こころの安定には、ストレスに対する上手な付き合い方が非常に大切になってきます。
生きている以上、ストレスを完全に避けることは不可能で必ずストレスを受けることはあります。大切なのはストレスをゼロにしようとすることではなく、ストレスと上手に向き合えるようになることです。ストレスに対する上手な対処法を身に付けると、それだけでこころの安定を保ちやすくなります。
ストレスに対する最適な対処法というのは、人によって異なり、万人にとって最適な方法と言うのは存在しません。しかし様々な方のストレスに対する工夫を聞いていると、「この方法は多くの人に有益な方法だな」というものがある事に気付きます。
そのような方法の1つに「つらい気持ちを書き出す事」があります。
今日は、ストレスを上手に対処するための方法である「つらい気持ちを書き出す事」について紹介したいと思います。
1.つらい気持ちを書き出すことで、どのような効果があるのか
誰でもつらい事があれば、気持ちは不安定になってしまうものです。
「仕事で失敗してしまって落ち込んだ」
「夫と意見が合わなくて腹が立った」
生きていれば誰もがこのようなストレスを感じることがあるでしょう。
しかし、このつらい気持ちを「自分の中に押し込めてしまう」のか、それとも「上手に対処できる」のかで、その後のこころの健康は大きく異なってきます。
1つや2つのストレスであれば、無理矢理こころの底に押し込めてしまっても何とかなるでしょう。しかし、人生で受けたストレスを全て自分の中に押し込めようとすれば、あっと言う間にこころはパンクしてしまうでしょう。
ストレスを上手に対処する方法として、「気持ちを紙に書き出す」という方法があります。患者さんにもよくオススメさせて頂いていますが、
「書く事で気持ちがスッキリした」
「書く事で冷静になれました」
「書いたら、考えているだけでは気づかなかった対処法が見えてきた」
とまずまず良い評判を得ています。
ストレスを受けてつらい気持ちになってしまった時、それを書き出す事はなぜ有用なのでしょうか。「つらい気持ちを書き出す事」で得られる効果についてみてみましょう。
Ⅰ.気持ちを吐き出すことで、こころが安定する
「弱音を吐いてはダメだ」と考えてしまい、つらい気持ちを自分のこころの奥底に押し込めてしまう方がいます。このような傾向は特に男性に多く見られます。
しかしこの対処法には限界があります。つらい気持ちは押し込めたからといって自然と消えていくことはないのです。次々とつらい気持ちを押し込め続けていけば、すぐにこころがパンクしてしまいます。
「ストレスを溜め込み過ぎないようにしましょう」とよく言われますが、ストレスを溜める量には限界があり、それを超えてしまうとあなたのこころを傷付けていきます。つらい気持ちを押し込めるという方法は一時的な対応としてのみ有効で、根本の解決にはなっていません。
ストレスというのは、なんらかの形で「吐き出す」「外に出す」必要があるのです。
だから書くことによってストレスの原因を自分の外に出す、という行為は有効なのです。
「ストレスを吐き出せばいいのだ」とは言っても、実は「吐き出す」というのは思ったほど簡単に出来ることではありません。一般的な方法として、「グチを言う」「話を聞いてもらう」といった方法がつらい気持ちを吐き出すためによく取られます。この方法はもちろん有効なのですが、1つ欠点があります。それは「相手がいないと出来ない」ということです。
グチを言う相手、話を聞いてくれる相手がいないと成り立たないストレス解消方法であり、そのためいつでもどこでも、自分の都合だけでは行えない方法になってしまうのです。
その点「書く」という方法は自分1人で完結する方法であるため、相手の都合に関わらず自分の都合のみで行うことができます。
「気持ちを吐き出す」というストレス解消に必要な行為を、「1人で行うことができる」というのは、つらい気持ちを書き出す方法の大きなメリットです。
Ⅱ.書く事に気持ちが向く
「書く」という行為は集中力が必要です。何かを書く時、私たちは「書く事」に集中します。
書道を精神統一のために行うことからも分かるように、気持ちを「書く事」に向けるということはこころの安定に一役買ってくれるのです。
つらい気持ちの時は、特にこれが有効となります。書く事で気持ちが落ち着くのはもちろんのこと、書くことに集中している間はつらい気持ちから気持ちがそれやすくなるからです。
つらい気持ちというのはストレスを受けた直後が一番つらく、それからは少しずつ和らいでいきます。特につらい時期に、「書く」という行為に集中してうまく気持ちをそらすことができれば、その間つらい思いをしなくても良くなり、心の傷を浅くすることができます。
Ⅲ.つらい気持ちを客観的に見つめられる
つらい気持ちの中にいる時、人は冷静になれないのが普通です。
冷静でないがために、つらさを客観的に把握することができず、実際のつらさよりも何倍にも何十倍にもつらく感じてしまう事もあります。
しかし書くことで気持ちを「紙」という外部に書き出してみると、そのつらさを客観的に判断しやすくなります。
具体的につらい事がいくつくらいあって、それぞれどのようにつらいのか。
一個ずつ、冷静に見直してみると、思っていたほどつらい状況ではなかったことに気付く事もあります。
Ⅳ.考えているだけでは浮かばなかった解決策が浮かぶ
前述のⅢ.とも関連することですが、書く事で冷静に・客観的につらさを眺めやすくなるため、頭の中でモヤモヤと思っているだけでは浮かばなかった解決策が浮かぶことがあります。
これも書き出すことのメリットと言えるでしょう。
Ⅴ.あとで役に立つ
書くことと話すことの違いは、書く事は記録として残ることです。
記録として残るということは後から見直せるということで、将来同じことでつらい気持ちになったときにも役立てることができるという事です。
「そういえばあの時もこういった気持ちだったけど、乗り越えることができたんだ」
ということが記録として残っていれば、これは自信につながります。
2.どのように書けばいいのか
ストレスを受けた時、その気持ちを「書き出す」ことが有効だとお話しました。特別な器具や技術がなくてもすぐに始められる方法ですので、多くの方に実践して頂きたい方法です。
では、具体的にどのように書けばいいのでしょうか。
「つらい気持ちを書く」事に決まった手法などありませんので、基本的には自分の好きなように書いて頂いて問題ありません。しかしせっかく実践するのですから、効果をしっかりと感じてもらえるための注意点をいくつか紹介します。
Ⅰ.人に見せるものではない
授業の内容をノートに取るとなると、分かりやすいようにキレイな字で書く方が多いでしょう。仕事の一環としての書き物であれば、他者に見せても恥ずかしくないように、分かりやすく丁寧に書くでしょう。
しかし、自分の気持ちを書き出す時にこんなことをする必要はありません。
つらい気持ちを書き出す目的は人に見せるためではありません。
気持ちを吐き出す上でこれはとても大切になります。
人の目を意識すると、ストレスがあったとしても「こんな事書いて、甘えだと思われないか」「こんな弱音やグチを書いて恥ずかしい」などと考えてしまい、本当の気持ちを書くことができなくなってしまいます。これでは正直な気持ちを吐き出せていませんので、思うような効果は得られなくなってしまうでしょう。
書くことは、自分の気持ちを落ち着けるためにやっており、人に見せる目的ではないという事を忘れないようにしましょう。
恥ずかしく思う必要などありません。普段は言えないようなことも書いてしまって構いません。
自分だけのためにやっていることなのです。形式にとらわれずに書くことが大切です。
Ⅱ.対処できるものとできないものに分ける
つらいことを書き出して、それを冷静に見つめていくと、
- 自分の工夫で何とかなるもの
- 自分の工夫ではどうもならないもの
の2つがあることに気付きます。
頭の中で考えているだけだとどれも解決できないようなことに感じてしまいますが、紙に書き出して客観的に眺めると解決できるものもあることに気付きます。
悩み事に関しては、「自分が何らかの工夫や努力をすることで解決できる可能性のあるもの」と「自分の力ではどうしようもないもの」に分けましょう。
この2つをすべて同列に扱ってしまうと、絶望的になってしまい押しつぶされてしまいます。しかし、解決できる可能性のあるものだけを取り出して、それに対しては現実的に解決を試みてみるだけでも、気持ちはずっと楽になります。また、解決できないものに関しても「これは自分の力ではどうしようもないな」という良い意味でのあきらめがつくと、気持ちが少しすっきりします。
Ⅲ.長時間やらない、おおよその時間を決める
気持ちを吐き出す時は、ある程度の時間を決めてやった方が良いようです。
ダラダラと時間を決めず長時間やるのはオススメできません。
「10分間はグチを書き出そう!」
「つらい気持ちや解決策を1時間考えてみよう」
とある程度の目安を持って行った方が効果的だと感じます。