サインバルタをはじめとして、抗うつ剤は減量する際に「離脱症状」が生じることがあります。
これは抗うつ剤の血中濃度が急激に低下していく事に身体が対応できずに生じる反応です。
抗うつ剤の離脱症状は患者さんの間では「シャンビリ」とも呼ばれています。これは耳鳴りが「シャンシャン」と鳴り、手足が「ビリビリ」痺れることから付けられた名称であり、離脱症状の特徴を良く表しています。
多くの方にとって抗うつ剤は一生服用するものではありません。どこかで減薬し服薬終了となるのが普通です。減薬の際は、医師の指示に従って慎重に減薬していけば、離脱症状を起こす頻度はそれほど多くはありません。しかし無理に急いで減薬してしまったり、本来であればまだ減薬すべき段階ではないのに減薬に入ってしまったりすると離脱症状は出やすくなります。
ここでは抗うつ剤で離脱症状が生じる理由や離脱症状を出来る限り起こさない方法、離脱症状が生じてしまった際の対処法などについてお話させていただきます。
1.サインバルタの離脱症状が生じるワケ
まずは抗うつ剤による離脱症状がどうして生じるのかを説明させていただきます。
サインバルタをはじめとした抗うつ剤の離脱症状が生じるのは、抗うつ剤の血中濃度が急激に低下した事に対して身体が対応しきれなかったためです。予定外の血中濃度の低下に身体は驚き、自律神経のバランスが崩れてしまい、その結果として離脱症状と呼ばれる種々の症状が生じてしまうのです。
抗うつ剤は数か月~数年単位で服用を続けるお薬ですが、ある程度の期間抗うつ剤の服用を続けていると、私たちの身体は「抗うつ剤の成分は毎日身体に入ってくるもの」と認識するようになり、それに基づいて身体の様々な機能を調整するようになります。
このような状態で抗うつ剤が急に減ったらどうなるでしょうか。
今日も入ってくると思っていた成分が、ある日から突然入ってこなくなる、あるいは入ってくる量が予定外に少なくなる、こうなれば身体は驚いてしまいます。入ってくると思っていたものが急に入ってこなくなるわけですので、身体の機能の調整にも不具合が生じるようになります。
その結果、自律神経のバランスが崩れ、様々な自律神経症状が生じるようになります。具体的には、耳鳴り、めまい、しびれ、頭痛などが生じます。これが離脱症状の正体です。
私たちの身体は急激な変化に弱いのです。身体に何らかの変化を生じさせる場合は、出来る限りゆっくりゆっくり変えていかないと身体は驚いてバランスを崩してしまうのです。
2.各抗うつ剤の離脱症状の起こしやすさの比較
基本的に抗うつ剤は、減薬・中断の際に離脱症状が生じる可能性があります。しかし抗うつ剤の中にも離脱症状を起こしやすいものとそうではないものがあります。
抗うつ剤の中でも特に離脱症状を起こしやすいのは、
- SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)
になります。
また、それに次いで、
- 三環系抗うつ剤
でも認められる事があります。
離脱症状が出現する頻度は抗うつ剤によって差がありますが、軽度なものも含めると約20%程度の確率で生じると報告されています。
では具体的にどのような抗うつ剤が離脱症状を起こしやすくて、どのような抗うつ剤が起こしにくいのでしょうか。
離脱症状を起こしやすい条件は、
- 効果の強い抗うつ剤
- 血中濃度の幅が大きい抗うつ剤(≒半減期が短い抗うつ剤)
などがあります。
要するに抗うつ剤が効いている時と効いていない時の差が大きいお薬ほど、その反動が離脱症状として現れやすいのです。
効果の強い抗うつ剤は頼りになりますが、その一方で減薬時も反動が大きくなるため、減った時は離脱症状を認めやすくなります。
また抗うつ剤の半減期が短いほど、離脱症状は起きやすいと考えられます。
半減期というのはお薬を服用して血中濃度が上がってから、その血中濃度が半分に落ちるまでにかかる時間の事で、おおよそですがそのお薬の作用時間と相関します。
半減期が長いお薬は、その成分がゆっくりと身体に効いていき、長く体内にとどまるという事です。血中濃度の増減も緩やかになりますので、離脱症状は生じにくいと言えます。
一方で半減期が短いとお薬は服用してから早期に血中濃度が上がり、その後短い時間で効果がなくなってしまうという事であるため、血中濃度の幅が大きく、離脱症状が生じやすくなります。
ここで各抗うつ剤の半減期を見てみましょう。
抗うつ剤 半減期(時間) 抗うつ剤 半減期(時間)
(Nassa)リフレックス/レメロン 32時間 (SSRI)パキシル 14時間
(四環系)ルジオミール 46時間 (SSRI)ルボックス/デプロメール 8.9時間
(四環系)テトラミド 18時間 (SSRI)ジェイゾロフト 22-24時間
デジレル 6-7時間 (SSRI)レクサプロ 24.6ー27.7時間
(三環系)トフラニール 9-20時間 (SNRI)トレドミン 8.2時間
(三環系)トリプタノール 31±13時間 (SNRI)サインバルタ 10.6時間
(三環系)アナフラニール 21時間 スルピリド 8時間
(三環系)ノリトレン 26.7±8.5時間
(三環系)アモキサン 8時間
上記の「効果が強い」「半減期の短い」の二つを満たしているSSRI・SNRIが離脱症状が多いという事です。
総合的に見ていくと、離脱症状がもっとも多いのは「パキシル(一般名:パロキセチン)」になります。パキシルは効果も強めであり、また半減期が短めになります。
パキシル以外のSSRIでも減薬時に離脱症状は生じえますが、パキシルと比べれば頻度は少ないと言えます。
三環系抗うつ剤も減薬時に離脱症状が生じえますが、その頻度はSSRI・SNRIと比べると少な目になります。
また穏やかに効く抗うつ剤である
- 四環系抗うつ剤
- ドグマチール(一般名:スルピリド)
- トレドミン(一般名:ミルナシプラン)
などは半減期は短いものの、効果が穏やかであったりするため離脱症状で困ることはほとんどありません。
NaSSAと呼ばれる抗うつ剤に属するリフレックス・レメロン(一般名:ミルタザピン)は、効果は強い抗うつ剤ですが、半減期は長くこちらも離脱症状はほとんど経験しません。
さて肝心のサインバルタはというと、パキシルよりは少ないもののその他のSSRI・SNRIよりは若干多いという印象があります。これはサインバルタの効果が強めであること、半減期が短いことが関係しているのでしょう。
サインバルタの離脱症状は、抗うつ剤の中では「非常に多いわけではないが、まぁまぁの頻度で認められる」といったところです。
3.サインバルタの離脱症状の対処法
最後にサインバルタの減薬によって離脱症状が生じてしまった時にどのような対処法があるのかを考えてみましょう。
実際の診療現場で抗うつ剤の離脱症状に遭遇するのは、次の2つのパターンの場合がほとんどです。
- 自己判断でサインバルタを中止した
- 医師との相談の元ではあるが、急いでサインバルタを減薬した
まず頻度で言えば前者が圧倒的に多いです。本当はまだ服用を続けなくてはいけないのに、患者さんの「もうお薬は飲みたくない」という自己判断によって急にお薬の副作用を中止する事で生じます。
ほとんどの方にとって、抗うつ剤のような向精神薬(精神の作用するお薬)は「出来るだけ飲みたくないもの」なのです。
そのため少し調子が良くなると、「もうお薬はやめてもいいのではないか」と考えてしまい、自己判断で中断してしまうのです。
中止した翌日くらいから、徐々に離脱症状が出現してきて、慌てて精神科・心療内科に駆け込むというケースが多いです。
このような場合では原因は明らかですから中止した抗うつ剤を再開すれば数日で改善するでしょう。
早く抗うつ剤を辞めたい気持ちはとても良く分かります。しかし素人が自己判断で中断の可否を判断するのは危険であり、必ず主治医と相談の上で減薬するようにしましょう。
次に後者の場合は、どうすればいいでしょうか?
「大分調子がいいからお薬を少し減らしてみましょう」
「副作用が強く出すぎているので少しお薬を減らしましょう」
このように主治医から提案を受け、提案通りに減薬しているのに離脱症状が生じてしまったというケースもあります。この場合に考えうる対処法を紹介します。
Ⅰ.減薬を延期する
急いで減薬する理由がない場合は、もう少し様子をみてから、数か月後に減薬するとうまくいくことがあります。
離脱症状は、疾患が治りきってない時に無理して減薬すると起きやすい印象があります。病気が治りきってないということは、まだまだ自分の体だけでセロトニンを出す力が不十分だということ。この時にお薬を減らしてしまうと、反動が出やすくなり離脱症状も起きやすくなるのです。
数か月待ち、もっと病気が良くなって、自分が体がセロトニンを出す力が出てきてから減薬すれば、抗うつ剤が減っても持ちこたえられる可能性が上がります。
Ⅱ.減薬ペースを落とす
離脱症状対策の基本はこれです。
人の体は急激な変化に弱いという特徴があります。なので、可能な限りゆるやかに減らしていけば、反動は起きにくくなります。
早く減らしたい気持ちはとても良く分かりますが、少しずつ確実に減らしてみましょう。その方が、結果的に早く薬を辞められることも多いのです。
例えば、サインバルタ60mgを内服していて、40mgに減薬して離脱症状が出た場合は、50mgを間に挟んでみるのです。
脱カプセル(カプセルを取ってカプセル内に入ってる粉だけを内服する)をしてくれる薬局があれば、脱カプセルをすることで、55mgにするなど、より細かい調整も可能となります。
期間も大事で、一般的には2週間に一度のペースで減らしていくのがいいとされてますが、そのペースで離脱症状が出てしまう時は、1か月に一回のペースで減らすなどしてみましょう。
問題となるのがサインバルタ20mgからの減薬です。サインバルタはカプセルは剤型として20mgカプセルと30mgカプセルの2種類しかありません。またカプセルの特性上、半分に割ることができないのです。
となると、20mgから0mgにした際に離脱症状が出てしまった際はどうすればいいのか、という問題が生じます。
私が今まで取った方法で成功したものに、
・脱カプセルして、10mgや15mg相当量にしてもらい、漸減していく
・サインバルタ20mgを2日に1回投与する、などの投与間隔をあけていく
・別のお薬(ジェイゾロフトやトレドミンなど)に切り替え、そこからまた減薬していく
などの方法があります。ぜひ、参考にしてみて下さい。
Ⅲ.他剤に切り替えてみる
離脱症状の比較的出にくいお薬に切り替えてみることも手です。
離脱症状の出にくさだけでいうと、リフレックス/レメロン、ドグマチール、ジェイゾロフト、トレドミンなどが候補に挙がります。
ただし、離脱症状以外のメリットデメリットがそれぞれのお薬にありますので、主治医を相談しながら変えるお薬は決めましょう。
4.離脱症状と再発を混同しないこと!
抗うつ剤をやめたり減らしたりして、離脱症状が出現すると、
「薬を辞めて症状が出るということは、まだ病気が治ってないんだ」
「一生薬に頼っていかないといけないんだ・・・」
と「病気が再発してしまった」と誤解する方が非常に多くいます。
しかし、離脱症状と病気の症状は全くの別物で、ここは切り離して考えないといけません。離脱症状は「抗うつ剤の血中濃度が急に下がったことで体がびっくりして」起こった症状なだけで、別に病気が再発したわけではありません。
体をびっくりさせなければ起きない症状なのですから。ここを誤解して、絶望的になってしまう方は非常に多いです。
離脱症状が出たからと言って、病気が治っていないわけではない。離脱症状は、病気の治りとは全く無関係に出現する「副作用」なんだと、正しく理解しましょう。
まとめ
・離脱症状は、抗うつ剤の量が急に変わったことで、体がびっくりして生じる
・離脱症状は「効果の強い抗うつ剤」「半減期の短い抗うつ剤」に多く、
サインバルタもやや多く認められる。
・離脱症状が生じた場合、自己判断での断薬が原因なら、内服を再開することで改善する。
・減薬の過程で離脱症状が出現した際は、減薬を延期したり、減薬ペースを緩めたり、
他剤に切り替えるなどの方法を取ることで対処できる
・離脱症状は副作用であり、病気が再発・悪化して出現しているわけではない。