の主な目的は、
「自分の気持ちを誰かに分かって欲しい」
「悩みに対する現実的な解決法を知りたい」
のどちらかである、という事をお話しました。
しかしこれは、相談者本人もしっかりと自覚出来ていないことがあります。実はこのうちのどちらかを目的に相談しているのに、それを自分でしっかり自覚していないがために、相談の仕方を間違えてしまい、相手から期待と違う返答をされてしまうことがあります。
そうならないため、相談をする前に「自分は相談する事で何を期待しているのだろうか」と見直してみることは非常に重要です。
「誰かに相談したい」と感じる時は、精神的につらい時がほとんどですので、一刻も早く相談したくなります。しかしそこで少し立ち止まって、「自分の相談の目的」を見返してみましょう。
そのひと手間で、相談で得られる効果は大きく変わります。
Ⅱ.相談相手の性格を考える
相談する目的が分かったら、相談相手も選ぶ必要があります。
一般的に男性は具体的な解決策を提示し、女性は共感・理解をする、という傾向がありますので、これも相談相手を選ぶ1つの参考になります。
また、人はそれぞれ性格が異なります。「すぐに結論を出したがる」人もいれば、「ゆっくり話を聞いてくれる人」もいます。
どちらが良い悪いではありません。しかし自分の望んでいる方向と違う答えが返ってきそうな人であれば、相談はしない方がお互いのためかもしれません。相談する相手が複数いるのであれば、自分の相談内容になるべく沿っている人に相談する方が良いでしょう。
Ⅲ.相手にそれとなく伝える
相談相手のほとんどは、「相手の力になりたい」と思っています。そのため、「どうしたら相手の気持ちが楽になるだろうか」と考えながら相談を聞いています。
相手が自然と相談の目的を理解してくれればいいのですが、中には上手く相談の目的が伝わらないこともあります。
そのような時は相手にそれとなく伝えてみることも有効です。
伝えるといっても、「解決できない問題なのは分かっているから、私に共感して欲しい」とダイレクトに伝えるのはちょっと気が引けますよね。相手もびっくりしてしまうでしょう。
例えば、よく用いられているのが「こんな事、誰かに言ってもどうもならない事は分かっているんだけど、でも誰かに聞いてもらいたくてさ・・・」という感じで話を始めると、相手は「解決策を求められているわけではないんだな」と察しやすくなります。
また、反対に具体的な解決法を求めている時は、
「○○について自分でいくら考えても解決できなくて・・・。あなたは○○に詳しそうだから教えてほしい」と具体的に解決法を求めている事を伝えれば、相手も答えやすくなるでしょう。