アレキシサイミア(失感情症)は1970年代、当時のハーバード大学教授の精神科医シフネオス(Peter E. Sifneos)らが、心身症になりやすい性格傾向として指摘した性格の概念です。
アレキシサイミアの性格傾向を持つ方は、ストレスを溜め込みやすいため、心身症だけでなく、うつ病や摂食障害(拒食症や過食症)、依存症などにもなりやすいと言われています。
アレキサイミアとはどんな性格傾向を持つ方のことを指すのか、またアレキサイミアの傾向がある方はどのようなことに注意していけばいいのかを考えてみましょう。
1.アレキシサイミアとはどんな性格傾向のこと?
アレキシサイミア(alexithymia、失感情症)という言葉は、ギリシア語が語源になっています。
欠落を意味する「a(ア)」、表現という意味の「lexis(レクシス)」、そして感情という意味の「Thymos(シモス)」という言葉からなります。直訳すると「感情の表現の欠落」となり、「失感情症」と和訳されています。
具体的には
- 自分の感情に気付くのが苦手
- 自分の感情を上手く表現するのが苦手
という性格傾向を持つ方のことです。
失感情症という訳から、「感情を失った人」「感情のない人」という意味だと誤解されることがありますが、そうではありません。例えば統合失調症では「感情鈍麻」や「感情平板化」といって、感情が失われたり乏しくなることがあります。しかしアレキシサイミアは、そういう感情の低下・欠損とは異なります。
感情はあるんだけど、その自分の感情に気付くことが苦手、あるいはなんらかの感情変化を感じてはいるんだけど、それをうまく表現できないようなタイプがアレキシサイミアです。感情を認識することが不得意であるため、想像力や共感する力、内省する力が乏しいことも特徴です。
2.アレキシサイミアと心身症の関係
アレキシサイミアの傾向を持つ人は、ストレスを受けていても自分の精神がストレスを受けていることに気付きません。そのため、ストレス下でも淡々と行動を続けます。「何だかおかしいな」という違和感は感じますが、それがストレスのせいだとはなかなか気付かないのです。
外からは「忍耐強い人だな」「精神力が強い人だ」と思われます。普通の人が「つらい」と感じる状況下でも淡々と作業を続けるため、表面上はストレスに強い人に見えます。しかし実際は、ストレスは確実に蓄積されています。
そのままストレスに気付かずにいると、身体はストレスを頭痛や胃潰瘍などの身体症状として表出することで、SOSを発します。これがアレキシサイミアの方が心身症を発症してしまうパターンです。
またストレスをストレスだと認識できず、上手なストレス発散をしないアレキシサイミアの方は、心身症以外の疾患にもかかりやすいと言われています。ストレスの上手な逃がし方が分からず、薬物に依存したり過食・拒食によってストレスを発散してしまうこともあります。
3.アレキサイミアと上手に付き合うには
アレキシサイミアの方のほとんどは、自分にアレキシサイミアの傾向があることに気付いていません。そのため、一番大切なことは「もしかして私ってアレキシサイミアの傾向があるのかも」と気付く事です。
心身症になる人すべてがアレキシサイミアというわけではありません。しかし自分ではストレスは何もないと思っているのに、医師から「心身症」だと指摘された場合は、自分にアレキシサイミアの傾向がないか見直してみることは重要です。
- 想像力がない、とよく言われる。内省(反省)が浅いとよく言われる
- 自分の感情を人にうまく伝えられない。事務的・形式的な会話が多い
- 他人の気持ちが良く分からない
このような傾向がある方はアレキシサイミアの可能性があります。
「あなたはアレキシサイミアです」と言われると、何だか悪いレッテルを貼られた気分がして、良く思わない方もいるかもしれません。しかしアレキシサイミアは病気ではなく、性格の傾向のひとつに過ぎません。
アレキシサイミアだからダメだ、ということでは全くありません。あくまでも性格傾向のひとつであり、それに良いも悪いもありません。ただ、事実としてアレキシサイミアだと心身症にかかりやすい傾向があるため、自分にアレキシサイミアの傾向があると意識しておくことはメリットのあることなのです。
アレキシサイミアを自覚したら、次に意識すべきことは「他者の意見に耳を傾ける」ことです。
アレキシサイミアの方は自分でストレスを認識することが苦手だという性格傾向がありますが、これはすぐには治すことができません。ですから、慣れないうちは他者の意見が大きな参考になります。「お前、それだけ仕事してれば胃も痛くなるよ」など、同僚が指摘してくれたことを「そんなことない」と思わず、「そうなのかも」と素直に聞いてみてください。
特にあなたのことを良く知っている家族や親友、そして主治医の意見には素直に耳を傾けましょう。
アレキシサイミアの方は感情をうまく表現することが苦手です。「こんなことがあった」という事実の説明は問題なく行えますが、自分の気持ちを問われると上手く答えられないため、そのような質問を嫌う傾向があります。そのため、精神科的診察やカウンセリングを導入しにくいと言われており、これが心身症の治りを更に遅くしてしまいます。
どんな人でも、性格には一長一短あるものです。長所もあれば短所もあります。アレキシサイミアは心身症を起こしやすくはなりますが、誰もが嫌がるストレス下でも淡々と仕事ができるのはすごいことです。立派な長所なのです。しかし、ストレスを溜め込みすぎて心身症になりやすいというのは短所なのかもしれません。
アレキシサイミアを否定してしまっては、心身症に苦しんでばかりになってしまいます。アレキシサイミアにも良いところと悪いところがあります。
自分はアレキシサイミアの傾向がある、と気付き、周囲の意見に耳を傾けるようになるだけで、ストレスを認識しやすくなったり、ストレスを回避しやすくなるのです。