非定型うつ病の方との接し方で覚えておきたい4つのこと

非定型うつ病は、普通のうつ病(定型うつ病)と異なる特徴を持ちます。そのため、周囲の接し方も多少異なってきます。

非定型うつ病の方は「気分反応性」という症状があるため、これが甘えだと誤解されて、「甘えているだけ」「こんなの病気じゃない」と批判されることがあります。周囲がこのように批判してしまうのはよくありません。

また、「拒絶過敏性」という症状があるため、相手が言ったことを悪くとらえがちであり、周囲の方と口論になってしまうこともよくあります。

これらの特殊な特徴から、非定型うつ病の方の接し方で苦労している方は多いようです。

「非定型うつ病と診断された妻(夫)との接し方が分からない」
「非定型うつ病と診断された職場の部下にどう接したらいいのか分からない」
「恋人(彼氏、彼女)が非定型うつ病らしいのだけど、どう接すればいいのか」

このような相談は少なくありません。うつ病の方への接し方は、ある程度知られるようになってきましたが、非定型うつ病の方への接し方はまだまだ世間には良く知られていません。

非定型うつ病の方とはどのように接すればいいのでしょうか。非定型うつ病の患者さんの周囲の方に押さえて欲しい4つのポイントを紹介します。

1.甘えだという言い方は禁物

非定型うつ病の特徴に、気分反応性があります。

これはとてもやっかいな症状で、「楽しい事や嬉しい事があると気分が上がり、イヤなことやつらいことがあると気分が落ちる」と状況に応じて気分が大きく変わるというものです。

典型的なのが「仕事となると大きく落ち込むけど、遊びに行くとなると元気になる」という感じで、これはしばしば「それって甘えだよね」「そんなの病気じゃない」と批判されます。確かに一般の方がこれを甘えだと感じてしまうのも分かります。遊びに行くときだけ急に元気になれば、それは「今まで仮病だったんじゃないの?」と疑ってしまうでしょう。

しかしこれは甘えではなく、非定型うつ病の症状なのです。患者さんに対して「早く良くなって欲しい」と考えて下さっているのであれば、どうかここを理解してください。

この気分反応性は、患者さんが自分自身で意識してやっていることではなく、病気の症状として出現しているため制御不能な気分の波なのです。「仕事なんて行きたくないから落ち込んじゃおっと」と考えた上で落ち込むのなら、それは確かに甘えです。

でもそうではなく、「仕事に行かなきゃ」と頭では分かっていて行こうとはするのだけど、大きな落ち込みが勝手にやってくるのです。これは非常に苦しい事です。

その苦しさは体験した人ではないと分かりませんが、どうか「甘えてやっている事ではないんだ」という事だけは分かってください。

この辛い症状を「甘え」「根性なし」と一刀両断されてしまうと、患者さんは大きく傷つきます。特に自分に近い人や関係の深い人からそう言われてしまった時のショックというのは計り知れません。

大きなショックを受ければ当然うつ病の経過も悪くなります。ショックから人間不信となってしまい、非定型うつ病の症状のひとつである拒絶過敏性が更に強まってしまいます。

2.拒絶過敏性には冷静に対応する

非定型うつ病の患者さんには拒絶過敏性という特徴があります。これは他者の評価を過剰に気にしてしまい、相手の言動に対して過敏に「拒絶された!」と反応してしまう傾向の事です。

患者さんに近い人であればあるほど、この拒絶過敏性の被害に遭いやすく、しばしば口論になることもあります。

例えば、主治医から「朝早く起きるようにしてください」と指導されたのに、昼前くらいにやっと起きてきた。そこで家族が「今日起きるの遅かったね。明日は早起き頑張ろうね」と軽くアドバイスすると、「家族からダメ人間だとバカにされた!」と過剰に悪い方向にとらえてしまうのです。

もちろんアドバイスした家族に拒絶したつもりも責めたつもりもありません。ただ、今日は失敗しちゃったから明日は先生の指導を守れるようにしようね、と言っただけです。しかし非定型うつ病の患者さんは拒絶過敏性により、悪い方に考えてしまうのです。

中には周囲が褒める意味合いで言った事に対しても、悪くとらえてしまうケースもあります。「今日は頑張っているね」という良い声かけに対しても「いつもは頑張っていないって言う意味か!」ととらえてしまったりするのです。

相手を否定するつもりなんてなかったのに、このように返されてしまうと、周囲の人はムッとしてしまうでしょう。しかしここで「そんな意味で言ってない!!」「なんでそういう言い方をするんだ!」と怒ってしまうと、「やはり自分は否定されている」と患者さんの拒絶過敏性はますます強まってしまいます。

これではお互いイヤな思いをするだけですし、病気の経過も悪くなってしまいます。

このような拒絶過敏性が出現した時、理想的な接し方としては「これは拒絶過敏性という症状なんだ」と冷静に認識し、淡々と対応することです。

拒絶過敏性が現れた場合の接し方としては、

・悪意はないという事実を冷静に淡々と伝えること
・悪く考えてしまうのは病気の症状ではないかと伝える事
・それでも納得してくれなければ深追いはしない事

を意識してください。

非定型うつ病の患者さんが攻撃的な口調になった時、同じように攻撃的に反論してしまうのは良くありません。

「そういう悪い意味で言ったつもりは全くないんだよ」
「単純に、あなたに早く良くなって欲しいから明日は頑張ろうねと言っただけなんだよ」

と冷静に淡々と事実を伝えてください。それでも患者さんが落ち着かない場合は

「もしかしたら拒絶過敏性という症状で、今はそう考えてしまいやすいのかもね」

と諭してあげることも有効です。

それでも納得しない場合は、あまり深追いしないことです。話に決着がつかず長引くとお互いどんどんイライラしてしまいます。なので、「私は本当に悪い意味で言ったつもりはない。今日はこれ以上話してもお互いケンカ腰になっちゃうから一旦この話は終ろうね」と話を終わらせてしまう方がいいでしょう。

3.適度な厳しさも必要

普通のうつ病(定型うつ病)の方への接し方は、なるべくプレッシャーを与えないようにする事が大切だと言われています。しかし、非定型うつ病の方の場合は少し異なってきます。

非定型うつ病の場合は、適度なプレッシャーや負荷があった方が治りが良い事が経験的に知られています。そのため、時には厳しく「そこは頑張ろう」「それは自分でやってみようね」と適度な厳しさを持って接することも重要です。

負荷があまりに低すぎる状態であったり、負荷をあまりに避けすぎているのであれば、周囲の方が時に厳しく接して負荷に向き合わせるようにサポートする事はとても有効なのです。

どのくらいの負荷が適度なのかは、患者さんの症状や経過によりますので主治医と診察で相談して決めていくのが良いでしょう。そして、その負荷内のことであれば、なるべく自分の力でやるようにがんばってもらいましょう。

こころが弱っていると、つい物事から逃げてしまったり、相手に依存しすぎてしまうことがあります。しかしそれをどこまでも許してしまうと、非定型うつ病の治りが悪くなり、結果として患者さんが将来的にはより苦しむことになってしまうのです。

適度な負荷をかけることは、非定型うつ病を少しでも早く改善させるための「治療」なのです。

ただし「甘えてないでこれくらいはやりなさい!」といった言い方はダメです。「この病気は適度に頑張った方が早く治るって先生も言ってたし、治療だと思って頑張ろう!」といった言い方が良いでしょう。

4.生活リズムを保つサポートを

非定型うつ病という疾患は、生活リズムが乱れやすい疾患であり、また生活リズムの乱れが病状を悪化させやすい疾患でもあります。

そのため、「生活リズムを規則正しくすること」というのは、非定型うつ病の治療における鉄則です。

しかしこれが現状なかなか難しいのです。

もし入院治療なのであれば、私たち医療者が生活リズムを規則正しくするお手伝いが出来ます。しかし外来加療においては、「生活リズムを規則正しくしましょうね」という言葉による指導しかできず、それを実践するかどうかは患者さんにかかっています。

そして非定型うつ病の患者さんは、ただでさえ気持ちの落ち込みや強い倦怠感(鉛様麻痺感)、過眠、過食の傾向があるため、なかなか生活リズムの調整を自身の力では行えません。「先生から規則正しく生活するように言われている」と分かってはいても、なかなかそれを実践できないのです。

生活リズムが不規則なままで、非定型うつ病がいつまで経っても良くならない、という事も往々にしてあります。

ここでとても助かるのが、家族など周囲の方がサポートしてくれる事です。

朝、起きてこない時は起こしてくれる。
日中は昼寝などしないように見てくれる。
適度な運動を促してくれる。
3食規則正しく食事をするようにサポートしてくれる
夜更かししないように見てくれる

周囲の方がこのように治療に協力してくれると、私たち治療者はとても助かります。また、患者さんも病気の治りが早くなるため、とても助かります。

もちろん、それぞれ自分の生活もあるでしょうし、全てをサポートするのは難しいでしょう。しかし出来る範囲でも生活改善のサポートしていただけると、それはお薬の治療よりも大きな効果を発揮してくれます。