過呼吸は突然に呼吸が頻回となり、自分で呼吸がうまくコントロールできなくなってしまう状態です。
呼吸中枢や自律神経のバランスが一時的に崩れることによって生じると考えられており、不安などの精神的なストレスが原因となります。
過呼吸の発作中はうまく息ができないため、「このまま死んでしまうのではないか・・・」という強い恐怖を感じます。
「過呼吸で死ぬことはありませんから、落ち着いて対応しましょう」
過呼吸の対処法を専門家に聞くと、このようなアドバイスを受けます。しかし、息がうまく出来ない過呼吸で死亡してしまう事は本当にないのでしょうか。
絶対に大丈夫である事が分かっていれば、過呼吸が起きても冷静を保ちやすくなります。あるいはもし死亡例があるのであれば、それがどのような状況で生じやすいのかを知っておけば、防ぎ方も見えてきます。
過呼吸が起きても安全に、冷静に対応できるようになるため、ここでは過呼吸で死亡する可能性についてお話させていただきます。
1.過呼吸で死亡する事はない
結論から言ってしまうと、過呼吸自体が原因となって死亡してしまうことはありません。
発作が起きると、自分の意志でうまく呼吸ができなくなります。呼吸できなければ私たちは生きる事ができませんから、「死んでしまうかもしれない」という非常に強い恐怖を感じるのは当然の事です。
加えて過呼吸では、
- 意識が遠のく感覚
- 胸の痛み
- 手足のしびれ
などといった症状も出てきます。
短時間でこのような症状が次々と生じれば恐怖はより高まってしまうでしょう。
しかし、これらの症状は神経のバランスの乱れによって一時的に生じているものに過ぎません。実際に呼吸機能に異常をきたしているわけではないため、これらの症状によって、命を落としたり後遺症を残すことはまずありません。
過呼吸を克服していくためには、まずはこの事を正しく理解し、過呼吸が生じても落ち着いて対処できるようになる事が大切です。
2.過呼吸の時に身体の中で生じている変化
過呼吸は、それ自体が原因で死亡するものではありません。
この項では、なぜそう言う事ができるのか、その根拠についてより詳しく説明します。
どうして過呼吸で死亡する事はないと言い切れるのか。これが理解できれば、過呼吸が生じても落ち着いて対処しやすくなるでしょう。
そのためには過呼吸の時、皆さんの身体の中ではどのような変化が生じているのかを見ていく必要があります。
過呼吸は強い精神的ストレスがかかった時に発症します。これは強いストレスがかかると、自律神経のバランスが崩れるためです。
自律神経は私たちの意志とは無関係に、自律して身体の様々な機能を調整してくれる神経です。例えば肺や心臓、胃腸などは私たちが意識しなくても勝手に動いてくれますが、これは自律神経が状況に応じて臓器を適切に動かしてくれているからなのです。
自律神経には「緊張の神経」である交感神経と、「リラックスの神経」である副交感神経の2種類があります、この2つの神経が状況を察知して適切に活性化することによって、今の状況に適した身体の状態を作ってくれるのです。
例えば緊張すると交感神経が活性化します。すると交感神経は、心臓の心拍数を増やしたり肺の呼吸数を増やしたりします。重要な試験・大切な商談といった緊張場面でこのような症状が出やすいのは交感神経が活性化しているからです。
また反対にリラックスしている状況では副交感神経が活性化します。すると心拍数が低下したり、胃腸の動きが促進されて栄養を吸収しやすくなります。
しかし心身のストレスが過度にかかり続けると、本来であればリラックスしないといけない状況でも交感神経が活性化しっぱなしになってしまいます。これが自律神経のバランスが崩れた状態です。
例えば仕事における過労や人間関係のストレスが高い状態が長期間続いていると、心身は常に緊張状態となるため、必要以上に交感神経が活性化してしまいます。
すると、本来交感神経が活性化すべきでない状況なのに、過度に交感神経が活性化してしまいます。交感神経が「呼吸数を早くしないと!」と肺に命令を出してしまうと、これによって過呼吸が引き起こされるのです。
このように過呼吸は、肺自体に問題があるわけでなく、自律神経のバランスが崩れた結果、呼吸の回数が増えているに過ぎません。
過呼吸が生じると、息がうまく吸えないような感覚に襲われ、息苦しく感じます。しかし、実際は息は吸えているのです。息が吸えないのではなく、呼吸を自分でコントロールできなくなっているのであり、呼吸自体は出来ているのです。
実際、過呼吸になっている患者さんの身体の酸素濃度を測定してみると、ほぼ間違いなく正常値(あるいはそれ以上)の酸素濃度が測定できます。
過呼吸の時は、呼吸がうまくできずに死んでしまうかのように感じますが、実際は呼吸は出来ており、低酸素の状態にもなっていません。そのため低酸素によって命を落とすという事はありえません。
また、過呼吸が引き起こされると、
- 意識が遠のく感じ
- 胸の痛み
- 腹痛
などが生じ、これらによって更に緊張状態となり、交感神経が興奮して過呼吸が増悪していきますが、これらの症状はどうして生じるのでしょうか。
呼吸は酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す行為ですが、過呼吸になれば血液中の二酸化炭素が減りすぎてしまいます。そして血液中の二酸化炭素が減りすぎると、血液がアルカリ性になり、血管が収縮する事が知られています。
血管が収縮すると、その先にある臓器への血流が少なくなるため、
- 脳への血流が少なくなることによって意識が遠のくように感じる
- 心臓周囲の血流が少なくなることで胸痛を感じる
- 腸管への血流が少なくなることで腹痛を感じる
のです。
これらの症状も血管が一時的に収縮して生じているだけです。血管は多少収縮していますが、完全に詰まってしまうことはありません。、過呼吸が落ち着けば血管はまた拡がりますので、これらの症状から命に関わるような重篤な状態に進展していくことはありません。
更に過呼吸発作では、
- 手足のしびれ
- 硬直・けいれん
なども生じることがあります。これらの症状も、「死んでしまうのではないか」「おかしくなってしまうのではないか」と心配になりますが、これらも同じく一時的な症状ですので心配はいりません。
手足のしびれは、血液中の二酸化炭素濃度が減った結果、血液がアルカリ性に傾き、それを修正しようと血液中のカルシウムイオンの濃度が少なくなるために生じます。
これも一時的に血液中のカルシウムイオンが少なくなって生じているだけで、過呼吸が治まれば改善します。
以上から、過呼吸で死ぬということはない、と考えて問題ありません。
3.死亡のリスクがある過呼吸とその対策
過呼吸で実際に死亡してしまう事はありません。
しかし過呼吸によって生じた二次的な被害によって命を落とす可能性は絶対にないとは言えません。
稀なケースではありますが、過呼吸が関節的に命に関わるようなケースもあります。
しかし、これらのケースはいずれも、過呼吸発作に対する正しい対処法を理解していれば避けられるものばかりですので、「過呼吸で死んでしまうこともあるんだ・・・」と過度に不安になる必要はありません。
最後に、万が一にも過呼吸によって死亡する事が生じないよう、そのようなことが生じる可能性がある状況と対策について紹介します。
Ⅰ.何らかの疾患が隠れていた場合
過呼吸のほとんどは、精神的なストレスが原因で生じます。
しかし、それ以外の原因で生じる可能性が絶対にないわけではありません。
非常に稀ではありますが、中には
- 心筋梗塞が生じて、その胸痛をきっかけに過呼吸が発症した
- 気胸が生じて、その呼吸苦をきっかけに過呼吸が発症した
など、重篤な疾患が生じた身体的・精神的ショックによって、二次的に過呼吸が生じることもあります。
この場合、過呼吸というのは二次的な現象であり、原因の本質は心筋梗塞や気胸といった器質的疾患にあります。そしてこのようなケースでは「過呼吸だから大丈夫だろう」と放置してしまうと、根本である疾患の進行によって死亡に至ってしまうこともあります。
そのため、初めて過呼吸が生じた場合は、それが本当にただの過呼吸なのかを病院で念のため検査してもらうべきです。
器質的な異常が全くなく、精神的な原因で生じた過呼吸だった、ということがほとんどではありますが、稀なケースとはいえ、このような状況が生じている可能性がないとは言えません。
初めて過呼吸を起こした場合、一度は内科などで精査をしてもらうべきです。
Ⅱ.極端なペーパーバック法を行った場合
これも非常に稀なケースにはなりますが、過呼吸に対してペーパーバッグ法を行いすぎると、今度は酸素濃度が低くなりすぎて二酸化炭素濃度が上がりすぎてしまうため、危険な状態になってしまう可能性があります。
ペーパーバッグ法というのは、紙袋やビニール袋で口を覆う事です。これによって過呼吸が落ち着きやすくなるため、「過呼吸が生じたらペーパーバッグ法をすればいい」と誤解している方が多いのですが、実は現在では過呼吸に対してペーパーバッグ法は推奨されていません。
呼吸は酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出す行為ですので、過呼吸になると身体の二酸化炭素濃度が少なくなり、これによって様々な症状が引き起こされます。
であれば吐き出した二酸化炭素をまた身体に取り入れればいいじゃないか、という考えがペーパーバッグ法です。確かに口を袋で覆えば、吐き出した二酸化炭素をまた吸うことになるため、身体の二酸化炭素が多くなっていきます。
しかし、実は二酸化炭素は多すぎても身体によくないのです。
体内の二酸化炭素濃度が少し高いくらいであれば、頭痛やめまい、吐き気程度の症状で済みますが、更に二酸化炭素濃度が上がると「CO2ナルコーシス」という状態になり、意識レベルが下がり、昏睡、痙攣などが生じて、最悪の場合では死亡に至ることもあります。
CO2ナルコーシスになるまでペーパーバッグを行い続ける、という事は現実的にはほとんどないとは思いますが、このような理由から、現在では過呼吸発作に対してのペーパーバック法は推奨されていません。
Ⅲ.過呼吸で慌ててしまって生じる二次被害
過呼吸というのは突然に生じますので、生じると頭がパニック状態になってしまいがちです。突然、息が出来ない感覚に襲われるのですから当然なのですが、このようにパニックになっている状態だと、時に危険な行動をとってしまうことがあります。
例えば過呼吸によって混乱してしまい、大暴れしたり、そこから慌てて逃げ出そうとしたりすると、二次的に怪我や事故を起こしてしまう可能性があります。
実際、過呼吸が生じて慌ててしまい、転んで骨折してしまった、というケースもあります。同じように過呼吸で慌てて運悪く交通量の多い場所などに飛び出してしまうと、二次的に交通事故などに巻き込まれる可能性だってありえます。
過呼吸が生じても、死亡してしまうことはありません。なので慌てず落ち着いて対応しましょう、という医師が指示するのは、このような二次的な被害を防ぐ意味もあるのです。