テトラミド(一般名ミアンセリン)は1983年に発売された抗うつ剤で、四環系という古いタイプの抗うつ剤に属します。
現在はSSRI/SNRIやNassaなどといった新しい抗うつ剤が使われることが多いため、テトラミドなどの四環系抗うつ剤が使われる機会は少なくなっています。
しかし四環系は、「眠りを深くする」という作用を持つため、睡眠薬などでは効果を認めない不眠症状に対して現在でも用いられることがあります。またテトラミドはノルアドレナリンに集中的に作用するという特徴を持ち、意欲・やる気の改善が乏しい方にも使われる抗うつ剤です。
古いお薬で使われる機会が減っているお薬ではありますが、必要な時に正しく使えば良い効果を期待できるお薬なのです。
ここでは四環系系抗うつ剤であるテトラミドの効果や特徴について詳しくみてみましょう。
1.テトラミドの特徴
まずは、テトラミドのイメージをつかんでいただくため、その特徴を紹介します。
【良い特徴】
- 眠りを深くする作用に優れる(深部睡眠を増やす)
- 三環系と比べて副作用が少ない
【悪い特徴】
- 抗うつ効果はかなり弱い
テトラミドをはじめとした四環系抗うつ剤は、三環系抗うつ剤の次に開発されたお薬になります。
三環系抗うつ剤は、「効果も強いけど副作用も強い」お薬でした。強力な抗うつ効果があるのは良いのですが副作用も強力であり、時に命に関わるような重篤な副作用が生じることもありました。
「いくら効果が強いからといっても、これではまずいだろう」という事で安全性の向上を目指して開発されたのが四環系抗うつ剤であり、テトラミドもその一つになります。
四環系抗うつ剤は三環系抗うつ剤と比べると、副作用は大幅に軽減され、安全性は高くなりました。それだけであればよかったのですが、同時に抗うつ効果も弱くなってしまったのです。
四環系抗うつ剤は、「三環系の副作用の多さは軽減されたけども、効果は弱い抗うつ剤」であるといえます。
その後、優れた抗うつ効果を持つSSRI、SNRI、NaSSAなどの新規抗うつ剤が次々と発売されたことにより、現在では四環系は使用される頻度が少なくなっています。
SSRI:ルボックス、デプロメール、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロ
SNRI:トレドミン、サインバルタ
NaSSA:レメロン、リフレックス
しかし四環系抗うつ剤ならではの特徴として、「眠りを深くする作用に優れる」ということが挙げられます。これは「眠気」「ふらつき」といった副作用になってしまう事もあるのですが、不眠で困っている方にとっては助かる作用です。四環系は睡眠薬とは異なった機序で眠りを深くするため、睡眠薬の効果が不十分な不眠症状で苦しんでいる方に使われることがあります。
また、四環系の中でテトラミドはノルアドレナリンを集中的に増やすという特徴があります。ノルアドレナリンが増えると意欲・気力の改善が得られるため、意欲低下や無気力を認める患者さんにはテトラミドの効果が期待できます。
2.テトラミドの作用機序
テトラミドは、四環系と呼ばれるタイプの抗うつ剤です。
抗うつ剤は脳のモノアミンを増やすことで抗うつ効果を発揮しますが、モノアミンを増やす方法としては、
- モノアミンが分解されないようにする
- モノアミンの分泌を増やす
の主に2通りの方法があります。
ほとんどの抗うつ剤は前者の作用でモノアミンを増やします。モノアミンの再取り込み(吸収)を抑えることで、神経間にモノアミンが長くとどまるようにするというはたらきで、具体的にはSSRI、SNRI、三環系抗うつ剤の多くはこの作用によってモノアミン濃度を上げています。
後者のはたらきを持つ抗うつ剤もあります。代表的なものとしてNaSSAが挙げられますが、実はテトラミドも後者の作用によって抗うつ作用を発揮する抗うつ剤です。テトラミドは具体的には、神経間にあるαアドレナリン受容体をブロックすることで、ノル アドレナリンの分泌を促進するというはたらきがあります。
同じ四環系抗うつ剤でも、ルジオミール(一般名マプロチリン)はモノアミンの分解を抑えることによって抗うつ作用を発揮するのに対し、テトラミドはモノアミンの分泌を増やすことで抗うつ作用を発揮すると考えられており、作用機序の違いがあります。
テトラミドは新規抗うつ剤であるNaSSAと似た作用機序を持ちますが、実はNaSSAはテトラミドの誘導体であり、テトラミドを改良した抗うつ剤がNaSSAなのです。
ちなみにモノアミンとは、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの気分に関係する物質の総称のことで、セロトニンは落ち込みや不安を改善させ、ノルアドレナリンは意欲ややる気を改善させ、ドーパミンは楽しみや快楽を改善させると考えられています。
テトラミドは、モノアミンの中でもノルアドレナリンの分泌を集中的に増やすという特徴があります。
ノルアドレナリンを多く増やしたいような状態、例えば意欲低下・無気力が前景に立つうつ病などではテトラミドを使うことで、より改善が期待できるということです。ただし、テトラミドは抗うつ作用としてはかなり弱いため、劇的な改善が得られることは多くはありません。
3.テトラミドの適応疾患
テトラミドの添付文書を読むと、
うつ病、うつ状態
に適応があると記載があります。
実際の臨床では、テトラミドは眠りを深くする作用に優れるため、不眠症の患者さんに用いることの方が多い印象があります。
うつ病、うつ状態に対しても用いられることはありますが、四環系抗うつ剤の抗うつ効果は弱いため、単剤で用いられることは少なく、他の抗うつ剤に補助的にテトラミドを加えるような投与法が多いようです。
テトラミドは意欲・気力に影響するノルアドレナリンを集中的に増やしてくれますから、他の抗うつ剤で治療していて「意欲低下の改善が乏しい」「無気力がもうちょっと治れば・・・」というようなケースには使う価値があるでしょう。
4.テトラミドの強さ
テトラミドは、四環系抗うつ剤に属します。
四環系抗うつ剤は、三環系と比べて副作用が軽減された代わりに、効果も弱くなったお薬です。
そのため、抗うつ効果だけを見ると「弱い」お薬になります。
三環系抗うつ剤よりも弱いのはもちろんですが、新規抗うつ剤であるSSRI、SNRI、NaSSAよりも抗うつ効果は乏しいと考えてよいでしょう。
四環系抗うつ剤の中でもルジオミール(一般名マグロチリン)は、やや効果が強めだと言われていますが、テトラミドは四環系の中でも効果は弱めであり、抗うつ作用だけをみると頼りなさがあるのは事実です。
しかし、眠気や眠りを深くする作用はしっかりとあるため、不眠の患者さんにとっては役立つお薬となります。
5.テトラミドが向いている人は?
テトラミドは、優れた抗うつ剤が増えてきた現在においては、使われる頻度は少なくなっています。
新規抗うつ剤が誕生するまでは、主な抗うつ剤というのは「効果も強いけども副作用も強い三環系抗うつ剤」と「効果は弱いけども副作用も軽い四環系抗うつ剤」の2種類でしたので、この両者を使い分けていました。
しかし現在においては、「効果も十分あって副作用も少ない」という新規抗うつ剤が次々と誕生しているため、四環系抗うつ剤が必要なケースはあまりなくなっているのです。
テトラミドのメリットは、
・眠りを深くする作用に優れる
・意欲・気力に影響するノルアドレナリンを集中的に増やす
点にありますので、テトラミドが向いている方というのは、
・不眠の症状も改善させたい方
・意欲低下・無気力が主体の方
などになります。
しかし最初からテトラミドを用いるというのは少なく、まずは新規抗うつ剤は試して、それでも不眠症状の改善が乏しいとか、意欲低下・無気力の改善が乏しいような場合に検討されるお薬になります。
6.テトラミドの導入例
テトラミドは添付文書には
通常成人 1 日 30mg を初期用量とし、1 日 60mg まで増量し、分割経口投与する。また、上記用量は 1 日 1 回夕食後あるいは就寝前に投与できる。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と記載されています。
1日数回に分けて服薬する方法の他、1日1回夕食後か寝る前に投与することも認められています。これはテトラミドを服用すると眠くなることが多いためだと考えられます。なお、1日複数回に分けて服薬しても、1日1回の服薬でも同様の効果が得られると報告されています。
テトラミドは半減期が18時間程度とまずまずの長さを持つため、1日1回投与でも安定した薬効が得られると考えられます。(半減期:お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間のことで、お薬の作用時間の一つの目安になる値)。
実際の臨床現場では、日中に眠気の副作用が出てしまうと困るため、1日1回夕食後あるいは眠前に投与することがほとんどです。この投与法であれば、眠気が出ても睡眠中ですので眠気による大きな弊害が生じることはありません。むしろ睡眠を深くしてくれるので良い効果になります。しかしテトラミドを服薬しても眠気があまり出現しない方であったり、日中の気力改善を狙いたい方は、1日2回朝と夕食後に服薬したり、1日3回毎食後に服薬することもあります。
テトラミドは30mgより開始するように記載されていますが、副作用が心配な場合はより少量から開始しても問題はありません。10mg錠と30mg錠の2剤型がありますので、まずは1日10mg~30mgくらいから開始することが多いです。少なく始めれば、効果が出るのも遅くなってしまいますが副作用が出にくくなるというメリットがあります。
1~2週間の間隔をあげて少量ずつ増やしていきます。十分な効果を感じればその量で維持しますが、効果不十分であれば少しずつ増やしていきます。
効果を感じるのに個人差はありますが、早くても1週間、遅い場合は1か月ほどかかることもあります。テトラミドは三環系抗うつ剤よりはやや効果発現が早いといわれています。
副作用は三環系抗うつ剤よりも少なくはなっていますが、出現することはあります。特に多いのが眠気やふらつきです。これは軽いものであれば自然と改善することもありますが、改善ない場合は夕食後や眠前服用に服用方法を変更することで対応します。それでも改善が得られなければ減薬や変薬などをせざるをえないこともあります。
抗コリン作用(口渇、便秘や尿閉など)や循環器系副作用(不整脈など)は三環系と比べると大分少なくなっていますが、全く生じないわけではありません。便秘はひどければ下剤を使って対応します。口渇は漢方薬などで改善が得られることもありますが、基本的には付き合っていかないといけません。
ある程度の量を投与して1~2か月経過をみても改善が全く得られない場合は、テトラミドは効いていないと判断されますので、別の抗うつ剤に切り替えることも検討します。
テトラミドの効果が十分に出て、気分が十分に安定したと感じられたら(=寛解(remission))、そこから6~12ヶ月はお薬を飲み続けましょう。良くなったからと言ってすぐに内服をやめてはいけません。この時期は症状が再燃しやすい時期ですので、しっかりと服薬を続けましょう。
6~12ヶ月間服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、「回復(Recovery)」したと考えます。
治療終了に向けて、2~3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していきましょう。問題なくお薬をやめることができたら、治療終了となります。